この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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そんなこんなで

おぉぉー………左手が痛い、今後の事を考えて読んだ本の要点を纏めて写本を作ったのだが、俺自身も本を読みたかったので書き写しは代行者に任せたのだが、アイツ手が空いてるのをいい事に両手を使いやがった。聞き手の概念が無いらしく字も乱れなく写せているが、俺は右手でしか書けない。左手で字を書く機会なんぞ反対の手を骨折等しない限り無いと思う。当然その動きに対応する筋がズタズタ、写本は進んだが………、完成した本は隔離で家の本棚に飛ばす。子供達には読むのは自由だが、汚さないようにと伝えてある。内容は難しいかもしれないがそれで無理だと決め付けて取り上げるのはただのエゴだ。勿論事故に繋がるような危険な事やらは止めさせるが、その危険を把握する為にも知識がいる。魔法なんて元の世界には無かったものだしな、俺自身の為にも魔法の知識は必要になる。損にはならない筈だ。

「次の本を………お願いします。」

「おう、次は何がいい、水と土しかないけど」

「土でお願い致します。」

写せているのは聖、火、土、水だけ、時間や空間属性はそれに関する本すら見つけられていない。………もうそろそろ着くな、

「渡して置くけど読むのは後にしとけよ、ポイントも頼むな」

「はい、承りました」

後は…………色々顔出して回るか。その後、実際に移動してしっかり確認しないとな。長距離になると何があるか分からんし、

 

「あ、………北川さん」

「元気ないな、どうした?」

「いや…………平和な日々が終わりを告げるような…………」

「ほう、お前には世間の付き合い方や本音と建前を教えてなかったな。………口で言ってもなかなか憶えないし、コレも体に叩き込むか?」

「すいませんでした!」

実戦形式の訓練や武術の指南もそうだが、口で最初に説明や注意をしてもフェイントやら罠に簡単に引っ掛かる。それが同じ動作でもだ。応用も効かないのでそれこそ絡め手に劇弱、ちょっとした小細工くらいは力で捻じ伏せられるくらいにはなって欲しいが、時間がない。5年なんてあっという間だろう。

「はぁ、ないない言ってても仕方ないし………、ノルン、ここにもポイントを頼む。それと芦原さんは?」

「多分ギルドの方ですね。」

「わかった」

 

「おう…………あんたか」

 

あんたもか………同じ表情だな、藤白と、

 

「で、そっちはどうですか?」

「まあ、ぼちぼちやな、渡ってきた送られてきた言うもんはまだ来とらんけど、周りの冒険者?………まあその中で色んな話を聞いたりとかは出来てるで、」

 

まあ、俺らと同じ異世界人の接触はなしと、こっちは仕方ないな、あまり日も経ってないし、でも情報収集が出来る状態になっていることは僥倖だろう。

「それは良かったです。………それと二人にはこれを、」

「え?これって、」

「ケータイやな、使えるんか?」

見てくれ通り、携帯電話を渡す。最もこの三人の間でしか使えないが、今の所、それとケータイの番号を書いた紙も渡しておく。

「本物とは違って魔法で通話する。使ってる間は魔力も消費するけど、魔力の妨害や遮断される環境以外なら何処でも繋がる筈だ、」

まあ、通じない時は紙を隔離して送りつければいいんだけどね。もし、情報伝達の方法を聞かれたときの為の言い訳用だな、囮やフェイクが目的だが、藤白達から連絡するための物でもある。………傍受は出来るが干渉は防ぐ仕様で作ってある。さてと、今度はエドガーの所に行くか、土産はケーキだ。そして例の如く応接間まであっさりと通される。

 

「紹介して頂いた土地は静かでとても良いところでした。」

 

………アンデットいたけどな、

 

「いえいえ、とんでもない。こちらは色々と世話になりっぱなしで、エリーの事は感謝してもしきれませんよ。私達にとって、命の恩人ですからね。」

 

うーん、…………何か引っ掛かるな。嘘無し、思う気持ちも本物、が、蓋を開ければアンデットの大集合、…………代行者、エドガーの周辺にどっかの勢力のスパイ的な奴が混ざってないか?もしくは森限定で情報の流れを操作してる奴とか、

 

