宿屋で休んだら体力全快、………とはいかないな、ふくらはぎがまだ少し張ってる。朝飯はシチューとパン。パンは少し水分が抜けてパサついているが硬いということはなかった。
「何か儲かりそうな狩り場知らないか?」
「西の森なら弱い魔物が多いですね、オーガには注意してください。東北の山には強い魔物が多いですが、いい素材が獲れます。」
《森に行きましょう。数が多い方が効率がよく、金額を増やせます。》
あと武器はあった?
《幾つか候補があるので案内します。》
着いたのは道具屋だった。入ると薬品の匂いが漂っていて、何に使うかわかんない物がいっぱいある。
《右を向いてください》
そこには樽と箱が置いてあり樽には剣や刀、箱には乱雑に防具が突っ込まれている。樽の横には、(中古一本銀貨三枚)と、書いてある。防具は買わない。金無いし、結界あるし、何より重い、こんなもの着て動ける現代人はそれこそ軍で訓練を受けた者や山岳登山経験者くらいだ。俺が経験あるのは居合くらいなので刀がいいのだ。何気なく一本の刀を手に取る。
《それです》
鑑定してみて固まった。
透く水・七式
製作者 冷凍蜜柑妖精
全属性の使用に耐えられる刀。切れ味もいいが、全属性に対する耐性が無いと使えない。名前は製作者の趣味。
………なんか、持ちたくない。製作者の名前が悪い。冷凍蜜柑の妖精なのか、冷凍、蜜柑妖精なのか、わからんし、元の世界のあれに対する未練か? そんな刀作んな。取り敢えず買おう。そして鑑定持ちの人は避けよう、見られたくないから。
買いました。店を出ました。見つけました。また、冷凍蜜柑妖精の製作物を。あれはあれだった。確信。
最初はマネキンだと思った。だが、すぐに違和感がした。手足に機械のような防具のような物が付いているにもかかわらず、身に付けてるものは元の世界で見たことのあるスクール水着、そして、鑑定結果がこれだ。
蓮野 愛 オートマタ
製作者 冷凍蜜柑妖精
水の魔石が使われたオートマタで、給仕、護衛を専門に作られている。名前と容姿はとあるゲームキャラクターである。
あっ、買わないよ。しかし、こっちに来た奴自重しろよ。金がいるんだよな、狩りだー、狩り、金、金。
さて、街の外だ。あらためて見ると何か異世界感が無い街だ。デカいビルが建ってる。三本も、まあ、ウィンドの効果からいこう。
「ウィンド」
風が吹いた、えっ、終わり?
《魔法についての調査結果を報告します。ウィンド、ライトニングは基礎魔法というものでそのまま唱えると、気象として現れます。ライトニングが落雷、ウィンドがそよ風、ブレイズは発火、バーストは範囲が広くなります、ウォーターが一定の範囲に雨、アイシクルは霰に、アースは植物が成長、ストライカーが弱い地震、ここからイメージなどで作る応用魔法と生活魔法に分かれます。》
ふーん、早速やってみますか。手を前に出し、風を球体にするイメージ、圧縮できるかな。
「ウィンド」
緑色の球体ができた。手を前後に動かすと球体が一定の距離を保ちながら付いてくる。手から離れんな。
《球体を飛ばすイメージをしてください》
掴んで投げる感じでいいか、ピッチャー振りかぶってぇー、投げたー!
ヒュン、………バァァン!
弧を描いて飛んでいき地面に当たって爆発した。竜巻を作るイメージもできた。さて、実験も兼ねて戦いに行きますか。
さっそくだが疲れた。森遠い。後この世界には空間魔法みたいなのない?
《有りますが、万能結果を使えば似たことはできます。》
………聞けばよかった。どうすんの?
《結界で隔離して、異空間に送り、出したい場所に結界をはり、異空間から出します。だだ、スキル保有者をこの方法で移動させることはできません。》
俺は無理、がそれ以外は可、といったところか。じゃあ森の敵を隔離でこっちに持ってくることはできるかな?
《可能です》
よし、千里眼で探すぞ、後は周りに人が居ないか確認して、目を閉じる。代行者も探して、
《こちらはどうでしょう》
ゴブリンですかー、………汚いな、一体だし丁度いいか。結界で囲って隔離、目を開けて少し離れた所に結界を張り、ゴブリンを出す。ゴブリンは驚いていたが、こっちに汚い声をあげながらこん棒を持って走ってきた。居合やってたけど生き物を斬るのは初めてである。刀に手をかけて構える。
「はあぁ!」
こん棒を持っていた手を切り落とす。ギャアギャア騒いでるが気にしない。足で押さえて背中から貫く。刀の切れ味もいいようだ。ゴブリンについては感想なしである。社会で生きることは、野生動物の生活よりある意味残酷である。金が必要だから殺す。今ゴブリンを殺した理由はこれだ。街を荒らした、人を拐った、どんな理由を付けても殺したという結果では同じだ。正当化なんてものに意味など無い、自分への言い訳でしかないのだから。魔石何処にあるの?
