「警報、警報、リザードマンの群れが接近中、冒険者につきましてはギルドに集まってください。」
朝、コーンスープのカップに口を着けたとき、けたたましいサイレンの後に召集が掛かった。食事を終えてから、アナスタシアとクロエを連れてギルドに行ってみる。藤白は向日葵、芦原さんはアリスと一組になってもらう。多数の敵と戦うのに個人で太刀打ち出来るものではない。連携がとれればかなり違う。連携に不安はあるが、
「止血帯寄越せ!」
「重傷者から優先だ!そいつをこっちに!」
「誰か!手を貸して!」
所々響く怒号、声からも切羽詰まった感情が現れている。……………リザードマンってそんなに強いの?昨日、的にしたり、斬り捨てたり、存在値的には耐性がおいしいという記憶しかないが?低温耐性が2上がった事と、毒耐性、麻痺耐性、衰弱耐性を取得した。後、龍鱗とか固有のスキルやら使えないスキルはポイントに変換した。炎熱耐性も、
「アナスタシア、ここにいる怪我人を回復して魔力は半分以上残りそうか?」
「大丈夫、ヒール、」
回復は一瞬で終わった。回復魔法といっても実は二つある。キュアというのがあるが、こっちは消費魔力が少ないが、時間掛かけて回復するため、近距離で一人づつしかかけられない。対するヒールは一瞬で離れていても回復できるが、キュアに比べると消費が多く、距離が離れすぎると減衰する。使い手の能力の高さがこの魔法にはよく出る。
「こ、これは、………」
「君が?………」
「………」
回復した人を見ると意識はないが、様子は落ち着いているようだ。さて、ギルドの作戦を聞いてから行くか。
この世界において、回復魔法の使い手は決して多くない、氷水魔法か聖魔法の使い手にしか使えない。しかし、氷水魔法は水魔法を進化させたもの、リライブの使い手はかなり少ない。ただ聖魔法ではキュアしか使えない。光魔法の使い手には回復魔法を使えない。ヒールを使えるのは聖光魔法の使い手だけだ、それでも…………
「………複数の怪我人を一気に全快なんぞ、」
ギルドマスター、ダインは知らない、広域支援を効率的に圧倒的に強力にするスキル、救恤、格段に威力を上げる他に、消費魔力軽減がある。広域化には別の能力が関わっているが、
「私では、せいぜい8人が限界だろうに、」
ダインはリライブを使える。だが、一人づつでも30人もの重傷者を回復することは出来ない。それにリライブは作り出した水で患部を覆うことで火傷を治すのが主な魔法だ、回復力は多くない。しかしここまでの差は普通生まれない。ダインにわかるのは目の前の可憐な少女が高位の聖光魔法の使い手であるという事だけだ。そして、今更ながら自分の職務を思い出した。彼女に声をかけないといけない。
「少し、いいですかな?」
「何?」
可愛らしい仕草に声、自分にこんな孫がいたら溺愛していたことだろう。
「私はここのギルドマスターのダイン、」
「私はアナスタシア、」
短い答えはダインが探りを入れるには情報不足だった。次は何を聞こうか等と考えていると一人の男が近づいてきた、
「マスター、これでいい?」
「ああ、上出来だ、」
アナスタシアに話しかけるのは予想外だったが、ギルドマスターが出てきたのは、話が早くて助かる。多分魔法関係を使う人なのだろう。それっぽい格好してるし、そんなことを考えてる間もアナスタシアの頭を撫でていたりするのだが、
「リザードマンの群れへの対処や見解をお伺いしてもよろしですか?」
本題を一気に切り出すのは失礼たろうが、周りの状態から切迫していることはわかったので、これでいいだろう。一応冒険者として登録書(カード)を見せる。ランクは一番下のFだが、
「殲滅が望ましいが、この状況では退けるのが最善だろう。」
群れの規模はわからないが、元怪我人は状態は安定しているが、意識はないし、戦力にはカウント出来ない。恐らく戦力では?というのを数えても多くて17人ほど、心許ない、
「群れと放送されてましたが、何匹程?」
「少なく見積もっても100はいる。150匹位かもしれん。正確な数はわからん、」
代行者何匹いる?