《今回の件には関係ありませんが、諜報員は一人確認できました。森については周囲の開拓地から口数減らしの為に、子供がそこにおいて行かれています。開拓地同士は黙認しあっています。》

 

………なんか、とばっちりですいません。情報が来てない事が原因か?ただ黙認という単語から言って、この領内では犯罪等として扱われるのだろうか。良心の呵責?何もしなければそれは無いのと同じだ。エドガーに俺が知っている限りの情報を話す。スパイについては後で使えそうなので黙っとく。

 

「ノルン、家まで頼むな、」

「わかりました」

一瞬にして、部屋に戻ってくる。便利だなー、俺も覚えようかな、空間魔法。どっちにしろ存在値を集めないといけないが、

「晩御飯、できた………」

「わっ、私も一緒に作りました…………」

「とっても、美味しいにゃ、お兄ちゃんも一緒に食べるにゃー!」

 

あの、これ何肉?……………いや、わかるけど、高級な部類には入るけども、時期はどっちかと言えば秋から冬に掛けての間だよね。もう直ぐ夏みたいなんだけど、

 

「………熊の手か、これ?」

まあ、これ見たら他の部位何処に行ったとか疑問が尽きないんだけど、これが食卓に並んだ理由はなんとなくわかる。昨日、子供達に危険を及ぼす生き物をあらかた狩っといてくれと、クロエに頼んだと思う。………思うけど、それがまさかその日の食卓に並ぶとはね。

 

《頭部は破砕された為使われておりません。それ以外についてはすべて使用されております》

 

ヘッドショットか…………、哀悼の意を込めて手を合わせる。ただ熊の手、臭かった。臭い消しに必要なワイン等が無かったから仕方ないか、それと表情から察するにこれを作ったのはクロエだ。………さて、どうしたものか、

 

意外と食えたー、(はい、せーの)熊の手ー、……………珍味なので、人を選ぶと思います。私?暫くはいいです。まあ、猿の脳みそとかは即ごめんなさいしちゃいそうだけどね(確信を持って言える)。…………こんな感じで何でも食わされるのは堪らないのでその辺りは、やんわり伝えておいた。今日は魔法に関する授業だ。…………完全に写しに沿った内容と今読んでる本からの知識を織り交ぜながらやっているが、いかんせん自分自身でも理解できていないが、取り敢えずは不安などを表に出さず、自信を持って授業を進めていく。何せ…………

「魔法とは、可能性だ。自分と魔法の可能性を疑うな、どんな魔法でも成功すると信じ通せ、」

 

結局の所、イメージなのだ。その為、詠唱を教えず、キーとなる呪文だけを教える。それだけで、8人くらいは詠唱なしで魔法を使っている。………いや、その子達は元々魔法に関する知識が無かった為だろう。実際、風や土に優れた魔法適正を持つ、エルフとドワーフからは出来たものがいない。たが、得意と苦手以外(エルフなら火、ドワーフなら水)の場合は成功しやすい傾向だ。多分だが知識が邪魔をしている。柔軟な発送が求められるみたいだな、どちらにせよ本人達が望むなら出来るようになるまで一人一人でも、付き合うつもりだ。

「ねぇ、先生?」

俺の呼び方は先生で統一している。でないとあの兄妹に様付で崇められる。

「何?」

「先生はどうして、オートマタを作っているの?」

「なんで、みんな女の子なの?」

「どうやったら上手くできるのー?おーしーえーてー」

「武器も先生が作ってるの?」

「「「ワイワイ、ガヤガヤ、」」」

……………興味を持ってくれる好奇心は嬉しい反面、いつもこうなるのがなあー、………歳を重ねれば、なんて後五年しかない、滅ぶのは文明、生物ではない。だが、人間は社会と共にある。家族は最初に所属する社会だ。その最初の社会から弾かれた子供達、理由は様々だろうが、ここを新たな自分達の居場所だと思って貰えればいい。そうなっていけるよう俺は頑張るだけだ。

 

ガラガラガラ…………

 

