「ちょっとギルドに顔出してくるわ、」
そういい残し、頭を押さえながら朝早くから出ていった芦原さん、昨日は全く酔えなかったが、しっかり二日酔いにはなったようだ、申し訳ない。
「アナスタシア、二日酔いに効きそうな物を作っておいてくれ、」
芦原さんが元気になるようにドラゴン肉急かしてくるか、あとギルドにも寄ろう。なんやかんや魔石の交渉ができてない。…………おっと、その前に商会にも顔を出さないとな、
肉は案外すぐ受け取れた。滅茶苦茶堅い肉だ、ステーキにしたら歯が折れるんじゃないかと不安になるくらい、そもそも切り分けられるのか?
《通常の刃物ではほぼ不可能でしょう。》
……………そんなもん、食って平気なんですかね?そうこうしている間に商会の前についた。さてと、どう交渉するのが最適か、手持ちの情報を組み立てていく。まあ、代行者の調べた情報を元に決めるのだが、入り口をくぐり、真っ直ぐ受付を目指す。
「一角竜の魔石を買い取りたい、担当者を呼んでもらえないだろうか?」
勤めて笑顔を作る。その表情をあまり動かさないは柔らかい印象を出さないようにするため、雰囲気で圧す。
「か、かしこまりました。」
何とか押しきれたな、これで交渉に持ち込めるはずだ、居留守を使わない限りは、保険として、何枚か金貨を握らせといた方がよかったか?交渉だって相手の時間をとるのだ。名義は部屋代としてでも渡すか?暫く考えていたが、あまり金を出しすぎるのも良くない。金額を釣り上げられる可能性がある。嘘は見抜けるが気分が良いことではないし、今後(あるかどうかは知らん)に支障をきたす可能性が出てくる。…………相手にとってもいい客だったと思ってもらえた方が都合がいい。慣れないことはするものではないなと今後どうするか、悩んでいると、
「今確認の方がとれましたので、こちらにどうぞ、」
通された部屋は意外と普通の部屋だった。ただ所々違和感を覚える。部屋の角に人が立っている。あと空白のスペース、なんと言うかそこを境に物が何もない。窓もない。そこに三人、ゴツいのが座り込んでいるし、その奥には杖を持った女性もいる。よーく見てみるか、まず後ろ、………ふーん、警戒されてるね。
わかった事
後ろの二人は首飾りと指輪に所有者を透明にする効果がある。
正面のスペースは境目に幻影で窓のある壁を見せている。奥の女性が、(ちなみに後ろ二人も女性)
まあ、要するに真理ノ瞳の前では透明になろうと、幻影を見せようと無意味、後ろ二人は微動だにしない所からかなり腕が立つのがわかる。しかし、これで隠れているつもりなのだから、少し笑えてきそう。
「お待たせしました。私はクラハ商会の会頭のクルツです。」
「北川です。人形師をやっています。………回りくどいのは無しで行きましょう。ギルドで魔石を見たのですが、こちらで売約があったので、お伺いしました。………それで、これを使えますか?」
金の延べ棒を机に置く。不安ではあるが、これが使えれば所持金を崩さずに済む。天秤も店先にあったし、これで行けるならその方がいい。この世界もそうだが、昔の硬貨は金やら銀やらで出来ていた。しかし、純度にばらつきがあったり、偽物があったり、重さで価値を決め、両替を行っていた。なら、金塊でもいけんじゃね?と、勿論クルツが鑑定持ちなのは確認済み、
「…………使えますが、他には?」
この反応は判りにくいな、ここは無難に、
「足りませんか?なら、もう一本…………」
「いえ!結構でさ………結構です。一つでも余るので他にご用命がないかと…………」
こう言う時は遠慮なく言った方がいい。
「では、大きい盾と小さい盾を、あと二人分の装備品を見繕ってもらっても?あっ、男女で、」
「そ、それだけ、ですか?」
ん?これは別の意味があったか?…………こう言う場合使った値段を確認して、落とし所を探るのだが、比較すべき情報を持っていない。聞くのはアレだし、それにこれだけ頼んだのだ、余った分なんて大したことはないだろう。
「では、この街で何か困ったことがあったら頼ってもよろしいですか?」
「具体的にはどのような?」
無難なところ後ろ楯になってくれ、と頼むか、
「そうですね、冒険者ギルドで聞いたのですが、この街にある魔導ギルドは魔法を使えるものを集めているそうで、僕のところには魔法を使える者が多いので…………」
「わかりました。全力であたらせていただきます。」
いや、そこまでしなくても結構ですよ、顔が真剣と書いてマジと読む顔してるもん、さて次は、冒険者ギルドに顔出すか、
さてと、魔石の交渉をどうするか、簡単な方法は相手の約束を蹴り飛ばす。鬱陶しそうなので、ここは、商会に何とかしてもらおう。問題はどうやって買い上げるか、口約束とはいえ、売約は成立している。まあ、そのために魔石を見たいと言ったが、売ってもらえる保証はない。冒険者ギルドに入ろうとした時、異常を感じたが、気に止める程ではなさそうなのでそのまま入る。
……………酒臭っ!