《156匹です。》
刀だけでは厳しいか、一発ライトニングでも打つか?結構数を減らせるはず、
「一番の問題はその中に上位個体が確認されたことだ、」
そんなのいるの?
《該当個体は12体います。キング一体、ガード二体、メイジ三体、ジェネラル6体です。》
「怪我をした冒険者もリザードマンの調査で送り出したチームだったんだが、何とか受け取ったのがさっきの情報だ。」
…………色々とごめんなさい。代行者や千里眼がある俺なら調査だけなら、定期的に観るだけで終わる。戦争において情報は万金に値する。それこそびくびくしながら遭遇戦をするのと、相手の不意を突いて奇襲するのでは被害や士気に大きな差が出る。さて、俺はどうするかな?
話を聞いたところ街の砲台等を使う予定らしい。この人数では当然だろう。なので、その前に、数を減らそうと思う。方法は簡単、千里眼で位置を確認、ライトニングを落とす。それだけ、………意外と減ってないな、後二発程いっとくか。これくらいになれば危なげなく戦え………逃げるなおい、隔離してこっちの付近に出す。進行方向をこっちにしておくのも忘れない。
先頭を一太刀で斬り伏せる。すぐさま次が来る間合いが近い。抜刀状態では斬りにくい位置だ。手の中で回して逆手に持ち替える、すれ違い様に斬り、血払いから納刀、飛びかかってくるリザードマンの剣の軌道を抜き放った刀で逸らしつつ、刀はリザードマンの急所を目掛けて進ませる。攻撃を受け止め、往なす、時にそのまま刀を滑り込ませ、胸や喉を突く、時より火花が散る、やがてその速度は上がっていき、相手に攻撃させる隙を与えず、敵陣の隙間を縫いながら敵を切り裂く煌めきとなる。しかし、リザードマンってなんでこんなに蜥蜴ぽっいのだろう?ちなみに周りは?苦戦してないか?
「えいっ、と」
気の抜けた掛け声に反して十メートルは飛ぶリザードマン、一対一なら問題無さそうだが、
「うわ!いっぱい来た!」
そこら辺はわかっているようで安心した。藤白の後方で控えていた向日葵が一気に前に出て回し蹴りで三体中二体の首を飛ばす。その後は直ぐに後ろに戻る。それを繰り返している。
「なんや!もっと来んかい!」
そう言う芦原さんの足元にはジェネラル(頭一つ大きい奴)が二体転がっている。周りのリザードマンは一定の距離を保ったまま近づかない。弓は不味いな、そう思ったとき、弓が朽ち果てた、俺は何もしてない。やったのは、
「もっと注意してくださいます?もう魔力が残り少ないのですけど、」
アリスの魔眼、効果は腐食、金属なら錆びる、動植物は朽ち、壊したり、脆くすることができる。それに効果範囲外に出ても効果が残る。呪いや石化、凍結、発火の火傷(火は残らない)も残る。魔力もまだあるし、今すぐ破綻しそうな感じではないし、問題ないだろう。問題なのは何故、直接戦っているかだ、簡単な話、雷撃でパニックで散々に走っているので砲弾を飛ばしても、数体程度しか倒せず、
門の守りを担当するこっちにいっぱい来た。頭数はある程度減らしたが、それでも結構いる。なので、責任もって敵陣に斬り込んでいる訳だ、クロエには遠距離からのカバーとメイジやジェネラル等の上位個体を狙ってもらい、アナスタシアには、負傷した冒険者の回復のため後方にいる。そんなことを考えている間もリザードマンを斬っている訳だが、………何体目だ?
《32体目です。》
残りは?
