さてと、精神的にはあまり休まらなかったが、藤白も芦原さんも平気そうなので出発しよう。
「………また、アレかいな、」
「近いんでしたら歩きましょうよ。」
「ここから幾つか山越えて直線距離で70キロはあるぞ。」
「なあ、前こっち来るとき使ったゆうてた列車はどうやって来たんや?」
「でかい山二つにトンネル通して残りは迂回して、線路を通してる。」
作ったのは魔建(株)である。この会社も異世界人が創設者らしく、土魔法の使い手やドワーフが多いらしい。
「かなりの日数が必要だぞ、それに野宿の準備に警戒、足りない………訳ではないが、とにかく時間が掛かるしこっちの方が安全なんだ。」
警戒等は、最悪睡眠を必要としない、向日葵達に任せてもいいが、生きた人形の称号がある分休ませる必要があるか、分からないことが多い。プラスばかりではないのだ、毒・酸無効は人形固有のものだが他にもあるはずの痛覚無効が無いのだ、これ以外にも何処かに弊害がある可能性もある。過信は出来ないし、あまりやらせたくもない。
「それはそうやろうけど………」
「とにかく行きましょう。」
移動を開始する。だが一つ忘れていた、ここは異世界であるという事を、
眼前に山々を見ながら代行者に方角を聞きながら直進する。その方角に結界を動かすだけなのだが、手に入れた青生生魂を糸のように細く伸ばしながら周りをぼんやりと眺めていた。それは起きた、結界の外が一瞬で赤に包まれた。何が起きたかさっぱりわからなかった。周りを見渡すと周りの面子は驚いてはいるが無事だ。千里眼で赤が迫ってきた方向を確認する。
《イグニスドラゴンです。炎のブレスを吐きます。》
いや、知っとるわ!思っきり直撃したわ!しかし、あんなもんよく防げたな、
《属性が火だったために炎熱無効で防げました。なお、属性が違った場合全滅でした。》
…………縁起でもないこと言うなよ。ただまあ、全員の命を預かっておきながら軽率な行動だった事は認めなければならない。
「悪い、ドラゴンに見つかった。」
「軽ぅ!」
「ほんまか!何処や!何処や!」
嬉しそうだな芦原さんは、と言うか藤白、お前そういうキャラだったか?
「まあ、狩ってくるわ、」
「ちょっと待ってくださいよ!!狩るって、ドラゴンですか?!」
「お、それゃあええな、後でステーキにしてもらってもエエか?」
「ああ、ドラゴンのステーキかぁ………、ロマンがあるな、旨いかどうかわからんが、俺も食いたいし、頼むぞアナスタシア、」
俺の推測では筋肉質で固いと思う。が、好奇心に勝てそうにないし、今ここで言う必要はない、試すだけなら、毒でもない限りは挑むだろうし。
《イグニスドラゴンの肉は固く食用に向きません。ハンバーグ等に加工すれば食べやすいですが、包丁程度では切れません。》
逆に食用に適するのは?
《卵や、幼成なら珍味や、高級品として有名です。》
卵か、売値は?
《オークション等での、最………》
ゴオォォォォ!!
