果てがある道の途中   作:猫毛布

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SAO編終了


第19話

 軽い立ち眩みにも似た感覚の後、瞼を上げればそこは既に迷宮区の中であった。

 広い空間の壁際には太い柱が並べられ、その置くには大きな扉が一つ。

 次々と転移してくる存在を眺めながらナッツは小さく息を吐き出し、冷たく感じる空気に外套を少し揺らした。

 

「大丈夫ですか? 我が君」

 

 いつの間にか隣に居たウィードに軽く手を上げる事で応えたナッツは辺りを見渡して今回の参加メンバーを再度確認する。

 転移前よりも一層に緊張感を持つプレイヤー達。ボス戦という事柄に対しての高揚感よりも今回ばかりは恐怖の方が勝っている様だ。

 死ぬかも知れない。たったソレだけの事実で恐怖は伝播してしまう。それでもココに立っているのは自身の意思であり、攻略の為に――或いはこの世界の生活を守る為の意志がある。

 何かしらの発破を掛けようとしたけれど、ソレはどうやら必要が無いらしい。七十四層――それこそ二年もこの世界で戦っているのだから、当然と言えば当然なのだろう。

 ナッツは瞼を降ろして静かに笑う。外套の中で手の感覚を確かめる様に拳を何度か作り、解く。

 

 頭の中で誰かが警告してくる。死にたくない。死んでほしくない。そんな我儘な事を何度も何度も叫んでくる。

 幻聴にも似た感覚にナッツは苦笑しながら震えの止まった手で愛剣の柄に触れる。

 

「死んでも死ぬだけや」

 

 誰かに言い聞かせるように、けれども呟く程度の声量で溢れた言葉は白く染まった吐息と一緒に消えていく。

 その様子を見つめながらウィードは蕩けそうになる顔に無理やり笑顔を張り付ける。

 あの日から完璧だと言えた主の見方が変化した。躊躇が無く、自身の規律を守っている所は変化が無い。ただ神様だと思っていた主が人に――王になっただけなのだ。

 完璧ではない。完璧を装う主。だからこそ冠を被るに相応しい。

 

「何わろてるん?」

「少しばかりいい事ばかりだったので」

「走馬灯か何か?」

「だとすれば主の事ばかりでとても良い走馬灯でしたね」

「……さよか。ほな、行こうか」

「はい。我らが王よ」

 

 大扉が重々しく地面を擦りながら開いていく。僅かに立つ土埃すら見ることの出来ない暗闇がゆっくりと口を開いていく。

 誰かの抜刀を皮切りにプレイヤーたちが抜刀していく。その誰もが開いていく扉を注視しており、自身を鼓舞する様に剣を強く握りしめる。

 先頭に居たヒースクリフが十字盾の裏側から長剣を引き抜き、右手を高々と掲げ、叫んだ。

 

「――戦闘、開始!」

 

 完全に開ききった扉へと雪崩れ込む。

 

 走り込んだ三十二人が自然な陣形を組み、各々の距離を開ける。辺りを見渡したが、そこに敵らしい姿は無かった。

 内部を見渡し、内側に反っている壁を辿る。自身達の頭上の高いところで封をされているドーム状の空間。たった一つの出入り口から射し込んでいて光が轟音と共に閉じられる。

 情報の全てが正しいのならば、既にプレイヤーとボスモンスターのデスマッチは始まっている。先程閉じられた大扉は自身達の全滅か、ボスモンスターの討伐をしなければ開くことはない。

 

 隣にいる仲間の息遣いすら聞こえそうな静寂。

 自らの緊張を表すように鼓動の音すら幻聴する程の沈黙。

 張り詰めている神経を嬲る様な時間がプレイヤー達を支配する。

 

「おい――」

 

 誰かの声が響いた。大きいなどとは言えない声であったが、静寂の中では十分な程その声は響いた。

 

「上よ!!」

 

 アスナの鋭い声が響き渡り、全員が上へと注視した。

 

