この世界、あと5年で文明が滅びます。   作:白紫 黒緑

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ごちゃごちゃしてます。暗い、黒いめの話です。


真実を写す目と選択

宿に戻った後、いつ出発するかを何処かの国の宝物蔵の書物を読みながら考えていた。ミレとクラハの間には小さな中継地点がある。どういうルートでいくかとか普通は考えるのだが、結界で移動するのであまり関係ない。ただ、もしもの時の為にプランを立てるのは怠らない。………しかし、

「………よくわかんねぇな、魔法、」

土魔法を習得すべく本に目を通しているがなかなかどう解釈していいものかさっぱりである。例えばアース、これでも小さな礫を作ることが出来る。が、あまり飛ばせない。ストライカーであれば飛ばす距離も伸びるし、さらに大きな物を作れる。その上、重力にも干渉できる。その線引きがわからない。ライトニングとチャージもそうだが、ライトニングは瞬間的にしか効果がない。チャージのように留める事ができないのだ、チャージは逆、動かない、球状の物も作れるが投げることは出来なかった。何らかのルールがあるようだがそれについては書かれていない。結局自分で試していくしかないようだ。

「はぁ…………ん!…………ああー、」

ため息をついて、その後身体を解すように背伸びをする。ギルド行ってくるか。

 

「昨日、何してた?」

「図書館行ってた。(棒)」

「俺、昨日何してたと思う。」

「………知らね、」

「待ってたんだよ!ここで!」

「あー、そんなこともありましたねー(棒)」

「損したような得したような………微妙な気分だ、」

「じゃあ今から始めますか?」

「え?い、いや、止めとこう。」

おい、歯切れが悪いぞ、前の指導の時に言った通りに待っていたのだろうけど、こっちは始めから行く気はなかった。嫌がらせだからな、さて庭に行くか、と行きたいが、見える範囲に人がいない。見える範囲には、千里眼を使えば物を透視することも出来る。結果前の指導の二人が、昨日の図書館の入り口の二人と同じ隠れ方をしていたと既視感(デジャブだわー)を覚える。今回もアナスタシアを連れているので怪我は治せるぞ、聖光魔法は光魔法の上位の魔法で、回復、解呪、異常回復、閃光、浄化、これらが出来る。レベルも高いので、即死でもしない限り問題ない。勿論そんなことをするつもりはないが、………さて、実験も兼ねてやるか、正面からいこうじゃないか。刀に手をかける。そのままゆっくり歩く。門を抜けた瞬間に両サイドからの攻撃が迫るが、刀をしっかり握った瞬間に動きが止まる。

「多少は身に染みてるみたいだな、」

間合いという奴だ、読めるようになったのなら上出来だ、強張るのは宜しくないが、

 

《攻撃、上から来ます》

 

は?それでわかるか!何処からだ、

 

ドス、

 

いつの間にか手が動いていて、屋根から奇襲をかけたギルマスの腹に鞘の小尻が吸い込まれていた。………何してんだ、この人、踞ったギルマスを四人で見下ろす。冷たい目である。

 

そんなこんなで指導を終えて、アナスタシアを肩車しながら明日の料理を決めるべく、食品を見て回っていた。夜に何故微妙に目立つ事をしているかと言うと、先程代行者から尾行について警告されたからだ。その為アナスタシアに買い物をさせながら、相手に気取られないように視線を走らせる。人通りが多いため千里眼で遮蔽物を除害しても人が遮蔽物となる。かといって人を除害すると、尾行している者も丸ごと消えてしまう。…………が、見回して見たものの自力での発見は無理だ、三人いる尾行の二人しか発見できていない。代行者、残り一人は?

 

《左側の建物の緑の屋根の上です。》

 

あー、人混みにはいなかったのか、うん、いるわー、ちょっと悔しい、

「さて、ここならいいかな?」

右側の路地に飛び込む。ここは屋根の上のやつから死角になる。足元に結界を張り、それに乗る。そして結界を上に上げる。遅れて二人路地に飛び込んできた所で、背後に着地、一撃加えて隔離、屋根から見てた奴も結界で隔離する。あとは尋問が出来る場所まで移動する。

 

「………と、そんな訳で、尋問とかやったことあります?芦原さん、」

そんなこんなで宿に戻ってきたのだが、芦原さんには伝わっただろうか?