おう、二射目が来た。喰うにせよ、売るにせよ、捕まえる前では摂らぬ狸の皮算用、今回損傷を抑えるためにと、どの程度通じるのかを試すため、ライトニングは使わない。
「テンペスト」
竜巻が飛んでいるイグニスドラゴンの動きを妨げる。アメリカとかで見るサイクロンレベルの物を出したが妨げる程度でしかない。ちなみにいまのテンペストだが、風魔法ウインドの竜巻のイメージに名前をつけたものだ。このスペルをルーティンとし、イメージを固めて、発動を早める事に成功している。あっ、怒って突っ込んできた。仕方ないので地上に結界を張り、こっちの結界で、俺以外の全員を隔離で移動させる。さて、まずは、
シュッ
「ギャオオオオ!!」
結界から飛び出し、もう一つ張っておいた結界を蹴り、身体を捻り、顎を避し、片目を刀でなぞる。効果はあったようだ。次に背中に刀を突き立て勢いを殺そうとするがうまく刺さらない。そのまま落とされそうになったので尻尾を素手で掴む事になった。その間も目をやられた痛みで暴れているドラコンから振り落とされない様にしつつ、少し落ち着いた瞬間に、素早く走り、翼膜に刃をあて、頭の方目掛けて切り裂いて行く。
「らぁぁぁ!」
半分程切った所でバランスを崩し、落下し初めた。掴まっていたドラゴンから離れ結界を張り、それに乗る。そしてドラコンに近づいていく、
「これでくたばればいいんだが………」
落ちた箇所から的外れな方角にブレスが飛ぶ。飛べなくなっただけと捉えるべきだろう。自重で死ぬかもしれないと思ったが、まだ元気そう、真理で見るとまだ体力が六割ある。さて、どうしたものか、目のように弱点には刃物が通るが、その他は難しい、翼膜を切り裂くのもかなりの力が必要だった。鱗の多い背中は論外、それに素材として使う為には傷が多いのは困る。使える手は幾つかあるだろうが、思い付くのは二つ、目から脳めがけて刀を突き立てる。が、ドラゴンという未知の生命体に果たして有効なのかと不安が残る。もう一つは冒涜で仕留める。こっちは時間が掛かるが、ほぼ確実だろうが、手負いの獣は厄介だ、それがドラゴンともなれば災害の様なものだ。それに近づき触れていなければならない。存在値の大きさはスキルの数や強さによって変わる。その大きさに比例して吸収に掛かる時間も増える。
イグニスドラゴン
種族 赤竜
スキル ブレス(炎)6 飛行8 頑丈5 自己再生5 体力自動回復3 魔力自動回復2
耐性 炎熱耐性7 風圧耐性3 衝撃耐性5 苦痛耐性1
オークが1のスキルを持っていた場合でも10秒、半裸の斧2で12秒、スキルだけに集中すればもう少し短くなるだろうが、これだけのスキルに存在値もプラスされる。体に張り付こうがのた打ち回って巨体の下敷きされればひとたまりもないが、試してみることにした。貴重なスキルもあるので確実に狙っていこうと、冒涜でも、持っていないスキルをゼロから作ることは出来ない。せめて1でも取りたい。代行者、なんかいい手ないか?
《でしたら向日葵に強欲で押さえつけさせて、結界で、地面と固定しましょう。》
鬼か、だがまあそれが確実なのか、あんな霞にドラゴンを押さえ付ける程の力があるのか?
《強欲系のスキル保有者は腕力が増します。それに比例し、行使できる力も増します。》
あー、………オークにデカイ風穴空けてたもんね、道理で強力な訳だ、爆発音だもん、まあ、試すだけなら問題ない。結界を張ってそこに向日葵を呼び出す。結界から隔離、結界に出すはスムーズに出来るようになってきた。
「強欲で押さえてくれ、頼めるか?」
「はい!わかりました。」
青黒い狼煙を上げると、その煙の根本から複数の手のようなものがドラゴンに襲いかかる。だけなら良かったが、地面に蜘蛛の巣のような亀裂を走らせるクレーターを量産、強過ぎ、
「動きを止めるだけでいい、やり過ぎだ、」
「すいません!」
あっ、手離すな!と思ったが、ピクリとも動かなくなった。死んではいないから、…………気絶?が、体力は三割程度しか残ってない。ほっといたら圧死してただろうな、どんな力だよ。結果として生きてるからいいが、加減については後で、言い聞かせておいた方がいいかもしれないな。一応押さえさせ、冒涜で吸収、が一分ぐらいで吸収できた。早いな、
《対象の意識の有無や、抵抗力や抵抗の意思の強さによって変化しますが、意識のない相手からは簡単に吸収が可能です。》
成る程、…………あれ、なん、か、視界……が…………、
ドサッ
最後に見たのは、地面だったと思う。