 キシキシと耳障りな異音が響き渡る。まるで獲物が掛かった蜘蛛の様にソレが動きだす。

 数えるのも億劫になりそうな数の白く尖った骨の足が動く度に異音が鼓膜を不愉快に揺らす。

 人の背骨を思わせる灰乳色の体節一つ一つから飛び出た足。全体で見れば百足のような長大な巨躯。

 流線型に歪んだ頭蓋骨には二対四つの眼窩が空き、瞳の代わりに薄気味悪い青い炎がボンヤリと浮かんでいる。前方に大きく突出した顎骨には鋭い牙を並べ、頭骨の両脇からは反りの少ない鎌状に尖った骨の腕が生えている。

 《骸骨の刈り手(The Skullreaper)》。定冠詞をその名に被せた存在が威嚇するように吼えながらその身体を宙へと放り出した。

 

「固まるな! 距離を取れ!」

 

 ヒースクリフの声に凍っていたプレイヤー達の時間が動き出す。凡その落下予測地点から飛び退り、誰もが息を飲み込んだ。

 落ちてくる脅威に足が竦んだのか、落下予測地点直下いた三人の動きが遅れた。右か、後ろか、左か、前か。

 

「こっちだ!」

 

 キリトの叫びによって三人が呪縛が解けたように慌てて動き出す。

 その三人の背後に百足が地響きを立てて落下し、地面に()()()()()が走る。床全体を震わし、三人がたたらを踏む。

 百足の右腕が雑草を刈り取るように低く滑る。

 

 

 茶褐色の小さな塊が三人と鎌の間に滑り込み、赤い刀身を構える。息を短く吐き出し、たった数秒に集中する。

 鎌と曲剣がかち合い火花を散らせた。瞬間にナッツの顔が歪む。

 

「――伏せェッ!」

 

 短く指示だけを口から放ち、ナッツは鎌に転がり乗るように身を避ける。

 ナッツの指示に咄嗟に従えた二人は身を地面へとへばり付けた。そう、()()である。

 

 鎌に飛ばされた一人のHPが減る。緑が黄に、そして赤へと変化し、呆気なく消えた。

 無数のポリゴン片へと変化させた仲間を見る事も無くナッツは真っ直ぐにスカルリーパーへと向きながら舌打ちをする。

 

 守れなかった。精鋭が一人死ぬだけで攻略の手が緩んでしまうというのに。

 その思考を断ち切るようにスカルリーパーが蠢き、獲物を狙う。左の鎌を振り下ろし、ナッツを狙う。

 曲剣を横へと寝かし鎌が当たった瞬間に身をズラす。この二年間で染み付いたナッツの防御術であったが、ナッツは顔を歪めた。右の鎌を大きく距離を取るように回避して、仕切り直すように構える。

 反撃の隙が無い。それこそ目の前の百足と何十時間も打ち合いをすればパターンは組めるだろうけれど。ソレは出来ない。

 かと言って大きく弾く事も現状では出来ない。自分一人では手詰まりだろう。

 

「手助けしよう」

「どーも。マトモに当たると死ぬで……ま、ヒースクリフさんが()()()に当たるとは思われへんけど」

「手厳しいな」

 

 隣で盾と剣を構えた魔道士の風の騎士にナッツは皮肉を口にする。ヒースクリフは皮肉を返す事もなく、ナッツと共に敵を見据える。

 ナッツはチラリとキリトを見る。攻撃役としての統率はおそらく彼がしてくれるだろう。

 

 だから、何も考えなくて良い。防御に専念し、片方の攻撃を弾けばいい。

 一つのミスは命取りになるだろう。愛剣の耐久値の減り具合を考えればミス一つで死ぬ。

 死んでしまう。死ぬだけか。ならば何も問題はない。

 舞台に立つ時の様に、全てをただソレだけの為に捧げてしまえばいい。

 

 

 

 攻撃役に任命――いいや、否応無しに攻撃役になってしまったプレイヤー達は役目を果たしつつもその動きに魅了されていた。

 盾と長剣によって絶対の防御力を誇るヒースクリフが左の鎌を防ぐ。曲剣により絶技とも呼べる防御を続けるナッツが右の鎌を弾き飛ばす。

 まるで演舞でもしているかのように二人が入れ代わり立ち代わり動く。スキルエフェクトが散りながら二人を彩り続ける。

 ナッツ自身が威嚇(ハウル)を使っているからか、鎌による攻撃は全て二人に集中している。一撃で全てを消し去るその攻撃を既に数分は受け続けている。

 けれど、誰もその役目を代わろうとはしない。恐ろしい訳ではない――いや、恐怖はある。けれど、それ以上にナッツを止める事など出来ようか。

 絶望とも呼べる攻撃を笑いながら捌いているナッツを止める事など出来ようか。

 スキルによる硬直時間さえ楽しむように笑い、迫る鎌に対しての恐怖すら感じさせない。そのような狂った空間に誰が入れようか。

 

