この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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長いです。(今作自己最高文字数)


バウンティハンター

「カンチョー!」

「痛っ!………またウィルか、」

ケツを突かれる藤白、そのまま芦原さんの背後に行き、

「カンチョー!」

「あだっ!…………またお前かこのクソガキィ!」

ゲンコツが頭の上に振り下ろされる。飽きないねー、二人の体力が回復してからはいつもこんな感じだ。芦原さんにカンチョーする度胸のある子だ。年相応の部分が見られるのは周りに馴染んだ証拠だと思う半面、

「おはよう。今日も元気そうだな」

「おはようございます。今日を生きられる喜びを噛み締め、日々励んで行く所存であります。」

 

………俺への態度だけが仰々しい。カンチョーしてこいとまで言わんけど、もっと年相応の反応が欲しい。………膝ついて拝むな!

「そんなにかしこまらなくていい、それより今日は軽く訓練だ。藤白打ってこい。何だったら二人でもいいぞ。俺は素手だ。」

「あの、武器持ってもいいので加減してください。」

「おう、今日こそ勝つで、」

 

やっぱり連携されると時間が掛かるな。伸びてる二人を尻目に休憩する。

「お前も何か教えようか?………といっても教えられるほど身についてるのは居合とあと二つぐらいなんだが、」

「居合は剣のことですよね?残り二つはどういうものなのでしょう?」

「一つは殺傷力の高い格闘術、もう一つは武器を用いた非殺傷の制圧、無力化に長ける棒術だな、まあ、どっちも使い手次第だがな、」

加減すれば殺傷力が高かろうと無力化する事は可能だし、棒でも達人が本気で頭を打てば人を殺せる。達人でなくとも手なんかを打たれれば骨が折れることがある。俺が教えるのは戦い方、どう使うかは習った者次第だ。

 

《調査が終了しました。報告します。》

 

該当するのがあったか。調べてもらったのは短期的な金策。高額の賞金が出る大会、賞金首、魔物討伐、それらを効率化し、最も多く稼ぐ方法を探してもらっていた。結果、

 

1 放火魔の捕獲

2 魔物討伐二件

3 隣町の格闘技大会

4 オートマタ、ゴーレムの大会(三部門)

5 魔物討伐三件と報告

 

となった。他にもあるがこれが効率がいいらしい。そう言われたこの計画なのだが関所を通らず一周して戻ってくる一泊二日プランだ。これで総額お幾ら万円?

 

《円に換算致しますと、約四千万相当になります。》

 

おぅふ……………正直引いたわ。内訳は?

 

オートマタ、ゴーレムの大会優勝(一部門一千万)

格闘技大会(五百万)

魔物討伐等(総額三百円相当)

放火魔(二百万)

 

おいおいおい!大会総なめにする前提かよ!大丈夫なのか?

 

《三十分後に出発します。》

 

あーもう、わかったよ。出場する人選は?

 

《クロエ、アリス、クロシェットがいいかと、格闘技大会については自分で参加してください。》

 

えー、投げやりなんですけどー、何で競うの?大会のルールは?

 

《それについては道中説明します》

 

 

そんな訳で放火犯を逮捕し、魔物を討伐をした。現在、隣町の前まできてしまった。わかった事は武器魔法禁止、目潰し金的禁止。殺傷禁止(当たり前)、降参するかどちらかが動けなくなるまで勝負をする場所はボクシングやプロレスのリングみたいな所だ。格好に関しては特になし、グローブを付けてる選手もいる。いつもの黒いコートは邪魔なのでクロエに預けようとしたところでアリスが間に入る。

「お預かりします。」

「あ、ああ、」

「…………」

漏れとる!漏れとる!赤黒い煙みたいなのが!

「おまえらも出るか?」

「そやな、お前さんに当たらんかったら勝てるやろ、決勝で会おうや、」

「僕もどのくらい強くなったか知りたいですし、北川さん以外の人とも戦っておきたいですしね」

 

ふーん、そっか、がんばれよ、………俺?今バンテージ巻いてます。そこら辺で買いましたが何か?

