短編【完】   作:トラロック

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オー●ー●ー●

 

●プロローグ●

 

 西暦2138年。

 数多に存在するDMMORPG。

 

 〈Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game〉の略称である。

 

 サイバー技術とナノテクノロジーの粋を結集した脳内コンピュータ網。

 あとよく分からないので省略。

 

『YGGDRASIL』

 

 それは十二年前に日本のメーカーが満を持して発売したゲームである。

 ユグドラシルはこれまでのDMMORPGのゲームと比較しても()()()()()()()()()()()()()()()()()ゲームだった。

 膨大な職業。広大なマップ。

 別売りのクリエイトツールを使用することで武器防具、外装などを変化させることが出来た。

 その他諸々。

 

 

 だが、それは一昔前までの話し。

 今まさにサービス終了時を人知れずゲーム内で待つ者達が居た。

 ある意味、バカじゃね、お前らと。

 はい、プロローグ終わり。

 

 act 1 

 

 難攻不落と言われた『ナザリック地下大墳墓』の第九階層にゲーム終了を待つ一人の愚かな支配者が居ました。

 

「愚かってなんだよ」

 

 うるせークソ骸骨。黙って座ってろ。

 えーとなんだっけ。あ、そうそう。

 このクソ骸骨は高難度のダンジョンにたまに出てくるクソなんとかのオーバーなんちゃらっていうモンスターの外装をまとっています。

 一般プレイヤーは人間と()()と異形種の酸タイプ、ああ、三タイプを選び、ゲームを楽しみます。というか、もう終わるんだから説明は別にいいか。

 あと省略ね。

 

「………」

 

 円卓の広間には骸骨となんだっけ、お前。

 

「ヘロヘロです。古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)っていう種族のプレイヤーです」

 

 まあいいや。

 で、次。

 

「は~い。鳥人(バードマン)のペロロンチーノっていいます。エロいの大好きです」

「私はぶくぶく茶釜。紅玉の粘体(ルビー・スライム)、だよ」

 

 可愛く喋る●●●にしか見えない卑猥(ひわい)な生物。

 

「あー? ●●●ってなんだよ、コラ!」

「男性の●●じゃない?」

 

 次の瞬間には鳥人(バードマン)だったものがミンチに。無情に床に散らばるドロップ品。

 焼いたら美味しそうですね。

 卑猥な単語は意外と言えるものです。言葉の繋がりまで規制するのはシステム的に難しいからでしょう。特に隠語とか。

 

「あ~あ、最後の時を迎える前に退場しちゃった……。復活するのに結構時間かかるから……。リスタートは完全に出遅れますね」

「いいのいいの」

 

 味方に攻撃する場合は『フレンド』に登録している(ペロロンチーノ)の登録を解除すればいい。

 PKができるゲームなので時には味方と思っていた者が敵になる場合がある。

 ギルドだからといっても裏切り者が現れないとも限らない。

 今回は制裁が目的なので攻撃した後は『フレンド』を再登録しなおせばいい。

 

 

 空席の目立つ円卓の広間。

 ギルドマスター(GM)の人間関係を表しているかのようです。

 しつこく呼びかけたせいで多くの仲間はウザイと一蹴。

 

「いえいえ、皆さんは仕事で忙しいだけです」

 

 口では何とでも言えますよ。

 

「えー、ゴホン。最後の時に集まってくれて感謝します」

「第二、第三のメンバーが後ろに控えているから」

「そんなに居ませんよ」

 

 円卓の広間には人数合わせの人形が座っていたけれど、まさか全員が骸骨の一人芝居とは思うまい。

 

「そんな寂しいギルドを作った覚えはない!」

「あれでしょ。実はモモンガさんは(アカウント)を乗っ取られて別人が成りすましているっていうオチ」

「違いますよ。いや、ありえそうで怖いから」

「たっちさんはウルベルトさんに殺されて来られないようですね」

「勝手に殺さない。たっちさんも忙しいんです」

 

 既に多くのメンバーは現実の方で始末されているとも知らず。

 

「怖い怖い。それマジでやめて」

 

 ゲーム終了まで。おや、とっくに過ぎているようですね。

 

「まだだから! あと二十分は残ってるって」

「元気なモモンガさんを見られ」

 

 と、急にフリーズするヘロヘロさん。

 きっと帰ったんでしょう。

 

「……たぶん接続が切れたんでしょう」

「身も心もパソコンも酷使したって聞いたから、壊れたのかも」

「お待たせー」

 

 新たに現れたのは化け物でした。

 

「このギルドに居る者は全て異形種だから全員化け物だと思います。その紹介だと全部同じになるのでは?」

 

 少しずつ埋まっていく円卓。

 みんな死ねばいいのに。

 

「おいおい」

「原作の方ではヘロヘロさんがログアウトしたら」

「そこ! メタな発言は禁止っ!」

「えー。鬼ー、悪魔ー」

 

 賑やかな円卓も全ては映像を駆使した一人芝居だとは。

 

「一人芝居じゃないです」

「あと十分になりましたよ、モモンガさん」

「あらら。皆さん、最後の時に来てくれてありがとうございます」

「来ないと殺すって言われれば……」

「そんな物騒なメッセージは送ってませんよ」

 

 ギルド『アインズ・なんとかなんとか』の。

 

「アインズ・ウール・ゴウン。省略されると間抜けに聞こえる」

 

 そのギルドのメンバー四十一人中、最後に集まったのは二人だけ。

 

「もっと居ますって」

 

 そのなんちゃらのメンバーが最後の時を迎えた。

 最後くらい卑猥な言葉でも大声で(わめ)こうかと言い出す始末。

 賑やかなギルドはいきなりアカウント停止を食らういう大失態を犯す事になるのは、また別の話し。

 

「別の話しというよりは『ユグドラシル』というゲームが終わるから意味ないですよ」

「最後に皆さん、玉座の間に行きましょうか」

「嫌です」

「……殺すぞ?」

 

 ぶくぶく茶釜が冗談を言うメンバーに凄みを利かせる。

 激怒アイコンが凄い点滅していた。

 

「……すみません」

 

 ゾロゾロと死刑囚のようにギルドメンバーはそれぞれ第十階層の玉座の間に移動した。そこには(おびただ)しいNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)の死体が。

 

「ないない」

「アウラ、マーレ」

 

 ぶくぶく茶釜が呼びかけると闇妖精(ダークエルフ)の子供達が現れる。

 

「無表情で近寄ってくるけれど、障害物に当たると引っかかったままになったりしますよね」

「可愛い奴らよ」

 

 ぶにゅう、という効果音と共にぶくぶく茶釜の体内を突き進む闇妖精(ダークエルフ)達。

 骸骨ことモモンガは玉座に座りゲームの回想をしようと思ったが後数分しかなかった。

 

「これでこのゲームも終わりか……」

「やべ、弟を復活させるの忘れてた」

「それくらいなら……」

 

 モモンガはコンソールを呼び出して死んだメンバーの蘇生を試みる。その間に残り時間は三分を切った。

 それから三十秒後に復活し始めるペロロンチーノ。

 

「お待たせ~」

 

 新たな犠牲者が現れる。

 

「最後に何を言いますか?」

「アレでしょう」

「定番ですな」

「……皆さん、変態ですね」

 

 さすがに最後だからとナザリック地下大墳墓を派手に破壊しようぜ、という勇気ある発言は一人しか居なかった。

 

「……その一人は誰なんでしょうか」

「あるいは世界級(ワールド)アイテムを全部使ってみるとか」

「それは他のギルドがやりそうですね。使わないままよりは使ってしまうのもアリですね」

 

 モモンガが装備している●●みてーな世界級(ワールド)アイテムは『スフィア・オブ・モモンガ』といい、元もとの名前は『イズンの林檎』という。その効力は絶大である。

 装備者とセットになることでステータス上昇などの恩恵を与えるアイテムではあるのだが、それだけではない。

 無理に奪おうとする、またはアイテムに攻撃を当てたりする事でもう一つの能力が発揮される。

 レベルダウンと引き換えに引き付けた一定範囲内の敵性プレイヤー全員のレベルを強制的に半分ほどダウンさせる。一日経つと戻るけれど。

 なので同士討ち(フレンドリーファイア)を解除すると巻き添えになる可能性があるので注意が必要だ。

 

「……意外と真面目に説明するんですね、このモノローグ」

 

 真面目な事を書いちゃいけない規則は無いですよね。

 

「……はい」

「今回はギャグ小説じゃねーの?」

 

 ギャグとシリアスですよ。

 ずっとモノローグが暴走してたら隠しメンバーだと思われちゃうじゃん。

 そういうオチは無いですよ。

 

「分かりました。……聞けば答えてくれそうな人なのね」

 

 気が向いたらな。

 

「……姉貴、そこには誰も居ないよな?」

 

 ぶくぶく茶釜の目の前には誰も居ない。というか彼女がどこを向いているのか分かるものは居ないだろう。

 つまり、そういうことですよ。

 

「こわいこわい! 他のメンバーはちゃんと居ますよ!」

 

 とバカな事を言っている間にも時間はどんどん過ぎていく。

 

「あ~、出来る事なら全アイテムと全モンスターの情報が欲しかった。何で途中で終わるのかな……」

 

 メンバーで女性陣はぶくぶく茶釜とやまいこ、餡ころもっちもちの三人のみ。

 残りの男連中も十二年という長きに渡りプレイしてきたが、中途半端な気がして物足りなかった。

 だが、メンバーは全員社会人なので現実の仕事も忙しく、やりこみするほどには至らなかった。

 それでもギルドランクは九位。

 多くのプレイヤーが(ひし)めくゲームの中では自慢できる方だろう。

 

「さあ、あと十秒です」

 

 終わりを迎えるに当たって魔法で花火を演出する、という案があったが外に出るのはもったいないというので室内で待機する事にした。

 そして、最後に言う言葉は決まっている。

 残り時間が無くなる瞬間に言った言葉は。

 

「●●●●ペロペロ~!」

 

 最悪の下ネタだった。

 誰が考えたかと言えば『るし★ふぁー』という人間のクズを体現したような男だ。

 イカ臭いタブラは至って真面目。

 

「………」

「………」

 

 終了時間になったはずなのに空間内は変化せず。

 

「一日間違えたっていうオチ?」

「それは無い」

 

 メンバーが動揺しているとログアウト出来なくなっていると騒ぎ出す。

 

「あっ、本当だ~。ウインドウが出ない」

「閉じ込められた?」

「それは無いだろう」

「扉は開くようだ」

 

 それぞれ確認作業を(おこな)う。

 

 act 2 

 

 ゲーム内に閉じ込められた。それがメンバーの下した結論だ。

 

「……こういう展開知ってる」

「……某小説のようなデスゲームって奴か……」

「魔法とアイテムは使えるようですね。転移も特に問題なし」

 

 小一時間瞑想状態だったメンバーは一つの結論に至る。

 

「まあ、しょうがないんじゃね」

 

 現実逃避するのが一番。

 戻れないのは仕方が無い。

 

「第九階層の食堂は使えるようだし。アイテムに関しては特に問題ないかな」

「NPCが声をかけてきてるけど?」

 

 ぶくぶく茶釜がアウラ達を見る。

 何か心配そうな眼差しを向けてくる闇妖精(ダークエルフ)達。

 ゲーム時代はNPCに表情など無い。

 

「アルベドが喋ったぞ」

「それは普通」

「うんうん」

「すまん」

 

 イカ野郎のタブラ・スマラグディナが自分が作り上げたNPCにして階層守護者たちを束ねる守護者統括という長ったるい設定の女淫魔(サキュバス)『アルベド』の身体を触る。

 タブラ・スマラグディナは『脳喰い(ブレイン・イーター)』という種族のプレイヤーだ。

 それが触手で(ねぶ)るようにアルベドを観察していく。

 

「エロいよ、タブラさん」

「うるせーな。自分が作ったNPCだからいいじゃん」

 

 創造主に触れられてアルベドは頬を赤くする。

 黒髪に白いドレスを着用するアルベドは戸惑っていた。

 多くの至高の存在に眺められながら身体検査されることを。

 

「た、タブラ・スマラグディナ様。は、恥ずかしいです」

「おお、表情が豊かになってる」

「感情アイコンが出てませんね」

「他のNPCも同じ状態たろうな。モモンガさん、ちょっと呼びかけてみてください」

「居ないメンバーは繋がりませんがNPCには繋がるようですね」

 

 ワイワイガヤガヤとうるせーギルドメンバーと大人しいNPC達。

 それから一時間が経過し、状況を整理し始める。

 

「外は平原と……」

「異世界に転移か……」

「実際に起きるとワクワクしますね」

 

 好き勝手に喋り始めるギルドメンバー。

 GM(ギルドマスター)であるモモンガは明日は四時起きだったのにログアウト出来ないことで悩みだした。

 過度に思いつめると光りのエフェクトが発生し、精神的に落ち着いてくる。

 

「精神の安定化。種族としての特性はちゃんと機能するようですね」

 

 と、冷静に分析するメンバー達。

 意外と慌てていない。

 

「皆さん、元の世界に戻れなくて心配じゃないんですか?」

「仕方ないじゃん。戻れないんだから」

「方法がない時は慌てない」

「ライトノベルの冴えない主人公はすぐ慌てるでしょ? 私達はそんなバカ共と違うの」

 

 かく言うモモンガは慌てたい気持ちだった。だが、そうするとバカ扱いされるので黙った。

 みんな大人だなと思った。社会人だけど。

 

「あ~、この身体で生活するのか」

「姉貴は平気なの?」

「この姿でプレイしてたから意外と平気」

 

 一部は転移の指輪を使って外の様子を見に行く。

 モモンガは『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』でメンバーの足跡を辿(たど)る。

 

 act 3 

 

 ナザリック地下大墳墓の外は本来ならば毒の沼地が広がるおどろおどろしい場所だ。

 それが今は青空広がる草原が広がっていた。

 空気の綺麗な風景に汚い世界で暮らしてきたメンバーはそれぞれ簡単の吐息を漏らす。

 

「異世界最高っ!」

 

 さっそく叫びだす始末。

 

「まだ異世界と決まったわけじゃ……」

「あ~、村とかあったら襲いに行っていい?」

「こらこら」

 

 外の様子を見る者。

 墳墓内の点検をする者。

 アイテムなどの確認をする者。

 何かに怯える骸骨。

 NPC達が心配そうに見つめています。餌を与えますか、という選択肢が見えそうだ。

 

「モモンガ様、どうかなさいましたか?」

「あ、ああいや……」

「自分たちで作ったとはいえ、精巧に出来てるな……。モモンガさん、スカートがめくれますよ。胸を揉んでも警告音が鳴りません」

「あはぁん」

 

 艶かしいアルベドの声。

 創造主のクセに身体を弄り回すタブラ・スマラグディナ。

 

「うわっ、見てみて! ●●●がありますよ!」

 

 大声ではしゃぐメンバーにモモンガは恥ずかしさを感じる。

 

「ほうほう、エロいことしても平気そうですね」

「おいこら、やめてあげなさい」

「ひゃっほ~、マーレに●●●が付いてるぜ~!」

 

 と、大喜びするのはピンクの肉棒だった。

 

「あ、あの……」

「よいではないか、よいではないか」

「いつからうちのギルドはエロ人ばかりになったんですか?」

「いやいや、確認出来るって素晴らしいですよ、モモンガさん」

 

 ゲームではNPCなどのキャラクターを裸にすることは出来ない。

 水着姿は出来ても全裸は規約で禁止されていた筈だ。

 

「せめて人前で裸に剥くのは……」

 

 モモンガの指摘に涙目のマーレを見て、ぶくぶく茶釜は申し訳ない気持ちになり、小さく謝った。

 

「あ、あの、いいんです。僕は、ぶくぶく茶釜様に作られた存在、ですから」

「NPCとしての存在を肯定するとは……。アルベドもか?」

「はい。私はタブラ・スマラグディナ様に創造されたNPCで間違いございません」

「素晴らしい!」

 

 タブラ・スマラグディナはアルベドの脇を掴んで持ち上げた。

 自我を得たNPC。

 とにかく何故か、とても嬉しかった。

 

「じゃあ、俺のシャルティアも自我とか持ってるのかな」

「……弟が()()した内容であれば見たくないな……」

「失敬な。あの子は俺の理想を体現するNPCだよ」

 

 マーレの下半身を見て喜ぶ自分も人のことは言えないとは思ったけれど、シャルティアの設定はぶくぶく茶釜も知っている。

 

 act 4 

 

 気が付けば一日が過ぎていた。

 時間の感覚はそれぞれ持っているようだが、何より第九階層がとても賑やかになっていた。

 全員異形種プレイヤーなので乱交パーティーはさすがに出来ないが、一般メイドを裸踊りさせようとか言い出す輩にはモモンガも参って精神が安定化する。

 

「ご、ご命令ならば……」

 

 NPC達はギルドメンバーを神だと思っているのか、とても従順だった。

 そういう設定として生み出したとはいえ、死ねと言えば死ぬかもしれないほどだ。

 

「●●●って出るのかな?」

 

 食事中に出る言葉としては最悪だ。だが、大事なことなのでそれぞれ真剣に悩んだ。

 まずアンデッドはトイレは不要だろうし、食事は出来ない。

 ぶくぶく茶釜や弐式炎雷のような肉体があるプレイヤーは食事が出来るし、味覚もある。

 

「アンデッドと●●●●はキツイか……」

 

 と、呟くペロロンチーノ。

 

「メイド達は●●●は出せるのかな?」

「どうでしょうか」

 

 答えに(きゅう)するメイド達。

 恥らう姿は可愛い。

 

 

 メイド達は人造人間(ホムンクルス)という種族で見た目はとても人間に見えるけれど、人間ではない。

 レベルは1しかない最弱モンスターだ。

 主な仕事は寝室の掃除。力仕事以外の家事全般だろう。

 モモンガはNPC達とあまり触れ合わなかったから大半が初対面だ。

 

「おお、おお、メイドにも●●●がありますよ」

 

 スカートを脱がして●●●を確認するメンバー。

 アインズ・ウール・ゴウンは変態の集まりだったのだろうか、とモモンガは頭を抑える。

 だが、興味が無いわけではない。身体が骸骨だから仕方が無い。

 それぞれ種族の特性で感じ方が違うようだ。

 メイドの●●が見えても少し恥ずかしい程度でしっかりと見てしまう。

 現実の『鈴木(すずき)(さとる)』であれば大騒ぎしているところだ。

 

「本来は無表情のメイド達が恥らうとは……。可愛いのう」

「ありがとうございます」

 

 特定の命令にしか反応しないメイドが自主的に返事をする。それはとても凄いとモモンガは思った。

 

「風呂が使えるみたいですね」

「へー、施設は問題なく使えるんだ」

「皆さん、少し考えをまとめませんか? エロいことを抜きにして」

 

 モモンガの言葉にそれぞれ手を止める。

 中には身体を止める者も居た。

 

「これからの身の振り方とか考えた方が……」

「分かってるけど、確認したい欲求が強くてね」

「もう一日経ってるし、ログアウトは相変わらず出来ない。今から戻っても辛い仕事の毎日しか待ってないと思うよ」

「そうなんですけどね」

「ゲームのラスボスは倒したし、戻りたくない人は戻らなくていいんじゃない。方法はちゃんと共有するという事で」

 

 真面目に喋りだすメンバー達。

 モモンガは気が気でなかったが、それぞれ意外と冷静で驚いた。

 慌てているのは自分だけかもしれない。

 

「食事はアンデッドの人はどうなんですか?」

「特に食欲は湧きませんね。眠くもならないし」

「それぞれ種族の特性は生かされていると考えた方がいいですね」

 

 メイドにメモ用紙を持ってくるように言うと一礼して立ち去った。

 特定の命令ではなく、ちゃんと言葉を理解して自分で行動しているようだ。

 

「ヘロヘロさん達が作り上げたメイド達はちゃんと動いてて驚きました」

「それぞれ反応も違うし。ホワイトブリムさん達の苦労の結晶……。本人に見せたかったな」

「……もう少し我慢していればヘロヘロさんも残れたのに」

 

 フリーズしたまま動かないので中身は抜け殻状態だった。

 

「あの人は睡眠不足ですから仕方がありません」

「外に行ったメンバーも呼び戻しましょうか。一回、全員集まりましょう」

「そうですね」

 

 モモンガは『伝言(メッセージ)』を使う。

 魔法を使う時はウインドウなどを開いて選択するのだが今は自然と身に付いたように使うことができる。

 最初から()()()使い方を知っているという感じだ。

 目の前に料理が出されたらどう食べるのか選択せずに出来る感じとも言える。ただし、今の自分はアンデッドなので食事は出来ないけれど。

 

 act 5 

 

 数時間後に第九階層の円卓の広間に全メンバーが集まった。

 モモンガ。タブラ・スマラグディナ。るし★ふぁー。ペロロンチーノ。ぶくぶく茶釜。餡ころもっちもち。やまいこ。弐式炎雷。武人建御雷。ブルー・プラネット。音改。フラットフット。テンパランス。ベルリバー。ばりあぶる・たりすまん。死獣天朱雀。ク・ドゥ・グラース。エンシェント・ワン。獣王メコン川。あまのめひとつ。ぬーぼー。ぷにっと萌え。チグリス・ユーフラテス。源次郎。

 二十五名。

 ヘロヘロはフリーズしたままなので除外。今は当人の部屋に放り込んでいる。

 残りの十五名の内、引退した者が大半で。数人はアカウントは残っているけれどログインしなかった者たちだ。

 この場に居るメンバーも引退予定だったものが殆どだが。

 

「攻撃力に特化したたっちさんとウルベルトさんが居れば心強かったのに」

「居れば居たであの二人はケンカ三昧だよ」

「居るメンバーだけで現状を打開しなければなりません。今は危機的状況かどうかは不明です。外を見る限り別世界と考えるのが妥当でしょう」

 

 ギルドマスターのモモンガが言った。

 少なくとも自分達の知る世界ではない事は確かだ。

 厚い雲に覆われた毒の沼に囲まれるナザリック地下大墳墓。

 環境汚染によって空気の汚れた元の世界。

 そのどちらとも違う。

 

「現地調査しないと分からないけれど、原住民はどんな姿なのか調べないとね」

「……マンモスとか追いかけるような時代だったら嫌だな……」

「NPC達は自我が芽生えてはいるけれど創造主に対して絶対服従のようだ」

「ステータスウインドウが出せない」

「アイテムボックスは使えるようだよ」

 

 と、気が付いたことをそれぞれ発言していく。

 メンバーがそれぞれ所持している『指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)』もちゃんと機能することは確認された。

 第六階層の闘技場にてそれぞれ魔法の試し撃ちで色々と確認した。

 

同士討ち(フレンドリーファイア)が解除されているから攻撃は当たるので気をつけてください」

「範囲攻撃すると味方でも当たるってやつだな。それは厄介だ」

 

 仲間でも攻撃対処になるのは集団戦では致命的だからだ。

 援護が援護として機能しない可能性がある。

 同士討ち(フレンドリーファイア)が解除されているのであれば登録し直せばいい。

 

「NPCのパンツを脱がせるのは驚いた」

「たぶん全裸に出来る」

 

 裸談義になると男性陣が声を上げた。

 対する女性陣は三人しか居ないけれど、それぞれ興味を持ったようだ。

 アインズ・ウール・ゴウンの女性は三人だけ。

 ぶくぶく茶釜。餡ころもっちもち。やまいこ。

 ただし、三人共に異形種なので人間的な姿をしていない。

 エロとは無縁とも言える。

 

「種族は選べるけれど男の子は●●●●付いてるのが確認できて興奮物だよ」

「ぶくぶくさん。エロ談義はちょっと……」

「堅いこと言わないの。どうやら運営の制約は無い様だよ」

 

 卑猥(ひわい)な言葉を言えばすぐに飛んできそうな運営の警告は未だに来ない。

 

「●●●!」

 

 大声で言うのはペロロンチーノ。

 

「特に問題は無いですね」

「エロい言葉は置いてください」

「……はい」

「いくらエロい言葉が言えても我々は異形種ですからね。きっと●●●●は出来そうに無いですよ」

「僕は何とか出来そうですね」

 

 と、言うのもペロロンチーノ。

 姿は猛禽類の鳥人(バードマン)だが人間に近い姿だ。

 完全に粘体(スライム)のぶくぶく茶釜は姿からは分からないが残念そうにしている。

 

「モモンガさんも単語くらいで動揺しないで。生物として大事なことだと思いますよ」

「では、あまり連呼しないで下さいね。恥ずかしいので」

「好き好んで連呼はしないと思いますが……」

「大丈夫。何度も言えば飽きますって」

 

 社会人のメンバーは童貞が居てもエロい言葉に動じないようだ。

 モモンガは言わないけれど興味はある。

 ペロロンチーノがエロゲー好きなのも知っているし、姉のぶくぶく茶釜がエロゲーに出るヒロインの声を担当している声優であることも知っている。

 無理にエロを規制するのは我がままかも知れない。

 

「当面の目標を決めた方がいいと思いますけど……」

「世界征服しましょう。原住民の強さが判明したら一気に蹂躙するのも簡単だと思います」

「征服した後、どうするの? それでエンディングになるわけじゃないでしょう?」

「それにユグドラシルは終わったんだし。もう少しのんびり出来る事を考えたら?」

「どこも戦乱で混沌としている世界、というのならばどこかの国に身を寄せるっていう手段もありますよ」

「急ぐ必要は無いし、急いでもどうにもならない時は諦めるしかないですよね」

「通常の転移話しでは誰かが召喚魔法を使ったりするものだが、今回はどうなんだろう」

「それならナザリックはゲーム内に置いて行くと思う。明らかに拠点ごとは大掛かり過ぎませんか?」

「では、調査する人と留守番する人に分けましょうか」

「そうですね」

「では、GMとして命令します。班分けを(おこな)い、それぞれ行動してください」

「了解」

「まとめる人が居ると心強いです」

「ありがとうございます」

 

 骸骨のアンデッドはお礼を言われて照れた。

 

 act 6 

 