「お父様、そろそろ………」

キャスター付きの台車に乗せられてノエルが来る。押しているのはアナスタシア。こうして見ると見た目年齢は近い為、仲睦まじく遊んでいるようにしか見えないな。

「ん?ああ、もう、そんな時間か、ノエルまた頼む」

「承りました」

「………ん、私も買い出し、行く」

「わかった。…………それじゃあ、行ってくるね」

「えー!」

「お土産買ってくるから、みんな仲良くするように、欲しいものがあるなら、ノートに書くように、次の時に買えるものなら買ってくる。」

ノートは勿論、芦原さんに出してもらった。ただ、瓶のような円筒のカプセルに入れる形でしか出せないので暫くは丸くなる癖の付いたノートしか出せないが、後この方法ならタオルも出せる。タオルは便利だ、怪我をした時に止血、包帯代わり、患部の固定と何かと重宝する。

「じゃ、頼むぞ、ノエル」

 

ズパァァァン!!

 

「クロシェも行くにゃー」

………地面が捲れ上がってるんだが、遅れて砂がパラパラと降ってくる。

「…………もう少し静かに移動できないか?」

「うにゃー………次やってみるにゃ、………後でノエルちゃんと行きたい所があるにゃ。だから、付いていってもいいかにゃ?」

「それならいいが………危ない事はするなよ。」

「わかったにゃー!」

「私の付き添いは………?」

「………クロエに頼め」

とにかく転移してからクロエを隔離で呼び出す。進化した氷水魔法に関する本を読んでいた。

「クロエ、アナスタシアの付き添い頼むぞ」

「えっ!………ひゃ、ひゃい!」

「で?二人は………」

「いってくるのにゃ!」

ジェット機がここから飛び立ったのかと言うくらいの暴風が吹き荒れる。クロシェットの速度は早い、跳躍が合わさればどれだけの速度か想像がつかない。………ちなみにノルンは着物や巫女服のような格好(コスプレみたいな袴とかが短いヤツ)をしている。その襟を後ろから子猫のように咥えられ、何処か遠くに飛んでいった。………方角さえわからん。各時解散したのを見送ると、冒険者ギルドを目指す。

「すいません。コレとコレを受けたいんですけど、」

「薬草の採取と、害獣の調査、討伐の依頼ですね。」

両方とも日帰りできる距離だ。ちなみに依頼は達成すれば後から申告もできる。たまたま近くに盗賊の基地があり、それを殲滅してからでも、首から上があれば懸賞金なんかは貰える。………まあ被害とかが出てることが確認され、依頼があればもっと稼げるだろうが、それだと今から行く場所の規模、人数だと討伐隊を組まないといけない。それだと分前やら何やらで減る事を考慮すると、一人で行く方が取り分は多い。諍いも避けられる。目立つがもう諦めたよ、金がいる(即)→冒険者ギルドの依頼くらいしか即金で手に入らない→依頼達成→この前ランクCになった。………金無しスパイラルだな。

 

「安定した資金源を手に入れないとな………」

 

ため息混じりに独り言が漏れる。食糧問題を解決したとしても、問題なんて山ほどある。何をするにしても物資や、資源がいる。当然タダではない。………それにアダマンタイトの在庫が少なくなってきている。やっぱり俺以外でも加工、生産のできる者を引き込んだ方がいいか?それか下請け的な?

 

《では、作ってみては?》

 

簡単に言うなし、どうやって付与すんの生産系スキル。これは経験から来るものだから………て、できるあてあるの?

 

《はい、スキル保有者、北川龍登の知識と経験をコピーして与え、存在値を与えれば可能かと》

 

…………話を聞く限り、確実性は無さそうだな、出来てなければ後で回収するでも行けるか、教えるのもありだな、

「おい、もう終わりかクソガキ」

路地の方に三人何かを取り囲むように立っているここからでは見えないので千里眼。………はぁー、何やってんだこのカス共、普通に歩いて近づくが、こちらに意識を向けようともしない、道も塞いでる。邪魔なのでその中心に踏み込み、正面のおっさんの首に貫手を放つ。そのうち死ぬだろ、貫手を放った腕を曲げ、肘で隣の男の顔面を潰す。壁で挟めば威力も増す。最後に通り過ぎた後ろのちっさいおっさんを貼山靠で壁と背中で挟み、そのまま肘で肋骨を砕いていき、最後に顔面に一撃。カスは放って、囲まれていた子供を軽く触診する。蹴られたためか内臓がかなりのダメージを受けている。あまり猶予はないな、アナスタシアを探さないと、最短ルートで頼む。代行者、

 

《では、ルート案内を開始します。目標地点到達予測時間は1分26秒です。表示します》

 

…………って、おい、いきなり屋根の上か!