 

さて………ニ試合終わりました。そんな訳で伸びてる対戦者に一言、

「お前ら運ないな。」

 

一試合目

北川vs藤白

 

ニ試合目

北川vs芦原

 

もうね、全然負ける気しなかったわ。いつもの訓練と同じ感じ、と言ってもまだ二試合残っている。気を緩めるのはどうかと思う。そんな訳で支釣込足で投げる。足払いに見えなくもないだろうが、釣り手と引き手でバランスを崩し、踝に当てた足を支点に回転させるよう投げる。柔道の技の威力を決めるのは本人の受け身と地面の硬さである。リングの床ってめっちゃ固いのよ。そんな訳で、大外刈り、背負投げで倒した。掴まれた時は合気道で投げたりもしたが、なにより藤白や芦原さんより弱いのだ、残すは決勝戦。

 

二メートルの大男、クリフ、幼い頃にボクシングを教わり、喧嘩では負け無し、大会に出場してからも常勝無敗。慣れた手つきでグローブをはめ、打ち合わせる。会場に入れば割れんばかりの歓声が上がり、四方八方から自分の名前を呼ぶ声が圧力となって届く。リングには軽装で手足にバンテージを巻いた男がいるだけ、

「ボコボコにされる前に棄権したらどうだ?」

笑いが止まらない、一発殴っただけでも終わるだろう。

「お前は来る場所を間違えてる。相手もな、ボクシングについて誰も教えてくれなかったのか?」

「ほう、よくわかったな、で何がわかってないって?」

「………もういい、授業料はお前の敗北ってとこか?」

 

『行けー!クリフ』『ひねり潰せ!』

品性の欠片もない言葉が飛び交う中、両耳に指を突っ込みながら相手を観察する。正面に構えられた拳、細かいステップ、典型的なボクサーだ。重量の差を勘案すると正面から撃ち合えば必敗、当たり前だ。ボクサーと正面からぶつかって勝てるのはボクサーぐらいなのだ。ただ、

「その強さはスポーツと殴り合いに限定されるけどな。」

「………ぐぅぁ、」

取り敢えず下半身への蹴り、ボクシングは上半身正面、または側面を有効とするポイント制の拳のみで戦うスポーツだ。拳を避ける動作も小さなステップで最小限、避けられないし、攻撃されることを想定されていない。動きが鈍れば戦いやすくなる。すかさず撃ち抜くように腹パンチ、体重を乗せた重いやつだ。前屈みになったところに首を両手で抑えて顔面に膝、スポーツでは、肘や膝を攻撃で使わない。下手すりゃ死ぬからだ。これが俺が使う武術の特徴。殺傷力の高い格闘術、ムエタイだ。よくボクサーはキックボクサー(ムエタイ選手も含む)に勝てないと言われているが、絶対とは言わないが、現代のボクシングではまず勝てない。正面からの殴り合い、これに持ち込めば勝つ確率は格段に上がる。だが、

「まだ立ってるか」

鼻血が出てるな。唇も少し切れてるな、足にもダメージが出てるな、ステップにさっきまでの軽快さがない。………捨て身で突っ込んでくるか、

「それでは勝てないぞ。」

正面からは受けない側面に避ける。すれ違いざまに回転を加えた肘での一撃を後頭部に叩き込む。駆け引きが大事なんだよな、だがそこでも不利な要素があるのよ、ボクシングの攻撃は拳の殴打。打点は二箇所、対してムエタイは両手両足、加えて両肘両膝。八箇所から攻撃が来る可能性があるにも関わらず両手だけで有利に進めるのはかなり厳しい。そしてボクシングは正面から殴り合うポイント制の競技だ。後ろからの攻撃は反則とされている為に、攻撃を受けることが無い。必然的に死角になり対処は難しい。その上ボクシングのパンチは早い、正面に集中するため意識外からの攻撃となり、ダメージも増える。意識は朦朧としているはずだ。ムエタイの攻撃はエゲツないのだ、後頭部は後遺症が残る可能性があるためスポーツではまず攻撃しない。まあ、軍事武術なら普通に攻撃するんだが…………しかしまだ立つか、ただもうサンドバッグ状態だな、立つのがやっとだろう。できるなら倒れてほしい所だ。クリンチか、それ最大級の悪手だぞ。抑えられる寸前に抑えて膝を腹に叩き込む。唯一の攻撃手段を捨てているのだ。こうなる。そして一番の敗因だが、

「この試合のルールはボクシングより総合格闘技寄りたがらな」

頭を押さえ込み、腰のあたりを掴み、そのまま地面に頭を叩きつけるパイルドライバー(プロレス技)。何もムエタイだけで挑む必要もない。見た目の派手さに反して威力はないけどな、加減しないとこんな状態だと死にかねないし、指導受けたことがある武術は三つしかないが使うだけなら見たことのある技で原理や意味を理解できれば使える。要求される筋力や胆力が水準を超えているかどうかも大事な要素だが、