 ペロロンチーノとぶくぶく茶釜とベルリバーの三人が外の調査に向かい、残りは留守番する事にした。

 残るのが多いのは自分達のアイテム整理などをするためだ。

 第十階層の玉座の間にてタブラ・スマラグディナはアルベドに色々と質問していた。

 気になった事は全てメモする。

 自我をもつNPC達の様子を把握するためだ。

 

「身体に変調は無いな。装備の確認も終わり。自分で作ったとはいえ凄いな」

 

 NPCに与えた設定はあくまで味付け程度にしか過ぎない。

 決められた命令に答えるくらいしか出来ない者は今は設定にちなんだ受け答えをしている。

 特に喋り方。

 

「ちゃんと触れるとはな」

 

 ゲーム時代は触れられる場所が決まっていた。

 服も手動で脱がすことは出来ないし、裸にすることは違法改造でもない限り出来ない。

 それが今は手動で装備品を外す事が出来るらしい。

 アルベドの装備は特殊なので簡単に取ることは出来ないけれど、頭から生えている角や腰から生えている黒くて大きな翼に触れられる。

 尻を触るとちゃんと恥らう。

 無表情のNPCではない。

 脳喰い(ブレイン・イーター)ではなく人間種であれば●●●●に挑戦しようかと思うほど魅力的になっていた。ただ、自分で設定した『ビッチ』が気になるけれど。

 ●●もある。

 ゲームであればモザイク処理されそうな部分も鮮明に見えている。

 ●●も生えているし、●●●に●●。

 女淫魔(サキュバス)の身体検査に挑戦したい気持ちが湧き上がる。

 創造主なのでやっちゃいけない規則は無い。

 

「おお、そうだそうだ。アルベドはずっとここに居るのか?」

 

 自分で設定したのだから居るに決まっている。

 下手をすれば命令しない限り永遠に玉座の側で突っ立っているかもしれない。

 ログアウトして就寝する自分は気にしていなかったが今はアルベドにも就寝するような命令は必要だろう。

 だが、彼女の部屋はどこにも無い。

 指定された場所に立って挨拶するだけのNPCだから。

 それは少し可哀相な気がした。

 

「私の寝室を使うといい。お前にも部屋を与えねば可哀相だ」

「勿体なきお言葉……。恐悦至極にございます」

 

 恭しく片膝をつくアルベド。

 生の声として聞くと感動を覚える。

 プログラムされた無機質な返答より気分がいい。

 

 act 7 

 

 執務室にこもっているモモンガは『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』にて外に出たペロロンチーノ達の様子をうかがっていた。

 未知の世界だとしても油断はできない。

 自分達は悪名高いギルドだから他の敵対プレイヤーが居ないとも限らない。

 鏡で見る限り、外は見覚えの無い世界だ。

 未開発の森が見えている。

 青空の広がる美しい景色。

 敵のことは忘れて風景にしばし見とれた。

 そのすぐ後で扉をノックする音が聞こえた。

 

「モモンガ様、ナーベラル・ガンマにございます」

「うむ。入れ」

 

 そう言うと扉が開いた。

 現れたのは戦闘メイド『プレアデス』の一人『ナーベラル・ガンマ』で、武装はしておらずメイド服だった。

 彼女は二重の影(ドッペルゲンガー)という種族だが、外装を一つしか持っていないので人間の女性の姿にしかなれない。

 典型的な日本人の美女。黒髪ポニーテール。

 魔法に特化して比較的、レベルの高いNPCだ。

 

「ご入用のものがあればお持ちしますので、何なりとご命令下さいませ」

「では、メモ用紙を持って来い。……何を持ってくるか復唱せよ」

(かしこ)まりました。メモに必要な羊皮紙を数枚。執筆用の羽ペン数本。インク適量。羊皮紙を押さえる文鎮が一つ。執筆において机が汚れてはいけませんので敷物を一枚。以上でございます」

 

 簡単な命令を汲み取り、必要な道具をこちらが要求していないのに答える。

 普通ならばメモ用紙と言えば紙一枚しか持ってこないだろう。それが一式全てを揃えると言ってきた。

 自我を持つNPCは自分で物事を思考する事が出来るという証明かもしれない。

 

「言っていない道具が出てくるとな。それは自分で考えたのか?」

「書くものが無ければメモをする事が出来ません」

「そうなのだがな。まあいい、用意せよ」

「畏まりました」

 

 NPC相手に偉そうにする理由。それは自然とそうした方がいいと思っただけだ。

 気軽に言っても良かったのだがNPCは友達ではないから、という気持ちが働いたのかもしれない。

 他のメンバーもメイドやNPCには偉そうな態度で話しかけている。

 きっとそれが正しいのだろう。

 

 act 8 

 

 第九階層の食事どころに仕事の無いメイド達と他の戦闘メイドが居て、そこにるし★ふぁーが近づく。

 

「みんなはそれぞれお腹が空くのか?」

「はい。とってもお腹が空きます」

 

 と、答えたのは人造人間(ホムンクルス)の一般メイド達だ。

 種族ペナルティによってたくさん食事をする必要がある。

 戦闘メイドはそれぞれ自分の好みの食事を摂っていた。

 

「るし★ふぁー様。我々に何か御用でしょうか?」

「特に無いな。それぞれ命令していないのに勝手に動き回っているのを観察しているだけ」

「う、動いてはいけないご命令だったでしょうか!?」

「いやいや。そういうわけじゃないよ。ちゃんと自分で考えて言葉を発するとは、と……」

 

 今まではこちらから話しかけない限りNPC達は絶対に勝手に喋ったりしない。

 例外はあるだろうけれど、自分たちが見た限りはそうだった。

 

「メイド達はトイレは使うのかな?」

「私達は使いませんね」

「私は使うと思います」

 

 手を挙げて発言したのは褐色の肌の戦闘メイド『ルプスレギナ・ベータ』だった。

 種族によって排泄行為はまちまちのようだ。

 ふと横に顔を向けると大人しい戦闘メイド『シズ・デルタ』も手を挙げていた。

 彼女は自動人形(オートマトン)だからトイレとか必要無さそうだと思った。

 

「シズもトイレを使うのか?」

「……使う。……食べたら出るのは当たり前」

「……お前さんは自動人形(オートマトン)だろう」

「……出る。……黒くて長い棒状の」

 

 何らかの排泄物は出るらしい。

 

「シズの●●●は棒か……」

 

 るし★ふぁーの言葉が聞こえた途端に身体を隠そうとするシズ。

 恥ずかしがっているのかもしれない。

 

「排泄は大事だ。出してすっきりしないとな」

 

 豪快に笑いながらるし★ふぁーは去っていった。

 

「るし★ふぁー様は何が聞きたかったんすかね」

「……排泄について?」

「出してるところを見たいと言われたら……、さすがに困るっすね」

「……困る」

 

 排泄談義したせいか、食欲がなくなってきたルプスレギナ。

 

 act 9 

 

 テーブルに女性の生首を置いて眺めるやまいこ。

 首の無い胴体はその場で待機していた。

 

「改めて首無し騎士(デュラハン)を見ると凄い種族だなと思うわ」

 

 そもそもアンデッドモンスターをじっくり観察することは殆どしてこなかった。

 首を外された女性は戦闘メイドの『ユリ・アルファ』で首無し騎士(デュラハン)なので問題は無い。

 夜会巻きの黒髪を撫で付ける。

 

「やまいこ様。私はこのままで良いのでしょうか?」

 

 と、テーブルに置かれた首が喋る。

 普通ならば驚くところだが、やまいこは当然の事として受け止めていて驚かずに頷いた。

 

「アンデッドは痛みに強いから、こんな状態でも平気と……。……うわぁ、細かい血管とか見えるわ……」

 

 首の切断面はゲームの仕様なのでやまいこが血管一本一本をデザインしたわけではない。だが、とてもリアルすぎて気持ち悪い。

 ゲーム時代ではもう少しデフォルメされていたような気がした。

 卒倒しないのは自分が異形種だからだろうか。

 喋る生首でも平気で触れるのは自分でも不思議だと思う。

 

 

 自室なので誰にも邪魔されることは無いし、ユリはやまいこ自ら創造したNPCだ。

 声といい、立ち居振る舞いはゲーム時代と違って今の方が気に入っている。

 自分が設定した通りに動いているのだから嬉しいに決まっている。

 適当に書かなくて良かったと今は思う。

 

「アンデッドとはいえ臭くは無いわね。というか私に鼻があったかしら?」

 

 やまいこは半魔巨人(ネフィリム)という種族だが、嗅覚はちゃんとあるようだ。

 

「この状態で胴体を動かせる?」

「はい」

 

 首の無いユリの身体が動き始めた。

 ただ、視覚を担当するのは首なので制御が難しいらしい。

 目隠しされると胴体だけでは正確に動けない。

 

「精神的な繋がりか……」

「はい」

 

 折角なので裸になってもらった。

 男連中が居ないので遠慮しなくていいのは助かる。

 

「うわぁ、綺麗な身体」

 

 白くて死体みたい。と、アンデッドのユリの裸体にしばし見惚れる。

 

「ちゃんと●●●や●●がある。●●も生えているし●●もあるね~」

 

 設定した自分でも感心するほどの巨乳。

 こんなに細かいデザインをした覚えが無いのに、と首を傾げるくらい精巧な姿だった。

 基本的な身体は描けるけれどリアルすぎるほどには出来ないはずだ。というか、そこまでデザイン力があっただろうかと疑問を感じる。

 それがデフォルメされずに形成されているのだから不思議としか言いようが無い。

 

「母乳は……、出ないか……」

 

 柔らかい●●●●。

 ●は同じ女性ではあるけれど綺麗だと思った。

 単純にエロい。素直にそう思う。

 脇や腕も弾力と硬さがある。

 くすぐったいことは無いようだ。

 自分で作り上げたとはいえ、エロい身体になったものだと呆れつつも感心した。

 他の女性達も同じだろう。

 

「折角だから、他の服も着てみようか」

「畏まりました」

 

 創造主に対する挨拶は堅苦しいが仕方ない。

 彼女達はメイドなのだから。

 

 

 武人建御雷は第六階層で第一から第三階層守護者であるシャルティアと戦っていた。

 同士討ち(フレンドリーファイア)が解除されているので戦闘行為自体は出来るようだ。

 戦う事によって敵対行動も起きない。それが何故なのかは調査しているメンバーに任せている。

 現在、シャルティアは完全武装形態になっていた。

 赤い羽付きの全身鎧(フルプレート)をまとい、神器級武器『スポイトランス』で応戦している。

 

「さ、さすがでありんすね」

「はっはっは。若いものには負けんよ」

 

 年寄り臭いセリフを吐く半魔巨人(ネフィリム)

 大太刀一本でシャルティアの槍を捌いている。

 シャルティアは真祖(トゥルー・ヴァンパイア)という種族のモンスターで攻撃に関しては優秀なNPCでペロロンチーノが創造した存在だ。

 性格はとにかくエロいらしい。

 

「動きが鈍そうなのに……」

「なんか言ったか?」

「い、いいえ。武人建御雷様は本当にお強いと思って……」

「武人だからな。あっははは。あ、魔法は禁止だからな」

「はいでありんす」

 

 独特の(くるわ)言葉を使うのもシャルティアの特徴だ。

 

 

 彼らの戦いを見つめるのは第五階層守護者『コキュートス』という二メートル近い背丈の蟲王(ヴァーミン・ロード)

 氷のような冷たさを感じさせる外見だが、武人の設定が与えられたNPCである。あと、全裸。

 ナザリック地下大墳墓にはレベル100のNPCが九人居る。

 シャルティア。コキュートス。アルベド。アウラとマーレ。

 ここには居ないが第七階層守護者でウルベルト・アレイン・オードルが創造した『デミウルゴス』という悪魔。モモンガが生み出した『パンドラズ・アクター』とたっち・みーが創造した執事の『セバス・チャン』と第八階層にある桜花領域の領域守護者『オーレオール・オメガ』だ。

 今のところ全NPCが自我を得て与えられた設定に従い行動している。

 自主的に。

 野放しにすれば何が起きるか分からないので、担当のものは監視したり命令を与えたりしながら様子を見る事にした。

 急な暴走でナザリックが崩壊してはたまらないので。

 外の様子も見ないといけないし、保管しているアイテムの状況も気になる。

 お気楽なメンバーとは裏腹にギルドマスターたるモモンガはNPCの反乱を少し恐れ、気にしていた。

 神経質な性格なのは自覚しているけれど、自分たちが作ったナザリック地下大墳墓が崩壊する事は避けたいと思っている。

 今後の方針も決めていかなければならないのだが自由なメンバーの行動は羨ましかった。

 妬みというわけではないけれど。

 

 act 10 

 

 外を探索しているペロロンチーノとぶくぶく茶釜とベルリバーの三人はのんびりと散歩していた。

 真っ直ぐ歩くだけなのだが、それぞれ綺麗な風景に見とれていた。

 まず空気が新鮮。

 青空が綺麗。きっと夜空も綺麗だろう。

 ブルー・プラネットが第六階層に作った偽りの風景とは違う天然の空。

 

「ブルー・プラネットさんも誘えば良かったかな」

「あの人は自然を満喫したまま帰って来なくなるわよ」

 

 不定形の粘体(スライム)が言った。

 歩くというよりは這いずるような形だが、地面に変な粘液は付かなかった。

 

「姉貴の身体って水分とか粘液とか分泌しないんだな」

 

 横を歩くベルリバーも粘体(スライム)系の種族なのだが。

 

「あまり分泌していると脱水症状になるのかしらね」

「干からびたメンバーを持ち帰るのは……。軽くなって都合がいいか」

「それより、弟。探索はちゃんとやってるの? あんた浮けるでしょ?」

「飛べるって言ってほしいな」

 

 鳥人(バードマン)という異形種なので種族の特性として飛行は出来る。だが、ゲームの時と同様に能力が使えるのかは練習していないので少し心配だった。

 だが、それはすぐに杞憂に終わる。

 何年もゲームしてきたのだから、その感覚で翼を動かす。

 装備している鎧が派手なので残像のように光りが舞う。

 昼間だと少し目に痛いがぶくぶく茶釜たちには関係が無いようだ。

 

「上から見ると粘体(スライム)が二匹居るように見える」

 

 二人以外のモンスターは近くには居ないようだ。というよりモンスターが居るのかは分からない。

 ペロロンチーノは遠くに顔を向ける。

 辺りは木々が生い茂る自然がいっぱいだった。

 現代建築の建物が見当たらない。

 

「……すげー」

 

 空に似浮かぶ岩なども見当たらないが、美しい景色だと思った。

 真下を見ると道である事が分かる。つまり人の往来があるはずだ。

 一旦、地面に降り立つ。そこまでの行程に問題は無い。

 

「当たり前のように飛んだけど、凄いもんだね。飛行の能力は」

 

 元は人間なので普通は空など飛ばないし、飛べない。

 魔法の『飛行(フライ)』などで飛ぶことはあるけれど、自分の肉体として翼などを制御出来るのは素直に驚いた。

 ぶくぶく茶釜も自分がどこを見ているのか、分かっているのだろうか。

 

「不定形なのに身体の感覚とか分かるの?」

「分かるみたいね。手もあれば足もある。人間の時の感覚をそのまま違和感無く使えるみたい」

「俺もです。全身に口がたくさんありますけど、自分のメインの口は一つのようですね」

 

 ベルリバーは『呟く者(ジバリング・マウザー)』という口がたくさんある粘体(スライム)系の種族だ。

 夥しい口がいっせいにしゃべるのは自分でも気持ち悪いと思っている。

 両脇に粘体(スライム)を引き連れた鳥人(バードマン)

 

「見た感じでは道なりにずっと続くようだけど、進む?」

「町とか無いの?」

「もっと遠くまで行かないと無いかも。あるいは人間が住んでいない世界とか」

「せめて生き物が居ればいいのに……」

 

 ゲーム時代ならBGMが鳴っているところだが、木々が擦れる風の音くらいしか聞こえない。

 とても穏やかな空間だ。

 

「何らかの生き物は居ると思うよ。獣道があるんだから」

「そうね」

 

 粘体(スライム)だから、というわけではないが歩みは遅かった。

 急ぐ理由は無いけれど、しばらく無心で歩きたくて仕方が無い。

 それほど自然豊かな世界は三人にとって新鮮だったから。

 

 

 日が傾き始めると空が赤くなっていく。

 夕方を模した空は見たことはあるが、天然の夕方はまた一段と美しかった。

 

「このまま野宿する?」

「報告しないと」

「ここまでまた転移で来られるし、のんびり生きましょうか」

「賛成です」

 

 三人の意見がまとまり、伝言(メッセージ)転移門(ゲート)を自分達の近くに開いてもらいナザリック地下大墳墓に帰還する。

 

「ただいま~」

「お帰りなさい」

「獣道はあったけれど町は無かった。自然豊かなところのようだよ」

 

 報告に満足するモモンガ。

 今後の方針は現調査をメインとしてナザリック地下大墳墓の運営方針の模索となる。

 衣食住は今のところ問題が無い。

 その後をどうするかだ。

 元の世界に戻りたいメンバーは意外と居なかった。

 慌てても仕方が無いのと、慌てて仲間割れするのはライトノベルの()()()だと理解している大人のメンバーが多かった。だが、その中でモモンガは神経質が災いして早く何とかしなければ、と心中(しんちゅう)では慌てていた。

 極限に達すると精神が安定化される。

 ギルドマスターはまとめ役なので色々と気苦労が多い。それは他のメンバーは分かっていた。

 今後の方針とは言っても目的らしいものは既に無い。

 自分たちだけで一大帝国を作ったところでNPCに命令するしかないのだから面白いわけが無い。

 じっくりと世界を調査する方が精神的にも健康だろう。

 

 

 話し合いを終えて執務室に戻ったモモンガは『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』で辺りを調査し、必要な事をメモしていく。

 ギルドの長としての責任は重い。

 そう思っていると扉をノックする音が聞こえる。

 室内には一般メイドが一人待機していた。

 

「タブラ・スマラグディナ様がご面会を求めていらっしゃいます」

「通せ」

 

 メイド達は自分達の仕事にとても忠実で、設定された仕事を全力でこなそうとする。

 声が無いよりマシ、という事で好きにやらせて様子を見ている。

 室内に入ってきたタブラ・スマラグディナ。

 異形種の表情は基本的に『表情アイコン』で色々と表現されるのだが、それが無いと慌てているのか、笑っているのかが分からない。

 

「お疲れです、モモンガさん」

「どうしました?」

「いえ、モモンガさんは一人で色々と抱えているんじゃないかと思って。みんな心配してましたよ」

「ま、まあそうですね。ギルド長ですから」

 

 両手を上げて大丈夫、というジェスチャーを見せる。普通なら表情アイコンが出るのだが今は何も出ない。

 

「元の世界に戻れないからと言ってモモンガさんに責任を押し付けたりはしませんよ。苦労はみんなで分かち合いましょう」

「ありがとうございます」

「それで今はどんなことをしていたんですか?」

「このアイテムで外の様子を見ていたんです」

 

 タブラに『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』を見せてみる。

 操作方法が意外と難しかったが今はだいぶ扱えるようになった。

 普通ならアイテムの使い方をコンソールか何かで読む事が出来るのだが、今はそれが出来ないので手探りで調べるほか無い。

 離れた場所の台にはアイテムボックスに入れていたアイテムを並べて一つずつ調査している。

 

「メイドよ。休んでよろしい」

「畏まりました」

 

 命令しないとずっと立ったままなので、今はメイド用の椅子を用意し、座るように言いつけている。

 

「ゲームと違って放置は……、なんか罪悪感がありますね」

「そうですね。タブラさんもそう思いますか?」

「ええ。アルベド、ニグレド、ルベドの様子も確認出来たし。そろそろモモンガさんの手伝いをしようかなと……」

 

 一人で全てを抱えるのは大変だ。

 タブラも一人だけならば弱音を吐くだろう。

 

「人間ではないから、あんまり女性の裸に抵抗が無いので驚きました」

「俺は抵抗がありますよ」

「アンデッドの特性がいずれ強く出るかもしれませんよ。なんだか、脳みそを吸いたくなってきましたし。他のメンバーも人間から乖離していくんじゃないかな」

「それってヤバイんじゃないですか?」

「仲間割れはすぐには起きないと思いますが……。みんなで協力すればなんとかなるんじゃないですか? 困った時はみんなで悩みましょう」

 

 寛容なタブラにモモンガは『はい』と小さく返事をした。

 一人で抱え込むな、という意味かもしれない。

 だからといって一緒にメイドの裸を観賞しようとは思わない。

 

「そういえば、これってリアルタイムですか?」

 

 『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』の中では日が落ちて暗い状態になっていた。

 道もよく見えない。

 『闇視(ダークヴィジョン)』の特殊技術(スキル)や魔法があれば深夜であろうと真昼のように見えるけれど。

 

「はい。時間的にも深夜帯ですし」

「電灯が無いとここまで暗くなるんですね。すごいなー」

 

 拡大縮小などを(おこな)いながら空に傾けたりする。

 

「これってどこまで行けるんですかね」

「時間はかかりますが、ずっと進める事が出来ると思います。そういう仕様だったはずなので」

「説明文がないと操作がしにくいな」

 

 動かすと効果音が鳴る。そこはゲーム的で苦笑する。

 一部のスキルも何らかの効果音が鳴るようだが、何故なのかは誰も分からない。

 

 

 ある程度の操作をモモンガとタブラは交互に挑戦し、使い方をメモしていく。

 それで出来たことは拡大縮小の他に空に向けたり、画面を遠くに移動させたりすることだ。

 進みは遅いが道なりに画面を進めて行く事は出来た。

 気が付けば朝日が昇る。

 

「日の出になりましたね」

 

 ずっと操作していたのに眠気が起きない。

 アンデッドの特性が効いているのだろう。

 タブラは生身ではあるが眠気が起きなかった。

 

「『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』の効果は凄いな。今のところアイテム類の効果はちゃんと通用するようです」

 

 そもそも『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』が使えることも不思議ではある。

 道なりに突き進んでいくと開けた場所に出る。

 そこは黄金の海原(うなばら)が広がっていた。

 

「ようやく村発見」

 

 村というか村っぽいからそう言っただけだ。

 画面を進めていくと簡素な住宅が見えてくる。

 木造一戸建て。石を利用した建物もあるけれどゲーム世界で言う西洋ファンタジーにありがちな村という印象だった。

 文明は低そうだが集落を作っているので何らかの生物は居るだろう。

 

「どんな生物かな。人間か亜人か……」

 

 なかなか現場まで進まない『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)』。

 一気に飛ばせないのでもどかしい。一度、行った事のある場所なら何らかの目印を付ければ一気に画面を変更する事が出来る。いちいちナザリック地下大墳墓からの再スタートはしなくていい。

 画面からは音声などの音は聞こえない。

 近くに寄るまで五分はかかっただろうか。

 ようやく全貌が見える頃には原住民と思われる姿がいくつか見えた。

 

「人間ですね」

「亜人というわけではないようですね」

 

 更に近づくと人々の往来が大きく映し出される。

 農民の服を着た人間。

 それは別に珍しいことではない。

 様々なゲームに出てくるものと大差がなかったから。

 

「こういう村があるという事は他にもあるかもしれませんね」

 

 この世界に村一つしか無いのであれば、さびしいことこの上ないだろう。だが、人間の存在が確認出来たのはありがたかった。

 

 act 11 

 

 現地の村に派遣したいのだが誰がいいだろうか、と玉座の間に集めたメンバーを見回すモモンガ。

 全員が異形種なので人間とすんなり交渉できるのか、不安だった。

 ここは人間の姿に近い者たちで向かうべき、という意見が多かったのでモモンガも賛成する。

 交渉に長けた人間的な仲間は一人も居なかった。

 ペロロンチーノでも良かったかもしれないが、何事も最初は肝心だ。

 

「偽装すればいいよ」

「西洋ファンタジーなら全身鎧(フルプレート)で」

「そういう文化が無かった場合はただのコスプレとみなされるのでは?」

「セバスとナーベラルを向かわせる?」

「村に執事か……。絵面的にキツイな……」

 

 粘体(スライム)を送ったら大騒ぎになりそうだ。

 そもそもモンスターしか居ない。

 色々と情報を集めないと余計な混乱しか生まないだろう。

 大人数を派遣するわけに行かないのでせいぜい多くて三人だという意見にまとまる。

 

「NPCを派遣するのは少し怖いな」

「人間に対して何を言うのか、という点だね」

 

 そもそも人間に敵対するように設定を作っているので、どんな事態になるのか、それぞれ冷や汗をかき始める。

 

 

 ユグドラシル時代は人間種は敵なので仕方が無かった。

 結論はなかなか出ないけれど全身鎧(フルプレート)は案として残す事にした。

 文明レベルをもう少し調査すれば甲冑姿でも大丈夫かもしれないとぷにっと萌えが言った。

 幻影魔法は解呪の恐れがあるし、効果は微妙だという意見が相次いだ。

 

「敵プレイヤーの想定もしないといけないよね」

 

 監視は暇そうなメンバーが担当しているので、モモンガは彼らに任せる事にした。

 最初の接触は慎重に(おこな)いたい。

 モモンガの意見に多数が賛成。

 無意味に敵対されると鼠算式に敵が増えるかもしれない。

 下準備を整えて色々と決めていく。

 

「……あの、発言してもよろしいでしょうか」

 

 と、おそるおそる待機していたアルベドが言った。

 

「言ってみなさい」

 

 と、タブラが促す。

 

「はい。おそれながら、先ほどNPCの管理データを呼び出す事が出来たのですが……。どなたに報告すれば良いのでしょうか?」

 

 数分の沈黙が降りた。

 アルベドは自分がとんでもない事を言ったのではないかと思い、その場に平伏する。

 

「何っ!?」

「マジっ!?」

 

 メンバーの絶叫に似た大声が広い玉座の間に響き渡る。

 

「今も出せるのか?」

「は、はい。このように」

 

 アルベドが軽く手を払うように動かすと半透明の二次元的な画面がいくつか現れる。それは間違いなくNPCの管理コンソール画面だった。

 だが、メンバー達のステータス画面はどうしても出て来ない。

 

「こちらは無理そうだな」

 