 

………だいぶ揺れたと思うが何とか合流出来た。買い物の最中だった。その子は二人に預けて、依頼を達成すべく移動する。街の外では結界に乗り、なんとか目的地に着く。薬草は結界を使って採取済み、ゴブリンの集落の中心に着地する。それと同時に集落を覆うように結界を張る。そこからは手近な奴から切り捨てていく。それと魔法の実験をしながら、数を減らしていく。最後の方は逃げるのが多いので結界は徐々に狭める仕様だ。そして散らばった死体を隔離して一箇所に集める。隔離空間内で討伐証明の耳を切り、あとはお馴染み、

 

「ライトニング」

 

魔石の回収。………よし、っと、次は盗賊のアジト、もとい洞窟に向かう。予め洞窟の奥に酒を撒き、火を着けて入り口を結界で塞ぎ、殲滅、死んでる所を回収する。その後依頼人と世間話をし、ゴブリン集落の方角に歩き、姿を隠し結界に乗って帰る。アスメシアの街に戻ってくると、ノルンがくでぇ、としてた。ベンチに布団のように干されているとも言うか、

「大丈夫か?」

「う、………お父、様、……………世界がまわ、って、………きっと、お役に、たてると、思いま、す………」

声を掛けたときピンと立った尻尾が、喋り終わるとしなっ、と垂れ下がる。チーン、という効果音が自然と付きそうな感じ。そのベンチの横ではフルーツタルトにフォークを突き立てるクロシェットが座っている。時より尻尾の先が左右に揺れている。

「何してたんだ?」

「ナイショだにゃー、お楽しみなのにゃー」

クロシェットは感が鋭いが、頭も良い。………普段の感じからは信じられないだろうが、一回見ただけの筈の俺の動きを実戦で使ったり、即座に非実体のアンデットを暴食で吸い込こむことを決めた判断力や発想。その上魔法に対する理解も高く、雷撃吸収を活し、本来の魔力なら持たない長時間の加速を実現している、その時間と速度は今尚伸びているようだ。これについては未来視を使った予測でしかないが………限界まで使ってる所を見たことないしなー。

「にゃふふぅー♪………あむっ、お兄ちゃんも食べる?」

暴食の養分は回復にも回せる。その上ストックもあるらしい。総合的に見ればかなりの魔力になると思う。

「にゃあ?聞いてるー?」

「ああ、ごめんごめん、いただくよ」

「むふぅ、……もおー、ちゃんと聞いててほしいにゃー、あーんするにゃ」

有無を言わさず口元にフォークが来る。ちょっと不機嫌な様子。断りづらい空気を出している、結構恥ずかしいが、食べると、にぱっ、と笑うクロシェットが………不機嫌なのは嘘たったようだ、ただいい笑顔は見られた。花も綻ぶとはこの事だろう。

「…………私は食べさせて欲しい。」

「ええっと、………私はた、食べて欲しいかなー………なんて

 

いつの間に………、アナスタシアとクロエが戻ってきてた。ここでやらないと不平等なので、勿論やるつもりだが、結構恥ずかしいんだぞ、これ、ついでなのでノルンにもあげる。いらないと言われるだろうと思ったが話を振ったら復活した。顔は赤いが、

「アナスタシア、あの子はどうなった?」

「大丈夫、教会で保護してもらってる」

「………まあ、相談しとくか、決めるのは本人だし」

俺達のところに来れば、ある程度の生活は保証できる。できるなら保護したい。だが、それを決めるのは、俺じゃない。子供に任せるなんて言えば不安だの、任せられないという奴がいると思うが、本人の意思を蔑ろにして何か選べだ、中途半端なガキみたいな年齢だけの大人よりよっぽどしっかりしてる。来ないにしても、もし困ったことがあれば手を差し伸べられるように藤白達の建物を教えておくつもりだ。その後はギルドで報酬を受け取るのみ、………あれ?あの団体名前なんだっけ?


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