「…………無茶苦茶やな、吐かせるだけなら餓鬼にでもできる、大丈夫やろう。」

 

軽いわー、そもそもつけられてる時点で背景を見ようよ、誰の差し金だ、とか、………あれ、俺の方が適任?まあいい明日にしよう。疲れた、寝る。

 

…………朝一にギルドに持ち込むことにした(卸しの業者みたい)。専門とする者もいるだろうし、情報も得られる。後もう一つは、一石を投じる意味で、迂闊に飛び込んだ訳じゃないし、面倒くさかった訳でもない。いや、ホント、

「………全く、次から次へと、」

「いやー、悪いね、」

適当に返事をしながら、周りを見回す。………三人くらいいなくなったな、露骨こっち見てたし間違えないだろう。代行者、行き先を辿ってくれ、

 

《了解しました》

 

……でもって、こいつらは今の奴ら関係か、それとも新手か、聞けばわかるだろう。さて、一人目、抑揚を抑え、低い声で、冷淡にゆっくりと問いかける。

「お前の飼い主ないし、俺の情報を流したのは、誰だ?」

ただ黙って見つめる。

「す、済まない、言えないんだ、」

「ほう、理由を聞こうか、」

抑揚を戻して、表情を柔らかいものに変える。ただし、柔らかいものに変えただけ、笑わない。周りを見渡すと彼はゆっくりとだが重い口を開いた。

「人質に………妻を……」

「成る程、わかった、どうにかしよう。」

「は?」

「………その代わり、お前の知ってる情報を寄越せ、まず、妻の名前、身長、……でいいか、」

「………どういう」

「聞かれたことに答えろ、」

「………妻の名前はエミリ、身長は俺より少し小さいくらいだ、」

よし、代行者頼めるか、

 

《該当する人物は既に確認しております》

 

仕事が早いね、で見してみ、結界で囲って隔離、HAHAHA、ざまぁ、

「さて、他にも聞くか、」

どうもこの界隈を根城にしている、犯罪者集団か、この様子だと残りの二人も話をした方がいいな、個別で、その間もエミリさんを隔離しておく必要性はないので、近くに結界を張り、そこに出す。

「エ、エミリ………」

「話は後で聞く、そこから出て少し待ってろ。その間は二人で好きなように過ごせばいい。」

多少の衰弱が見られるが、歩けるし、すぐに体調は回復するだろう。二人の退室を見届けてから、二人目も出す。

「お前は誰を人質に取られている。名前と大体の身長を答えろ、」

「え、………あの!シェリーは!シェリーは無事なんですか!」

「それを調べる為に聞いている。あとは大体の身長、」

「このくらいです。」

手で腹部(大体横隔膜があるところ)に持ってきていた。男の年齢から人質は娘だろう。代行者見つかったか?

 

《該当する人物は見つかりませんでした。》

 

…………は?おかしい、………見つからない、だと、……もっとよく探せ、

 

《該当する人物は見つかりませんでした。》

 

………まさかな、自分の頭の片隅で乾いた笑い声がした気がする。ただ、まだ調べてない事がある。不確定なものを報告する訳にはいかない。質問を替えよう代行者よ、………殺した、または死に至らしめたのは、誰だ、

 

《該当する人物は四件です。》

 

「………はぁ、」

ため息が漏れる。頭を抱えたい気持ちを抑えて、次の質問、シェリーの死体は何処だ。

 

《現在、森の中に放置されています。視覚情報を、》

 

すぐに受け取って見れば狼が一ヶ所に集まっているのが見えた。自分の身体から血の気が引くのがわかった。まだ、確かでは、ない。そう自分を騙しその中心を見る。そこには無残な姿になった少女の、いや、少女だったものか、だが、それでも!

「………」

歯を食い縛り、結界を狼にぶつけて弾き、追撃で頭や腹を潰す。頭蓋骨おも砕く一撃で、五匹いた狼を殲滅する。狼だって生きるためだ、八つ当たりだと言うことはわかっている。一瞬にして沸き上がった怒りは霧散し、虚しさだけが胸に巣くう、少女の状態は宜しくない。右腕が噛み千切られ、左目、左足もない。ただ、左側は明らかに獣のものではない、左足の切り口が刃物のような物で切られた後がある。顔には殴打、両手の甲と平には、刃物が貫通した痕がある。胸くそ悪い、自由を奪い、四人係で…………