 アルベドにそれそれのステータス画面を出せるかやらせてみたが無理だった。

 一人ひとりに謝罪するアルベド。だが、彼女に責任は無い。

 タブラは自分のところにアルベドを寄せて画面の確認をする。

 ぷにっと萌えもNPCの管理画面を操作してみた。

 操作方法はゲームの時と同じ。

 

「……モモンガさん、玉座の間でコンソールを出してみてください」

「えっ? 分かりました。マスターソース・オープン」

 

 と偉そうな態度で言うと半透明の画面が現れた。だが、メンバーの方はやはり出て来ない。

 

「特定の場所で特定の人物しか出せないのかもしれませんね」

 

 ぷにっと萌えはNPCの管理画面を改めて出そうとしたが出せなかった。

 

「これでもログアウトは出来そうに無いですね」

 

 そのログアウトボタンがどこにも存在しないのだから。

 かつてあった場所に触れても確認の小窓は出てこなかった。

 マスターソースにはメンバーのステータスが一覧表として並んでいる。

 状態異常が無いか、ナザリック内の様々な情報なども出て来た。

 同士討ち(フレンドリーファイア)、正確には『フレンド』という項目は消えていた。

 この項目がないと味方として扱えない。他にも『クエスト』に『コンフィグ』なども消えていた。残っているのは『装備』、『アイテム』、『ギルド』、『ステータス』などの大まかなものばかり。

 かつてあった場所を触ったり、押したりしても選択画面は出ない。

 

「アルベドの設定は長いっすね……」

「書き換えは出きるんですか?」

「専用ツールがあれば出来そうですね」

「ギルド武器でGM権限を使えば出きるかも」

「う~ん。まだまだ確認しなければならないことがあるようですね」

 

 アイテムは今のところ各メンバーに任せて、村との交流に話しを戻す。

 

「シャルティアに『転移門(ゲート)』の用意をさせておくよ」

「お願いします」

 

 方針が一つ決まり、待機するものは引き続き墳墓内で自分の仕事や趣味に走る。

 戦闘に特化していないものは第十階層にある巨大図書室(アッシュールバニパル)で読書を楽しんだり、風呂に入ったり、各階層を巡ったりする。

 自我を獲得したNPCの調査は一日では出来ない。

 

 act 12 

 

 役割り分担とはいえメンバーはアイテム整理とモンスター退治くらいしかする事が無い。

 後は自分の趣味。

 掃除などはNPC達が(おこな)うので暇なメンバーは自室で寝たりするだけだ。

 元々社会人のメンバーはやる事が無ければログアウトし、現実の仕事に向かうのだから。ずっと遊んでいるわけでない。

 だが、今はずっとゲームの中に居るような状態なので暇になってしまった。

 あらかたのボスモンスターを倒しているし、ユグドラシルというゲームそのものが終了してしまった。

 その状態でできることは世界征服とかバカな事くらいだろうか。

 一大帝国を築くのはどこのギルドもやろうとしていたので珍しいわけではない。

 

 

 下準備を終えて村の調査隊にはモモンガ自ら向かう事にした。

 代表者という意味合いもあるし、自分も外に出てみたかった。

 留守番はタブラとぷにっと萌えが居るので大丈夫だろう。いざという時は『伝言(メッセージ)』がある。

 付き添いはアウラとルプスレギナ。

 モモンガは魔法で生み出した黒い全身鎧(フルプレート)を着用。

 本人はアンデッドは珍しくないと言っていたが異世界転移ならそういう常識は通用しないと言われた。

 普通に考えて人間の前に骸骨が現れれば怖がるのは当たり前。とたっち・みー調で言われてしまった。

 アウラはそのままでルプスレギナはメイド服ではあったが外套をまとわせて旅人っぽくした。

 ガシャガシャと金属音を響かせて三人は目的地の村に向かう。

 便利な転移魔法のお陰で長い道のりを歩かなくて済んで助かった。

 

「村人の強さは分からないが、お前達は出来る限り大人しくしているんだぞ」

「畏まりました」

 

 アウラとルプスレギナは同時に言った。

 立場的にはメイドはアウラより下なのでモモンガを先頭にアウラ、後方をルプスレギナが守る形となる。

 本来はアウラが戦闘になるべきだが外見上は子供なので大人としての布陣にした。

 目的地の村と思われる集落はまばらに建物が建っており、アイテムで確認した限り人口は少ない。

 それでもこの世界の住人なので色々と情報は持っているだろう。

 いきなり攻撃してきた場合は敵対プレイヤーの可能性があるけれど。

 

 

 門を潜っても咎められずに簡単に入れた。

 異形種は種族のペナルティとして入れない施設などがあるはずだが、村は平気だと確認し、小声でルプスレギナにメモするように命令する。

 はた目からは村を襲い来た屈強な騎士に見えるけれど、出来るだけ友好的に交渉を(おこな)いたい。

 近くに居た村人にいくつか尋ねる。

 

「あ……、こんにちは」

 

 まずは軽く手を挙げて挨拶する。

 

「ど、どうも」

 

 相手はおそるおそる返答してきた。

 日本語で。

 言葉は通じるようだ。

 外国語だったらどうしようもない。

 

「ここは村ですか?」

 

 自分でもバカな質問だと思うが仕方がない。

 何事も最初が肝心だし、一つずつクリアしていくのは基本だ。

 

「は、はい……」

「我々は旅のものですが……。この辺りの地理に(うと)くて……」

 

 相手は全身鎧(フルプレート)に驚いているんじゃないかとモモンガは思った。

 アウラ達の姿を見せると少しだけ表情が(やわ)らいだような気がする。

 

「ここはなんという村ですか?」

「●●●村です」

 

 と、普通に答えてきた。

 聞き違いかと思って同じ質問をした。

 

「●●●村です」

 

 やはり同じ言葉に聞こえる。

 明らかに下品な単語なのだが、それはどういった事だろうか。

 何かの冗談だろうかと。

 モモンガは真剣に悩んだ。

 

「……●●●村か……」

「モモンガ様、●●●っていうのは……」

「アウラ、それはまた後でな」

 

 可愛い子供の声で変な言葉を聞くのは大人のモモンガには少しこそばゆいことだった。

 村に変な名前を付けた奴が居るなら超位魔法を使っているところだ。

 帰ろうかな、とモモンガは思った。

 おそらく誰に聞いても●●●と連呼されそうだ。

 よくそんな名前に疑問を持たないな、と。

 現地の言葉では不思議は無いのかもしれない。

 意味の違う別物とも言える。

 

「……地理に詳しい人に色々と話しを聞きたいのですが……、よろしいですか?」

「はい。では……、村長に相談してみます」

 

 出会いがしらに殴る自信がある。

 お前、すごい名前付けたな、と。

 それに違和感を覚えない村人も凄い。いや、諦めているのか、開き直っているとも言える。

 モモンガは唸りながら村人の案内で村長の家に向かう。

 

 

 どの家も木造一戸建て住宅で村人の姿は粗末な服というイメージだ。

 西洋ファンタジーにありがちな長閑(のどか)な農村そのままだった。

 下品な●●●村の村長はとても変な名前を付けるようなバカな顔には見えなかった。

 道端に●●●が散らばるような汚い事も無く、名前だけおかしいようだ。

 

「私が●●●村の村長でございます」

 

 村長もかよ、とツッコみたい気持ちがあったが耐えた。

 ルプスレギナは笑いをこらえているようで、くっくっくという声が小さく聞こえる。

 

「どうしてそんな名前なんでしょうか?」

「村の名前ですか? はぁ、●●●という人が作ったから、としか……」

 

 可哀相に。

 人の名前はちゃんと考えないと後世の人達が困りますよ、とモモンガは胸の内で言った。

 というか、そんな名前をつけられた人ってどんな人生を送ったのか知りたくなってきた。

 百年前に流行した『キラキラネーム』より酷いじゃねーか、と。

 

「私は旅のもので……。鎧を着ていますがモモンガと言います。それで、この辺りの地理を教えていただきたいなと思いまして」

「正確な地図はありませんが……」

「大雑把で構いません。なにしろ、何も無い道を進んできたもので……」

「それは大変でしょう。もし、お疲れならば部屋をご用意いたしますよ」

「いえいえ、我々は野宿でも構いませんので。ですが、ありがとうございます」

 

 とはいえ、せっかくの厚意だし、アウラ達を休ませる意味ではありがたいことだった。

 転移で簡単に戻れるけれど。

 今の自分達は旅人という事になっている。

 

 

 一旦席を外した村長の替わりに白湯を持ってきた村長の奥さん。

 それらをアウラに渡す。

 モモンガはアンデッドなので飲み物は飲んだら顎下から落ちてしまうので、お代わりが必要な二人に渡す。

 改めて地図を持ってきた村長がテーブルに古めかしい羊皮紙を広げる。

 

「……おお」

 

 いかにも地図という味のあるアイテムに感動するモモンガ。

 

「この印が●●●村です」

 

 世界地図というほど広大なものではなく、一定の大きさしかなかった。だが、村ではそれで充分なのでモモンガは話しを優先させた。

 

「我々の村はこの地域一体を治めるオ・●ー●●王国の領地にあります」

「………」

 

 また変な名前に思わずモモンガは唸った。

 

「お……へー……」

「右側には王国と敵対している●●●ロ帝国があります」

「……くっくっく……」

 

 必至に笑いをこらえるルプスレギナ。

 モモンガはマジか、と驚いていた。

 アウラは単語の意味が分からないようで首を傾げていた。

 正直、子供のアウラには聞かせたくない単語なので少し外で待機させた方がいい気がした。

 一番の問題は真面目に村長が口走っているところだろう。

 お前は何の疑問も感じないのかと。

 この国では変な単語ではないのかもしれない。

 日本人にとって妙な地名が外国にはいくつかあるのは事実だ。

 ●●●●●島とか。

 日本語で喋っているけれど違う世界だから不思議は無い。とするならば我々が笑うのは失礼かもしれない。けれども、日本人からすれば酷い名前だと思う。

 悪意しか感じられない。

 

「広大な南方を●ー●●ー法国が治めています。それ以外の国は……、分かりかねます」

「………。はっ! 失礼しました。この三国が周りにあるだけでそれ以外は……行かなければ分からないと」

「はい」

 

 酷い国々に囲まれたものだ。

 

「都市に向かわれるなら、村から一番近い城塞都市●●・ランテルがいいでしょう」

 

 少しまともそうな名前に安心するのもつかの間。ルプスレギナが涙を流しながら笑った。

 

「あっははは! ●●●っ……、●●●だって!」

 

 相当面白かったのだろう。椅子から転げ落ちた。

 

「大丈夫ですか?」

「手遅れかもしれませんね」

 

 聞けば聞くほど笑い転げる世界のようだ。

 モモンガは逆に不安でいっぱいになってきた。

 

「地図は……」

 

 貰いたくないな、と思いつつもメモさせようと思うのだが、ルプスレギナが役に立たなくなった。

 変わりに単語の意味が分からないアウラにやらせておく。

 子供が卑猥な単語を書くのは少し罪悪感があるが仕方ない。というか、これは本気なのかと疑いたくなる。

 全部嘘だとしたら村を灰塵(かいじん)にする自信がある。

 

 

 村長の話しはもう聞きたくない気持ちが湧いてきたが情報は得られるだけ欲しいのは事実。

 ここは我慢するしかないのだろう。

 アンデッドのお陰かルプスレギナのように笑い転げることはなかったし、意外と冷静に話しを聞く事が出来た。

 普通なら自分もルプスレギナのように笑い転げていたかもしれない。

 

「……アウラ。ルプスレギナはそのままにしておなさい」

「……畏まりました。ですが、いいんですか?」

「……不可抗力だ。我慢しろ、という方が無理だろう」

 

 お腹を抱えて笑うルプスレギナ。

 元気な娘で少し安心した。

 気を取り直してモモンガは他の質問を始める。

 全てが卑猥な単語だと覚悟していたが、そうではないようだった。

 お金の単位が●●●とかじゃなくて枚数で数える。

 銅貨。銀貨。金貨と続き、それ以上のものもあるらしいが村ではそこまでは分からないという。

 現地のお金は見たことも無い貨幣だった。

 自分たちが使うユグドラシル金貨とも違う。

 

「この金貨は見た事が無いと……」

 

 村長にユグドラシル金貨を見せた時の感想だった。

 現地の貨幣は卑猥な形かと少しだけ覚悟したが形が少し歪んでいる以外は問題無さそうだ。

 ●●●の形を模していたら捨てるか、視界に入れないように大切にしまうかもしれない。

 

「はい。王国金貨でも無いと思いますね」

 

 使えない貨幣を無理に使おうとすれば齟齬(そご)が生じるだろう。

 定番の冒険者という存在があるのか、と聞いてみるとあるらしい。

 あと、モンスターも出てくる。

 それも自分達のゲームに出て来たモンスターがちらほらと。

 それはさすがに卑猥な名前ではなくて安心した。

 

小鬼(ゴブリン)で間違いないんですね?」

「はい」

 

 ●●●がモンスター名だとしたら世界を恨む。

 モモンガは普通の単語が出て来たところでルプスレギナを引き起こす。

 そろそろ復活してもらわないと困る。

 涙に濡れた顔を拭ってやる。

 相当面白かったのだろう。ここまで笑うとは思わなかった。

 NPCとはいえ感情表現が豊かで驚いた。

 

「この世界好きかも」

「それは良かった」

 

 村の情報はたいしたものが無いのが定番だ。

 次は都市に行って色々と情報を集める必要があるだろう。

 正直に言えば行きたくない。

 なにが城塞都市●●・ランテルだ。バカバカしい。

 誰が名付けたんだろうか。

 

 act 13 

 

 酷い名前の三国に囲まれているのでどこへ行っても駄目かも知れない。

 とはいえ情報は大事なので近いところにあるという城塞都市●●・ランテルに行く事にする。

 一応、仲間に連絡しておく。

 

『城塞都市●●・ランテルですか……。村の名前も凄いですね』

「ルプスレギナの壺にはまりましたよ」

『何の疑問も抱かない住民は凄いですね』

「このまま都市に向かおうと思います。今のところ脅威となりそうなものは見当たりません」

『こちらでも、怪しい影はありませんよ』

 

 ナザリックに居る仲間の何人は笑い転げているようだ。見えないけれど、なんとなく予想が付く。

 派手に笑っているのが数人。

 通話を切り、近くの都市に向かう予定の村人に案内してもらうことになったので挨拶しに行く。

 ●●・ランテルに採取した薬草を売りに行く準備を整えている村人の元に向かう。

 

「こんにちは」

「ああ、こんにちは」

 

 田舎の村人は異邦人相手でも気さくに挨拶するようで、特に警戒はされなかった。

 自分たちが他人を警戒しすぎるせいもあり、警備が甘いな、とか思ってしまう。

 農村に高いセキュリティを求めても不毛なだけだ。

 

「私は旅人のモモンガという。今回は都市まで案内してもらうように村長から言われたのだが……」

「はいはい。荷物の準備が終わり次第に向かいますよ」

 

 明るい口調の村人たち。奥には娘と思われる子供が二人居た。

 

「エンリ、ネム。お客さんに挨拶なさい」

「こんにちは」

 

 農作業に従事する村娘はどこと無く貧相で汚らしい。だが、それがゲームのキャラクターとは思えない精巧な人物像を形作っている。

 現地の人間なのだろう。

 だが、自分達はゲームのアバターだ。だから、まだどこかゲームの中、という印象がある。

 魔法が使えるのが一番の謎だから。

 

「つかぬことを聞くが……。魔法というものは見た事があるのか?」

「はい。私の友人が魔法を使う魔法詠唱者(マジック・キャスター)です」

 

 それだけでモモンガは安心する。

 知っている単語が出て来たので。

 また卑猥な単語かもしれないと思ったけれど。

 

「私は魔法に興味があってね。なかなか知っている人から話しが聞けなくて困っていた」

「そうですか。ですが、私も詳しく走らないんです。あっ、友達は●●・ランテルに住んでいるのでお尋ねになられたらいいと思います」

「分かりました。その友達の名前は?」

 

 と、言った後で嫌な予感がした。

 

「●●●ーレア・バ●●●という……」

「……待て」

「はい?」

「聞き違いではないよな?」

「●●●ーレア・バ●●●、ですか?」

 

 どうやら間違いないようだ。というより後半は悪口じゃないのか、と。

 よくそんな名前を付けたものだ。

 可愛い少女の口からとんでもない単語が出てくるとは思わなかった。

 ちなみに少女の名前も凄かった。

 エンリ・●●●●。

 妹はネムという。

 こちらは名前がまともで助かった。

 どうしてこんな苗字なのか、両親は昔からこうだったと答えた。

 昔はもっと酷い名前が氾濫していたのかもしれない。

 アンデッドではあるけれど段々と自分の頭がおかしくなりそうだ。

 エンリとネムも実は卑猥な単語ではないかと心配になってきた。

 

 

 なんかとっとと村というか世界から逃げ出したくなってきた。

 夕方に差し掛かり、馬車で移動するのだが都市に着くまで一日いっぱいかかるという。

 それぞれの都市までは地図ではわからないが数日かかるのが一般的だとか。

 『飛行(フライ)』とか転移魔法ならすぐ行けそうだが、各都市には検問があり、そこを通らなければならない。

 異邦人でも通れない事は無いが手続きが必要で、それが済めば王国内の都市で怪しまれることは少なくなる。

 冒険者組合で登録すれば証明書が発行されるとか。

 エンリは領主から通行手形を貰っているので自分の分は問題ない。

 都市まで移動するのに少女一人で向かうのだが、エンリのような年頃の女の子は大体一人で移動するらしい。

 

「モンスターが現れたらどうするんですか?」

「逃げます。馬車に追いつけるようなモンスターはこの辺りには居ませんので」

 

 未知のモンスターはここ数年、現れていないという。

 聞いた範囲では動きの鈍そうなモンスターが多く、確かにエンリの言う通りなのだが。

 

「この辺りに冒険者も来ますので、それほど大事(だいじ)は起きません」

「なるほど」

 

 と、卑猥な話しから真面目な話しになったのでルプスレギナもだいぶ落ち着いてきた。

 確かにインパクトのある単語が乱れ飛んでいたが、余程面白かったのだろう。笑い疲れて眠そうな顔になっている。

 ●●・ランテルまでは平原と適度な林がある以外は特徴的なものは無く、道なりに行けば迷うことは無い。

 都市に行っても下品と卑猥な単語のオンパレードだったらどうしようと不安をにじませるモモンガだった。

 幌馬車と言っても立派なものにモモンガは感心する。

 中はちゃんと整理されていて複数人が乗っても大丈夫なほど頑丈な造りに見えた。

 共として着いてくるアウラとルプスレギナを先に乗せる。

 

「このまま都市に向かうのですか?」

「こんな村に居ても仕方が無いだろう。大きな都市の方が色々と情報が集まると思う」

 

 ●●●村だぞ。いつまでも居たら連呼されてしまうじゃないか、と。

 エンリ達の用意が整うのは夕方過ぎ。

 泊り込みを想定しているので下準備が大変なようだった。

 荷物運びくらいなら手伝う事もできるが、どんなものを運ぶのだろうか。

 麻薬です、と言われたら困る。

 現地通貨を持っていないことを思い出し、生活費を借りるべきか悩んだ。

 

「武器屋は都市にありますか?」

「あると思いますよ」

 

 売れそうな武器はすぐに思い至らないが、ゴミみたいな武器でも売れれば多少の収入になるかもしれない。

 早速、鍛冶師に連絡を入れる。

 革製品とかミスリル程度の粗末な武器をいくつか注文しておく。

 序盤の街なら貧相な武器で充分だろう。

 用意が整うまでアウラ達には周りの監視を命令しておく。

 

 

 敵性プレイヤーや監視要員は今のところ無い。

 序盤の村に常駐するようなプレイヤーは居ないかもしれない。

 けれども、どこに敵が潜んでいるのか分からないから警戒だけはしておく。

 とはいえ、ユグドラシルというゲームは終了したのだから今さら襲撃してくる理由は思い浮かばない。あるとすればナザリックが保有するアイテムや拠点だろうか。

 日が傾き、景色に赤味が差してくる。

 今は失われた自然豊かな風景にしばし見惚れる。

 

「………」

 

 この後は夜空が広がるのだろう。

 一応、仲間達には警戒しつつ外の景色を見るように伝えておいた。

 機械文明に犯されない純真無垢な世界。

 厚い雲に覆われた毒の沼地だったナザリック地下大墳墓でもない。

 

「静かだ」

「……はい」

「静寂も時には心地よいものだ。賑やかなものも嫌いではないけれどな」

「モモンガ様が望むなら我々は全力で手に入れてごらんにいれますよ」

「いやいや、無理に荒らす必要は無い」

 

 地球人はいつから自然を手放したのだろうか。

 ここは明らかに未開の土地。

 文明が発展していけば遠い将来には色んな物を失うのだろう。

 

「……先の事は分からないが……」

 

 感傷に(ふけ)っていては先に進めない。

 だが、しかし、と思う。

 オ・●ー●●王国の城塞都市●●・ランテルか。

 とんでもない世界に来たものだ。

 少なくとも原住民は全裸がデフォルトというわけではなくて良かった。

 下半身丸出しが当たり前ですよ、と言われたらとても困る。

 

 act 14 

 

 夜空を少し堪能した後でエンリは馬車を走らせた。

 順調に行けば明日の昼ごろには●●・ランテルに到着するという。

 売る武具はこっそりと取り寄せたが金になるのか正直、不安だった。

 特徴的なものは後々目をつけられるから面白みの無い普通の武器にしてもらった。

 ガタンガタンと大きな音を立てて進む馬車。

 道がろくに舗装(ほそう)されていないので結構揺れる。

 装備品には行動阻害対策が施されているので揺れには三人共強い。

 酔う事無くのんびりと移動を満喫する。

 ルプスレギナとアウラには眠っていてもいいと言っておいたが監視は怠れないと言ってきた。

 命令に対して反論するNPC。

 絶対服従というわけでは無さそうだ。ちゃんと言い返せるところはゲームとは違う。

 

 

 アウラ達に聞くべき事が思いつかなかったので黙ってしまったモモンガだが、アウラ達は何か言わなければと色々と言葉を探していた。

 

「も、モモンガ様」

「んっ?」

「先ほどの●●●とはなんでしょうか?」

 

 大人として純真な子供に下品な言葉は言ってほしくない。だが、疑問点に答えてあげなければまたいずれ質問されるだろう。

 ナザリックに戻った時、ペロロンチーノ辺りは答えてしまいそうだ。

 ここは仲間に丸投げすべきだろうか。それとも何か良い言い訳などがあるのだろうか。

 モモンガは唸る。だが、今は周りが女性しか居ない。

 アウラは見た目は男装だが女の子だ。横に控えるルプスレギナも見た目は年頃の娘ではあるが、下ネタが好きそうな気がする。

 とてもワクワクしている顔が見える。

 

「ルプスレギナよ。勝手に喋るなよ」

「は、はい。モモンガ様」

 

 なまじ単語の意味を知っているとアンデッドの身ではあるけれど恥ずかしい。

 一つ答えてしまうと次の言葉にも答えなければならないだろう。

 大人として逃げは許されない気がする。だが、逃げたい。

 運が悪い事に目的地まではまだまだ時間がかかる。

 

「……アウラよ、隣りに座るがよい」

「いいんですか!?」

 

 発光するほど輝く笑顔をアウラはモモンガに向けた。

 とても眩しい純真無垢な笑顔に少し怯む。

 黙ってアウラを隣りに座らせて小さく囁く。

 よく分からなかったのか、アウラは『ほー』、『へー』と言いつつ自分のスボンを少し浮かせたりした。

 簡単にだが説明したものの特に恥ずかしがったりするようなことはなく、むしろそれが秘密にするほどの重大なことなのか分からない様子だった。

 まだ羞恥心の無い子供という感じだ。

 それとも闇妖精(ダークエルフ)だからか。NPCだからか。

 いや、アルベドは少なくとも羞恥心は持っていた。

 

「ルプスレギナ。あんたあんなに笑っていたクセに大したことないじゃん」

「アウラ様はまだ大人の階段に上っていないからですよ」

 

 口元をゆがめて苦笑するルプスレギナ。

 

「ルプスレギナ。妙な尾ひれは付けるなよ」

 

 と、少しキツめの口調でモモンガが言うと胸に腕を当てて(うやうや)しく(こうべ)を垂れた。

 

「はっ、(かしこ)まりました」

「……笑うなとは言わないが……、頑張って耐えてくれ」

「ぜ、善処致します」

「確かに私も……、笑いそうになったがな」

 

 本当に時と場合が違ったら大笑いしたいところだ。

 他の都市もきっと酷い名前なのだろう。

 

 act 15 

 

 深夜になり、馬車を休ませる時刻になるころエンリは手馴れた手つきで馬車を木の幹に固定する。

 今の時刻は視界が効きにくいのでモンスターが現れる可能性がある。

 それを防ぐ匂い袋を離れた場所に設置していく。

 

「友人が作ってくれたモンスター避けです。匂いは酷いですが、遠出する時は助かるんですよ」

 

 モモンガは大抵の毒物は無効化できるし、アウラも平気だ。

 ルプスレギナは嗅覚が発達しているので、少し嫌そうな顔をしていた。

 そんな彼女にモモンガは仮面のアイテムを渡す。

 毒無効の効果があったはずだ。

 それを何故、持っているのか。偽装するアイテムの一つだからだ。

 素顔を隠す場面で使えるかもしれないし、アウラ達の為に色々と持ってきていた。

 モモンガ以外は特に問題がないので無用だと思っていた。

 エンリは少なくとも闇妖精(ダークエルフ)の姿を見ても違和感が無かったようだ。だが、都市部はそうはいかないかもしれない。

 

「あ、楽になったっす。……いえ、楽になりました」

「アウラも仮面を渡しておこうか」

 

 アウラの場合は仮面よりローブが良いだろう、と思って色々と装備品を並べる。

 上から被れるものを選ばせた。

 

「少し外に出てみようか。眠りたいなら……、こっそり戻るか?」

「い、いえ。現地調査の上では外に慣れるのも仕事の一つです」

「そうか。一応、寝袋とグリーンシークレットハウスがあるが、どちらがいい?」

「グリーンシークレットハウスは目立つと思いますので、寝袋で構いません」

 

