現在の一番の悩み、拠点探しと、安定した職と収入だ。次何処に行くか、どうやって資金を集めるか、今は魔石やら素材やらを売って金を捻出しているが、価値が落ちない保証もない。発展している街ほど価値の暴落、高騰が激しく、一時的に行く分には問題ないが長期的には、何処かで躓く。それで辺境に構えるとしても、行って職をどうするか、運営できるのか、常に頭の何処かで漂っていた疑問を振りほどいて発生した問題、
藤白が拐われた。
頭が痛い、少しは危機感を身に付けろや、昼過ぎに代行者から報告された場所は放棄された工業地帯、見た目からして油臭そう、この辺りだけ元の世界から切り取って持ってきたのではと思うほど近代化されている。おまけに爆弾付き、事後報告になるが爆弾は回収済みだ、
「第一回黒幕は誰だ会議を始めまーす。」
「いや、助けたれや、」
「その辺りは大丈夫です。もしもの時は隔離するんで、」
まあ、爆弾のある空間にだが、
「そうやな、そやったら何ですぐ助けたらんのや?」
「それが今回の会議のタイトルに繋がってくるんです。今回の奴はノーマークなのでどういう繋がりがあるか殲滅してしまうとわからなくなります。」
相手の狙い、スキル、俺達の情報を入手した経路、知ってることは全て吐かせるつもりだ、なら相手の話がしやすいように筋書きを決めておこう、そんな寸法だ。狙いがわからないのでいくつかのパターンを用意しておくが、もしどれでもない場合は俺が合図を出して、みんなには黙ってもらう。そんな訳でオーディション、
「そんなことのためにー、………酷いー、(棒)」
下手くそー、台詞ガン見やん、向日葵ボツ、
「私たちは争うつもりはない、あなたたちの目的はなに?」
上手いけど、わざとらしいぞアナスタシア、
「わ、私たちが何を~したと言うんですか~、」
ヨレヨレだな、クロエの台詞、
「……………………………何でしたけ、」
見た目だけなら様になってたが台詞を覚えられない論外のアリス、
「なんや、下手に出とったら、調子に乗りおって、しばいたろか!アホンダラ!」
任侠ものの映画にしか見えない芦原さん。三人欲しいが、芦原さんとアナスタシアはいいとして、三人目だ、どうしよう。
彼らはいつも通りに依頼を実行し、いつも通りの仕事をして、いつも通りに報酬にありつくつもりだった。金の鎖のリーダー、伊東 和彦、昔飲食店を開業したが、不況で店は潰れ、借金だけが残り、夜逃げをして気付けば7年、仲間と飲むのが細やかな楽しみだ。
「リーダー、来たぜ、」
そう言いながら駆け寄ってきたヒルマン、悪人面はいつもの事だが、今日は特に嬉しそうだ。こいつ腕はそこそこだが、女癖の悪さはメンバー1だ、今回呼び出せと言われたターゲットはお付きか何かは知らないが、絶世の美女を何人も連れているそうで、そう言うことには無縁だった自分からしても羨ましい限りだ、
「ほら、きぃ引き締めていくぞ、」
人質を担いで合流すべく外へ繰り出す。
一部始終を全て見届けると、最短で合流した。ちょっとしたサプライズ、まず爆弾投下、無論爆発しないようにしてある。
「これがこの工場内に転がってたけど、お前らなんか知らない?」
この工場内にはこの爆弾を作る設備、材料、あっちにもそれに関係する技術者はいない。疑問を問い掛けるのと、揺さぶりだ、
「何だそれは、」
知らないか、仕掛けたのはこいつではなさそうだ、……となると、依頼主側か?それだと俺らごと消すのが目的だろうが、確証に至るにはまだ足りない。俺らを消して利益を得るものに心当たりは無いこと無いが、このまるごと吹き飛ばすと言う行動が矛盾している。では、次の質問、
「これはもういい、俺の方で処理した。それより藤白を拐った目的は何だ、」
ここが大事、理由がないに等しいのであれば吹き飛ばすのが目的だろう、あるのであれば保険または、吹き飛ばす口実?
「お前が持ってる物、後ろのも含めて全部置いてけ、」
んー?………これではわからないなー、………仕方ない。
「作戦開始!」
藤白を隔離、遠距離に控えていた、クロエの狙撃でリーダー格の男の両サイドの頭を撃ち抜く。天井の穴から向日葵の奇襲、強欲で強化された腕力を使って押さえ込む。芦原さんにアナスタシアの守りを任せて、アリスと一緒に突っ込み、向日葵を攻撃しようとする敵を倒す。数人しかいないので、数十秒で片付いた。声をあげる暇もないとはこの事だろう。ちなみに当初の交渉作戦は諦めた。
「クソッ!離せ!………折れる折れる折れる!」
全力でタップしてるが、向日葵は理解できていない。このままだと本当に折るので、緩めるように指示する。
「さて、早速で悪いが依頼主は誰だ?」
「言ったら見逃してくれるのか?」
信用されてないのはすぐわかるな、まあ、こいつ以外は殺してるし、当然か、真理を使って見た感じ、嘘ではなく事実のようだ、ようするに依頼主はいる。
「名前を知らないなら何でもいい、特徴とかな、」
「…………その前に安全と命の保証してくれるか、…………それと仲間の墓くらいは作らせてくれ、」
「ああ、いいぞ、」
「軽いなー、」
「それについては、俺の貰ったスキル隔離で何とかする。」
あれは本来、異世界人を送るためのスキルだ。しかし、気の毒な話、アリスの鞭(本来は鋏)は切れ味も使い方もやらかしている。一薙ぎで胴体だろうが頭蓋骨だろうが、CTスキャンのごとく輪切りにする。
「で、依頼主は?」
その言葉の直後に死体を隔離、地面に穴を開け、そこに隔離空間でくっ付け直した死体を入れて、隔離した砂をパラパラと掛けていく。後は墓石に名前を入れて、完成、
「…………………」
「おーい、聞いてるか?」
「………………あ、ああ、依頼主だったな、ゴルドー子爵だ、あんたらをここに呼び出すように依頼された。」
ゴルドー…………聞いたことないな、代行者は?
