果てがある道の途中   作:猫毛布

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明けてますね。今年もお願いします。
今回は説明回とかそういうのです。
SAOをさらっと流すとか言ってたのは誰なんですかね……。


第8話

――出てきなさい。夏樹。

――さあ、私の前に。

 

 落下するような感覚を得ながら、ナッツは瞼を持ち上げた。

 疼く背中になるべく意識を向けずに、日常を開始すべく索敵スキルを起動する。左手から落ちたピックを拾い上げて、ナッツは詰まっていた呼吸を再開する。

 なるべく静かに、まるで誰かにバレないように。

 索敵スキルで敵対するモノは付近に居ない事はわかっている。けれどもナッツは大きく呼吸することはなかった。

 

 細く、短く、そして落ち着けるように深く、長く。

 

 ようやく一通りのルーチンワークをやり通したナッツは肘から先のない右腕を触っている左手に気付いた。自分の行動であったにも関わらず、無意識に触れていた。

 無いモノは痛む事はない。そもそも痛覚すらもこの世界には適応される事はない。故に、疼いていた背中も幻痛と言ってもいい。

 

「年かなぁ、僕も」

 

 なんて、呟いたナッツは苦笑する。年端もいかぬ子供が何を言っているのだろうか。

 大人でもあり、子供でもあり、動物でもあり、そして人形でしかない加藤夏樹はそう思ってしまう。

 ナッツは立ち上がり、鳴りもしない首を動かして誰も眠っていない綺麗なベッドを横切って窓を開く。

 暁に染まる世界が人形の瞳に映された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よお、ナッツ。保護者同伴か」

「うっさいわキリト」

 

 予定していたレベリング場所に到着したナッツはキリトの一言に苦い顔をしていた。その隣には中世の騎士のような金色の髪を編み込んだ美女が立っている。冷たく鋭い美貌の女――ウィードはキリトを睨みつけ、口を開く。

 

「黒の剣士。私が我が君の保護者だなんて、そんな嬉しい事がある訳がないでしょう」

「わ、悪い」

「確かに、我が君に『お姉ちゃん大好きー』なんて言われた日にはハラスメントコードなんてバッチコイで襲うかもしれません。いいえ、襲います! しかし、ロリやショタは触れてはイケナイ。そう、イエスロリータ、ノータッチの精神が大切なのです!」

「こんなんに保護者が務まると思ったんか」

「……色々悪かった」

 

 キリトの中でのウィードが崩れていく。ミステリアスでドコか危険を纏った美女という殻が破れて、残念ショタコン美女が完成した。美女である事は否定できないが、それ以上に肯定しなくてはいけない部分が現れてしまった。

 保護者に狙われるという矛盾を得ているナッツは苦々しい顔をしながら肘から先のない右腕を外套の中で持ち上げる。

 

「まだ腕がこんなんやし。僕は普通に戦えるねんけどなぁ」

「まだ治ってなかったのか、腕」

「言うて数日前やろ。色々検証したい事もあったし……スキルは発動するけど、威力は落ちるで」

「了解。そう成らないように気を付けるよ」

「せやな」

 

 検証した内容をアッサリとキリトへと伝えたナッツはキリトの返事に神妙に頷く。確かに、腕を失っている時点で不具合は生じてしまう。バランスも悪い。

 ナッツとキリトが微妙に食い違った思考をしていると今回の狩りに参加するもう一団が姿を現す。

 バンダナに野武士染みた格好の男。その後ろに武士鎧を纏う五人。総勢六人からなるギルド、風林火山。

 

「ワリィ、遅れたか?」

「いんや、僕らも今来た所や」

 

 ヒラリと左手を上げたナッツから視線を外した野武士はその隣に立つ女騎士へと視線を向け、目を見開き、格好を付けたように真面目な顔へと成る。

 

「初めまして、麗しの騎士さん。俺の名前はクライン。是非、今回の狩りで俺の勇姿をその目に留めてほしい」

 

 キメ顔でそう言ったクラインにウィードは微笑みを浮かべる。そして、自身の主を守るように一歩だけ前に足を進める。

 

「ウィード。()()()

「あぁ、そうでしたか。失礼」

「おい、ナッツ。俺のドコが外れだって言うんだよ」

「僕に対しても同じ感じで声を掛けた所かな」

「そりゃぁ、オメェみたいな美少女が居たら声は掛けるだろ。なあキリト」

「……あ、おう。そうだな」

 