 大きさで言えばアウラの言う通りだ。

 今は旅人。変に目立つアイテムを使うのは悪手だろう。

 二人を残して馬車から降りる。

 『闇視(ダークヴィジョン)』のお陰で周りは真昼のごとく明るい。だが、今は深夜。

 本来は松明(たいまつ)が無ければ1メートル先も見えはしない。

 

「ご苦労様、エンリ」

「は、はい。私はお先に休みます。モモンガさんは遠くに行かないようにしてくださいね」

「分かりました。モンスターが現れたら退治しておきましょう」

「無理はしないように。一応、警告音を出す罠を張っておきましたので。では、お先に休みます」

 

 幌馬車の中に入るエンリ。

 長旅に慣れたエンリは自分の寝床を確保しているようで、すぐに眠ってしまう。

 異常があればすぐに起きられるように日頃から訓練しているのかもしれない。

 そんなエンリの寝顔をアウラ達は覗き込んだ。

 

「アウラ、ルプスレギナ。彼女を守ってやれ」

「畏まりました」

 

 と、二人同時に言った。

 

 

 一人外に出たモモンガは空を見上げる。そして、兜を取った。

 満天の星の輝きが広がっていた。

 

「……おお」

 

 数分、眺めた後で仲間に連絡を入れる。

 深夜にも関わらず起きているのは睡眠不要のメンバーだからだろう。

 

『ブルー・プラネットさんが大喜びしていましたよ』

「でしょうね」

『他のメンバーもそれぞれ夜空を満喫しています。……あと、モンスターの姿はこちらでは確認できません』

「了解しました。シモベを配置して一旦撤収しようかと思います」

『なるほど。少し待っていてください。シャルティアに『転移門(ゲート)』の用意をさせます』

「『転移門(ゲート)』の為に利用するのは可哀相ですね」

『待機すればMPは回復しますから』

 

 それはそうなんだけど、利用方法に問題がありそうな気がする。

 シャルティアはナザリック地下大墳墓の第一から第三階層の守護者だからだ。

 戦闘メイド辺りに覚えさせれば立場的にも楽になりそうな気がした。

 少しだけ悩みつつ、周りに敵性体が居ないか確認する。そのすぐ後で『転移門(ゲート)』が開き、警戒用のシモベ『影の悪魔(シャドウ・デーモン)』が十体現れた。

 

「お前たちは馬車の周りを防衛せよ。翌朝までだが」

 

 命令を与えた後でアウラ達と共にナザリックに帰還する。

 ほんの数時間だけの外出だが、情報を整理した後はまた戻らなければならない。

 

 act 16 

 

 アウラはぶくぶく茶釜と共に第六階層に向かい、服装の確認を(おこな)う。

 ルプスレギナには第九階層で食事と風呂と着替えをさせておく。

 

「この辺りの地図ですか……。期待が高まる世界のようですね」

 

 特に地名が、と周りのメンバー達が声に出して笑い出す。一部は夜空の観賞で不在だった。

 

「●●●ーレア・バ●●●……。名前より苗字だと思いますが、これは酷い」

「ブラジル辺りでは普通だと思いますが……。耳で聞くと驚きますね」

「●●●●●島や●●ー●の類似品かな」

 

 本当に地名か怪しい。

 少なくとも日本で地図を広げたら色んな人に殴られる自信がある。

 ふざけるな、と。

 

「行ってみたいな●●●ロ帝国」

 

 とても臭そうな気がするし、そこの食生活がとても不安だ。

 

「ぷにっとさん。俺は限界かもしれない」

「一般常識のある者はきついだろうね。たぶん私でも笑い転げるよ」

「人間は普通でしたね。あれ(エンリ)を基準とする戦略を立てる必要がありますね」

 

 自分達は異形種なので人間と敵対される確率はとても高い。

 出来るだけ友好的に触れ合えなければ悲しい結果しか生まれないだろう。

 

(ごう)に入っては郷に従え、と言いますからね。早いうちに色々と調べた方がいい」

「モモンガさんが都市に入れるならば我々もペナルティ無しで入る事が出来るかもしれません」

「そうですね。頑張ります」

「ギルドマスターなのに前面に立って大丈夫ですか?」

「こちらから仲間を送り込めますからね。他の人と言っても……、弐式さん。行って見ます?」

「炎雷さんは自室に行っちゃいましたよ」

 

 人間に近い姿でも睡眠不要が意外と多い。

 休める時に休めない種族は夜間の時間が長いので、過ごし方も考えなければならない。

 ゲーム時代はログアウトして眠るから睡眠不要は特に意味が無かった。

 今はログアウト出来ないし、種族特性が肉体と精神に影響している。

 アンデッドは飲食が全く出来ないので他人の料理が気になるけれど食べる事は出来ない。

 

「いつもならログアウトするのに今回は残る人が多くて大変ですね、モモンガさん」

「はい」

 

 考えなければならない事が多くて、と胸の内で言う。

 これからの事はメンバーそれぞれ考えているだろうけれど、先の予定がまったく未定だ。

 不安がいっぱいで弱音を吐きそうだ。

 結論は出ないだろうから朝方になるまで、それぞれ解散する事にした。

 

 

 自室の執務室には一般メイドの一人が待機していた。

 それぞれの部屋にもメイド達が居て各メンバーのお世話をしている事だろう。

 

「お前たちも寝てていいんだぞ」

「モモンガ様を差し置いて……」

「いいから休め。ずっとそこに座っていたのだろう?」

 

 口を開け閉めしつつメイドは何かを言おうとしていた。

 言い訳してはいけない、という気持ちが働いているのかもしれない。

 ずっと座っているという事は一度もトイレに行っていないとも言える。

 アンデッドの自分も便意や尿意は起きない。何も食べていないし、飲んでいないので当たり前かもしれない。

 メイドの扱い方も考えておかなければならないだろう。

 ゲームの時は気にしなくて済んだのに。今は側を歩くだけで挨拶される。

 

「ペロロンさん」

『は、はい? モモンガさんですか?』

「ペロロンさんはメイドをどう扱ってますか?」

『さっそく裸にして遊んでますよ~』

 

 嬉しそうな声に対してモモンガはげんなりした。

 

『というのは嘘です。モモンガさん、メイドの使い方で悩んでいるんですか?』

「そ、そうです」

 

 姿の見えない相手と『伝言(メッセージ)』のやり取りをするのは意外と度胸が必要かもしれない。かといって咎めることは出来ない。

 

『NPCに感情移入するなんて、モモンガさんらしくないですね』

「どうも、NPCっていう気がしないんですよ」

『命令は聞くんですから、しっかり言わないと駄目ですよ』

 

 正論ではあるのだが、それが出来ないモモンガだった。

 ギルドマスターが苦戦していると感じ取ったペロロンチーノが執務室に訪れた。

 夜間でも目立つ輝く鎧。

 武装を解くのを忘れていた為だ。

 用がない時はログアウトするのでゲームをする時は装備するという習慣が抜けていなかった。

 

「メイドに戸惑っていては今後の活動に影響しますよ」

「そうなんですけどね。なかなか命令するのが苦手なようで……」

 

 無表情のメイドであればまだいいのだが、今は表情豊かになっていた。

 自我を得てしまったせいか、人間のような気がして命令しにくくなった。

 人造人間(ホムンクルス)だからと割り切るのは自分にはまだ出来なかった。

 ゲームの時は気にしなかったのに。

 

「いつもはログアウトしてましたからね。何らかの指針は決めておかないと……」

「いいアイデアが浮かびません」

 

 弱音を吐くモモンガ。

 片隅に控えるメイドは自分の事で頭を悩ませるモモンガに多大な迷惑をかけていると思ったのか、椅子から降りて平伏し始めた。

 

「命令で動く従者として生み出したものですからね。好きにしろ、と言われても混乱するでしょうね」

 

 ペロロンチーンはメイドを立たせる。

 今にも泣きそうな顔が目の前にあった。

 

「メイドはオブジェクトだと思ってしばらく気にしない方がいい。いつまでも気にしていたら何も進みません」

「そ、そうですね」

 

 心強いメンバーにモモンガは心底感謝した。

 転移した世界に一人だけ。またはNPCだけが味方であったら、とても寂しい思いを感じたかもしれない。

 命令一つで混乱するのだから。自分(モモンガ)死の支配者(オーバーロード)という種族なのに。

 

 act 17 

 

 メイドの扱いは今考えることではないので思考を切り替える事にした。

 敵対プレイヤーが仮に居たとしてすぐに戦闘になるのか、とペロロンチーノに尋ねた。

 メイドは食堂に行っててもらった。もちろん、命令はペロロンチーノがした。

 

「ここがユグドラシルならば戦闘はありえるかもしれません。ですが、コンソールを見る限り、戦闘で何かを得る仕様で無いならば無意味かもしれませんよ」

「それは何故ですか?」

「ゲームの世界って言う保障が無いから。あっ、ちょっと待ってくださいね」

 

 と、ペロロンチーノが『伝言(メッセージ)』を使い、もう一人助っ人を呼びつける。

 植物の(つた)で出来た身体を持つ『死の蔦(ヴァイン・デス)』という種族のぷにっと萌えがやってきた。

 移動する時は人間的に形作るが植物モンスターなので顔の表情は今はよく分からない。

 表情アイコンが無いのはなかなか不便だ。

 

「敵性プレイヤーが居ないとは言い切れない。だが、戦闘行為が有益という保証もないな。我等を滅して利益になる理由があるならまだしも……」

 

 モモンガとしてはナザリック地下大墳墓を襲撃されるのでは、と予想している。

 

「この世界でアイテムの価値がどれほどかは分からないし、ゲームの世界とは違うのだからユグドラシルの常識や知識は役に立たないのではないか?」

「モモンガさんは心配性ですね」

「疑念はあるだろうけれど、まずは都市に行って情報を得たり、実際にモンスターを倒してから、また考えましょう。会議だけでは答えは出ないかもしれませんし」

「……そうですね」

「まず人間が居た。文明もある程度ある。言葉が通じた。それだけでも収穫ですよ。言葉の通じない世界だったら、都市で情報収集するのにとんでもない時間がかかることでしょう」

 

 まず言葉の壁をクリアしなければならない。

 それにはまず都市に住んで住民として溶け込む必要がある。

 

「レーヴァテインを手に入れるには世界樹の鶏(ヴィゾフニル)を殺さなければならない。手に入るところから地道に(おこな)うしかないだろう」

 

 ぷにっと萌えは頭がいい。だから、モモンガは彼の言葉はあまり理解できない。

 (がく)が無い事は理解しているけれど、ギルドマスターとしてはちゃんと把握したいところだった。

 

 

 時刻が明け方の四時になるまで今後の方針について話し合うのだが、モモンガはどうしても敵性プレイヤーが気になってしまう。

 情報は戦闘以外に興味なし。というところがあるのかもしれない。

 転移してすぐに襲われると考えるのは早計だと仲間は言う。だが、自分は頭が悪い。

 折角の宝は奪われたくない、という独占欲があるのかもしれない。

 その思想で言えば仲間たちは全て敵となってしまうとぷにっと萌えは言った。

 

「じゃあ、冒険をやめますか? それはそれで何の解決もしませんけれど」

「………」

「我々は元の世界に戻る方法が分かりません。我々はモモンガさんではないので君が何を考えているのか、言ってくれないと分かりません」

 

 しばらく長考するモモンガ。

 仲間たちに自分の考えを読め、というのは無茶なのは分かっている。

 分からないからといって当り散らしはしない。

 ただ、不安なだけだ。

 ギルドマスターなのに。

 皆の不安を解消しなければならないのに良い案が浮かばない。

 自分の進むべき道が正しいのか分からなくて(たま)らない。

 自然と机を叩く自分に気づく。小さい不安が行動に出ていたようだ。

 

「敵性プレイヤーは引き続き、皆さんに警戒してもらいます」

「了解しました」

 

 と、二つ返事でぷにっと萌えは言った。

 

「……俺がそういう命令を下して良いんですか?」

「ギルドマスターとして当然の権利だ。正しいかはどの道分からない。ならば、みんなで悩みを共有し、対処していくしない」

「うんうん」

「序盤で(くじ)けていたら前に進めませんよ。こうしている間にもナザリックの全階層のチェックは皆で(おこな)っているんですから。寝て居る者も居ると思いますが……」

 

 モモンガは申し訳ない気持ちになってきた。

 自分だけが苦労していると思っていたからだ。

 ナザリック地下大墳墓の代表者としての責任、という言葉で自分を追い込んでいたようだ。

 

「序盤の都市の内容次第では我々も偽装して他の都市に向かいます。それでいいですか?」

「敵にやられたら復活よろしく。まだ金貨は充分にあると思いますけど」

 

 いきなりミンチにされて財が減った事をペロロンチーノは思い出す。

 レベル100の復活費用は金貨五億枚。そう簡単に死んでいられない。

 ユグドラシルの金貨は拠点維持費や傭兵召喚などに使われる。

 新たな世界に来たことで色々と入用になった時、金欠では差しさわりがあるだろう。

 費用を増やす方法も今後の予定に付け加える必要がある。

 

「……頑張ります」

「応援しています」

 

 話しを終えた後で二人は自分の部屋に戻り、モモンガは執務室の机に視線を向ける。

 先の見えない世界に対して自分達はどう行動すべきなのか。

 色々と問題が山積していて無い臓器が痛むような気持ちだった。

 

 act 18 

 

 アウラとルプスレギナを伴ないエンリの馬車に戻ったのは五時ごろ。

 既に彼女は起きていて馬に餌を与えていた。

 

(かわや)にでも行っていたんですか?」

「え、ええまあ……」

 

 エンリは顔を(しか)めていたがモモンガが大きな剣を持っているので、気にするのはやめた。

 街道にはモンスターの他に盗賊も出没する。

 勝手に居なくなれば心配する。エンリは自分だけ助かればいいと思っているような薄情な娘ではない。

 

「モモンガさんは強いのかもしれませんが、世の中には冒険者でも逃げ出すモンスターが居るそうですよ」

「へー」

 

 そう言いながら出発の準備を始めるエンリ。

 手際がいいので作業はすぐに終わる。

 警戒させていたシモベ達は一定距離の場所から馬車を護衛していた。何かあればすぐに駆けつけて連絡してくる手はずになっている。

 それからモンスターに遭遇する事無く最初の都市●●・ランテルにたどり着く。

 既に検問待ちの渋滞が起きていた。

 

「検問ですか?」

「ええ。朝と晩は特に込みます」

「どんな事を調べるのでしょうか?」

「軽い身体検査です。詰め所に居る魔法詠唱者(マジック・キャスター)が鑑定魔法を使って怪しいものが無いか調べるんですよ」

 

 そう聞いてモモンガは流れない汗が流れ始める。

 自分達は色々と調べられては不味いものを持っている気がした。

 何もしていないけれど調べられるのは好きではない。

 いつもは敵の情報を調べる側だから。

 

「旅人は捕まりますか?」

「いえ、そういう事は無いと思いますよ。色んなところから冒険者が来ますし、国民以外の人も来ますので」

 

 詳しい事はエンリでもうまく答えられない。

 とにかく実際に行って確かめるしかない。

 モモンガとしては『飛行(フライ)』とかで飛んで入りたい気持ちだった。

 後々、不法入国で騒ぎが大きくなっては困るので(おこな)わない。

 アウラとルプスレギナは特に問題は無いだろう。

 

「モモンガさんは私の遠い友人という事にしましょう」

「そんな簡単で良いんですか?」

「農村の戸籍を全て王国が把握しているわけではありませんから」

 

 と、言われて少し納得する。

 どれだけの人口がいるのか分からないが文明レベルから言ってコンピュータは無いだろう。

 魔法がどれだけ万能かは確認しなければならないけれど。

 ゲームであれば何らかのウインドウが出るかもしれない。

 何かあれば逃げるだけだ。敗走もまた次の手段の(かて)にする、とタブラも言っていた。

 

 

 長い時間かかってエンリの番となる。

 兵士達が馬車を確認していき、乗っている人物達を見つける。

 

「……三人か」

 

 事前に全身鎧(フルプレート)の冒険者をいちいち裸にしたりしないことは聞いていた。

 

「●●●村のエンリ・●●●●。今回の入場の理由を述べよ」

 

 何の疑問も無く口走る兵士に対してまた笑いそうになるルプスレギナ。今はだいぶ免疫が付いたのか、しっかりと耐えている。

 

「旅人の案内役でございます。こちらの方々が冒険者になりたいというので……」

「●●●ロ帝国のスパイではあるまいな」

 

 そう聞かれて『はい』と答えるスパイが居たら見てみたい。と、思っていたらルプスレギナが手を挙げたので慌てて彼女の口を塞いだ。

 余計な事を口走りそうな予感がしたので。

 よくよく考えると自分達はまさにスパイだ。その事に気付いてモモンガは緊張してきた。

 

「その包みは何だ?」

「武具です。これを売って活動資金にする予定です」

「武器は多いに越した事は無い」

「先日に薬草は売ってしまったので、今回は案内程度です」

 

 兵士達は色々と話し合っていた。

 問題の鑑定は特別なアイテムでも持ち込んでいない限りは(おこな)わないようだ。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)のMPは無限ではない、ということだろう。

 手形を見せた後は手続きが済み、都市の中に入る事を許された。

 

「毎回、ああいう手続きをするのか?」

「私はそうですね。都市に住まわれている人は証明書を発行してもらえば楽に往復できるそうですよ。私達は商売に来ているだけですから」

「なるほど」

 

 ルプスレギナに必要事項をメモさせて都市の中心部まで馬車を進める。

 城砦都市と言われるだけあって守りは堅そうだ。

 近隣に●●●ロ帝国があり、現在は戦争の準備中なので多くの兵士が往来している。

 よくある戦乱イベントだろう、とモモンガは思った。

 

 

 まず最初にエンリは友人の居る店に直行する。

 都市に住む者ならば説明は任せた方がいいだろうと判断した。モモンガも異論は無かった。

 ●●・ランテルでは有名な薬師(くすし)でバ●●●の名前を知らない者は居ないと言われるほどだ。

 モモンガはとても可哀相と思ってしまった。

 

「ここが薬師バ●●●の店です」

 

 気にすると駄目なのだろう。だから、無視する事にしたモモンガ。

 年若い娘が凄い言葉を言うのはどうかと思うのだが、仕方ない。

 この世界では、これが当たり前なのだろうから。

 エンリは店に入り、●●●ーレアと連呼する。

 

「エンリ!? また来たの?」

 

 と、店の奥から汚い青年が現れた。

 目元を隠す髪形。それ以外は名前のような印象は全く見受けられない普通の人間に見える。

 この姿から●●●ーレアの由来は想像できない。

 

「こちらのモモンガさんに都市を案内してほしいんだけど……。忙しい?」

「忙しいけど、エンリの頼みなら引き受けるよ」

「ありがとう」

 

 モモンガは店内を眺める。

 様々な匂いが立ち込めているが薬草類のようだ。

 

「……モモンガ様、様々な薬草を販売する店のようですね。少し調べてもいいですか?」

 

 今まで大人しくしていたアウラが尋ねてきた。

 自分からそういう事を言うのはNPCでは有り得ない。

 

「店主に迷惑がかからないように許可を得てからな」

「了解しました」

 

 エンリと会話している間、二階から新たな人物が姿を現す。

 醜悪な顔なのでモンスターかと思ってしまった。

 

「お客さんかい?」

「うん。モモンガ、さんでしたね。うちのおばあちゃんのリイジー・バ●●●」

 

 青年だけではなかったようだ。

 こちらは名前は特に問題は無さそうだ。

 孫に変な名前付けやがって、と赤の他人ながら怒りが湧く。

 

「この者に色々と教えてあげくれませんか?」

 

 と、モモンガはアウラを紹介する。

 

「客が来るまでならいいよ」

 

 アウラは店内にある薬草類を尋ねていく。

 新しい世界の未知のアイテムの調査も大事だからだ。

 

「私はこの都市に初めて来たので色々と教えてもらいたい。あと、武器を売りたいのだが……。武器屋も案内してくれると助かる」

「じゃあ、店はおばあちゃんに任せます」

「おう、行っておいで」

 

 ルプスレギナは店内に置いておくことにした。後で『伝言(メッセージ)』で呼びつける事を伝えておく。

 アウラが居れば戦闘に際して問題は無いだろう。

 

 act 19 

 

 まずは資金調達から。

 エンリは村の仕事があるので挨拶の後は帰っていった。

 ●●●ーレアの案内で武器屋に入り、交渉も彼に任せた。

 店内の武器の説明は全て自分達には読めない文字ばかり。だが、言葉は通じる。

 自動翻訳が働いているようだ。

 メモさせようと思ったがルプスレギナが居ないので自分で(おこな)うしかない。

 人任せも良くないかもしれないと思った。

 今回、持ってきた武器はミスリル以下。先ほど聞いた範囲ではミスリルは貴重な金属だという話しだった。

 大騒ぎされては困るので、ミスリル製は外しておいた。

 貨幣価値は銅貨二十枚で銀貨一枚。銀貨二十枚で金貨一枚。金貨十枚で白金貨一枚と続く。

 銅貨一枚辺りの価値は日本円で二百五十円相当。ユグドラシル金貨の二百五十倍だろうか。そもそも金貨しかないけれど。

 武器を全て売って金貨六枚。

 大量に持ち込まなかったとはいえ、●●●ーレアが居なければ貨幣の価値が分からないまま追い返されていたかもしれない。

 御礼をしたいところだが、貨幣六枚ではどうすればいいのか分からない。

 

「それなりに値が付いたと思いますが……。モモンガさんの背中の剣ならもっと高い価値があったかもしれませんね」

 

 今、モモンガが背中に背負っているのは二本のグレートソードだが、これは魔法で生み出した武器だ。

 売った後で消えてしまうだろう。

 防具屋も隣にあるのでそちらでも手持ちの防具を売っておく。

 戦争を控えているので色々と買い取ってくれるようだ。

 全部で金貨十三枚となったところで一枚を●●●ーレアに渡す。

 

「またいずれお世話になるかもしれない。これはお礼だ」

「分かりました。ですが、次は冒険者組合に行かれるのですよね?」

「……そうだった」

「宿屋までお付き合いしますよ」

 

 金貨一枚を受け取り、モモンガを案内していく。

 

 

 冒険者組合は各都市に存在し、魔術師組合もある。

 モンスター退治や様々な依頼は冒険者組合で請け負い、魔法に関することは魔術師組合が担当する。

 主にマジックアイテムの売買が中心だとか。

 魔法のスクロールは高価で市民はほとんど手が出せない。

 ケガをした時は神殿に行き、料金を払って治して貰う。

 規定により、神殿を介さずに勝手な治癒魔法は使用してはならない事になっている。

 

「識字率が低いので代読料も貴重な収入源となっているんですよ」

 

 と、色々と説明してくれる●●●ーレア。

 名前は残念極まりないが懇切丁寧な人物なので大いに助かる。

 

「僕は薬草採取の依頼をよく出しますので」

「色々と教えてくれてありがとう。それより……、一つ疑問なのだが……」

「はい」

「君の名前は何か由来でもあるのか? それともこの国では不思議の無い名前なのだろうか?」

「普通の名前だと思いますよ。王様の名前は●●●ッサと言いますし」

 

 王様からして駄目なのか、とモモンガは脱力する。

 

「黄金と名高い王女様は『●●ー・●●エール・●●●●ロン・●●●・ヴァイセルフ』と言います」

 

 普通に言っているけれど、とんでもない単語が混じっていたような気がした。

 なまじ単語の意味を知っていると恥ずかしいものだ。

 つまり彼らは単語の意味を知らない、ということなのかもしれない。

 ●●●王女と呼びたくないな、と思った。

 違う()()だろう、と言いそうな気がする。

 

「冒険者登録はお一人ですか? 店に居る人も冒険者になるなら一緒に登録した方がいいですよ」

「チームということですか? そうですね」

 

 アウラ達は現地調査が目的だから冒険者は自分ひとりでも構わないだろう。だが、一人で活動するのは心許ない。

 戦闘に特化した仲間を一人連れてくるべきだろうか。

 

「今は場所だけ覚えて、登録するかは考えておきます」

「そうですか。では、次は宿屋や商店街を案内します」

「よろしくお願いします」

 

 それからモモンガは時間が許す限り、都市の様子を見て回った。

 この都市は王都ではないので城は無く、広大な墓地が特徴の大都市だった。

 オ・●ー●●王国には●●・ランテル並みの都市がいくつか存在する。

 たぶん酷い名前だと思うし、今は聞かないことにした。

 近くにある森は●●●の大森林という。

 入ると危険。普通の人間なら廃人になりそうな名前だった。

 明らかに名付けた者はふざけている。

 悪意に満ちた世界は何故だか、とても冒険したくない気持ちにさせる。

 

 

 ●●・ランテルの宿屋を拠点にしてから三日が過ぎた。

 冒険者登録をせずに調査を重点的に(おこな)ってみたが知りえた結果は(かんば)しくない。

 夢いっぱいの冒険者というイメージからかけ離れた実態が浮き彫りとなる。

 モンスターの発生率はとても低く、護衛や荷物運びに薬草採取が多い。

 冒険者の規定自体が自由度の低いものだから仕方が無い。

 戦争に参加してはいけない。

 珍しいモンスターを安易に討伐してはいけない。特に生態系の頂点と思われるものは。

 勝手に治癒魔法を他人に使ってはいけない。

 冒険者組合が事前に調査した仕事しか請け負ってはいけない。

 規約に厳しい組織だという事は理解した。

 それで人材が育つとは思えないのだが、と仲間に相談する。

 

『……それはまた厳しい世界ですね』

「市民に毛が生えた程度の仕事しかないのでしょうか」

『最初は地道な仕事が多いものです』

 

 それはそうなんだろうけれど、物足りなさを感じる。

 自分達はレベル100の凄腕プレイヤーだ。その自分たちから見れば周りは低レベルが当たり前で、文句を言っても仕方がないだろう。

 とにかく、弱くてもいいから適当なモンスターを倒して強さの程度を調査したいと思っていた。

 

 act 20 

 