《体の中心、心臓の近くにあります。》
面倒だな、前のときの魔石は、ライトニングで丸ごと吹き飛ばした残骸の中にあったけど、あの攻撃で傷ひとつ無かった。魔石かなり丈夫なんだな、変質してたけど。
《魔石は魔力を貯める媒体などになるため、魔法による攻撃では破壊できません。》
纏めてライトニングで死体を焼いて後から魔石を回収、がいいかな? 変質してると値段変わるの?
《風の魔石は安いので共通の買い取り窓口で売った方が高値がつきます。》
何で安いの? 逆に高い魔石は?
《需要が無いためです。水の魔石が高いです、また、大きさによって値段が高くなります》
とにかく数狩って、魔石集めて金を集めないとな。
斬ったゴブリンの山の上で胡座をかく。何匹ぐらいと戦っただろうか。
《87匹です》
おう、………この辺りにどのくらいゴブリン居るか知らないが全滅させてないよな。
《現在、この森には221匹が生息しています》
結構いるな、まあ滅ぼすつもりもないのでこの辺りで引き上げよう。能力の確認としては有意義だった。
流石に一気に換金すると怪しまれるので、今日は5個換金した。ゴブリンの魔石はオーガの魔石より少し小さいくらいだった。金貨五枚を受け取り、ある店を目指した。それは千里眼で見たある金属を売っている店だ。
「はぁ、………」
店主いきなりため息だよ、まあ、吐きたくもなるな。
「あれ金貨五枚で買えるだけ売ってくれ」
「ああ! 持ってけよ! チクショウ………」
荒れすぎだろう。何を買ったか、それが大事。
緋緋色金
伝説の金属、純粋な物は柔らかく、合金になると非常に固くなる。
これが一キロ銀貨一枚、何故こんなことが起きているかと言うと、簡単に言えば値崩れ、需要が無いほど大量にあるのだ。大量にある理由は俺の前にこの世界に来た奴が自重せず大量に作ったり、掘り出したりしたことが原因で、値崩れはそれを商人や貴族が買い締め、そこで様々な街などに売ってその差額で儲けようとした。が自分が思い付くことを隣の人が思い付かない訳がない。売り出す街が被って市場から溢れた、買い手が付かなければどんな宝石も只の石だ。移動させるのだって金が掛かる。量が多ければ尚更、売れるまで荷車を圧迫するならここで身軽にするために処分している。それが、伝説の金属一キロが中古の刀より安い訳だ。
「じゃあ、ここ置いとくよ」
金貨を机に置き、結界で50キロの緋緋色金を隔離する。金が入り次第安いところから買っていくつもりである。何故金属を買ったか? 伝説の金属だよ、買うに決まってるじゃん。まあ、少し使い道が思い付いたのもあるけど、量が多いのはそのためだ。ここで正式に代行者に依頼を出す。
今日は前より少し大きな部屋のある宿に泊まった。値段は銀貨一枚分高くなったが、代行者、オートマタの作り方を一通り教えてくれ。
《基本的には、機械式と魔導式に分けられます。機械式は決まった動作を行うことを得意とするタイプですが、行動を予め決めておく必要があります。そして、そのパターン以外の行動は取れません。重量は魔導式に比べると非常に重い物が多いです。魔導式は術式を人形に組み込み、動かします。自我の有無でも分かれますが、有るものは自ら考え行動し、行動を予め決める必要はありませんが、行動を強制することはできません。無いものは機械式と同じです。》
んー、魔導式で自我有りで作るか、自我どうすんの?
《仮初めの命、霊魂操作のスキル保有者が作る。または、移す方法とオートマタに宿らせる機構精霊を作る方法があります。》
機構精霊は俺でも作れる?
《恐らく可能かと》
わかった、四つ作りたいから材料を教えてくれ。
《わかりました》
緋緋色金を取りだし作業を開始する。術式を代行者に最適化させ、それを緻密に刻んでいく。細かい部品は、溶かして、板状にしてそこから削り出す、この作業は夜通し続いた。後日、宿の主人に苦情を言われたのは言うまでもない。