 クラインの言葉にキリトは僅かに考えてから同意を示した。もしもナッツが男性である事を知れば、クラインはどうなるのか……想像に難くない。自身が迫っていたのは男だと知って新しい道を開いてしまうのか、それとも絶望するのか。いや、ともあれ、クラインは知るべきではない。

 ナッツとウィードの会話は額面通りという訳でもない。ウィードが警戒して一歩前に進んだのは軽薄な男からナッツを守る為ではなく、『クライン』という名前の存在からナッツを守る為である。同時に『クライン』が()()()ならば攻撃するつもりでもあった。

 主からの制止の声が入り、幾分か警戒を薄めたウィードはまるで女神の様な微笑みを浮かべる。

 

「初めまして、今回の狩りに参加させて頂きます。ウィードと言います」

 

 舞い上がる男達。微笑む美女。黒い剣士と茶褐色の塊は苦い顔をしながら行く末を見守る。

 

「よ、よろしく。ウィードさん! そのギルドとかに所属はしているのんですかね?」

「ええ、《王冠の妖精(クラウン・ブラウニー)》というギルドに所属させて頂いてます。故に私の身体、命、魂の一片まで我が君に捧げさせて頂いております」

「なん……だと……」

 

 なんて羨ま――不届き者だろうか。こんな美女の全てを手に入れているだなんて……!!

 クラインは義憤に駆られる。決して羨ましいからではない。羨ましいからではない。クラインの脳内で一瞬にして展開されるギルド内でハーレムを築き上げるギルド長、そして手前勝手な妄想にて妖精さん(ブラウニー)達は実にキュートで美しい少女達なのだ!

 なんと、なんと羨ましい!! いや、けしからん!

 

「ち、因みに。ギルド長は……どこのどいつで?」

「ココのコイツだ」

「ドーモ、クライン=サン。ギルド長のナッツです」

「やったぜ!」

 

 まるで魂を絞り出したような声であった。妖精達のトップまで妖精のような美少女なのだ! なんと夢のような展開なのだろうか。いっそ夢かもしれない。いいやココは現実であって、現実ではない。

 

「初めて茅場晶彦に感謝するぜ……!」

「なあナッツ。放っておいていいのか?」

「……ええやろ」

 

 呆れるような、諦めるような、そんな溜め息と一緒にナッツは言葉を吐き出した。

 

「というか、ナッツも遂にギルドに入ったのか……。俺はテッキリ勧誘を受けてた血盟騎士団にでも入るか、入らないかだと思ったぜ」

「言うても、運営とかは全部ウィードがやってるねんけどな」

「ええ。僭越ながら、私が我が君の右腕として……そう、まるで独り身の夜の右手として働かさせていただいております」

 

 ニッコリと笑みを浮かべながら分かる人には分かる毒を吐き出したウィード。なんとなく察してしまったキリトは少しばかり顔を赤くして、ウィードを何処かの女神として見てしまっていたクラインを含む風林火山の人員はまるで石化してしまったように動かない。

 ナッツはニタリと一瞬だけ笑い、キョトンとして首を傾げる。

 

「なんや、右腕言うんは分かるけど。なんで独り身の、更には夜固定で、腕やなくて手なんや? クラインは何か知っとる?」

「ナッツは……知らなくていい事だぜ」

「やっぱ知っとるんや。教えてくれへんの?」

 

 僅かにズレたフードの奥に無垢な少女が、ただ純粋な興味本位で聞いている。大きな瞳がクラインを写し込み、身長差もあり自然と上目遣いに。

 葛藤がクラインを襲う。果たしてコレはハラスメント行為なのだろうか。確実にハラスメント行為なのであろう。

 

「おい、ナッツ。クラインが困ってるからやめとけ」

「せやな。言われへんならソレでエエか」

「お、おう。悪ぃな」

 

 バンダナの上から頭を掻き、謝るクラインにナッツは「エエんやで」とまるで気にしていないように答えた。

 そんなクラインに同情するような視線を向けるキリト。キリトが止めたのは『クラインを弄り倒す事』なのであるが……その事をクラインが知る由もない。知らない方がイイだろう。

 

「それで、ウィードさんは今回の狩りに着いてこれるぐらいのレベルのあるのか?」

「おいキリト。ウィードさんのレベルが低かろうが、この俺、武士クラインが守るから問題ないだろ」

「守っていただく必要が無い程度のレベルですので、ご安心を」

 

 暗にクラインに守られたくはない、と答えたウィードに落ち込むクライン。ソレを眺めて喉を震わせて笑うナッツはウィードを止めるつもりはない。

 

 

 

 

 

 