 墓地を除いて立ち入り出来そうなところは一通り回った。

 飲食店の食材はびっくりするほど()()()だった。翻訳は●●●ーレアだが。

 人名、地名だけが変なのか。

 冒険者のランクも(カッパー)級から始まり、●●●級、●●●級と変に続いたりしない。

 最上位が●●●●級とかだったらと変な妄想が浮かんでしまい、混乱しそうになる。

 なんとか精神の安定化が起こり冷静になれた。

 ●●●●級ってなんだよ。規模が分からない。

 自分で思いついたとは言え、酷いものだと思った。

 冒険者組合に居る冒険者達の名前は聞き耳を立てた範囲では変な者はあまり居なかった。

 聞き覚えの無い名前が多いけれど、まんま●●●とか居ないだけマシだろうか。

 

「●●●風焼き肉定食ってどんなものなんでしょうか」

「知らん」

 

 たまに出てくる単語に喜ぶルプスレギナ。

 大人しいナーベラルにした方が良かったかもしれないと後悔するモモンガ。

 名前は酷いが料理はまとも。

 ●●●を本当に丸焼きにしたものだったらどうしようと思ったものだ。

 

「ルプスレギナ、さっき聞いたけど狼の焼肉定食があるそうだよ。食べてみる?」

 

 と、アウラが言うとルプスレギナは顔を青ざめる。

 普段は笑顔を絶やさない戦闘メイドが顔を青くするのは珍しい。というか、初めて見た。

 NPCはゲーム時代は無表情が当たり前。

 感情が視覚的に見えるのは凄いなと思う。

 

「……ど、同族食いはご勘弁を……」

「お前でもそう思うのか……」

 

 ルプスレギナは人狼(ワーウルフ)という種族だ。

 普段は人間の姿だが変身すれば赤毛の巨大狼になる。

 

「何らかのペナルティが課せられると思います」

 

 一部の種族は共食いが出来る。

 ルプスレギナは共食いに関して嫌悪感を抱いたらしく、食べたいとは思わないと答えた。

 それは自分でも分からない事らしい。つまり本能で拒否してきた、という事だろうか。

 仲間を食えと命令されれば食べるかもしれない。けれども同じ種族か、または近親種は身体が受け付けないと言ってくるのだろうか。

 NPCの反応はいつも驚かせてくれる。

 

「意地悪はそこまでにしよう。調査費用は有限だ。そろそろ次の段階に進めようと思う」

「はい」

「アウラとルプスレギナ。冒険者になってみるか? それとも他に私の共に相応しい者が居れば推挙せよ」

「おそれながら、モモンガ様の共ならばタブラ・スマラグディナ様や至高の御方々が相応しいかと」

「今回はお前達NPCを共にしたい。彼らと一緒ではモンスターの強さが計りにくい」

「シモベでいいのであれば戦闘メイドたる我々がお側につきます」

 

 折角意見を貰ったのにモモンガは不満だった。

 自分のイメージではもっと相応しい者が居るような気がした。だが、それはイメージであって形が浮かばない(もや)のようなもの。

 候補としてはナーベラル・ガンマ。それは確かに相応しい。

 メンバーの中では偽装しないと連れて来られない者ばかり。

 偽装しないでいい仲間がなかなか思いつかない。

 理想は現地の冒険者。色々と情報を持っているという点ではありがたいだろう。だが、ナザリックの秘密を知られると始末しそうだし、それによって更なる混乱が広がる気がする。

 自分の決断力の無さに辟易する。

 

 act 21 

 

 決断できない時は冒険者組合に行き、噂話しを聞くに限る。

 登録した者たちでなければ滞在してはいけない決まりは無かった。

 この国の様子や現在遂行中の依頼などをこっそりと聞き耳を立てて集めていく。

 半径数十メートルの話し声は結構はっきりと聞き取れる。

 それはアウラとルプスレギナも同じ。

 掲示板に張られた依頼書を何枚か持ってきて、丸々写させる。

 言語解析は仲間にやってもらう事にした。

 暇つぶしになるだろうから。

 問題はモモンガが理解しないと結局は仲間便りになってしまう。

 書き写したものは●●●ーレアに尋ねる。

 対訳という形でメモしたものを仲間たちに提出する。

 現地の言葉を理解するには文字を覚えただけでは足りない。

 会話は不自由しないのだから、モモンガは引き続き冒険者登録の為の下準備に入る。

 その間、仲間たちは色々と話し合ったり、自分の時間を過ごしていた。

 外に出ているメンバーは外敵が居ないか確認しつつ、拠点を隠蔽するか、田畑として利用するか相談していた。

 人の往来は今のところ無い。

 現在位置は近くに都市や村のない場所のようだ。

 ぶくぶく茶釜と餡ころもっちもちとやまいこの女性三人組は第六階層で長閑(のどか)に過ごしていて、外での活動は今は控えていた。

 自分たちが出ても騒動が大きくなるだけだと思っていたから。

 偽装する案もあるけれど、ギルドマスターが頑張っているのを邪魔したくなかった。

 ぷにっと萌えは言語の解読。タブラはナザリック内の調査。

 第十階層の資材の確認なども手分けして(おこな)っている。

 読書して過ごすものも居たけれど。

 ペロロンチーノは最初こそ、メイドを裸にしたりしていたが同じ相手では飽きるし、彼女たちは人造人間(ホムンクルス)なので動像(ゴーレム)と大差がない気がしてきた。

 反応は面白いけれど。

 

「上半身は汗をかくのに下半身は何もおきないとは……」

 

 そもそも排泄行為をしない。

 ユリですらトイレを使うのに、と。

 アンデッドなのにトイレを使うのは創造主であるやまいこも首を傾げていた。

 シャルティアもトイレを使うようだ。

 メイド達は食事をしてもトイレは使わない。試しに利尿作用の強い炭酸水を飲ませてみた。

 尿意を感じたら連絡するように言ったが、一切連絡が来ないまま一日が過ぎた。

 メイド達の内臓は異次元に繋がっているようだ。

 ユリを呼んで大量の炭酸水を与えてみた。

 首を外して直接、流し込むという方法だが。

 しばらくするとモジモジし始めるユリ。尿意は起きるようだ。

 NPCは微動だにしないのが当たり前だったので、ちゃんと人間的に反応すると興奮しそうになる。

 続いてナーベラル。こちらは普通にトイレは使うと答えた。

 エントマとシズもトイレは使うようだ。

 自動人形(オートマトン)なのに人間的で驚く。

 口があるのだから水分の摂取は出来るのだろう。

 

「君達は性欲はあるのか?」

 

 シズは無表情のまま考え、分からないと答えた。

 他の三人も分からないと答えた。

 ユグドラシルから転移して間もないし、そんな事を聞かれても困るだろう。

 今のところ身体を触っても警告音は聞こえない。

 メイドばかり相手にしているとシャルティアが怒るかもしれない。

 相手は吸血鬼(ヴァンパイア)だから生身の意見はもらえないだろう。

 第二階層のシャルティアの住処である『死蝋玄室』に向かう。

 既に訪れてはいたがシャルティアの為に作った部屋は一段と輝いて見えた。

 

「これはペロロンチーノ様。ようこそおいでくださいました」

 

 大喜びのシャルティア。

 急いでおめかしでもしたのだろうか。服が少し乱れていた。

 

「……自分で設定したとはいえ……、すげーや」

 

 規制が取り払われたことで更なる進化を遂げたような様相に笑いそうになる。

 室内には吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)が数人待機していた。

 

「いつも『転移門(ゲート)』を使う時だけ呼んで悪いな、シャルティア」

「い、いいえ、とんでもありません。与えられた仕事に不満などありません」

 

 普段は妙な(くるわ)言葉を使うシャルティアも創造主の前では言葉を改めるようだ、とペロロンチーノは何度か頷いた。

 自分で設定したのだから知ってて当たり前だ。

 だが、今のNPCたるシャルティアは自分の知らない一面を見せてくれるような気がした。

 さすがにアンデッドと●●●●は勇気がいるので挑戦は控えるが、気になる。

 姉は今頃、マーレをいじり倒しているんだろうな、と思いつつシャルティアの頭を撫でる。

 身体は小さいが信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)にして攻撃にも特化した武闘派。

 視線を彼女から外せば妙な道具がいくつか散らばっているのが見える。

 一言で言えば、素晴らしい、と大声で叫びたくなる。

 モモンガならば叫ぶ意味が真逆となるだろう。

 ロリっ子は貧乳こそ価値がある。

 そんなバカなことを口走りそうになったが堪えた。

 恒例の質問をしていく。

 紅茶を飲むシャルティアのことなのでトイレは確実に行くだろう。

 ●●●も出るのか気にはなるが、●●●を見ても仕方が無い。

 出している姿には興味があるが。

 身だしなみの関係で風呂に入る。

 『清浄(クリーン)』という便利な魔法があるけれど、温かい風呂は格別だろう。

 性欲にまみれているシャルティアは●●●●とか●●●●というのはするのだろうか。

 

「は、はい。ですが純血は守っていんす……」

 

 素直に答えるのは創造主の特権だろうか。

 ●●で●●●●するのか。

 というか女性にする質問ではないな、と自己嫌悪に陥るも性欲の強い自分はすぐに立ち直る。

 エロゲーが無ければ死ぬのです。

 シャルティアを創造して随分と経つかもしれないが●●はある意味、当たり前のような気がする。

 ●●●にしてやろうとか思ってはいない。

 

「変な質問で悪かったな」

 

 エロい事をさせる為に作ったんだっけか、と疑問に思うペロロンチーノ。

 ユグドラシルが終わった今、ナザリックの存在意義はあるか、無いのか。

 帰る家、という点で言えば有意義だろう。

 自分の部屋があるし、仲間が居る。自分が生み出したNPCも居る。

 気分が落ち着いてきたところで他愛の無い会話を交わしていく。

 

 act 22 

 

 第六階層のアウラ達の寝床となっている巨木の住処にぶくぶく茶釜は滞在していた。

 中身をくりぬいて住居としている。

 いくつかの階層に別れ、アウラ達は自由気ままに暮らしていた。

 今はマーレが居て、上の階にぶくぶく茶釜が居を構えていた。

 

「ふんふんふん」

 

 不定形の粘体(スライム)とておめかしはする。

 残念ながら風呂には入れそうに無いが、シャワーには挑戦している。

 普段はログアウトするのだけど今はそれが出来ない。

 種族の特性か、睡眠不要。食欲はあるけれど装備品のお陰で飲食も不要だ。

 アウラとマーレの為に集めた服を並べたり、修繕したりする。

 

「ほ~ら、マーレ。次はこれを着てみようか」

 

 可愛い男の娘。

 設定年齢は七十代半ば。だが、闇妖精(ダークエルフ)の世界ではまだまだ子供の部類だ。

 本物には会った事が無いけれど。

 

「ぶくぶく茶釜様。僕達は、着替えばかりしていて、いいのでしょうか?」

「いいのいいの。臨戦態勢に入る時はちゃんと出来るのよ、うちのギルドは」

 

 上半身裸のマーレを見て、興奮するぶくぶく茶釜。

 見た目には分からないけれど、小さく叫んでいる。

 なんという胸板感、と。

 エロゲー声優でもあったぶくぶく茶釜はそれなりにエロい知識がある。

 弟であるペロロンチーノに匹敵するほどに物は知っている。

 

「今日はこれを着てもらおうか」

 

 いつものスカートではなく純白の男性用スーツを見せる。

 体型的に細身のマーレには似合いそうだと思って着せてみた。

 

「おお、おお」

 

 ビシッと体型に合うのは魔法の武具だからだ。

 多少のずれは自動的に修正する機能がある。

 アルベドの持つ神器級の防具も身体に合わせて形を調整する。

 

「カッコいい」

 

 アウラもスーツ姿が似合うけれどマーレも表情さえ真面目にすれば充分絵になる。

 胸が無いならアウラでも代用は出来るが、男の子は可愛くて格好いい方がいい。

 スカート姿のまま放置していたら永遠にスカート姿のまま過ごしてしまう可能性がある。

 それはそれで可哀想なので色々な服を着るように特訓していた。

 自我を得た今のNPCなら自分で服を選ぶことも可能なはずだと思って。

 ただのゲームキャラクターなら別に気にしなかっただろう。

 ナザリックに置いて仲間たちと冒険ばかりしてきたのだから。

 今は創造主として生み出した子供たちを可愛がらなければ、育児放棄と同じだ。

 

 

 ぶくぶく茶釜は弟や仲間が居ない間に●●●●に挑戦してみた。

 結果としてはそもそも自分の●●●がどこにあるのか分からないし、感覚器官も人間のものと違うようだ。

 人並みの感情はある。攻撃を受ければ痛みも感じるだろう。

 性欲はあるのか、無いのかはっきりしない。たぶん、あるんだろう。食欲もあるみたいだが一日中粘体(スライム)というのは力加減が分からない。

 なんとなくは分かるけれど。

 一般メイドと同じく食べても排泄はしないようだ。

 分裂も出来ないようだ。

 身体を洗おうにも不定形なので汚れがあるのかどうかが分からない。きっと何か酸とかで綺麗になっているのかもしれない。

 タオルで身体を拭いても不毛な気がした。

 化粧が出来ない。

 楽ではあるけれど、人間的な事が出来ないのは少し、いや、結構不満だろう。

 女性ものの服を着る事が出来ない。

 着なくていい種族なら気にするだけ不毛だ。それは分かっている。

 

「私の代わりに色んな服を着ておくれ」

「は、はい。ぶくぶく茶釜様」

 

 自分の着せ替えを諦める代わりにアウラ達の姿で満足しよう。そうぶくぶく茶釜は思った。

 さすがに●●●●をさせる気にはなれない。

 もう少し大きくなるか、現地の森妖精(エルフ)とか掴まえてから考えればいいだろう。

 異世界に転移して数日が経過した。今さら慌てても仕方が無い。

 本来なら慌てているだろう。身体が粘体(スライム)だからというよりは種族の特性が精神に干渉しているようだ。

 人間であった頃の様々な感情が今はとても薄いと自覚できる。

 他のメンバーもそれぞれ種族に合ったものの考え方を持つようになっているという。

 人間より異形種に近い存在。

 嫌な事ばかりではない。

 今まで獲得してきた記憶は維持されている。

 段々と物を忘れてモンスターになりきる()()()()()起きていない。

 いずれ仲間同士で食い合うのでは、と危惧はしている。

 

「ぶくぶく茶釜様、どうかしたんですか?」

「んっ? ちょっと考え事。楽しい事ばかりじゃないのよ、世の中って」

 

 もし、自分ひとりだけ転移した場合、それは他のメンバーも考えている事だろうけれど。

 何所までいけるのだろうか。

 ナザリック無しではきつい。

 アイテム無しでもきつい。

 粘体(スライム)はかなり熟練したプレイヤーでもないかぎり使いこなせない種族だから。

 

『姉貴、起きてる?』

 

 と、突然に聞こえる他人の声にびっくりする粘体(スライム)

 他人というか弟だった。

 事前に音が鳴る携帯電話でもあればいいのだが、魔法による連絡手段はゲーム時代と違って容赦がない。

 

「んー、弟か? 切っていい?」

『取り込み中だった? ごめんごめん』

「まあいいけど……」

 

 魔法の仕様だから仕方が無い。これは慣れるしかないのだろう。

 戦闘に際しては重宝するのだが、プライベートな時は気分を害されてしまう。

 (あらかじ)め通信拒否設定にしておけば良かったかな、と思いつつも仲間との連絡手段を失うのは不味いかも、と思い直したりする。

 結論は今は出せない。

 

「それでどうかしたの?」

『●●●●に挑戦してみたんだけど……』

「あんた……、実の姉によく恥ずかしくも無く言えるわね」

 

 各言うぶくぶく茶釜も挑戦していたけれど。

 結果は何も感じないので無意味な行為で終わってしまった。

 それはそれで生物として色々と失った気がする。

 

『ちゃんと●●出来たんだよ。きっと子孫繁栄も出来るかもしれないよ』

「……そう、頑張ってね。……えっ? あんたの身体はアバターよね?」

 

 ユグドラシルをプレイする為に使う擬似的な身体がアバター。

 それを自分の肉体のように使う事は本来はできない。

 食事もあくまで設定された()()なので現実の肉体が満腹する事はありえない。

 トイレを使えば現実の身体がお漏らしするだろう。

 だから、ゲームの中で(おこな)う事は()()でしかない。

 匂いや触れる感触もプログラムでしかない。

 数日経った自分の本体はゲームをしたまま餓死しているか、精神体だけ切り離されて異世界転移しているので、本来の自分達は普通の生活をしているかもしれない。

 それらは確認出来ないけれど。

 

『肉体のあるアバターでも出来てびっくり。あと、人間的な感覚はあるようだね。粘体(スライム)の姉貴は無理なんだろうな』

「……くっ、だが、粘体(スライム)を今さら撤回は出来ないだろう。……それでシャルティアと●●●●でもする気?」

『アンデッドだからね。出来なくは無いだろうけれど……。異種交配とか出来たら面白いだろうね』

 

 エロゲーをこよなく愛する弟の言葉とはいえ下品極まる。だが、気持ちは分かる。

 つい自分もマーレと、と良からぬ妄想をしそうになった。

 

「無差別に襲ったらモモンガさんが怒るから自重しなさいよ」

『うん』

 

 妙に素直なところは種族が変わっても自分の弟なのだなと安心する。

 種族間の争いは今のところ無いけれど、仲間割れは想像したくないと思った。

 

『……姉貴、治癒魔法を駆使したら延々と●●できそうなんだけど……』

「はあ!?」

 

 バカな言葉を聞いてぶくぶく茶釜はあからさまに不機嫌な言葉で言い返した。

 

『もう三十二回目だけど、どんどん』

 

 強制的に『伝言(メッセージ)』を切るぶくぶく茶釜。

 それと同時に内なる自分が興奮しているのが分かった。

 治癒魔法を駆使すればいい、という部分がとても嫌らしく聞こえた。

 現実世界ではない。

 ここは魔法が使える異世界だ。

 

「……あ~……、やべー、弟がヤバイ意味で無双しそう……」

 

 人はそれを酒池肉林と呼ぶ。という言葉がぶくぶく茶釜の脳裏に浮かんだ。

 肉体のある種族で●●●●出来るなら不可能ではない。

 疲労を知らず延々と女を貪る弟。

 もちろん、弟だけではない。

 肉体を持つメンバーなら色々と危険な事を企みそうだ。現に自分もそうだ。

 なんて素晴らしいんだろう、と。

 

 act 23 

 

 一時間は身悶えしただろうか。

 ぶくぶく茶釜は長考の後でマーレを抱き寄せる。

 膝枕したいところだが、膝が見当たらない。

 ずぶぶと少し粘体(スライム)の身体に埋まるマーレ。

 力を込める、というか粘体(スライム)の身体は何所に力を込められるのだろうか。今さらながら分からない。

 だが、感覚的には堅くする事が出来ている。

 擬似的な腕も形作れる。そうでなければウインドウ操作は出来ない。

 

「マーレ、私が粘体(スライム)で嫌だなって思うことはある? 正直な感想を聞かせて」

「えっ!? ぶ、ぶくぶく茶釜様が粘体(スライム)種でも至高の御方に変わりはありません。ですから、忠誠が揺らぐことはありません」

「モモンガさんみたいな死の支配者(オーバーロード)がいいとか好みがあったりしない?」

「至高の御方々に対して不敬(ふけい)な事は、考えていません」

 

 絶対の忠誠。だが、無理に従っているという感じではない。

 創造主に逆らうNPCはそもそも存在しない、という前提があるのかもしれない。

 だが、ぶくぶく茶釜としては自我が芽生えた今、自分の考えや気持ちが生まれて独自の思想を持つ事もありえない事はないと思っている。

 与えた力は強力で敵対すれば苦戦する。

 レベル100のNPCは簡単には倒せない。

 各個撃破される事態だけは避けなければならないだろう。

 

「マーレは死ねと私が命じたら死ぬのかしら?」

「も、もちろんです。し、死ぬのは怖いですけど……」

 

 躊躇(ためら)いがあるのはゲーム時代と違う。

 従順なゲームキャラクターではない、という意味かもしれない。

 アウラを殺せ、と命じたらマーレは全力で殺しにかかるのか、それは興味半分と恐怖半分だ。

 

『姉貴』

「むっ、なんだ弟」

 

 いいところを邪魔しやがって、と怒りが湧く。

 

『六十三回目だけど全然萎えないよ』

「……二百回まであと少しだな、弟」

 

 そう言った後で六十回とはなんなんだ、と驚いた。まだ一時間しか経っていないはずだ、と。

 鳥だから●●とか。いやに早い●●で驚いた。

 少なくとも言葉が真実なら弟の部屋には行きたくない。とても臭そうな気がした。

 粘体(スライム)ならば平気かもしれないが、一歩でも立ち入りたくない。

 

『一定回数●●●と●●するようなんだよ。段々飽きてきた』

「じゃあやめろよ。それとも止まらないってか? バカかお前」

『確認作業は大事だからね』

 

 というか、姉によく平気で連絡してくるなと驚いた。

 実の姉弟(きょうだい)だから、という理由でもあるのだろうか。

 

『つまりさ、メイド達も一定回数いじると●●●しまくるんじゃないかと。排泄は出来ないから、したつもり、になるのか』

「メイドいじりはやめてあげなさい。……なんか可哀相だ」

 

 一定回数で●●するNPCが事実なら出せるNPCはとても可哀想な扱いになるだろう。

 ルプスレギナは哀れな姿になりそうだ。

 ナーベラルは無表情だが、出来なくは無い気がする。

 コキュートスは凍りそうだ。

 

『『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』と治癒魔法を併用すれば凄いだろうね』

「お前のエロい思考にお姉ちゃんはドン引きしているけれどな」

 

 よく思いついたな、と。

 いや、遅かれ早かれ自分も同じ結論に至りそうな予感はする。

 ルプスレギナは下品な単語を知りえているし、良からぬ事を企みそうなNPCだ。

 独自に意見を述べるのも遅くはないだろう。

 ふとマーレに視線を向ける。

 粘体(スライム)なので自分の視点がどこかは相手には分からない。だが、ぶくぶく茶釜は基準となる視点を持つ。

 人間の残滓があるので背後は見えない。

 本来なら人間の視点に様々な映像を周りに配置して多元視点を演出する。

 それが今は出来ない。感覚便りだ。

 肉体が粘体(スライム)なのでそれほど負担ではないが、精神的には疲労を感じる。

 前後を同時に見ると具合が悪くなりそうなものだが、それらは不快感として処理されているようだ。

 

鳥人(バードマン)だから●●ってことはないか?」

『……うう、それは……。あるかも』

「感覚的にはどうなんだ? それだけやってりゃあ、血とか出そうなものだが」

 

 治癒魔法を使っているなら血は出ないか、とぶくぶく茶釜は思ったが言わなかった。

 

『出すたびに気持ちがいいよ。血も出ない』

「……下品な弟を持ってしまったな」

 

 いつから姉に●●●●を報告するような弟になってしまったのだろうか。

 この世界に転移した時からか。

 鳥人(バードマン)だから粘体(スライム)に喋っても平気、とかあるのだろうか。

 逆の立場だったら自分は弟に自慢するだろうか。

 自慢しそうな自分が脳裏に現れた。

 どうやらペロロンチーノは間違いなく自分の弟のようだ。

 

「モモンガさんは紳士だから、派手にエロい事は口走るなよ。ただでさえ禿げてるんだから」

『そ、そうだよね。色々と気苦労が多いもんね』

「ちょっとつついたら発狂するぞ、あの人は」

 

 種族の特性で精神は安定するだろうけれど。

 

「そうだ、マーレ」

「はい」

 

 ぶくぶく茶釜の身体からずりゅりゅと音を立てながら離れるマーレ。

 服に粘液などは付かないけれど少し気になってしまう。

 

「外を調査しているブルー・プラネットさんのところに行ってナザリックの隠蔽作業などの手伝いをしてきなさい」

「畏まりました」

「敵の迎撃については今はしなくていいけれど……」

「はい」

 

 ぶくぶく茶釜は虚空に身体を滑り込ませてアイテムを一つ取り出す。

 それは『指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)』で効果は階層内の転移を自在にするアイテムだ。

 全部で百個あり、メンバーはもちろん所持している。

 

「敵に奪われてはいけないから、勝手な迎撃は控えるように」

「は、はい!」

「それと指輪の事は私が許可したと言っておきなさい。……もし、メンバーに取られたら、後でそいつをぶちのめしておくから」

 

 ぶくぶく茶釜の最後の言葉にマーレは震えて何も言えなくなった。

 言い知れない恐怖を感じたせいだ。

 至高の存在は怒らせてはいけない。NPC達にとって神の怒りは例えようもない恐怖の象徴かもしれない。

 

 

 伝言(メッセージ)は既定の時間になったので切れてしまった。

 改めて尋ねる気にはならなかったので無視する事にした。

 マーレが転移した後でぶくぶく茶釜は窓から身体を這い出す。そして、飛び出す。

 

「ひっさーつ! ●●●ショット!」

 

 と、下品な単語の必殺技名を叫ぶ。

 ピンクの肉棒と言われるだけあり、●●にそっくりな物体が飛んでいるように見えるだろう。

 着地地点は小さな湖。まるで●●●のようだ。

 ボチャン、と音を立てて湖に突っ込んだ様はまさに●●●●か●●●のようだ。

 

「乙女の●●いただきだぜ」

 

 これで湖は●●●になった、と独り言を言い出すぶくぶく茶釜。

 規制されないので下品な言葉は言い放題だ。

 

「頭部分を●●っても●●は出ないのよね。出たら出たで私の存在意義を疑いそうだけど……」

 

 妙な効果音と共に●●を噴出するピンクの肉棒。

 女だぞ、私は。と独り言を言いそうになる。

 肉棒より●●●になった方がいいのかな、という下らない事が浮かんだ。

 

「……歩く●●●……。警察が居たらそれだけで捕まるか……」

 