《67体です。》
まだまだいるじゃん、ライトニングで削った分減ってはいるが、結構残っている。血払いをして、納刀、次を探す。………つもりだったが、一際デカイのが来た。筋骨隆々で、鱗もなんか違う。斬りにくそうなのが来たな、鉄の塊のような太刀を引き摺っている。仕方ないし相手になろう。周囲のリザードマンも距離を取り始めた。まあ、薙ぎはらえば当たるからだろうが、鈍重な動きで剣を振りかぶるとそれをストレートに降り下ろしてきた。避ければ済むのだがそれでは面白くない。前進しながら降り下ろされる剣に刀を添えて軌道を逸らす。これだけでは足りないので自分の進行方向も逸らし、火花を散らし刀を滑らせながら前へ、懐に飛び込み脇をすり抜ける前に浅く腹部を切り裂く。
「力ばっかりだな、」
ダメージを気にした様子はない。それこそ力だけの証拠だ。反応して防ごうと思えば防げたものを受けるからだ、加減してなかったら三回は斬ってる、臓府もバラバラになる。さっき一撃を入れたら感じ、骨はわからんが鱗くらいなら気にせず一刀両断できるからな、にもかかわらず、力任せの薙ぎ払い、上半身と下半身の間を狙ったような攻撃だ。さっきと同じ要領で受け止め、地を這うように剣の下に潜り、剣を滑らせ前進する。ただし今回は出来るだけ剣の下に着いていく。出た頃には真横を陣取っていた。そしてリザードマンの反応は完全に見失っている。剣がブラインドの役割を果たしていたとしても予想くらいつくだろ…………全力なのはいいが首まで振れて、敵から目を離すの論外、終わりだ、
チッ、カチン、
納刀と同時に、剣を抜き放つ、一太刀で胴体を輪切りにすると、いつものように鞘に戻す。斬りにくいが、斬れない訳ではないのだ。やっぱり骨は固かった。刀を抜いて刃を見るが刃こぼれは無さそうだ、
「異世界の刀すげぇな、」
藤白は目撃した。流れるような煌めきを、その煌めきは右へ左へ、そのたびに敵の命を散らしていく。訓練の時に見せる動きより早い、その事に思い至る。
「本当に同じ世界の人なんですかねぇー?」
芦原さんと模擬戦をしたときは、凄く強いと思った、が、今の北川さんの動きは次元が違いすぎ、乾いた笑いが漏れてくる。どれだけ頑張ってもあんな風になれる気がしねぇわ、最後の一撃に至っては見えないし、刀を鞘に納めた瞬間少しだけ鞘から出して、元に戻したようにしか見えなかったぐらい。後から崩れたリザードマンを見て斬ったことに気付いたぐらいなのだから、
「藤白!お前これ使うか?」
そういいながら、巨大なリザードマンの剣を担いで、持ってきた。
デカイだけの粗悪品だが、素振りをするのには役に立つ。手首なんかを痛めないように注意してもらう必要があるが、リーチの長い武器を使う経験はしておいた方がいいだろうし、自分に合ったものを使わないと武器に振り回される事になる。遠心力や重量に、
「う、後ろ!」
ん?ああ、リザードマンか、担いでいた剣の腹を向けてそのまま後方に剣ごと倒れこみ、剣の重みでリザードマンを潰す。短い悲鳴のようなものが聞こえた。下手に振ると腰も痛めそう。ちょっと重すぎるかなー?…………まっ、いっか、取りあえず隔離しておく。起き上がって周りを見るとリザードマンの大半が逃げ始めていた。何故?
《リザードマンキングを倒した影響でしょう。》
ふーん、後は追撃か、呆気ないな、何時からか響いていた音に意識を向ける。銃声と言うより爆発音だな、一定の間隔で響くその音は、クロエのライフルからしている。ライフルと言っているが、形はマシンガン、大きさは銃と言うより小型の砲台?銃座とかではない、形マシンガンのまま、………うーん、昔のカノン砲の砲身くらいの大きさにしたもの、かな?もう少し小さい感じのイメージだったのだが、…………まあ、いっか、後はギルドに戻って問題を片付けるか、
後に、この防衛戦は死傷者が出なかった事で有名になるが、それはまだ先の話だ、