 事実としてウィードの動きは良かった。片刃の両手大剣を軽々と振り回し、武器防御を行い、戦況を見つつフォローをしたり、フォローを頼んだり、と。単一としての戦力もそうであるが、動きが実に効率的であり、そして人の流れを掴むモノでもあった。

 毒を吐き出した事もあり、近寄りがたい女神としての自分を美人なだけの人間。そして残念な美女として落とし込み、コミュニケーションを図ったウィードは既に風林火山の面々と笑い合いながら談笑をしている。

 キリトはそんな輪からは離れ、ウィードを見ている。

 

「なんや、キリトはアッチに混ざらんの?」

「生憎、コミュ障なんだよ」

「嘘、って言われへんのがアレやなぁ」

 

 ケラケラと笑いながらフードを外したナッツがキリトの近くに座る。肘から先の無い右腕の影響か、レベリングの最中は左手に剣を握っていた。それでも戦闘の方法や動きが変わる事はないかったが。

 萌黄色の髪の少女――のような少年を横目で見たキリトは意を決したように、口を開く。

 

「ウィードさんは……レッドだよな?」

「せやな」

「……アッサリと教えるんだな」

「別に隠すような事でも無いやろ」

 

 誇る事でも無いけどな、とケラケラと笑いならが加えたナッツに対してキリトは再度ウィードを見る。落ち込んでいるクラインを見てクスクスと笑っていた。

 

「必要に駆られて、人を殺した。正確には初めて殺されそうになったから、初めて殺した。それだけや」

「……前に言ってた夫関連か?」

「なんや、アレはそこまで言うてたんか」

「前の事件でナッツが興味を失ってからな」

「ふーん。まあ旦那の方も、グリムロックと似たような人やったし」

「…………ん? お前、その、ウィードさんの旦那さんを」

「知っとる。というか、殺しの現場に居ったし」

「は?」

「ああ、どうして止めなかった? とかいう疑問はいらんで。僕はあくまで立会人としてその場に居っただけやし。双方合意の殺し合いに口を出す程の無粋さは持ち合わせとらんし」

「そうか」

「なんや、キリトやったら両方を助ける事は出来なかったのかー、とか言うと思っとったけど」

「言いたいけど、聞かないだろ?」

「よーくご存知で」

 

 聞く必要もない、既に終わった事である。ウィードにとっても、ナッツにとっても。

 夫である男がオレンジギルドに頼み、妻であるウィードを殺そうとしたこと。不必要に溢れたオレンジギルドを潰していたナッツが偶然その場にいた事。悄然としていたウィードを唆し、夫であった男を殺させた事。

 殺そうとしたから、殺した。双方合意の上での殺し合い。殺す故に、殺された。

 たったそれだけでしかない。

 

「殺すんなら、殺される権利も生じるやろ」

「お前はドコかの革命家か何かか?」

「僕は誰でもないよ。単なるnuts(ナッツ)や」

 

 完結した物語を語るように、ナッツの言葉に迷いはなかった。その言葉に少し疑問を過ぎらせながらもキリトは一つの悩みを解決させた。

 

「そういえばナッツ。アレだけギルドを否定してたのに、ギルドを作ったんだな」

「ギルド否定はしとらんよ。攻略を目指す群れとしては優秀やろ。

 ギルドに入りたくなかったンは入る理由がなかったンとアスナさんが煩いからやで」

「アスナが聞いたら怒りそうだな」

「まあギルドに入った――作った事に関しては概ね喜んでくれてはるよ」

「概ね?」

「『どうして血盟騎士団じゃないの?』ってメッセージの末尾を飾っとった」

「ああ……」

 

 キリトの頭に真っ黒い笑顔を浮かべているアスナが思い浮かんで、身体を震わせて消した。逆らえない()()()があるあの笑顔に立ち向かったナッツを少しばかり見習いたいと思う、マネする事は無いが。

 

「作ったンも流れみたいなもんやったし……。僕の目的に似通っとったからなぁ」

「目的?」

「そそ。低層、中層をメインに戦力の補強。まあ底上げやな」

「お前、そんな事やってたのか」

「ギルドが出来上がってから――というよりは、ギルドの全体方針みたいなもんやけどな」

「……俺の時はアレだけ説教したのに?」

「黒猫団の事言うてるん? アレはキリトが変にコミュ障拗らせて事故っただけやろ」

「ぐっ……」

「そもそも状況も立場もちゃうよ。基本的にブラウニーがやっとるんはクエストの情報精査と手伝い、低層でのレベリング安定の為にパーティに一時加入したり、させたり。僕個人でやっとったモンスターの解析情報を元にしとるし、安定はしてると思うよ。

