この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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向日葵の本気見る?




速攻

ケツ痛い、結界に同乗していたメンバーはたまにウロウロしていたが、俺は基本寝る時と食事以外はずっと同じ所に座ってたからな。………トイレ?出た物は隔離で地面に埋めてます。人形制作の進捗としては七割ぐらいだろうか、髪の毛とかで結構、試行錯誤したからな、その甲斐あっていいものができた。拠点を何処かに構えれば制作にももっと打ち込めるのだが、そんな事を考えながら宿を取り、エドガーの元に向かう。前来た時もそうだが、あっさり通されるな。話が早くて助かるが、

「このタイミングで来るということは、こちらの事はわかっていると思ってよいか?」

「ああ、暗殺の件だ、ゴルドー子爵がこっちにまで刺客を寄越してきた。黒魔術は潰しておいた、で、そっちの子が狙われた娘さんだな。」

「そうじゃ、エリーはあれ以来人形を手放さなくなった、今はその時この娘を守り抜いた護衛の一人と、わし以外には話も出来ない状態じゃ、」

それはそうか、襲撃を受けてまだ一週間も経っていない。もっと時間を置いて会うのが普通だろう。だが、エドガーがこの娘をこの場に連れてきている。ただ離れなかった?

「しかし、もう依頼主を突き止めているとは、………てっきり心当たりが無いか聞きに来たと思っていた。」

「締め上げて吐かせた、」

………おっと言葉が悪かったな、エドガーの後ろに隠れてしまった。ここは素早く用件を伝えてお土産を置いて退散するが吉だ、

「ゴルドー子爵についてはどうします?」

「現状どうにも出来ないのが腹立たしいのう。この街の中のことならどうとでも出来るのだが、」

「………わかりました。では、こちらを、箱にはアナスタシアが作ったケーキが入ってます。それとこちらは護符です。………娘さんにどうぞ。」

今回は攻撃性をもつリボン。持ち主に危険が迫ると小さな龍の姿をとり、敵に襲いかかる。話し相手にもなるし、ちょうどいいだろう。そんな事を考えながら部屋を後にすると、左手の無い女性とすれ違った。この廊下はエドガーの部屋までの一本道、恐らくは彼女がその時の護衛だろう。………しかし、協力も情報もなしか、エドガーの情報網は外より内に向いているらしい。この辺りの治安がいいのは彼のおかげかもしれないな。

 

ミトラー合衆国のゴルドー領に攻撃をするとしても作戦がいる。目的としてはこっちの足が付かないようにするのが主な目的だが、ちなみにゴルドー子爵は近代的なビルを自宅兼会社にしているようだ。上から三番目の階に住んでいる。上の階はなんかプールとかが見える。下の階も覗いてみたが、自宅の階から上はプライベートスペースにしているようだ。その為ほぼ無人、空からの潜入もありだな。しかし、爵位では上のエドガーよりいいとこ住んでないか?

 

《属する国が違います。ここは国境の街で、ミトラー合衆国と英領シクラの中間にこの街があります。なおミトラー合衆国は利益を得るため小国が集まってできた国なので、財力が爵位に影響します。シクラとは方針が違うためこのような差が生まれています。》

 

ふーん、国が違うのか、隣国暗殺仕掛けてくるような所は拠点としてはマイナスだな、仕掛けるような所もだが、もしかしたら外交問題になるから動けない?証拠が掴めてないのか?…………わからん、だんだんあのスペースに腹が立ってきたな、まあ、二日程は移動と準備に使うか。攻撃する事は確定なのだが、概ね作戦が決まったので買い出しをして結界で移動する。

 

大きな机の前に小さい男の影、神経質そうな表情を常に張り付かせ、鼠を思わせる前歯、彼こそがゴルドー子爵、

「またハズレか、」

そんな事を言いながら不機嫌そうにマッチに火をつけ、その火でタバコに火をつける。

「しかし………、何者なのだ、」

北の花園、生産系のスキルを強くしているはずなのだが、戦闘ではギルドマスターを一撃も受けずに倒したと噂されている。幻術を使う可能性もあるが名前以外の情報はどうにも浮世離れした噂ばかりでどれが本当の情報なのか判断ができない。すべて本当なら人間じゃない。吸い込んだタバコの煙を一気に吐き出す。その途中、

 

ドン!

 

とてつもない轟音と共に、ビルが揺れた、

「襲撃です!屋上から二人!」

「何!上からだと!」

このビルの周辺はヘリの飛行を禁止している。上にも見張り程度の人員を配置していたが、サボっていたのか、………見張りはあとで全員クビにするとして、

「警備の者を集めろ!さっさと行け!」

報告に来た者に次の指示をだすと、弾かれたように部屋を出て行く光景は彼にとって見慣れた事だった。後は自分も逃げるべく重要な書類と財産をまとめた鞄に手を掛けた時、違和感を感じた。軽いのだ、すぐさま鞄を開けるとそこに入っていたはずの書類がない。鞄一杯に詰め込まれていたはずだが、今は一枚も無い。噴き出る汗を気にせず次々と鞄を開けるが、財産はあっても書類が一枚も無い。不味い、不味い、不味い!