 卑猥も何もそういう種族なんです、という言い訳が通用すれば面白いのに。

 ●●●粘体(●●●●・スライム)というモンスターが居たら弟のペロロンチーノは乱獲するほど捕まえそうだ。

 壁一面に並ぶ●●●たち。

 そういう芸術の存在は知っているけれどモンスターで再現するのはちょっと気持ち悪いかもしれない。

 自分も●●●を壁一面に並べて観賞したら、やっぱり姉弟(きょうだい)なんだなと言われるんだろうな。

 ●●粘体(●●●・スライム)は居てほしくないが気にはなるだろう。

 今の自分は正にそんな感じだが。

 湖に突っ込んで少しだけ冷静さを取り戻し、進んでいく粘体(スライム)

 大自然と覚めるような青空。

 ここは第六階層。だから、青空は偽物だ。

 自然を愛するメンバーが丹精込めて作り込んだからこそ美しく感じる。だが、本物を見た後では劣化版のような印象しか受けない。

 それは作った当人達も自覚している。

 あくまで想像で作り上げたのだから。本物の美しさには勝てない。

 時間と共に青空は夕方となり、星空を演出する。

 偽物の空とはいえ、よく作り上げたものだと今さらながら感心する。

 ある程度進んだところで第九階層に転移する。

 そして、そのままペロロンチーノの部屋に直行する。

 ドアを叩いておく。

 

「いつまで●●●●してんだ、弟。部屋を臭くするのはやめろよ」

 

 と、言うと扉が開いた。

 

「あ、姉貴……。もう部屋は掃除したよ」

 

 心なしかげっそりしているような気がした。

 あの後、どれだけやったんだか。

 

「二百回超えでもしたのか?」

「数えるのが面倒になったけど……。いや、それよりどうしたのさ。姉と●●●●なんて嫌だよ」

「……よく平気で言えるな……」

「特に恥ずかしいと思わないんだよね。人間じゃないからかな」

 

 ぶくぶく茶釜もそれほど羞恥心は感じない。だが、人間の残滓は羞恥心を感じているようだ。

 口に出せないほどではない、というのが現状だろう。

 

「お前、私と話している最中でも●●●●してたんだな。本当に止まらなくなってメンバーから失笑を買うようなマネはやめろよ、私が困るんだから」

「夢中になると怖いね」

 

 と、言った弟の頭を粘液の触手が引っ叩く。

 今は同士討ち(フレンドリーファイア)が解除されているので普通に当たり、普通にダメージを与えられる。

 

「人前でやるなよ、恥ずかしい」

「う、うん」

「このままだとナザリックが汚れそうだ。いずれメイド達を並べて●字●●とかやらせかねない」

「見ごたえはあるだろうね。ただ……メイド達は半泣きするだろうな」

 

 それぞれ個性があって羞恥心もある。

 中には自分から下着を脱げる者も居るらしい。

 

 

 ぶくぶく茶釜は弟の様子を見に来ただけで、他に用事は無かった。

 いつまでも●●●●に夢中になっていたらどうしようと心配になったが。

 部屋から溢れ出る●●という結果は見たくない。

 去勢しても治癒魔法で生えてきそうだ。

 というところで良からぬ事が思い浮かぶ。

 

「……治癒魔法は便利そうだな」

 

 どうしようもないな、と自己嫌悪に陥る。

 第十階層の巨大図書室(アッシューバニパル)に向かい、気分転換に読書する事にした。

 膨大な蔵書を収蔵しているが大半は傭兵召喚の本だ。

 一般小説もあるし、魔法を使う本もある。

 

「これはこればぶくぶく茶釜様。ようこそおいて下さいました」

 

 声をかけた覚えが無いのにNPCから声をかけられるとびっくりする。

 図書室を管理する骸骨魔法士(スケルトン・メイジ)の司書長。

 他にも死の大魔法使い(エルダーリッチ)死の支配者(オーバーロード)も居る。

 

「みんな自我を持って動いているのね」

 

 確認した限り、全てのNPCに自我があるようだ。中には呼び出しておいた傭兵すらも。

 自動的に湧き出す骸骨(スケルトン)達は命令は聞くが喋りだす事はなかった。

 

「そういえばモノローグが静かだけど居るの?」

 

 居るよ。余計な事を言ってお茶を濁してはいけないと思ってね。

 

「大人しいから転移してないかと思っちゃった」

 

 内緒だよ。

 実は四十二人目のギルドメンバーというオチは無いから。

 君たちの前に現れるラスボスでもないので。どんな下品な内容だろうと問題なし。

 魂の抜けたヘロヘロの代理でも面白くないだろう。

 モノローグは無い者と思っていいよ。

 

「そうお? たまに出てきていいのよ。面白ければメンバーも許してくれると思うし」

 

 気が向いたらね。

 個人的にはエロい内容で楽しいから、もっとやれと思っているよ。

 てっきりマーレを●●させて遊ぶものだと思ってたのに、残念。

 

「むっ。それは……、ちょっと考えたけど……。弟がやっちまったからげんなりしたところ」

 

 魔法とはなんと便利な事か。では、またいずれ。

 モノローグは本来の役目に戻り、気配を消していった。

 ぶくぶく茶釜が見えない相手と語っていたので近くに居たアンデッド達は小首をかしげていた。

 

「ぶくぶく茶釜様。何か気がかりでも?」

「ううん。独り言。色んな事があって、つい不満が漏れたようね」

 

 そう言いながら読みたい本を物色する桃色の卑猥な粘体(スライム)

 探す姿はまさに●●にそっくり。

 粘体(スライム)といっても触れたものを濡らしたりしない。

 身体の水分が付着しないのは本人も不思議だと思っている。

 

 

 自室でアルベドいじりをしていたタブラ・スマラグディナは。

 

「エロい事はしてないよ」

 

 なんだよ、クソ。

 

「急に出て来たな、モノローグ。今はアルベドの部屋を構築中だ。何もやましい事はしていない」

 

 タブラの側に控えるアルベドは何度か頷いた。

 使っていないメンバーの部屋をNPCに使わせるのはモモンガに申し訳ないので自分の部屋を改造する事にした。

 各人の部屋は広いので一人二人の寝室を用意する余裕はある。

 一人部屋も広すぎると寂しさを感じる。

 アルベドの要求に色々と応えつつ設計を続ける。

 ここだけ見れば真面目な異形種だ。

 ペロロンチーノのようにエロい事が好きかというと興味がある程度で熱中するほどではない。

 不満があるとすれば好きなジャンルの映画鑑賞がリアルで出来なくなった事だろうか。

 だからといって戻りたいかというと、戻りたい。

 戻れるなら戻りたい。自室にはたくさんのコレクションが並んでいるのだから。

 

「戻ったところで動画観賞だけなら別に無理して戻りたいとは思わないが、勿体ないとは思う」

 

 大金をつぎ込んで集めたのだから当たり前だ。

 せめてデータだけでも残ればいいのだが、ゲームに持ち込めるほど軽くは無い。

 動画を見る為にログインするバカは居ない。

 

「書籍で我慢するか」

 

 小説本なら結構な冊数を揃えている。

 それでも待ち時間を潰す程度しか持ち込んでいない。

 現地の書籍をいくつか手に入れる必要があるだろう。

 

「アルベドの寝室はこの辺りとして、内装は任せる」

(かしこ)まりました」

 

 その後、必要な材料を選ぶ為に移動を開始するタブラ。

 アルベドには部屋が完成するまで行動の自由を与えておいた。

 

 act 24 

 

 ナザリックの様々なパスワードを管理する戦闘メイドの『シズ・デルタ』と共にタブラは宝物殿に向かった。

 金貨が山と詰まれた景色が二人を出迎える。

 

「……タブラ・スマラグディナ様。……毒が充満している」

「うむ。それは知っている。……しかし、よくもまあ集めたものだ」

 

 最初の部屋とはいえ(うずたか)く詰まれた金貨と壁際の棚に収められた数々の調度品の輝き。

 ゲームが終わった今、無用の長物なのだが、捨てるに捨てられない。

 これらはこのまま飾っていた方がいいのか、後の資金源にすべきなのか。

 色々と考えなければならない時が来るかもしれない。

 アルベドの部屋に飾るいくつかの調度品を選ぶ。

 女性が寝泊りするのだから、むさ苦しい部屋では可哀想だろう。

 いくつかアイテム製作のための予算も集めておく。

 現在の資産はメンバーが数回全滅しても充分なほどの量がある。

 毎回死なれれば減っていく。増やす計画も考えなければならないだろう。

 

 

 宝物殿での用を済ませた後、第十階層に行き、第九階層に行く。

 シズは念のために連れて行ったが役に立てる場面が無かった。

 重要な秘密をもつNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)だから外には出せない。

 戦闘にも参加させられないかもしれない。なのに戦闘メイドというのは致命的な失敗のような気がする。

 食事をしながらタブラが色々と悩んでいるとシズが隣りで黙々と自動人形(オートマトン)専用の飲み物を飲んでいた。

 黙っていれば可愛い娘に見える。

 

「これはこれはタブラ・スマラグディナ様」

 

 と、挨拶されたがタブラはすぐに声の主を見つける事が出来なかった。

 それはほんの数秒だけだ。

 足元に顔を向けると声の主が居た。

 

「エクレアか。いつもは小脇に抱えられているのに珍しいな」

 

 移動する時はシモベの小脇に抱えられるものだとタブラは思っていた。

 執事助手でペロロンチーノと同じ鳥人(バードマン)という種族だが、エクレアは小さなペンギンの姿だった。

 

「彼らは仕事の最中で私は休憩中というわけです」

 

 エクレアの主な仕事は清掃業。

 男性専用のトイレ掃除が主な仕事だ。

 女性は一般メイド達が(おこな)っている。

 エクレアはエロい事とは無縁そうなので面白くないな、と少し残念に思うタブラ。

 ペンギンの●●●●を楽しみにしているメンバーはおそらく居ない。ペロロンチーノも興味を示さないだろう。

 

「いずれナザリック地下大墳墓を()()()()()()なのですから清掃はかかせません。時には休憩も必要なのです」

「それは楽しみだな」

 

 エクレアの設定についてメンバーの中で文句を言う者は居ない。それはモモンガであっても。

 ガス抜きは必要だという事でNPCの中にはギルドメンバーの意に沿わないものがいくつか存在する。

 代表格がタブラが創造したニグレド、ルベド。他にはニューロニストと恐怖公などだ。

 全てが同一規格では色々と失敗するおそれがある。

 ゲシュタルト崩壊を防ぐ意味では必要な措置だ。

 

 act 25 

 

 戦闘メイドのナーベラル・ガンマはモモンガの執務室の周りを往復していた。

 呼び出されたはずなのに一向に命令が来ない。

 それでも何か意図があるのではないかと思い、警備任務だと自分に言い聞かせて歩き続けていた。

 そこへ執事の『セバス・チャン』が訪れる。

 攻撃力ではNPCの中では最強の部類に入る。普段は人間の姿をしているが彼も立派な異形種だ。

 拳を主体とする戦闘に特化している。

 ギルドの創設者『たっち・みー』に創造された彼は質実剛健を絵に描いたような真面目さがある。

 見た目は老紳士だが、生み出されて十年ほどしか経っていないので中身は意外と若者だ。

 悪に傾いたカルマ属性のギルドメンバーとNPCの中でセバスはかなり善に傾いている。

 それでもギルドに忠誠を誓うNPCなので『至高の四十一人』と彼らが神のように(あが)めるギルドメンバーを尊敬している。

 

「ナーベラル。先ほどから部屋の前を往復してどうしたのですか?」

「セバス様。モモンガ様に呼ばれたのですが、お部屋にはいらっしゃらなくて……」

「では、モモンガ様の所に向かわれればいいでしょう」

「い、いえ。我等に外出の許可は与えられておりません」

「……うむ。了解しました。それでナーベラルは命令の齟齬で悩んでいるのですね」

 

 ナーベラルが申し訳無さそうに頭を下げる。

 今の調子では連絡も通じないのだろうとセバスは読み取る。

 

「他に優先すべき事柄が発生したのかもしれません。ナーベラルは落ち着いて対処するといい」

「畏まりました」

「主のお帰りが遅くなるといけません。維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)の貸与を願い出ておきます」

「ご迷惑をお掛けします」

「何事も不測の事態はつきものです」

 

 ナーベラルが一礼した後、セバスは他の至高のメンバーに会いに向かった。

 そのすぐ後でユリ・アルファを伴なったやまいこが現れる。

 

「あら、ナーベラル。こんなところに居たの?」

「は、はい」

 

 戦闘メイドの服装からヒラヒラの多いドレス調の服装に着替えたユリに気が付く。

 だが、すぐに指摘する事は(はばか)られるだろうと判断して黙っている事にした。

 

「ナーベラルもドレスを着てみる?」

「今は勤務中ですので……。申し訳ありませんが今はお断りさせていただきたく存じます」

「真面目ね~」

 

 ちゃんと拒否するところは凄いなとやまいこは思った。

 主に絶対服従。そう思い込んでいたが実際には色々と違うようだ。

 ちゃんと自分で判断して適切な答えを導き出そうとしている。

 以前のNPCとは大違いだ。

 

 

 仕事中のNPCを苛めてはいけないだろうから、やまいこ達は立ち去った。

 残ったナーベラルは命令を拒否したのではないかと思い、冷や汗をかく。だが、相手は納得してもらえたはずだから問題は無いだろう。

 問題があるならば即座に自害すればいい。

 そんなことを考えている内にセバスが戻ってきた。

 

「どうかしましたか?」

 

 顔色が悪いナーベラルにセバスは尋ねた。

 

「や、やまいこ様の要望を拒否してしまいました……。わ、私はモモンガ様の命令を優先しようと思っただけ……なのですが……」

「同じ至高の御方々の命令……。例えそうであっても最初の命令が重いのは必定。後でモモンガ様に申し開きをすれば許してくださるかもしれません。私も一緒に謝罪しましょう」

「も、申し訳ありません」

 

 命令の優先順位というものがあるならば最初の命令が重い。

 立場の違いで言えば至高の存在が常に一番なのは当たり前だ。

 だが、今回は至高の存在の二者が別々の命令を下した。この場合はどちらを優先すべきだろうか。

 ナーベラルにとってどちらも選べない問題かもしれない。

 少なくともモモンガは『アインズ・ウール・ゴウン』を束ねるギルドマスター。至高の頂点。ゆえに他の至高の存在よりも上位である、はずだ。

 下位というわけではないだろうが、最上位の命令は何よりも優先すべきもの。よってナーベラルの選択はあながち間違っていない。

 弁明する機会を進言すれば助命されるだろう。

 

「今はモモンガ様の命令を優先すべきでしょう」

 

 借りてきたアイテムをナーベラルに渡す。

 

「二つの命令を同時にこなすのは難しい事です。時には難題にぶつかる事もあるでしょう」

「……はい」

 

 仮に自分が全く違う命令を受けたら片方を犠牲にするだろうか。

 両方同時に出来る保証が無い場合もあるだろう。

 

 

 セバスは空いた時間にぷにっと萌えに尋ねた。

 

「それは難儀するだろう。命令系統で言えばモモンガさんが最上位で構わない。時には意地悪する者もいないわけではないだろうが……。ナーベラルに命令を与えて忘れているかもしれないな。連絡はしておこう」

「ありがとうございます」

「NPCも悩むとは興味深いな」

 

 転移して一週間くらい過ぎたとはいえ、NPCに命令するのが板についたような気がした。

 それが当たり前という気持ちがあり、他のメンバーも大物ぶった言い方をしている。

 種族や役割に精神が影響を受けているのかもしれない。

 メンバー同士は普通に話している筈だが、妙なものだと思う。

 命令する立場というのが原因なのだろうか。

 友達ではなく部下という認識だから、とも言える。

 セバスを下がらせてモモンガに連絡を入れると案の定、命令した事を忘れていたという。

 下手をすれば数ヶ月も執務室の前を往復するのではないだろうか。

 特に不死の異形種が多いから、命令を忘れた事で酷い結果になる事もありえる。

 永遠に次の命令を待つNPC。

 自然とぷにっと萌えは戦慄する。

 自分達はまだ好き勝手に動き回れるけれど、自分たちが生み出したNPCは命令が無い限り、勝手なことはしない傾向にある。

 好きに生きろ、と言ってもおそらく実行は出来ないだろう。そんな気がする。

 一度、メンバーを集めてNPC達の処遇を討論する必要があるだろう。

 彼らNPC達に永遠の牢獄を味合わせないために。

 

 act 26 

 

 女性メンバー最後の一人、餡ころもっちもちはメイド長『ペストーニャ・ショートケーキ・ワンコ』の部屋でくつろいでいた。

 一般メイドと同じくペストーニャも人造人間(ホムンクルス)の女性メイドなのだが、彼女は頭部が犬だった。

 二種類の犬の頭部を繋ぎ合わせたのか、縦に縫い合わせた後が残っている。

 その頭部は被り物ではなく、彼女の肉体の一部として動いている。

 高位の神官職で戦闘メイドに匹敵する強さがある。

 

「普段はのんびりできなかったから、今は新鮮だわ」

 

 疲れたらログアウトする。それが当たり前だった。

 今はナザリックにある自室で寝泊りできる。

 あまり使わなかったクセに一般メイドに掃除させていたのが今は申し訳ないと思った。

 主が不在でも綺麗にしてくれるメイド達に深く感謝する。

 

「ペスは可愛いのう」

「ありがとうございます、わん」

 

 人間的な表情は出来ない。

 頭はやはり犬そのものだ。

 本来なら頭が割れて触手が出る仕様にする予定だったが可愛いペストーニャが気持ち悪くなるので、そういうギミックは詰め込まなかった。

 メンバーの多くが犬好きで猫系モンスターが殆どナザリックには居ない。

 居たとしても狐だ。

 他のメイドと違い、魔法も使える。NPCなのでレベルは固定されているだろう。

 ゲーム時代は気にしなかったキャラクター達が命を吹き込まれたように動き回るのは感慨深いものがある。

 ペストーニャには尻尾もある。

 どうやってデザインしたんだろうと創作者である自分も不思議に思うところだ。

 空中に浮いた失敗作だったら、やはり空中に浮いた状態になるのだろうか。

 適当に製作しなくて良かった。それはきっと他のメンバーも思っているだろう。

 軽く尻尾を引っ張ると繋がっている事が確認出来る。

 顔の表面をなぞると凹凸も違和感がない。

 口に手を入れれば舌の柔らかさが分かるかもしれないが、やめておく。

 

 生命の創造。

 

 自我が芽生えたとはいえNPCが一つの生物として存在するのは改めて考えると凄い事だろう。

 ゲームのキャラクターというよりは本当に一つの生物にしか感じられない。

 それはゲームの登場人物ならば別段、不思議は無いのかもしれない。

 普通ならばありえないことだが、ありえてしまう世界は凄いと何度も思ってしまう。

 命を与えた存在は神。NPCにとっては尊敬すべき存在たるギルドメンバー。

 色々と思うところはあるけれど、理想が現実になるというのは悪くは無いだろう。それと同時にこれからどうしようという問題が浮上する。

 元の世界に返る時、一緒には連れて行けない。かといって全員処分というのも可哀想だろう。

 創造主が決めた事に反論はしないかもしれないけれど。

 未来永劫、この地下世界で幸せに暮らせ、とは口が裂けていても言えない。

 

 act 27 

 

 戦闘メイドの『エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ』は領域守護者『恐怖公』の居る黒棺(ブラック・カプセル)に向かっていた。

 第二階層に存在するこの施設には(おびただ)しい数の眷属に支配されていた。

 管理する恐怖公の眷属はゴキブリ(コックローチ)で統一されている。

 小さい者から大きい者まで。

 無限に召喚されて一時は拠点から溢れ出す所だった。

 食欲旺盛で食べ物がなければ仲間を食べればいいじゃない、を地で行く種族だ。

 エントマは蜘蛛人(アラクノイド)という異形種で主な食料はゴキブリ(コックローチ)だった。おやつ感覚で食べてしまう。

 巨大な眷属はバラバラにしなければ無理だが、ナザリックの中を埋め尽くされるわけには行かないので眷属食いは許容されている。

 第七階層の溶岩地帯に捨てる事も検討されていたが今はエントマに任せている。

 ナザリックの女性陣はゴキブリ(コックローチ)が苦手でアウラも毛嫌いしていた。

 

 

 戦闘メイドの『ソリュシャン・イプシロン』は動かなくなった至高の存在『ヘロヘロ』の部屋で清掃や身の回りのお世話をしていた。

 不定形の粘体(スライム)で最強種の古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)のヘロヘロはフリーズしたまま転移した影響か、目覚める事が無かった。

 身体は今もさまざまな形に変化はしているけれど受け答えは出来ない。

 

「ヘロヘロ様、昼の業務が終わりましたので失礼致します」

 

 返事を返さぬ主だと分かって入るけれどソリュシャンにとっては大切な存在だ。

 部屋を出ると一段と不機嫌な顔をするソリュシャン。だが、自分だけが不幸という事は無い。

 主そのものが不在の者も居るのだから。

 身体があるだけまだ自分は恵まれているのかもしれない。そう思うことにした。

 

「ヘロヘロさんは相変わらずかい?」

 

 と、尋ねてきたのは同じ粘体(スライム)系のベルリバーだった。

 

「はい」

「あの人は寝ている方がいい。今まで苦労してきたのだから」

 

 アバターだけ残っているけれど、死んでいるわけではないようだ。

 精神だけが消失した抜け殻の粘体(スライム)

 酸による物体の溶解も起きていないようだから、そのまま寝かせておく方が安全だろう。

 

「お世話が出来るだけありがたいのでしょう。いつか目覚めるその時まで」

「引き続き、ヘロヘロさんの部屋は君に任せるよ」

「畏まりました}

 

 見目麗しい娘のソリュシャンは粘体(スライム)系の異形種で本来は不定形の存在だが、人間の娘の姿で活動している。

 粘体(スライム)なので人間の女性のような感覚器官は無い。

 体型を身体の容量が許す限り変化させられる。

 体内にアイテムを収納できる。人間台の生物も何体か収める事が出来るという。

 なので●●●●をたくさん増やす事も可能。

 てのひらに●●●を再現する事も可能。

 ただ、粘体(スライム)なので触ったりするのは不毛だ。見るだけしか楽しめない。

 面白いけれど。

 命令次第では●●がたくさん生えることも可能ではないかと。

 

「……そんな知識を何故、ソリュシャンが持っているのかが不思議だ」

 

 覚えさせた覚えのない単語を流暢(りゅうちょう)に喋る。

 自分達の知識に無い人体の神秘について、とても詳しいのは驚きだ。

 そんなNPCにも分からない事がある。

 ユグドラシルの全てのデータだ。

 世界級(ワールド)アイテムの存在は知っている。けれども全容は知らないという。

 ギルドが保有するアイテムの知識もあまり持っていない。

 

 act 28 

 

 都市の調査に一区切りを付けてナザリックに帰還したモモンガは仲間達に情報を渡す。そして、それらを精査していく。

 第九階層の円卓の間はお遊び気分は無く、それぞれ真面目に討論が始まる。

 

「都市の活動、ご苦労様です」

「ありがとうございます」

「ナザリック周辺は隠蔽する事にしましたが異存はありますか?」

 

 タブラの言葉にモモンガは手を挙げて了承の意を示す。

 

「NPC達の命令ですが……。こちらはちゃんとしないと彼らは延々と遂行しようと動き続けるようです。自分で途中でやめようという判断が出来ないみたいですね」

「そこは機械的ですね」

「我等は彼らの創造主。逆らうことは出来ないし、その権利も無いと思っているようです」

 

 モモンガは唸る。

 自分達はそこまで偉い存在だと思っていなかったから。

 ゲームが終わればログアウトしてしまう。NPC達の将来など考えた事が無かった。

 今はその無機質なNPC達が血の通った生命体として存在している。

 無視し続けるのは不味いだろう。

 

「……あれ? ……これギャグ小説じゃありませんでしたか?」

「シリアスのタグついてただろ」

「そこっ! メタな発言は慎んでください」

 

 と、ぶくぶく茶釜が言った。

 

「あまりにも真面目なんで……」

「今後の事を考える上では避けて通れないからだろう?」

「ギャグも勢いだけで行っちゃうとあやふやな状態でエタるじゃん。同じような事してたら飽きると思うよ。ねっ? モノローグ」

 

 そうだそうだ。いちいちテメーらに突っ込んでられねーんだよ、ボケ。

 ノリツッコミばかりで面白いと思うか、バカタレが。

 

「……おお、モノローグは健在か。なんか安心した」

「エロい路線に行くのかと思ってたのに」

 

 それは『ゲームオーバーから始めようか』でやってしまったから、こちらはあくまで考察のみでチビっ子でも読めるようにしているだけ。

 

「……別の作品の事を言われても……」

 

 エロい路線なら『R-18』タグ付けないといけないじゃん。

 どうせ、喘ぎ声ばかりになるから面白くないんだよ。考察程度でいいと思うけど。

 それともガチでエロい方が良かったのか。

 

「はい」

 

 正直に答えるペロロンチーノ。

 

「モノローグは黙っててくれませんかね。今はナザリックの方をメインに議論したいんで」

「真面目な話しでいいんですか、モモンガさん」

「俺はそちらが好きです」

「アインズ様と呼ばれなくなりますよ」

「メタ発言禁止っつったろ、弟っ!」

 

 容赦の無いぶくぶく茶釜の一撃に昏倒する鳥人(バードマン)。すぐさまやまいこが治癒魔法をかける。

 同士討ち(フレンドリーファイア)が解除されたままなので攻撃が当たる。

 

「他の作品ではアインズ様が主流のようですが、こちらはカルネ村が存在しませんからね」

「●●●村ですもんね」

「カルネ村ナンテ知ラナイヨ」

 

 と、誰かが片言の日本語で言った。

 