 あとは噂話を含めた情報収集と統合。こっちは情報屋達とは別口で動かしてるから雑味が多いけど、それも中々よくてやな」

「待て待て、色々ツッコミどころが多すぎて頭が痛い」

「なんや。まだ半分ぐらいやで?」

「お前は何を目的にしてるんだよ……」

「そら、SAOの攻略やろ」

 

 何言ってんだコイツ。と言いたげな顔をしたナッツに対してキリトは同じ事を返してやりたかった。

 仕切り直しのように溜め息を吐き出して、キリトは頭の中を一度整理して、口を開く。

 

「モンスターの解析って?」

「そのまんまやけど?」

「……何? お前はデバッガーか何かなの?」

「でばかー? 何それ」

「デバッガー。システムのバグを探す人だよ。お前がディアベルを助けた時のアレは片鱗だったんだな……」

「ああ、割り込みによるヒットズラしな。まあ状況を再現した訳やないから確定とは言えんけど、もう出来ひんで」

「もう状況再現とか言ってる時点でお前はデバッガーの素質があるよ。おめでとう」

「なんや言葉に若干の憐れみがあるなぁ……」

「気にするな。それで? モンスターの行動パターンでも解析してたのか?」

「いやぁ、自分が相手してるんやったら十二分に相手出来るんやけど。他人の動きやとどうもちゃう動きしよるんよね。自分との微妙な差異があるんはわかるねんけど」

「よし、ちょっと待て」

「……なんやさっきから話止めてばっかで。拘りのある監督さんかいな」

「いやいや、お前はドコまで細かく把握してるんだよ」

「ん? カウンターだけで殺せる程度やけど?」

 

 キリトは痛む頭が余計に強く痛むのを感じた。そういえばそうだった、という感想が頭を過る。

 一緒に狩りをしているときは基本的にタンク――と言っても武器を用いて攻撃を流す変則タンクを徹底しているナッツであるが、そもそもの戦い方はカウンターによる攻撃が主である。

 やれ、と言われればキリトもカウンターぐらいは出来る。但し、ソレだけでモンスターを倒せと言われれば話は変わってくる。

 毎度狂人の所業だと思っていたキリトであったが、これで晴れてナッツはキリトの中で人外のカテゴリーへと入った。

 

「ま、そんなこんなで。カウンターを十全に出来るヤツは居らんから、敵MobのHPとか攻撃力とかのデータは低層で配布しとるよ」

 

 キリトの目が点になる。ケラケラと笑っていたナッツも笑いを止めてキョトンとキリトの顔を覗き込む。

 一拍程置いて、キリトが再起動を果たした。

 

「はぁ!? おま、はぁ!?」

「うっさいなぁ……」

「お前な、HPバーは見えるけど数値化とかはされてないだろ……」

「せやな。しかも敵Mobによって長さも本数も違うよって、正しい数値はさっぱり」

「…………つまり?」

「始まりの街でNPC販売してる剣で殴ったり、攻撃くらったり、まあ色々実験を重ねてやな」

「……もうお前ホントバカだろ」

「失敬やな。これでも頭はエエ方やねんけど?」

「つーか、攻撃受けてるのかよ……。それで死んだらどうするつもりなんだよ」

「運がなかったなぁ、ぐらい?」

「はぁ……アスナがお前の事を心配する理由がよーくわかったよ」

「アスナさんはこの事知らんし。死んでも死ぬだけやよって問題無し」

「問題しかねぇよ」

 

 狂人の人外かと思ったら、本格的に頭のネジが外れていた。閃光様(アスナ)がちょくちょく自身にナッツの食事などに関して聞いてくるから適当な返事を返していたが、次からは真面目に返そうとキリトは心に決めた。

 ちょっとした説教が決定した事も知らずに、ナッツは果たして変な事を言ったのかと小首を傾げている。ようやく合点が言ったのか、両手を合わせて補足するように追加する。

 

「流石に前線での調査は攻撃を()()でくらったりせずに、NPC販売の武器で防御して割り出しとかしとるよ?」

「ソッカー」

 

 説教も追加された。

 ともあれ、自身と同じだと思っていた――ギルドには絶対に入らないと思っていたナッツがギルドを作った理由は凡そ分かったし、そこに変態であろうが大人であるウィードが居るならば安心も出来るだろう。貞操は分からないが。

 

 キリトは肩を竦めて立ち上がる。僅かにズレた背負った剣の位置を直し、ナッツに右手を向けようとして、苦笑してから左手を差し出した。

 