 けれども誰もが理解している。あの集中力が長時間続くことは無い。もし続くのならば、ナッツが反撃という隙を見せる意味が無くなってしまう。ギルドの長としてパーティを組んでいるであろうナッツが反撃を主に戦うという事は、つまり短時間の集中力でしかない事の証明だ。

 ソレを理解したプレイヤーは一刻も早くこの戦闘を終わらせる為に攻撃を続ける。ナッツの集中力が終わるまで保つ事を願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 一時間近くに及ぶ長期戦。

 ようやくHPバー全てを消失させ、地面へと伏したボスモンスター。攻略の証明として《Congratulations》と浮かんだ文字。

 けれどもプレイヤー達は歓声を上げる余裕もなく、黒曜石の床に脱力して座り、仰向けに転がって呼吸を整えている。

 ――終わった。

 誰かがソレを言うでもなく、誰もが思っていた事だった。

 

「……――ッ」

「我が君!」

 

 張り詰めていた空気が弛緩したことでナッツの集中が途切れたのか、忘れ去られていた疲労が顔を覗かせる。

 膝が折れて倒れそうになるナッツをウィードが素早く支えて抱きとめる。あの脅威を一時間近く受け止めていたのだから、その疲労は他のプレイヤーの比では無いだろう。

 

「何人――……やられた……?」

 

 がっくりと座り込んでいたクラインが掠れた声を小さく漏らした。

 その声で目減りしている仲間達をナッツはようやくその視界へと入れた。

 

「十二人だ……十二人、死んだ」

 

 戦闘中に数えていたのか、それとも今のメンバーから逆算したのか、キリトが正確に居なくなってしまった人数を応える。

 十二人。恐らくこれ以上に危険な戦いであろう先を考えれば、最終階層には何人生き残れるのだろうか。

 

 ――そして、何百人が死ぬのだろうか。

 

 単純計算で三百人。クォーターポイントという事も考えればソレ以下になるかも知れない。同時に失ってしまう人間と新たに補充した人間の力量を考えれば――もっと被害は出るだろう。

 ナッツは目を細めて小さく息を吐き出した。今は、まだイイだろう。問題はヒースクリフが離脱した後だ。

 今回の戦いで彼が居なければ突破は更に厳しくなっていただろう。恐らくこの先もだ。

 芸達者な事に、あの危険な状態であっても自身のHP調整をしてみせた男にナッツは憎らしく視線を向ける。

 

 

 果たしてその視線がどう映ったのか、ナッツには分からない。

 けれどもキリトに疑念を抱かせるには十二分の状況でもあった。

 

 二人の防御方法の差はあったであろう。キリトが彼を深く知っている訳ではない。けれどもナッツの事は十二分に知っていた。

 あのナッツが――モンスター相手に初期武器と防具なしで《検証》するナッツがこの程度の時間で集中を切らす事が無い事は知っていた。そして疲労していても他人にはあまり見せない事も。けれども現実は疲労困憊でウィードに抱えられている。

 同じ役割を果たしていたであろうあの男はどうだ。

 

 一つ疑念が湧けば、不思議と更に疑問が出て来る。

 本当に些細な事だった。視線であったり、普段の行動であったり、そして不動とも呼べるHPであったり。

 散りばめられたピースが一つ一つ填まり、仮説が出来上がる。けれども、そうであるならばナッツはこの事実を知っている事になる。

 何故言わなかったのか。そんな事は分からない。ただ自身と一緒で今しがた仮説に行き着いたのかも知れない。情報屋である弟分だからこそ、先に仮説に行き届いたのかも知れない。

 

 

 ならば、試す価値はあるだろう。

 もし間違っていたならば――その時はその時で考えよう。黒鉄宮で過ごすもよし、犯罪者として逃げるもよし。

 