《検索、………ミトラー合衆国の貴族です。アスメシアの隣国で、二日前にエドガー公爵の娘を盗賊に襲われたように見せ掛け、暗殺しようとしましたが、贈った人形の効果で暗殺に失敗したようです。》
…………それで、こっちを排除しに来たと、突っ込みたいところがいっぱいあるが、ゴルドー子爵の情報網は侮れない。二日前防がれ、人形の制作者や居場所を特定、昨日の晩頃藤白を拐った事から推測すると、ほぼ一日足らずで調べあげた事になる。この世界にはスキルや魔法なんかがあるし、未知の力が働いていてもおかしくない。………とにかくゴルドー子爵の周辺や関係を徹底的に調べて、エドガーの血縁者を中心に監視、危険が迫り次第報告、対処はこっちで決める。
《了解しました》
さて、あまり火中に飛び込むような事はしたくないが、放っとく訳にも行かない、次が無いと決まった訳でも無いし、こっちは先手を取られたのだ、呑気に傍観をしている場合ではない。そんな訳でリーダーを隔離、まずはアスメシアでエドガーと接触、そこから対処の仕方を聞き、無理のない範囲で協力しよう。無い時はその時考えよう。
「ごめんなさい」
「いや、気にしなくていいぞ、元はと言えば、こいつが捕まるのが悪いんだからな、」
「すいませんでした………。」
帰ってきた頃には昼頃になっていたのだが、当然帰ってきて直ぐに夕飯の仕度ができる訳がない。そんなアナスタシアの謝罪だ。気にすることはないと思う。
「昨日の残り物とか無いか?」
「最近は全部アリスが食べてる。」
「ちょっと!それは言わないでください!お願しましたでしょ!」
ここに来て食いしん坊キャラ発覚、食卓ではあまり食べないと思っていたが、そういう事か、しかし、結構な量があるぞ、人数の割に品数が多いんだよ、あれで渡した予算足りてるのか、って思うぐらいに。
「そんな事気にせず食べればいいだろ。俺としてはありのままのアリスでいて欲しい。無理とかするなよ。」
しかし、まあ、人形で食いしん坊キャラって………、
「アナスタシアも一人で無理にやる必要はないと思うぞ。」
「そうです。洗濯くらいは任せてください。」
「そっ、そうです。私だって、」
「………向日葵の洗濯は服を破る。マスターの服が全滅する。でも、買い出しは行きたがらないし、クロエは危なっかしい。皿の前科。」
「……………」
「うぅっ、ごめんなさい、」
クロエの心の傷を抉るなて、向日葵は力の制御が結構大雑把、特にこれと言って問題は起きてないが、家事には物損の危険が付き纏うようだ。俺も出来ることを手伝うか。
「……………本当に無理させて悪いな、何か出来ることがあれば俺もやるぞ、」
「買い出し付いてきて欲しい。食材が無いの。」
ん?そこから?
「市場には…………」
「行けてない。………ごめんなさい。」
「もしかして最初のごめんなさいは、そう言う意味か?」
ああ、そう言えば人見知りだったな。いつも買い物には誰かしら付き添いがいたからな。前の時は狩りで人数が必要だったので、付き添える者が居なかったからな、しっかりしてる様でも、見た目通りの所もあると再確認し、頭を撫でる。
「じゃあ、買い出し行くか。」
ふう、………何とか撒いたか、案の定付いてきたがっていたので待つように言ったが、約二名付いてきたので、余計な時間が掛かった。ちゃんと待ってるクロエにはお土産を買って帰ろう。さてと、
「何かして欲しい事とか要望はあるか、やりたい事でもいいぞ、」
「………じゃあ、一緒にお茶したい、」
普段人を催淫したり、読心でふざけたりするが、こっちからのアプローチには弱い。こういう時ほど遠慮なく言ってほしいが、
「それでいいのか?」
「うん、」
ほんのりと頰を色付かせた柔らかな微笑は、暫く言葉を失わせるには十分だった。
他愛も無い会話を楽しみ、お茶を楽しみゆっくりとした時間を過ごす。たまにはこんなのもいいな、そんな事を思いながら、一つ提案する。
「やっぱり、家事ができるのを作ったほうがいいか?」
「………しばらくは、いい、」
「そうか、またこうしてどっかでお茶しような、」
「うん、」
こういう笑顔が見れるならすぐに行きたくなりそうだ、連れてきた甲斐もある。さて、料理については俺で何とかするか、