辺りに横たわる死屍累々、だがその表情は楽しそうな者から、青い顔の者まで幅広い。そしてその中心には、
「かぁー!こんなにいい酒は飲んだことがないな!はははは!」
できあがってるダインさんがいた。大丈夫なのか?飲ませた本人は土産も含めて渡してるし、受付嬢もカウンターに布団の如く干されている。ギルドの機能が完全に麻痺している。なんか盗難とかで誤魔化せそうだが、そんなことはしない。
「芦原さん、次進化させるとしたらどういう方向性にしたいですか?」
「………一番はこっちにある分を吐き出せるようにしてくれると助かるんやけど、」
それは暫く無理、代行者曰く、あと3~4回進化すれば出来るらしいけど、それにしたって結構な存在値を使う。それにパーソナルスキルは一塊のもの、くっつける事はできても削れないのだ、他にも強化したりしなければいけないスキルやら耐性やらあるのに、存在値を集められるのは俺だけ、一人分でも足りないのにこの人数で振り分けてたらすぐに足りなくなる。
「また次の時やってみます。」
「頼むで、」
目がマジだ。さて、交渉を始めよう。
「………ダインさん、」
殺気を放つ、強力なものだが一切鋭さのないものだ、完全に覚めるとやりづらいので、少しだけ覚ますためだ、後で悪酔いはするかもしれんが、知らん、こっちはここからが勝負だし、一気に畳み掛ける。
「………なあ、」
「ん?なんですか。」
「ほんまに教師なんか?同業の臭いしかせんかったんやけど、」
「いやいやいや、そんな訳ないでしょ、」
同意も契約書も書いてもらってるのに、違法な訳ないでしょ、
「機嫌のいいときに交渉したからうまくいったんだよ、」
お陰で元値の三割(金貨70枚)で手に入った。左手で軽く投げていた月光獣の魔石を隔離する。
「それより今日はドラゴン肉のステーキですよ、今朝受け取って来たので、晩には食べられると思いますよ。」
話題を素早く変える。出来る処世術である。………まあ、ステーキは遠慮したいが、
「あ?………ああ、そうやな、」
まさかの忘れてた?大金の事が予想を越えてダメージを与えているようだ。…………マジでどうしよう。有効的な方法が思い付かない。
「…………芦原さん、何か趣味とかあります?」
「せやなぁ………特に趣味ちゅうもんはないな、けど新聞や雑誌は、よお読んどったわ」
よし、雑誌や本の方向に伸ばそう、スキルも元々の形を変えるように進化させようとすると、存在値が多く必要になる。雑談はギリギリ嗜好品の範囲で行けるが、その他の本については物によるのでどこまで実現できるか、取り合えず試算を頼む、代行者、
《了解しました》
「………ぅん………ぐ、いっ…………ふぐぅぅ……………ふぁー、」
「………なんか、大変そうだな、」
「……………だって、んぅー!………かたいん、………だもん!」
潤んだ瞳に上気した頬、熱の籠った吐息で、甘えるように、その様は幼くも仕草の一つに至るまで妖艶で、こちらに伸ばされている手がゆっくりと動いていることが時が止まったように魅せられたこの空間の時間が動いている事を囁くように教えてくれる。
「………いや、ドラゴン肉切ってる最中になにしてんの?」
「…………駄目?」
ちょっ!スカートをたくし上げるな、首を傾げて上目遣いもやめい!………しかしここまで切れないか、
《ミスリルのナイフはどうでしょう》
ミスリルのナイフ?何故?
《魔力を通せば切れ味が上がります。アダマンタイトは硬度と変形に優れますが、ミスリルの場合、魔力を流せば切断性が上がり、魔法を付与しやすいのが特徴です。ドラゴンの肉を切る場合はミスリルの方が適切でしょう》
あー、なんか前似たような話してた気がする。そんな訳で包丁作製。火魔法を手に入れてからはあまり工房に行かずとも大体のものは作れるようになってきた。…………おー、切れてる切れてる。通販みたい。切られた肉はフライパンの上に乗せられ、塩を振ってシンプルに、
「出来た。」
「食べられるのか、これ」
例え食器をミスリルにしても、歯はどうにもならない。さすがに折れるなんて事は無いと思うが、ガムみたいにずっと噛み続ける事にはなるかもしれない、ともかく食卓に持っていく。
そんな訳で、いざ実食、
…………
…………………
………………………嘘だろ、
口から出してみた肉を見ると、歯形の一つも付いてない。口に入れた味は絶対食用じゃないと思った。なんか有害そうな油の臭いがした。正面の藤白に至っては前歯が折れてる。芦原さんは奥歯で格闘しているが多分無理、俺?口の中に入れた時に諦めた。テンション下がるわー、今日はさっさと寝よ、