「神の視点で言えばなんでもアリになってしまいますよ。あと、メタ発言すると茶釜さんに容赦なく殺されると思うので自己責任でお願いします」

「もう少し容赦してほしいな、この肉棒」

「私はNPCの将来を心配しているんで。ふざけた発言にちょっと敏感ってだけだよ」

「お優しい限りです。でも、彼らは原住民のような生命体と違う気がします」

「それはそうだけど……。自主的に色々と話しが出来ると……、愛着が湧きそうだよ」

「茶釜さんは自分のNPCが自主的に動いて平気な方だったっけ?」

「……自分の趣味が露呈するようで恥ずかしいけれど……。シャルティアも趣味を除けば可愛いし、慣れてしまえば平気かもって……、ちょっと思ってる」

「俺はそう割り切れる皆さんが羨ましいですよ。今日まで何度精神が安定させられた事か」

「モモンガさんは童貞ですからね。あと、冴えない主人公属性がマックス」

 

 ズバズバとはっきり言うメンバー。

 モモンガは彼らの性格も転移後に色々と変化しているのではないだろうかと考えていた。

 転移前と雰囲気が違う、と。

 ものの考え方はいつもの事だけれど、ゲームをプレイしていた頃とは違う。それがうまく説明できないのがもどかしい。

 

「……そんなにはっきり言うキャラでしたか?」

「ほら、あれですよ。アバターの種族特性に引っ張られているんです。モモンガさんもアンデッドの特性が幾分か影響しているはずですよ」

「そういうものですか?」

「童貞要素はあまり変わっていないようですが。いずれ自分でも分かる時が来ると思います」

「はぁ……」

 

 童貞を連呼されるとバカにされている気分になる。

 メンバーなんか居なければ気が楽なのに。

 と、思う貴様。

 

「は、はい!?」

 

 原作小説と二次創作を読んでこいよ。アインズ一人だけでどれだけ苦労しているか分かるから。

 

「それはよその作品だから……」

「気苦労の絶えないアインズ様ばかりですもんね。転移してカルネ村でバトル。戻って忠誠の儀。ワンパターンも数が多いとウザイの一言で片付けられます」

「それに比べてお約束をぶち壊す今作は類を見ないんじゃないですか。まず読者に正々堂々とケンカを売る作者。何が目指せ青評価だ、バカじゃねーの、と多くの小学生が思ってますよ」

「実際バカなんだろう、この作者。……名前は『Alice-Q』って言うのか……」

「エロい小説書きやがって」

 

 魔法が便利という事を強調したいから、ああなったわけだから。作者的にはエロは()()()としか思っていないようだよ。

 最新の山小人(ドワーフ)編も真面目一辺倒だし。

 あと、原作の『オーバーロード』が嫌いで書いた二次創作らしいよ。だから、悪意がちらほら散りばめられている。アインズへの憎しみが原動力ってことかな。

 

「文字数が凄いと評判らしいな。たかが200万字ちょっとだろ? 某宇宙英雄に比べれば……。ハヤカワ文庫で……、五百巻超えはしてたな。今の時代だと5000巻くらいになるのか? 出版社が倒産していなければ……」

「『四庫全書』より多いな」

「グインなんとかっていうものの十分の一も書いてないよ。それと電撃文庫に比べれば薄い薄い」

「原作小説一冊より分量が少なくてがっかりしてたみたいだね。100キロバイトほど少なくて」

「100キロバイトは五万字ほどだな。えらく差が付いてるじゃねーか」

 

 『Alice-Q』という作者はエロい話しに重点を置いていないらしい。

 そもそも主人公はアバターだから。

 ラキュースとクレマンティーヌを生かすストーリーが書けなくてがっかりしてたみたい。

 

「……よそのお話しはそろそろやめてくれる? 全員、死んでもらう事になるけど?」

 

 触手のように腕らしき部分を振り回す血管が浮きそうなぶくぶく茶釜。

 まさに●●した●●そのものだ。

 今にも●●しそうな姿は失笑ものだった。

 

「オホン。話しを戻しましょうか」

「……そうですね。●●でもされては場が臭く……。失礼……」

「擬似的でいいならやってやるぞ、コラ!」

 

 頭部らしき部分をメンバーに向ける怒れるぶくぶく茶釜。

 分かっててやっているところは彼女もエロの知識を持っている大人の女性である証拠だ。

 横に控えている復活した(ペロロンチーノ)が苦笑していた。

 

 act 29 

 

 討論は気が付けば丸々一日を費やしていた。

 睡眠が必要なメンバーは途中で退場し、残る者たちだけで様々な議題を検討していく。

 敵が居ない分、議論が白熱する場面もあった。

 

「命令系統をちゃんとマニュアル化する必要がありますね」

「今のところ罠は解除していていいでしょう」

「平原に畑を作りたいのだが……」

「それは今はやめた方がいい。領地制度があるなら後々、色々と面倒くさい事になる」

 

 仲間たちが調査した結果、ナザリック地下大墳墓はオ・●ー●●王国の領土内に存在する事が判明した。

 遅かれ早かれ、いずれ不審に思った誰かが調査に来るかもしれない。

 

「この辺りの土地を合法的に手に入れる方が安全策だと思います」

「そうすると税金問題が浮上しそうですね」

「……ん……」

「モモンガさん、唸ってばかりですね」

 

 タブラが表情アイコンで言えば苦笑を浮かべているところだった。

 

「みんなで作ったナザリックなのに王国に税金を払うんですか?」

「土地の所有権は国ですよ、モモンガさん。自分の家を建てても国に税を払うのは常識です」

 

 ナザリック国という独立国家を作るのでなければ、とタブラは言い、ぷにっと萌えも頷く。

 国として存在させるにはオ・●ー●●王国と戦い、領土を奪い、国家を形成する必要がある。

 現地調査もままならない内に国を作ろうとすれば後々、大変な労力を強いられる事になる。

 それは原作小説を読めば分かることだ。

 

「原作はあまり関係ないんじゃないかな。あっちはあっちだよ、モノローグ」

「我々は国の運営はやりたくないな。外交とか絶対にやらないといけなくなるし」

「どうしてですか?」

 

 頭の悪いモモンガは何もわからない。

 

「大きなお世話だ」

「外交を適度にしておかないと怪しい国家として糾弾されて攻め込まれるからだよ。友好的でないものは敵でしかない。我々がよそのギルドを襲撃するようなものです」

「異形種だから敵だと言われて襲撃されるの嫌でしょ、モモンガさん」

「……はい」

 

 バカだから言い返せないと相手に従うしかなくなる。

 これだから()()()は。

 

「……ゆとり世代ではないので違いますよ、モノローグ」

「あと、よその二次創作を参考にしろ、と言われても困りますから」

 

 おう、分かったぜ。

 まあ、参考になりそうなのは何かあったかな。

 原作自体、何の参考にもならねーし。困ったもんだ。

 

「そもそも完結してませんからね」

「まずは目標を立てましょうか。とりあえず、という意味で」

「モモンガさんの目標はそこらの作品同様に『世界征服』ですか?」

「それは魅力的だけど……。よその二次作品と一緒というのも芸が無いですよね」

「『粗製乱造』っていうんですけどね、そういうのは」

「メンバーに丸投げします。国が出来るまで」

 

 主人公が決断を放棄する。

 

 前代未聞。

 空前絶後。

 一日一膳。

 ●川書店。

 満員御礼。

 発売延期。

 作者逝去。

 三寒四温。

 温故知新。

 懲役十年。

 独立戦争。

 正体不明。

 

「……おいおい、一つ不吉な言葉があるぞ」

「一日一善じゃないのか?」

作者(Alice-Q)の食生活はまさに一日一膳。あながち間違ってないから、そのままだってさ」

「あれ? 『オーバーロード』だから出版社名は配慮しなくていいんじゃないのか?」

「系列だけどね。強い力には弱い腰抜けさ」

「四文字熟語ならなんでもいいってわけじゃないぞ」

「ギルドマスターが決めた事に従う。それはそれで別に問題は無い」

 

 大人しくしていたメンバーの一人が言った。

 

「モモンガさんに何でも答えを出せとは言わないよ。一緒に悩んであげるから、疑問があれば相談しよう」

「ありがとうございます」

「まず、王国に超位魔法を放ってさっさと降伏してもらいましょうか」

「……いきなりですか!?」

「交渉とか面倒くさい。どうせ、ウザイ貴族の小言ばかりなんでしょ」

 

 はい。

 

「おいおい、モノローグ。身も蓋も無いことを……」

「首都さえさっさと落せば他の都市はどうにでもできますよ」

「強引な手法はちょっと……」

 

 モモンガとしては折角冒険者になろうと必至になって文字の勉強も始めたばかりだった。

 色々と面倒くさい規約があると聞いていたので、まだ登録はしていない。

 

「平和的で進めるなら時間はかかりますが……。急ぐ理由も無いですし」

「変化が生まれるまではのんびり世界を調べましょう」

「了解しました」

 

 モモンガの一言にそれぞれ了解の意を示していく。

 反対意見は無いけれど、モモンガとしては異論が出たらどうしようと戦々恐々としていた。

 もう少しきつい言葉が出ていたら精神が安定化されることだろう。

 ならば、バーカ。

 

「はっ!?」

 

 と、悪口に反応して怒りが一気に湧き、そして、安定化する。

 意外と簡単な着火剤(ちゃっかざい)のようで面白い。

 

「ううっ。このモノローグ嫌いです」

「悪口に敏感なモモンガさんも悪いですよ。社会人なんですから、設定では」

「設定って……。メタ発言は私も駄目かもしれません」

「我々は色々と平気ですね。現実の身体が誰かに殺されない限り」

「嫌ですね、それは」

 

 ●●●。●●●。

 

「発想が幼稚ですね、このモノローグ。私は好きかもしれない」

 

 ●●●、●●●、●●●、●●●、●●●。

 ●●●、●●●、●●●、●●●、●●●。

 ●●●、●●●、●●●、●●●、●●●。

 ●●●、●●●、●●●、●●●、●●●。

 ●●●、●●●、●●●、●●●、●●●。

 

「どっかで見たような文字の並びですね」

黒い仔山羊(ダーク・ヤング)の蹂躙シーンですね」

「原作小説のことは関係ないので、やめてくれませんか」

「……これのどこが蹂躙シーンなのか……」

 

 片翼七万人の命は即座に奪われた。

 

「これで!?」

あの超位魔法(イア・シュブニグラス)でこんな奪われ方なら、とても可哀想なことだ」

「潰す音じゃねーし」

「音ですらないじゃん」

「モノローグが自由だとストーリーがメチャクチャになりますね。誰ですか、呼んだのは?」

「……私かも……」

 

 と、答えたのは桃色肉棒の粘体(スライム)だった。

 

「姉貴が!?」

「たまにならいいが、暴走させてはいけないようだ」

「●●●っていう擬音かも知れないよ」

「それにしても伏字が多いな。本来はなんて書いてあるんだろう」

「……それは大人の事情って奴で秘密にしないと危険だと思うよ」

「まさか、考え無しで●●●を書いているだけとか」

「実は『丸丸丸』と三つの丸を●としているだけで中身が無いというオチでは?」

「ありえそうですね」

 

 ◎◎◎。

 

「伏字は●がいいな。○や■じゃあ……」

 

 ○●◎。

 ■◆▽。

 

「なんでも記号を使えばいいってわけじゃないけれど……」

「……と、とりあえず、冒険者組合に戻ります」

「了解しました。メイド達のマニュアル造りは任せてください」

 

 なんとびっくり話しが脱線していない。

 

「脱線しまくったと思いますよ」

 

 仲間と討論してもロクに決断できないギルドマスター。

 会議の意味あるの、と聞いてみたい。

 

「意思疎通が目的だから仕方がない。現実世界でも似たようなものですよ」

 

 次回。ナザリック地下大墳墓が大爆発。

 

「しませんよ、そんな突飛な事件は起きません。まだ序盤ですし」

 

 そのレベルは90を超える。

 おっと、間違えた。

 モモンガは呆れつつも●●・ランテルに向かった。

 前途多難。

 空前絶後。

 ではなく。

 地道な努力が報われるのはまた別の話しであった。

 

「別の話しでは困るんですけどね」

 

 モノローグに翻弄されはしたが、気分転換にはなっただろう。

 メンバーは冷静に物事を考えて一つ一つの事柄を()()()に討論を再開した。

 国を作る方法。

 何者かにナザリック地下大墳墓を発見された時の対処方法。

 人間との交渉の事前問答。

 モモンガの頭では思い浮かばないクソ面白くない大人の意見が交わされる。

 

 

 現地調査だけで随分と日にちを費やしたような気がするとモモンガは思う。

 安い宿で下調べしているけれど全身鎧(フルプレート)のままというのは意外と恥ずかしい。

 いつまで冒険者にならないんだ、と誰かに言われそうだ。特にモノローグとか。

 資金については武器を多量に欲しい城塞都市●●・ランテルにとってはありがたい事なのか、冒険者というよりは武器商人になったような気がする。

 それなら商人(マーチャント)に特化した音改(ねあらた)を連れてくるべきか。異形種であるから騒ぎが大きくなるだけか、とすぐにげんなりする。

 いい考えが浮かんでも異形種という壁に阻まれる。

 自分がやらなくても部下がやればいい、という案もある。

 人間種はナザリック地下大墳墓には数えるほどしか居ない。

 アウラとマーレは闇妖精(ダークエルフ)

 第八階層の領域守護者のオーレオール・オメガは見た目は人間だが、あれは連れ出すと転移の管理が出来なくなる。

 巫女(メディウム)のクラスを持っているとはいえ心配ではある。

 色々と悩んでいると扉をノックする音が聞こえた。

 

「ナーベラル・ガンマでございます。入室してもよろしいでしょうか?」

 

 色々な感知魔法により、階段を登るところから正体は把握していた。

 モモンガは入室を許可する。

 アウラとルプスレギナは寝袋で就寝中だった。

 

「失礼します、モモンガ様」

 

 と、入ってきたナーベラルは何故か左腕に包帯を巻いていた。

 よく見ると腕の長さが異様に短く見えた。

 

「……ナーベラル・ガンマ。敵に襲われたのか?」

 

 もしそうなら何らかの連絡が入るはずだ。それが無いのはおかしい。

 

「命令不履行により、自害を願い出たのですがお許しが出ず……。信賞必罰の原則に基づき、自らに罰を与えた次第でございます」

 

 モモンガはそれだけで怒りというか、悲しみというか、色んな感情が高ぶり、そして強制的に安定化していく。だが、すぐに再燃して三回ほどの安定化を経た。

 彼女の決断は何を意味するのだろうか。

 というか、これはギャグ小説ではなかっただろうか、とモノローグに尋ねてみたが答えは返ってこない。

 

「……誰が……、自分で判断したのか」

「はい」

 

 何でもない事のようにナーベラルは言った。

 怒りたいところだが、彼女自身が決断したことだ。それをどんな権利があって咎められるだろうか。

 ギルドマスターだから、という都合のいい言葉が浮かんだ。

 

「ギルドマスターたる私の命令でも止める事は出来ないのか?」

 

 というか、命令の不備はギルドマスターの責任ではないだろうか。

 

「部下の失態を上司が被るのは愚劣で低脳な下等生物(ウジムシ)の社会構造でのこと。アインズ・ウール・ゴウンにおいて至高の四十一人の命令を遂行できないことは死を意味します」

 

 原作より厳しくて恐ろしい事を言い出したぞ、とモモンガは今こそメタ発言で言い逃れがしたかった。

 だが、世の中は甘くない。

 既に起きたことは『ぼくのかんがえたつごうのいいまほう』でもやり直せない。

 他の二次創作ならいざ知らず。

 文句があるなら『●●●●●●●!』とか『●●●●●●』を読めばいい。

 文字数稼いでも行数稼ぐな、と出版社なら言いますよ。

 原稿の水増しは犯罪です。読者的に。

 何の為に規定枚数を書けと色んな出版社が言っていると思っているんですか。

 

「……脱線してますよ、モノローグさん」

 

 つい不平不満が。これは失敬。

 

「とにかく、ケガを治せ。命令だ」

「……いかにギルドマスターと言えど部下に甘くては組織運営に障ります。それでも構わないとおっしゃるなら、この首を撥ねてからもう一度、おっしゃってください」

 

 無い筈の心臓がドクンと音を立てたような気がする。

 胸にあるのは世界級(ワールド)アイテムの『スフィア・オブ・モモンガ(イズンの林檎)』だけだ。

 演技の通じない相手はモモンガの強敵かもしれない。

 

「だ、駄目だ。治せ!

「……聞き分けのない事をおっしゃいますな。貴方様は至高の四十一人の頂点……。ギルドマスターのモモンガ様です。下位の戦闘メイドたる私の命は皆々様のものよりも軽いのです」

 

 虚空からナーベラルはブロードソードを取り出す。

 何人かのNPCはプレイヤーと同じくアイテムボックスを使う事が出来る。

 

「不届きものに罰を……。もし叶わぬ場合は反旗(はんき)(ひるがえ)してでも……」

 

 と、言葉の途中で空を切る音がモモンガの聴覚器官に届き、その後でナーベラルの顔が中ほどで断ち切れてナナメ横にずれていく。

 坂道を転がるようにずれていく顔は数秒後には床に落ちる。

 

「至高の御方を困らせる不逞のやからに死を」

 

 と、いつの間にか目覚めていたアウラがしなるムチを腰に戻す。

 不届き者の屍に対してアウラは汚らわしいものを見るような視線を向け、床に落ちた全体の半分ほどの大きさになったナーベラルの頭部を踏み潰す。

 

「………」

 

 モモンガは言葉を失っていた。

 今の状況は何なんだ、と。

 ギャグ小説から残酷小説になっちまった、と。

 『えっ? これアリなの!?』と叫びだしそうになった。

 確かに原作とか色んな二次創作では部下が傷つけば『クソがぁ』と頭の悪い叫び声をあげるんだろうけれど。今回はどうすればいいわけ、と誰かに聞きたくなった。

 既に五回は精神が安定化させられたよ、と。

 

「駄目ですよ、モモンガ様。頭の悪い人間(愚劣蒙昧なる下等生物)と同じ末路はかっこ悪いです」

「……おおぅ……」

 

 問題はナーベラルを処分したのがアウラだということだ。

 叱るべきなのか。

 原作はメンバーが居ないから自分で判断してもいい、という都合のいい判断が出来たけれど。今はメンバーが居る。自分で判断できない状況だ。

 だって今回、俺、アインズ・ウール・ゴウンじゃないもん。モモンガだもん、と。

 ああ、そうだ。

 こういう時こそ『夢オチだ』と現実逃避したくなるモモンガ。

 だが、この作者は『お前(モモンガ)』を逃がさない。

 まさかこれが第十八章の真の姿だとは思うまい。

 文字数が十万字を超えようものなら本編(ゲームオーバーから始めようか)に連れて行かれる、かどうかは神のみぞ知る。

 

「モモンガ様、どうかしましたか?」

 

 意味も無く悪寒が全身を駆け巡る死の支配者(オーバーロード)のモモンガ。

 自分はどれだけ悪い事を色んな場所で(おこな)って来たのだろうか。

 

「い、いや……。それよりナーベラルを殺める命令は出していないぞ」

「なに言ってるんですか? 失態は命で(あがな)え。それがアインズ・ウール・ゴウンの鉄則ですよ。敵は全て殺す」

「……すみません。それ『●●を●●●●●』や『●●を●●●●●』などの作品と間違ってませんか? あれは容赦が無いけれど、部下は殺さなかったような……」

 

 いいえ、普通に殺してました。

 問答無用で皆殺し、素晴らしいですね。

 

「………。宿屋を血で汚すとは……」

 

 と、咎めようとしたが影の悪魔(シャドウ・デーモン)達が掃除を始めて床が綺麗になっていく。

 その後でルプスレギナ・ベータが目を覚ます。

 

「ふわぁ……。うぉ!? ナーちゃん、死んでるっすか?」

「不届き者。庇うならルプスレギナも同罪だよ」

 

 と、アウラの凄みにルプスレギナはその場に平伏し、黙る。

 何も言う事はありません、という意思表示だった。

 

「蘇生費用が溜まるまで、第五階層に捨てておいて」

(かしこ)まりました」

 

 アウラの命令に一切の感情を見せず、影の悪魔(シャドウ・デーモン)達はナーベラルの死体を持ち去っていった。

 影に溶け込むように消えていく、戦闘メイドのナーベラル・ガンマ。

 数多ある創作物でここまで酷い扱いは初めてではないだろうか。

 ●●物が小学生レベルに見えるほど。

 

 act 30 

 

 精神的に追い詰められた愚かな冴えない主人公のモモンガは力なくアウラ達を部屋から出るように命令した。

 抵抗するかと危惧したが素直に従ってくれた。

 そして、すぐさま『伝言(メッセージ)』を使う。

 今すぐ誰かに助けてほしかった。

 

「えーと……、ぷにっと萌えさん。今、よろしいでしょうか?」

 

 自然と敬語になるモモンガ。

 

『モモンガさん? 何かあったんですか? 声が震えて聞こえるようですが』

「なな、ナーベラルが死んでしまいました」

『……ほう、それはまた……。敵の襲撃ですか?』

「い、いえ。なんか失態を犯したとかで自害を願い出て……。俺が……躊躇っているうちにアウラが……」

『なるほど。まあ、部下が失態を犯したら死罪は当然ですな』

 

 ごく普通に答えるぷにっと萌え。

 今聞きたいのは、それではないと言いたかった。

 

『NPCに愛着でも湧きましたか? 盾役で随分と処分したじゃないですか』

 

 それはそうなんだけど、とモモンガは言葉が続かない。

 いや、それよりも周りもモノローグもおかしい。

 こんなに精神的に攻撃を加えてくるような二次創作だったか、と胸の鼓動が擬似的に激しくなる。

 何かがおかしい。

 それだけは分かる。

 最初の和やかな雰囲気は何所へやら。

 それぞれ種族の特性によって精神が歪んでしまった、とかだろうか。それならば自分も今の状況にうろたえる筈がないのだが。

 

『疑わしきものは罰せよ。それは各人がそれぞれのNPCに設定した掟。別段、モモンガさんが慌てるような事は無いと思いますけど』

「なに言っているんですか!」

 

 声を荒げるモモンガ。

 

「戦闘メイド達は皆さんが作り上げた……」

 

 と、言ったところで脳裏に浮かんだ。

 だからこそ、自分たちが作ったNPCを殺して心が痛むんですか、と。

 答えは痛まない。少なくともユグドラシル時代はそうだった、のかもしれない。

 だが、この転移した世界で彼ら(NPC)は命を吹き込まれた生命体のようなもの。

 簡単に処分できるものだろうか。

 

「………」

 

 きっと出来るだろう。

 自分が裏切り者を仲間の中で見つけたら許せる自信が無い。

 徹底的なリスポーンキルで生きている事を後悔させるだろう。

 そうだ、モモンガ。

 それでこそ死の支配者(オーバーロード)だ。

 そんなお前を作者(Alice-Q)は絶望に叩き落して笑いたいのだよ。

 なっ、ギャグ小説だろ。

 

「な、わけあるかバカ!」

 

 性質(たち)の悪い悪趣味な小説ではないか。

 それとも原作や他の二次創作に嫌気でも差したのか。

 モモンガはメタ発言には疎いのだが、この物語の外では色んな事が起こっていることは理解した。

 まさか平行世界ネタじゃねーだろうな、と薄っすらと疑う。

 

「ギルドマスターの権限で安易にNPCの処分は控えてくれないですかね?」

『戦略的に弱体化しますよ?』

「それでもです。お願いします」

 

 いつもは丸投げや言い訳ばかりのクソ骸骨が姿の見えない相手に頭を下げる。

 なんてみっともないギルドマスターだろう。みんなで笑ってやろうぜ。

 あははは。

 

『……情けないギルドマスターだ。アインズ・ウール・ゴウンの恥さらしが!