「何処だ!クソ!………ここか!違う!こっちか!…………あぁぁぁ!」

あの書類には脱税、そっち鞄には殺害の依頼に関する書面、あっちには会社の顧客名簿と裏取引の帳簿、一つでも大問題になる書類がすべてこのタイミングで紛失。何か繋がりがあると普段の彼なら考えたに違いないが、引き出しをひっくり返しているようなこの様では思考はまともに機能していなかった。侵入者が来ていることも忘れて、

 

バァァァァン!ドン!パラパラパラ………

 

大きな音と共に天井が取り払われ、太陽の光が差し込む。砂煙の中心から姿を表したのは、二人の男だが、…………顔が認識できない。顔だけが黒くのっぺりとしていて塗り潰されたような、何かに覆われているようにも見えるが、不思議と目線だけは読むことができた。しかし、それが逆に不気味で仕方なかった。

 

さてと、上から二人には乗り込んで貰うのだが、素性や顔バレはよろしくない。そんな訳で、冒涜と魔力で作った霧を顔に纏わせ、隠蔽に使う。服装も変えてもらい。準備OK。結界で上空へ、床を突き破りながら降りる手筈で頼んでいる。割るのは藤白のメイス。パワーだけは異常になっているので、物を壊すだけなら何の問題もない。戦闘面の不安は芦原さんにカバーしてもらう。俺はその襲撃に合わせ結界で、様々な不正の証拠を隔離で回収。それと、正面から乗り込んで憂さを晴らす。このビル、結界が張られているので魔法で破壊する訳にも行かなかった。しかし、入る出るに制約がなく(検知はされる)。内側からならやりたい放題出来る。カメムシ戦法も有りかと思ったが、あれでは物は壊れなし、営業妨害程度、それでは気が済まない。それに、ここの警備にはどうも異世界人がいる。ついでだし、対処しておこう。回収か、始末かは相手次第だが、まあ、入り口の奴から話してみるか。お邪魔しまーす。

 

「おやおや、これは、懐かしい雰囲気がしますね。」

 

あっ、アウトだわこいつ、もう何か武器に手が伸びてる。こんなの戻した所で殺人鬼だろ。目が逝ってるし、隔離で刀を取り出す。

「ご主人様。私が行っても宜しいですか?」

「………一階だから暴れすぎるなよ。」

不安しかないが、まだ他にもいるし、時間も割けない。回収しないなら任せていいか。

「頼んだぞ、向日葵。」

やばくなったら、回収頼むぞ、代行者。

 

《了解しました》

 

「先を急ぐぞ」

「行かせませんよ!」

針状の物が飛んできたが、それは空中で停止し、折れ曲がる。強欲の能力で握り潰したのだ。俺にはきっちり見えてるが相手にも見えてるかどうか、

 

「飛び道具は意味が無さそうですねー、」

そう言いながら楽しそうに笑っている。その後に複数の金属が床にばら撒かれる。向日葵は一言も発する事なく無言で立っている。笑顔で、

「ご主人様から御用名受け、あなたの相手をさせて頂きます。向日葵です。」

北川の前では殿にしているが、心の中ではアリスと同じ様付で呼んでいる。

「これは、これは、ご丁寧に、私は………」

「あっ、そちらからは結構です。」

素早い拒否、

「………理由をお伺いしても?」

「私があなたの名前を覚える必要も、興味も無いので、………ああ!そうでしたね、そちらからどうぞ。」

向日葵にとっては主人以外の事などどうでもいい。

「では………遠慮なく」

一気に距離を詰める相手にウォーミングアップを兼ねた正拳突きが空気を打つ。それを確認し、掴みかかった、この時彼は大きな失敗をした。向日葵は、はじめに作られた人形で、材料の制限が大きく、シンプルで小柄に作られている。その上強欲の副産物として腕力が強化されている。見た目や体格からは中学生程にしか見えない華奢な腕だか、脂肪の厚いオークの腹に風穴を開けられる力が出るのだ。

 

パキィ、ミチ、グチャ、

 

挟み千切られた指が床に落ち、激痛に絶叫を上げる。しかしその声は直ぐに止まる。

「迷惑になりますよ。舌を噛まないようにしてくださいね。」

掴んでいた手を片方を離し、思いっきり振った。

 

ドチャ!

 

「カッ!………あぁー、」

地面に叩きつけられ、肺に入っていた空気を吐き出し、呻き声を漏らす。だが、これで終わりではない。

 

ズガッ!ドカッ!ビタン!

 

向日葵の頭上を超えて上がり、そこから何度も前後左右に叩きつけられる。抵抗できず叩きつけられる。そんな時肩から先の痺れが強い圧迫感になったと同時に浮遊感に襲われ、宙に放り出された。

 

「申し訳ありません。取れてしまいました。」

一瞬、なんの事か理解できなかったが上体を起こそうと右手を付こうとした時あるべきものが無かった事と、そのまま倒れた際に目に付いた、向日葵の手に握られた右腕を見て、そこから改めて自分の腕を見ると、腕が丸ごと無くなっていた。認識した瞬間にそれは痛みとなって襲い掛かってくる。それと同時に次元の違う力を目の当たりにし、恐怖に心を押し潰され、逃げたいという衝動に駆られる。そのどれよりも早く、身体が本能的に動いた。逃げる為に、身体の中にある物を垂れ流しながら、呼吸のリズムを無視して、ただ走る。しかし望みとは裏腹にその足はすぐに止まる。

「お相手するように言われているので逃げないで貰えますか。」

後ろを振り返ればそこには初めと何一つ変わらぬ笑顔があった。




まともな戦闘(蹂躙劇)シーンは初だと思います。

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