「そろそろ次の狩りの時間だな」

「ん、了解」

 

 キリトの左手を見て苦笑したナッツは左腕を伸ばしてしっかりとキリトの手を掴んだ。引っ張られるように立ち上がり、首を左右に曲げてからフードを深く被り直しナッツは()()()()()()()へと戻った。

 そんなナッツを見て、キリトは思い出したように口を開く。

 

「そういえば、ナッツ。情報収集もしてるんだよな?」

「噂話からイベント、クエストまでなんでもござれ。まあクエスト関係やったらアルゴさんの方が詳しいねんけどね」

「腕のいい鍛冶屋を紹介してくれないか?」

「むしろトッププレイヤーに名を連ねてる黒の剣士様が鍛冶屋の知り合い居らんことに……あっ」

「何を察した、この野郎」

「アッハッハッ。鍛冶屋なぁ、基本的にギルドに出入りしてるような人はキリトのお眼鏡に叶いそうにないし。第一、ソレよりも優秀やないとアカンねやろ?」

 

 キリトの背にある剣を見ながらナッツは唸る。視線を宙に幾らか左右させて、「ああ」と何かを思い出したように声を上げる。

 

「フォレストキール作った人でエエなら、紹介出来るで」

「その武器を作ったって事はスゲー奇特で頭のネジはぶっ飛んでそうだな」

「あー、いや、最初は普通に性能のイイ曲剣やってんで? ただ、ほら、もうちょっと耐久がやな」

「お前がオカシイだけかよ……今更だな」

「しゃーないやん。籠もってたら耐久なくなるねんし」

「違うそうじゃない」

 

 フードの奥で唇を尖らせて不平を漏らしたナッツにツッコンでしまったキリト。極々当然の反応である。

 

「ま、普通の人やで。腕は確かやし。笑顔はヘッタクソやけど」

「その注釈いるか?」

「コミュ障には必要かなって」

「…………おう」

「落ち込みなや。幸い、僕からの頼みやったら聞いてくれると思うし」

「ナッツって商人連中の弱味でも握ってるのか?」

「――こんな子供にお金借りてるような大人に弱味が無いと思うん?」

「お、おうソウダナ」

 

 深く被ったフードの奥でケラケラと笑ってみせたナッツにキリトはそれだけしか言えなかった。思い浮かんだ悪役レスラー顔の商人とまだ見ぬ鍛冶屋のプレイヤーを憐れんでしまう。真実としては他にも商人プレイヤー達もその憐れみに含まれるべきなのだが、ソレはキリトの知る所ではない。

 メッセージを件の鍛冶屋に()()()()()ナッツ。

 

「いや、まだいつ行くか決めてないんだけど……」

「ああ、エエよ。『友人が行くからよろしゅう』とだけしか送ってないから」

「鬼畜か」

「因みに友人の特徴は『真っ黒のコミュ障』で送ったで」

「鬼畜だ!」

「軽い助言やけど。ちょっと煽ったらええ感じに喋りやすくなる人やから、鍛冶関係で矜持を擽ればエエんちゃうかな?」

「神様かよ……」

「失敬な。僕は茅場さんやないで」

 

 ケラケラと笑いながら助言したナッツ。当然そこに悪気も何もない。それこそリズベットとキリトの性格を鑑みた結果での発言でもある。

 故に、ソコには「キリトの剣ならリズベットさんの店売りの直剣はパキパキ折れるやろなぁ」という変な想像は一切含まれていない。




>>『クライン』
 クラインの壺が元ネタ。それに因んで。数学者の名前をPNにしてるとか、怪しんで然るべき。なお『クラインの壺』という小説もあり、VRが題材になってるゾ。
 上記小説作者の「チョコレートゲーム」とか『99%の誘拐』とか、面白いゾ(ダイマ)

>>治ってない右腕
 実験、検証の為。システム的に直らない事は無いので、お察しください。

>>ドーモ、クライン=サン
 挨拶は大切。古事記にもそう書かれている。備えよう。

>>ウィードの盲信
 ナッツに命を救われ、自身の行動を導いてくれたから(ウィード視点)。
 ナッツの性格、というか性質も知っているので前話で言っていたように『不必要なら捨てられる』とも考えている。

>>敵MobのHPなど
 ドコかに表記ってありましたっけ……見落としなら訂正します。ガバガバ設定だからあまりツッコムのもアレだゾ。

>>キリトの手首
 将来的に16連撃叩き込めるようになるから多少はね?

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