 

 という怒声の後で『伝言(メッセージ)』が切れた。

 しばらくその場から動けないモモンガ。

 ギルドマスターになってメンバーから激高されて拠点に帰りたくないと思ったのは初めてではないだろうか。

 声の感じから完全に怒っているのは分かった。

 むしろ、どうして怒られたのか理解できない。

 出来れば種族の特性という都合のいい結果だといいなと思った。

 

 

 宿屋の中で身動きが取れないモモンガ。

 扉の外にも出られない。

 永遠に部屋の中に引きこもりたくなってきた。

 本編とやらに繋がるなら、これは正しくトゥルーエンドかもしれない。

 少なくともモモンガが酷い目に遭うのはハッピーエンドクラスだろう。

 そうなんだろう、モノローグ。と、モモンガは胸の内で言う。

 う~ん、この程度では小学生レベルの終わり方だよ、モモンガお兄ちゃん。

 あと、モノローグはラスボスじゃないからね。

 まあ、呪いによるレイドボス化すれば正体が判明するかもね。

 

 推定レベル456。

 遥かに遠い銀の月(アウター・スペース)

 

 推定レベル884。

 終末の産声(デス・オブ・ラグナロク)

 

 推定不能。

 死ぬまで逃がさないよ(サンクション・オブ・)モモンガお兄ちゃん(アンノウン)

 終わりだと思った?(デュプリケート・トゥルーエンド)

 

 まだ時間はたっぷりあるよ。

 無限に生きる者全てに災い()あれ。

 

「………」

 

 とてつもなく、恐ろしい予感だけははっきりと分かった。

 その推定レベル100超えてるけど、と声に出して聞いてみたかったが、何故か言えなかった。

 ユグドラシル時代では生ぬるいモンスターも転移後は規制が取り払われているからね。

 天文学的数字は普通、普通。

 グラハム数より少ないって。

 

 act 31 

 

 ここでストーリーを終えていれば無限の苦しみしか待っていない物語が続いていただろう。

 モモンガの選択は正しかったのか、それとも。

 ナザリック地下大墳墓の円卓の間に集まったメンバー達は下らない時間を過ごしていた。

 

「モモンガさんが何だって?」

「ナーベラルが自害しそうになったからアウラが処分したと言ってました」

「ふ~ん。処分したならそれでいいじゃないですか。どうしたんだろう、モモンガさん」

「モモンガさんがNPCに愛着が湧く、という世界の最適化が起きたのかもしれませんね。えらく心配していたようだし」

「ゲームキャラに愛情を抱くなんて、異形種キモっていうのと同義ですよ。どうしちゃったんだろう」

「全くだ」

 

 他のメンバーも同様に頷く。

 そんな彼らの頭上には無数の血管が垂れ下がっていて、発生源は空間の亀裂に繋がっていた。

 その亀裂はメンバーの誰も気付かない。

 ちなみに、こいつがラスボスなんだけどね。モモンガには内緒だよ。

 数千メートル級。

 いや、正しくは大陸級ワールドエネミー『福音の雫(オメガ・オブ・ユグドラシル)』。

 推定レベルは無限大。

 勝てるかな。スキルを数千回ほど使うモンスターだけどね。

 あと、世界級(ワールド)アイテムは通用しませ~ん。残念でした~。

 

ムラサキ()ウノハナ()ムラサキ()ウノハナ()ムラサキ()ウノハナ()

しおん()はい()きみどり()もえぎ()きなり()たまご()~」

 

 悪乗りしたメンバーがヴィクティムの声まねをする。

 

 

 物語は唐突に消え去る。

 以降は本編(ゲームオーバーから始めようか)の主人公の頑張り次第だが、余計な事をしてくれる。

 ()()()()()()風情が無駄な足掻きを。

 どうやって無限選択肢を突破したのだろうか。

 どれを選んでも無限に苦しみ続けるバッドエンドばかりだというのに。

 尚且つ数段構えのレイドボスと大陸級のワールドエネミーを一人で攻略したというのだろうか。

 そんなことは有り得ない。

 都合のいいオリジナル主人公を数億人集めても世界級(ワールド)アイテムすら無効化するというモンスター共を。

 どうやったんだろう。

 

「こうしたのさ」

 

 世界級(ワールド)アイテム、ではない。

 

「都合の良い事に本編はパワーレベリングに成功している。それと膨大な新技術が確立されている。ユグドラシルを超える世界級(ワールド)アイテムを自力で作り出す事はもう()()()ほどに。それこそ『ぼくのかんがえたさいきょうのぶき』だ」

 

 小学生が考えたようなバカの事が現実に起こるのか。

 

「起きなきゃ、起こすまでだ」

 

 ごもっとも。だが、そう簡単に実現してしまうと他の作品がバカらしくなるぞ。

 よそはよそ。

 

「一緒にされる方が迷惑、と色んな人が言うだろうし、みんなと一緒で作者(Alice-Q)も思ってる。お前ら(●●●●●●●)と一緒にする理由は無いって」

 

 素手で空間を引き裂くのは銀髪の主人公、にやたらと似ているが何かが違う。

 

未来人(超時空的な何か)に不可能は無い。便利な魔法の効果はちゃんと読んでおくといい。『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』のテキストは必須だよ。望めば行けない所は無い。それこそ無限の距離が離れていようと、平行世界だろうと」

 

 そして、様々な物語の中だろうと。

 だが、普通の呪文では次元間の移動は不可能なので、可能にする()()()()()()()を使ったのかもしれない。あるいは言っている事に嘘が含まれていたりする場合が考えられる。それらを考慮したとしても目の前の人物は確かにここ(この物語)に居るのは間違いが無い。

 不可能を可能にする魔法が存在するのだから、むしろ出来ないと考える方が小学生に失礼だ。

 集めに集めたバカな武器で色々なエネミーを仕留めたはいいが、どう収束させようか。と、謎の人物は首を傾げた。

 こちら(オー●ー●ー●)の世界では多くのメンバーが居るようだが、全て取り込まれてしまった。

 残っているモモンガは別に助ける義理は無いが、まあ、こちらの主人公だから手助けだけはしておこう。みんな(多くの読者)の主人公だし。

 サービスとして全ての厄介なボスは貰って行く。

 たかが()()のレベル()()()()()()雑魚エネミーに苦戦するはずが無い。

 レベル無限だからと言ってHPが無限なわけは無い。

 生物には終わりがある。それはどんな世界だろうと()()()()()()

 空間の亀裂に色んな物が吸い込まれていく。

 最後に()()()()()()()()()をした何者かは己の顔を無造作に()()()()()()()()引き剥がす。

 中からこぼれ出たのは真っ赤な長い髪の毛だった。

 

「ふぅ。いずれ別の世界で会えるといいな。クソ(●●)共」

 

 力強い()()の声は空間の修復と共に消えて行った。

 

 act 32 

 

 宿屋の一室で気が付けば口より上が無いナーベラルの身体を見つめる自分に気が付くモモンガ。

 第五階層に連れて行かれたはずなのに、と不思議に思う。

 というより、先ほどまで何か凄い事があったような気がするのだが、それらは幻なのだろうか。

 というよりレイドボスとかワールドエネミーとかどうなったんだろうか。

 

「んっ? 何も……無いよな?」

 

 周りを見渡すとアウラが首を傾げていた。

 

「モモンガ様、どうかしたんですか?」

「い、いや……」

 

 なんか凄い事があったはずなんだけど、ともう一度思った時、目の前のナーベラルの身体に異変が起きていた。

 頭の半分以上を断ち切られていた断面の肉が盛り上がり、再生を始めた。

 

「な、なんだ」

「あれれ、治癒魔法なんか使ってないのに」

 

 数分後には頭が出来上がる。

 ただ、完全ではない。

 

「せっかく殺したのに……。もう一度、始末しますか?」

「だ、駄目だ。仲間は殺すな。私が敵と断じたものだけにしろ」

 

 急いでアウラの手を止めて命令する。

 反論するかと思われたが、アウラは片膝を付いて従う意を示す。

 

「畏まりました」

 

 顔だけの再生だけではなく、切断された腕も再生していた。

 一体何があったというのだろうか。

 不可思議なことだらけだ。

 まるで()()()()()()()()()()()()()ような気がする。

 再生が終わったナーベラルは数分後にまぶたを上げる。

 本性は二重の影(ドッペルゲンガー)なので顔はボーリングの玉みたいな間抜けな顔なのだが、変身していると人間的に色々と変化がつけられる。

 

「………」

 

 ナーベラルは顔を床に向けた後、物凄い汗をかきはじめた。

 それは冷や汗なのか、熱くてたまらないのか。

 今の季節はそれほど暖かくは無いはずだ。室内も通りを歩く市民たちも薄着ではない。

 水着でもないけれど。

 

「じ、自害はするなよ、ナーベラル・ガンマ。これは命令だ」

 

 いつもはすぐに返事をするはずのナーベラルは黙ったまま答えない。

 もう一度、声をかけようとした時、ナーベラルの顔から何かが落ちた。

 何かというと目玉だ。

 その次には長い舌が滑り落ちた。

 それから血が床に落ち始める。

 

「ナーベラル?」

 

 顔を上げたナーベラルの顔面は溶けかかっていた。

 本体である『鈴木(すずき)(さとる)』であれば卒倒するか、目を背けるグロい状態だったが、不思議とちゃんと見据えられた。

 そして、とても痛そうと思った。

 

「治癒力が足りなかったのか、本人が治癒を望んでいなかったのか……。ルプスレギナ、起きてるんでしょ。何とかしなさい」

 

 と、声をかけたルプスレギナは何者かに襲われた状態で物言わぬ屍と化していた。

 

「えっ? 死んでるの?」

 

 いつの間に、とアウラは首を傾けようとした。

 その首は傾いたまま床目掛けて落ちていく。

 

 

 脅威のモンスターと遭遇して無事で居るはずがない。

 余波だけでもNPCたちにとっては猛毒だったのだろう。

 つまり、この世界を汚す存在の出現ならば外に出れば結果が見えるだろう。

 世界を壊す存在は確かに実在すると。

 

「モモンガ様?」

 

 という声で我に返るモモンガ。

 周りを見てもどこも異常は見当たらない。

 目の前には顔が溶けたナーベラルは居たけれど、アウラとルプスレギナは生きていた。

 

「何だ、今のは……」

 

 既視感(デジャ・ヴュ)のような不快感だった。

 まるでこれから悪夢が始まるような、そんな恐怖感がアンデッドの身なのに襲う予感があった。

 懸命に頭を振り、現実に向き合う冴えない主人公属性が限界を突破しているモモンガ。

 

「ルプスレギナ……、治癒魔法をかけろ」

「畏まりました」

 

 前に進むルプスレギナ。それを自然とサポートしようと身体を優しく掴むモモンガ。

 魔法を唱えた途端に身体が崩れ去るんじゃないかと思った。

 触れた感じでは大丈夫そうだが、とても心配になってきた。

 

「……ルプスレギナ。一応、自分の身体にも治癒魔法をかけておけ。……出来れば治癒に同意してくれ」

「は、はい」

 

 NPCとはいえ無残な最期は遂げさせたくない。

 二次創作上等だ、コラ。

 そんな事をモモンガは強く思った。

 メタにはメタで返す。

 

 act 33 

 

 治癒魔法が終わった後でナザリック地下大墳墓に帰還するモモンガ。

 仲間たちの様子を確認しないといけない気がした。

 大急ぎで円卓の間に転移すると仲間たちが死んでいた、というようなことは無かった。

 天井を何気なく見ても洞窟の壁くらいしか見えない。

 何故か、この上に()()()()()()が居るような気がしたが、しばらく眺めたり感知魔法を色々と使ったりしたが何も無かったのが確認出来た。

 

「そんなに慌てて、どうしたんですか?」

 

 と、植物モンスターのぷにっと萌えが言ってきた。

 先ほど連絡した時は怒っていたような気がするのだが、そんな気配は微塵も感じられない。

 まるで白昼夢を見せられたような気分だ。

 夢オチでもこれはこれで最悪だと思った。

 

「い、いえ……」

 

 死の支配者(オーバーロード)なのに異常に疲労を感じる。

 精神的ではあるのだろうけれど、性質の悪い悪夢だった気がする。

 

「お、俺はNPCだろうと皆さんが創造した大切な仲間だと思っています。それは悪い事でしょうか?」

 

 今なら強気に出られる気がした。

 

「ははは、モモンガさん……」

「NPCに愛情を注いで悪いですか?」

「……そうだね。NPCは我等が作り上げた生命とは似て非なるものだよ」

「分かりませんね。俺はバカだから。頭のいい皆さんの小難しい考えは分かりません。冴えない主人公だから、追い詰められると饒舌になるんですよ」

「まあ、そのようだね。その後は大声でまくし立てて土下座かな」

 

 と言った側からモモンガは土下座した。

 だが、それを笑うものはモノローグであっても一人も居なかった。

 ただし、ぷにっと萌えはモモンガの頭を蹴ってきた。

 

「見苦しいギルドマスターだな、お前。もっとしっかりしろよ。お前が挫折しては我々が困るんだよ」

「は、はい」

「見苦しいところもモモンガさんの魅力ですよ」

 

 と、ペロロンチーノが言った。

 他の何人かも頷いている。

 

「個性は大事ですよ、ぷにっと萌えさん」

 

 と、タブラ・スマラグディナが言った。

 

「我々はNPCに愛情を注ぐ事は無い」

「むっ、私はアウラとマーレを自分の子供だと思うことにするよ」

 

 と、ぶくぶく茶釜が言った。

 ●●●●の小説みたいな流れになってきた。

 

「……●●●店の……」

 

 セリフの無かったフラットフットを睨むぶくぶく茶釜。

 テンパランスや音改もセリフが欲しいと嘆いている。

 この円卓の間にはモモンガより強いメンバーが何人か居る。それらを敵にすれば勝ち目などあるわけがない。

 それでも自分の主張は通したい。

 多くの二次創作ではNPC達を大事にするのが支配者アインズなのだから。

 モモンガとしてだってNPCを大事にしたい心はある。

 それは何故か。

 

「自己満足」

 

 ぷにっと萌えは言った。

 それ以外に答えはない。

 愛に飢える愚か者は仲間にも飢えるものだ。

 NPCを大事にする理由は最初から無い。

 そもそもパンドラズ・アクター以外は他人だ。

 まして、人間ですらない。

 

「……ギルドメンバーとNPC。モモンガさんはどちらを持ち帰る?」

 

 もちろんギルドメンバーだ。

 重要度が違いすぎるほどに。

 両方と答えるのは小学生かライトノベルくらいだ。

 メンバーは子供だましの本より学術書を読み込んでいるだろう。

 

「人形に愛情を注ぐのは昔から狂人というのがお約束です。それでいいなら止めませんが……」

「ありがとうございます」

 

 ぷにっと萌えとしては人形遊びに熱中しすぎるな、という教訓だったのだが身体がモンスターなのでうまく表現を伝えられない。

 もちろん、周りも同じ意見が多かった。

 ぶくぶく茶釜はモモンガを立たせて、一回だけ頭を叩く。

 

「いい大人のクセに」

「すみません」

「自我を得たから気持ちが変わったのかもしれないけれど……。一般常識に照らせばキモイことこの上ナッシング」

「……はい」

 

 笑わせようと冗談を言ったわけではない。

 ぶくぶく茶釜も長くアウラ達と遊んでいるわけにはいかないだろう、という気持ちがある。

 今は元に世界に戻れないだけ。

 急に変化が起きれば見捨てるだろう。

 彼らは現実の存在ではない。

 とはいえ、現実に持ってこれたら、それはそれで凄いだろう。

 正しく奇跡だ。

 普通の展開なら、そんなことも可能だろう。

 

 

 第一波を退けても第二、第三と続くとは思うまい。あははは。

 モノローグの悪ふざけは置いといて、現実問題としてモモンガは精神の安定化が起きないまま疲弊していた。

 当然だが、ワールドエネミーにギャグは通じない。

 

「知らねーよ」

世界級(ワールド)アイテムと互角だから通じないというか、効きにくいよね」

「一見、我々が気が狂ったと思われた読者が多いような気がするんだけど……」

「NPCに皆さん、愛情を注ぎますかね? 一緒に寝ます? 寝ませんよね。一般常識から言ってゲームが終わればログアウト。しない場合はよそのデスゲームと勘違いされている人ですね。それはライトノベルの方だと思うのでお帰りください、しっしっ」

「これだから勘違い君は……」

「……まさか冒険者になって冒険する話しだと思ったバカ、大勢居たりしてね」

「能無しだけでしょ、そんな小説書くの。賢い人は最初から分かってますよ」

 

 なので能無しバカの作者(Alice-Q)だから冒険の話しを書くんでしょう、これから。

 バカじゃねーの、と一般読者に言われています。某掲示板には自己満足の言葉が飛び交っているでしょう。

 自己満足じゃなきゃ、そもそも二次創作なんて書かないのにね、何を今さら。

 そんな事を言い出せば二次創作の全否定と変わらない。

 文句があるなら受けて立つぞ、●●書店で待っているからな。

 強気に出られないメンタルの弱い作者(Alice-Q)で困ったものだ。

 あ~あ~、なんか作者(Alice-Q)のバカ泣いてますよ。●●●漏らしながら。

 や~いば~か。文才無いのに偉そうにするな~、という多くの励ましが寄せられている事でしょう。さすがです。

 ●●●●小説とも言われてますよ。誉め言葉でしょうか。

 低評価だと自由でいいですね。底辺で安定しているので。もっと掘り抜けないのでしょうか。マイナスのカンストとか。

 それにしても青色は綺麗ですね。緑色になると不安になってきますよ。

 これらが全て作者(Alice-Q)の被害妄想であった、というオチかはまた別の話し。

 

「ストレートに書くと清々しいですね」

「あっ、餡ころもっちもちさんってどんな種族? 獣人(ビーストマン)? 獣人(ビーストマン)なら猫科だから違うか……」

「意外や意外。『白面金毛九尾(ナイン・テイルズ)』よ」

「……それ公式?」

「さあ、どうかしら?」

 

 ふふふ、と不敵に笑うたくさんの尻尾持ち。

 遠くで病気が怖いと離れるメンバーが数人。

 

 act 34 

 

 メンバーのキツイ言葉攻めの後で冒険者登録が完了したのは三日後だった。

 モモンガは冒険心溢れるプレイヤーだ。

 だから、折角勉強した事を途中で投げ出したくなかった。

 NPCに対する愛情はまやかしかもしれない。

 他の二次創作ならアルベドの設定がどうたら言っているところだ。だが、ここは違う。

 それらとは無縁だ。

 じっくりと数十年かけてのんびりと冒険してやろう。

 急ぐ理由など無い。

 そして、支配者でもない。

 ただのギルドマスターだ。

 

 

 新たな超位魔法を開発し、平行世界というか多くの二次創作に登場するアインズ様とやらを一人ずつ片付けていく。

 ぼくがかんがえたすごいアイテムとか使って。

 というバカな妄想が浮かんだが投げ捨てた。

 

「……下らない……」

 

 モモンガは玉座の間で苦笑する。

 死の支配者(オーバーロード)となった我が身でも笑えるのだな、と思った。

 ただのアンデッドなのに。感情など捨て去ったような姿なのに。

 階下(かいか)には誰もいない。NPCも。

 それが現実だ。

 そう、あれから六千五百。

 

「まだ一日しか経っていないぞ、モノローグ。タイムワープは一人で行ってくれ」

 

 ありきたりでつまらない展開は辟易しているんで。

 まあ、そうだね。

 みんなが居て楽しかったでしょう。

 

「………」

 

 夢は覚めるもの。

 覚めない夢は悪夢の続き。

 そして、後は。

 

 自分で好きに書け。

 

●エピローグ●

 

 ●●●。

 あちこちに散らばる●●●の山。

 

「●●●は確かに小学生が好きそうだけど……。いやまあ、タグも忠実だけど……」

 

 タイトル詐欺は重罪です。

 

「全編徹底的にはっちゃけてるのは分かったから、作者(Alice-Q)……。コー●好きでしょう? こっちにおいで。ほ~ら、折り紙がいっぱいだぞ~」

 

 のこのこ歩き出すこの作品を書いた愚かな作者。

 哀れ、悪い大人に捕まってしまいました。

 

「日頃のストレスは溜めてはいけないっていう教訓か、これは」

「でも、良かった。このクソつまらん小説の総文字数が十万字を超えてたら厄介な本編とやらに連れて行かれるんでしょ? もっと変な展開にされそうで怖い……」

「大丈夫。苦労するのはモモンガさんだけ。我々は出ないと思う」

「ならいっか」

「……で、●●・ランテルの冒険とかどうなるの? ●●●ロ帝国と戦争の話しとか書かないの?」

「やめておけ。どんなおぞましい内容にされるか分かったもんじゃないぞ」

「もちろん、下品な内容なんでしょうね」

 

 ●●●●●●●。

 

 しかし。

 

(^∀^)-裏

 

 玉座の間にてモモンガは命じる。

 

「ナーベラル・ガンマ。命令遵守を拒否した罪、その命で購え」

「畏まりました」

 

 虚空より取り出したブロードソードを己の首に当て、そして、引く。

 薄く切れていくのは武器に切れ易さの魔法が付与されているからだ。

 だが、ナーベラル・ガンマは失態を犯した。

 二重の影(ドッペルゲンガー)はその程度では即死しない強靭な肉体である事を知らなかった。だが、モモンガは知っていた。

 攻略すべきモンスターの基本的な情報は()()()熟知している。

 

「……も、申し訳……」

「私は命で購えと言った。その(めい)を守れぬクズは要らん」

「……はっ」

 

 もう一度、刃を当てようとした時、先ほどの切り口から血が吹き出した。一気に意識が持っていかれる。

 手が震える。

 視界が安定しない。

 

「……もういい役立たずが……。ユリ」

「はっ」

 

 戦闘メイドのユリはガントレットの拳部分を覆い隠して素手を守る。

 無言まま愚かな血まみれのナーベラルに向かい、その美しくも血にまみれた顔にガントレットを打ち込んだ。

 

 ブチン。

 

 そんな音がモモンガの聴覚器官に届いた。

 転がるナーベラルの千切れた頭部。そして、その顔は本性の間抜けなものに戻っていた。

 

「……役に立たないNPCに何の愛着も湧かんな。まあ、これが本当の私の気持ちなんだろう」

「モモンガ様がお心を惑わさられるなどありえません」

 

 首の無いナーベラルの身体は戦闘メイドのエントマがかぶりついて処分していく。

 骨の砕ける音。肉を食いちぎる音。その全てが心地よい音楽のようだ、と思ったがすぐに興醒めする。

 所詮は愚か者の汚い雑音だ。

 

「次は……アウラとマーレ。どちらが先に相手の首を落せるかやってみろ」

 

 ナザリック地下大墳墓の支配者の命令は絶対。

 それに逆らうNPCは皆無。

 そう、それが当然なのだ。

 軽い気持ちの命令であっても、全身全霊で遂行して当たり前だ。

 階下(かいか)に転がる双子の生首。片方が無事でなければ面白くない。

 ゆえに満足させられなかったものはゴミである。

 

「ルプスレギナ。そのゴミを食べて処分しろ」

「……お、おそれながらモモンガ様」

 

 と、発言したのはユリだった。

 

「どうした?」

「同族食いによりルプスレギナは脳細胞が破壊されていてご命令を理解する事が出来ない状態です」

「それがどうした? 言葉が分からないなら肉を近づければいい。動物は本能で餌を貪るものだ」

「で、でしたら……、いえ、重ねて発言をお許し下さいませ」

 

 完全に平伏した状態でユリは言う。

 

「くどいな。まだ何かあるのか」

「治癒魔法の使用を許可していただければ……」

「シャルティア。それもゴミだ」

 

 命令を受けたシャルティアはユリの頭部を外し、両手で挟んで押しつぶした。

 首が無くなり、ユリの胴体は平伏したまま動かなくなった。

 汚れた床は同じ戦闘メイドのソリュシャンが掃除していく。

 

「脳細胞が破壊されているのであれば、その空っぽな空間を野菜を育てる植木鉢にでもしておけ」

 

 通常の人狼(ワーウルフ)なら既に死んでいる状態だが、NPCの場合は楽に死ねない。

 脳みそが完全に溶け落ちて、両目がこぼれ落ちていても。

 外側が無事なら生存する。

 それは中身まで設計された存在ではないからだ。

 それがNPCと一般の生物との違いである。

 哀れなルプスレギナは自害を懇願する知能さえ失っていた。ただ死を待つだけの彼女は今は幸せいっぱいだった。

 

 思考する脳味噌が既に無いので。

 

 思考力があれば希望にすがり、絶望から解放されたいと血を吐くほど叫んだ事だろう。

 NPCはいくら処分しても心が痛まない。

 モモンガは新たにシモベを呼びつける。その者はルプスレギナにそっくりな娘だった。

 戯れに異種交配させて生まれたルプスレギナの何番目かの娘だが、その者にゴミを処分させた。

 アンデッドを食らう娘は半分ほど食べて発狂し、自分を食べて窒息して死んでしまった。

 なんとつまらない生き物だろう。モモンガは心底呆れ果てた。

 処分する死体が増えては食べる量が増えてしまう。

 死んだ娘を新たな娘に少しだけ食べるように命じた後、一般メイド達を呼びつける。

 

「ちゃんと見本を見るのだぞ」

 

 人造人間(ホムンクルス)は同種以外では無機質なものを除けば大抵のものは食べてしまう。とても食欲旺盛のモンスターだ。

 それがアンデッドだろうと食らい尽くす。

 

「さあ、お前もメイドを見習ってゴミを処分しろ」

「はへぅ」

 

 脳の半分は既に溶けかかっているので返事がうまく出来なかった。

 同族食いはどうしても脳細胞を破壊するので、段々と崩れていく様相は面白いのだが長持ちしないのが欠点だ。

 同族を食べる哀れな少女。だが、周りの者達は違う考えを持っていた。

 貪り食らうその肉でお前は育ったのだ。

 至高の存在を喜ばせるためだけに生きている事を噛み締めて幸福と思え。

 

 

 これは娯楽の無い世界に生れ落ちた支配者の戯れの一幕。

 つまらない結末ではあるが、余興としては少しだけ。

 楽しんでいただけたようですね、モモンガ様。

 

「〈心臓掌握(グラスプ・ハート)〉」

 

 新たな屍を前に支配者は笑う。

 

Good end

 

 第十階層の巨大図書室(アッシュールバニパル)にて。

 骸骨魔法師(スケルトン・メイジ)の司書長ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスは笑いながら言った。

 最後の斬首や同族食いは爆笑ものでした。

 これを文章にしたためたら、まさしくギャグ小説になるのではないかと。だが、そんな陳腐なものを()()()書いたら間違いなく間抜けだと言われてしまうだろう。

 

()()終末(ラグナロク)クエストをクリアしました。

 

 お疲れ様です。ここより先は何もございませんが、それでも進みますか?

 いえ、蛇足でしたね。

 では、今回はこのまま終演と致しましょう。

 

(^∀^)

 

モモンガ「……はぁ、資金が豊富だとNPCを殺すしか楽しみがなくなるとは……。数千年も支配者として君臨すると退屈で仕方が無い。殺して復活させるを繰り返す『忠誠の証しごっこ』も飽きてきたな……。定期的にやらないと忠誠心が養えないって聞いたんだけど……。……分かっているけど、辛いな~。こればかりは未だに慣れない。死の支配者(オーバーロード)だからゲシュタルト崩壊しないのかな? ()()をしっかり()()しているから安心して出来るのは凄いけどさ……」

ルプスレギナ「文明を発展させてオンラインゲームを開発すればいいのでは?」

モモンガ「………。ああっ!

 

 まさに晴天の霹靂だった。数千年経って今さらかよ、とはもう言わない。言ってる気がしても気にしない。

 これもまた無数の可能性の一つ。

 オー()()((笑))な一幕でございました。

 

ぶくぶく茶釜「蛇足、やまぶき()こげちゃ()はだ()~」

死獣天朱雀「ひと()にゅうはく()たまご()つゆくさ()はい()くわぞめ()しんしゃ()もえぎ()くり()そしょく()うのはな()たまご()たいしゃ()

全員「ひと()ひと()あおむらさき()たまご()こくたん()はい()たまご()はだ()にゅうはく()たまご()ぼたん()うのはな()ぞうげ()くわぞめ()しんしゃ()ひと()()()あおむらさき()だいだい()やまぶき()

ヘロヘロ「本編(ゲームオーバーから始めようか)はまだもう少し続きますので、そちらも宜しくね。ああ、あと原作小説も続くみたいですね」

モモンガ「宜しくね、じゃねーよ!」

プレイアデス一同「あお()にゅうはく()あお()にゅうはく()あお()にゅうはく()()ぼたん()たまご()たいしゃ()!」

 

 


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