「あ、あの、」

「悪い、いい返事は返せそうにない。」

崩れる男を余所に、別の命令を下す。代行者、該当する四件の奴らを隔離しろ、その後真理を使い、少女だったものを自分で隔離する。

「………シェリーさんは、昨日の深夜に死んでいます。」

要するに、俺とか人質とか、関係なく殺されたのだ。追撃をかけるようで悪いが、現実を受け止めてもらわないと次に進めない。いろんな意味で、

「彼女は、入ってきた四人組に…………」

「ちょ!」

今まで静かに見守ってきたクラインが口を挟むが、無言で睨んで黙らせる。

「……………必死で逃げようとしました。ですが、左足を切られ、手のひらを貫かれ、体の自由を奪われ、犯され、嬲られ、最後は口封じのために

殺され、森に捨てられました。」

「何故!何故そんなことを言うんだ!私の娘は!何処に………」

胸ぐらに飛び付いてきた男は泣きながら、唾を飛ばしながら叫んだが、最後は俺にもたれ掛かるように咽び泣いた。全てを話した。ここからは彼の選択次第だ、

「私には特殊なスキルが有ります。その犯人の特定、確保は済ませています。………あなたに問います。復讐を望みますか?」

一瞬動きが止まった。嗚咽も止まる。その後、別の震えが、いや、怒りが彼を支配したのだろう。

「この手で、この手で!シェリーの無念を、シェリー苦しみを!私が!」

「…わかりました。」

地面に叩き付けられる四つ物体、

「こいつらは………」

「知ってるんですか?」

「ああ、ギルドで追ってる沼蛇って言う。犯罪組織だ、なかなか尻尾を掴めなくてな………、こいつらなのか?」

「ああ、間違いない。元はギルドの冒険者なんだろう?一人は違うが、」

「…………そこまでわかってたか、」

未来視があれば未来の可能性を、真理を使えば、過去の出来事や、事実を白日の元に晒す、対象がいてこそのスキルだが、それは代行者と千里眼で見つけてもらう。情報収集に一際特化しているのだ。

「手前のが足を切った奴だ、その奥が短剣の柄で顔を殴打してた奴、その横のが短剣で手を刺した奴、で、最後がへらへら笑って目を抉って、死んだら森に捨てにいった奴だ。………性的暴行に関しては全員だ。」

無造作に短剣などを放る。隔離した時に奪っておいたものだ。その他、多種多様な毒物や暗器も、

「どうするかは、あなたが決めてください。………クラインさん、」

「はい、はい、行けばいいんでしょ、行けば、」

ギルマスを連れて部屋を出る。抵抗は出来ないように手に錠、出るときに黒い袋を被せてある。黄色い服は用意していない。

「おっと、そうだ、これを、スティンクバグの臭いの元を詰めた瓶です。開けたら臭うので、取り扱いにはには注意を、」

適当に色別の小瓶を置いて立ち去る。さて、もう一人尋問するか。

 

お前に聞きたい。お前ならどうした?

 

《死体を隔離して見せました》

 

チッ、お前なんかに聞くんじゃなかった。残り一人はギルマスに預けて今は代行者を尋問している。ちなみに残った一人は二人の監視役なので、人質もなにもない、直で牢にぶちこんだ。

 

《死体を確認させれば、すぐに済むのでは?》

 

そういう問題じゃねぇ、代行者は俺の心を写し取った物かもな、自分の何処かで常に客観的で、自分さえ、他人のように見ている自分がいる。ただ見ているだけの自分が、

 

………うぜぇ、我ながら呆れたものだ、

 

俺は俺で気持ちを………この気持ちを沈めるためにお前には付き合ってもらう。例え、虚しい気持ちになろうとも、この怒りを、思いを、嘘だの気のせいにするつもりはない。仕分けろ、代行者、

 

《三十秒後に完了します。》

 

そう、千里眼で目標に狙いを定める。

 

《隔離、完了しました。》

 

おし、犯罪組織の根城になっている洞窟目掛けて、

 

『ライトニング、ライトニング、ライトニング、』

複数の落雷を落とす。念じるのも面倒くさくなってきた。

『ライトニング×10』

落雷が雨のように降り注ぐ。使っといてなんだが、こんなんでいいのか魔法、

『ライトニング×20、ライトニング×30』

ふうー、これだけやれば生き残りもいないだろう。そしてあれだけやっても減らないMP、魔力ゲージ微動だにせず、気持ちは少し落ち着いたし。さっさと帰るとするか、聞こえていた呻き声は無事を確かめ合う夫婦の声に掻き消されていく。


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