 

一方的な試合だったな、きっちり賞金も受け取り、オートマタ、ゴーレムの大会こと、シャシカドールコンテストに参加するため受付に来ていた。頭のシャシカは街の名前だ。

「そう言えば俺のコートは?」

「「こちらに!」」

「ありがとな、………あと仲良く、」

クロエとアリスが引っ張りあっているコートを掴むと二人も流石に手を離す。何してんだ、

「大会参加の方ですか?こちらにお名前と住所、出場する人形の種類と名前を記入してください。」

オートマタとゴーレムの欄があるのでオートマタの方にマルをする。そこからは代行者に任せる。さて部門だが、バトル、パワー(重量上げ的なもの)、最後にビジュアルの三つで一部門一体まででエントリーする。これはルールなので仕方ない。ただまあ、

「周りのオートマタがデカくないか?ゴーレムもだけど、」

 

《通常競う部門に特化した人形を作るためでしょう。パワー、バトルに出場するタイプです。》

 

………え?勝てんのコレ?立ったら何メートルだよこいつ、踏み潰されたら終わるぞこれ。

 

《直立した場合、50メートルを超えます》

 

千里眼と真理の併用で調べてみたところパワーだな、うん、戦闘できないぞこいつ、立ち上がる、足元の物を持ち上げるしか出来ないみたいだし、立てるんこれ?バランス制御とか付いてないけど、……………もしかしたら楽勝?

 

そんな訳で見守る事にした。参加者用の席があるのでそこに座る。あ………ヤベェ、誰がどの部門に出るか確認してない。とか思っていたらバトル部門から始まった。待機しているのを見るとやはりデカい、流石に50メートルだとかではないが、それでも5メートル程のものが多い。小さいものでも3メートルはある。大丈夫………、あ、問題ないわ、一際小さな人影、クロシェットだ。一応暴食で喰うのは禁止だと伝えてあるが、スピードはヤバくなったときだけ一瞬使っていいと言ってある。そんなクロシェットの初戦の相手はゴルドー子爵が収納してた戦車の足短めローラー付きの感じだった。

 

「応援よろしくにゃ」

 

この会場(屋外どころか街の外だが)にはマイクぽいものが設置されている。意気込みを聞かれたクロシェットそう答えた。俺は舞台には上がらないつもりだ。目立つし、自分の事は隠せるに越したことはない。相手側は嫌味ぽいことを言ってるけどクロシェットは聞いてない。猫のように両手をついて腰を引くように伸びをして、今度は立って人のように背伸びをしたり、軽く跳ねてみたり、………いろいろヤバイ、何がってクロシェットはショートパンツと薄いシャツという露出の多さと体のラインがはっきり出る恰好なのだ(動きやすさ重視)。クロエと同じくらいの胸は床の間で潰されたり、無防備に強調されたり、弾んだりしている。

 

「おい、聞いてるのか!」

「にゃぁに?」

全然聞いてないよ。俺も含めてだけど、まだ喋ろうとしたのでマイクを隔離してやった。時間を無駄にするな。あとそれ以上いらんことを言うとクロエとかに射殺されるぞ。殺気だけがどこからともなく赤黒い霧に乗ってくる。マイクは司会兼審判の横のマイク立てに刺す。そんなことは知ってか知らずか、別のところから予備のマイクを出し、進行する司会。

「さあ、皆さんお待たせ致しました。これよりシャシカドールコンテストを開会します!司会進行を務めるリィラです。どうぞよろしくお願い致します。では………」

という感じでルール説明に入っていく。と言っても降参するか、行動不能かだが、

「それでは、バトルスタート!」

司会の合図とともに砲撃を打ってきた。だがすでに後ろだ。少なくともこの速度があれば負けはない。しかし攻撃の面では喰う以外では決定打に欠く。さてどうする?………ってそれは、

「てつざんこうにゃー、」

見た感じただの体当たりだが、スピード乗せなので吹っ飛んだ。クロシェットに見せたとしても多分一回しか見せたことはないはずだが、相手が体制を整えたところに足の近くに接近して掴んで背負投げ、そこからのジャイアントスイング、無駄の無い連続攻撃だ。放おり投げると追撃に双撞掌のような技を出し、最後に踵落としで砲身をへし折り、正面からの冲捶(拳種を拳に変えた川掌)、拳が装甲を突き破っている。一方的だったな、

「まだ遊びたいにゃ………」

若干不機嫌だが勝負はついた、そんな感じでスクラップを量産しながら無傷で優勝した。


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