「キリト君……?」

 

 アスナをチラリと見れば、二人の視線が交錯した。愛しい人ならば自分を止めるだろう。当然だ。コレは仮説でしかない。

 だからこそ止められる訳にはいかなかった。

 アスナの制止の声が聞こえる前にキリトはヒースクリフへと狙いを定める。十メートル程度の距離であり、走れば数秒程けれどもソードスキルを用いれば数秒すら掛からない。

 刀身を輝かせたキリトは真っ直ぐにヒースクリフへと突進する。誰もが一瞬呆気に取られ、声を出す事すら忘れてしまう。

 驚きの表情を浮かべたヒースクリフであったが、冷静に盾を構え、予想外の襲撃者の攻撃を防ごうとする。けれどその刀身は防がれる事もなくヒースクリフへと向かい……

 

 ……紫色の――システムメッセージにより防がれた。

 【ImmortalObject】と浮かんだ文字。その文字が浮かんだ瞬間にキリトはヒースクリフから距離を取り、真っ直ぐに睨めつけた。

 その隣に歩み寄ったアスナが信じられないモノを見るようにヒースクリフを見つめる。浮き出た文字は既に消えているが、しっかりと見てしまった。

 

「システム的不死……どういう事ですか、団長」

 

 頭の何処かでは理解している。それはアスナ以外の血盟騎士団団員もそうだ。

 もしも、()()であるならば、自身達の忠誠や希望というモノは架空の、ハリボテの、何の意味すらない……。

 

 そんな懐疑的な団員達の視線すら無視してヒースクリフはキリトを見ている。まるで立証を待っている様に。

 

「……この世界に来てからずっと考えていた事があった……。あいつは何処から俺たちを観察し、世界を調整しているんだろう、ってな。でも単純な真理を忘れていたよ。子供でも知っている事だ。

 

 

 《他人のやってるRPGを傍から眺める程詰まらない事はない》……そうだろう、茅場晶彦」

 

 自身の中での答えをヒースクリフへと告げたキリトは剣を構えたまま視線を動かさない。

 その視線に捉えられたまま、ヒースクリフは苦笑を浮かべる。

 

「さて茅場晶彦博士は存外、この世界を作って満足しているかも知れない。

 が、ココで否定した所で既に遅い、か」

 

 諦めるように頭を振ったヒースクリフはあり得ないモノを見るような視線ではなく、純粋な敵として自身を見てくるキリトへと視線を合わせる。

 

「……君も私とのあの決闘での違和感が決定的だったのかね?」

「俺も、って事は」

「ナッツ君も私の正体に気付いていたよ」

 

 その言葉と同時に視線がナッツへと集まる。何故言わなかったのか、という疑念の視線。それにヒースクリフは人の欲深さを垣間見て笑みを深める。

 視線が集中して恥ずかしくなったのか、それともある程度の疲労が取れたのか、ナッツはウィードの腕から離れて一人で立ち上がる。

 

「彼を恨んではいけない。結果論だが、あの時点で私の正体が広められていれば今回の攻略は更に被害を出していただろうからね」

「……僕はもうちょい黙っとくつもりやってんで」

「そうだろう。君は私の事を精々お助けキャラ程度にしか考えていなかっただろうからね」

 

 苦笑の色を強め、ナッツを一瞥した後ヒースクリフは――茅場晶彦は超然とした、明らかな上位者として下位者を見下すべく笑みを浮かべる。

 

「――私が茅場晶彦だ。付け加えれば君たちを最終層である紅玉宮で待つ最終ボスでもある」

 

 突きつけられた現実。その現実に小さくよろめいたアスナをキリトが支える。

 

「……世界最強のプレイヤーが一転して最終ボスかよ。趣味が悪いぜ」

「中々いい演出だろう? ナッツ君には予想されていたからゲームマスターとしては肝を冷やしたが」

「何言うてるんさ。僕は単なる役者やで。台本にケチ付ける事はせんよ」

「どうだろうか……。まあ、そういった想定外の展開もネットワークRPGの醍醐味とも言うべきかな……」

 

 薄い笑みのまま肩を竦めた茅場晶彦にナッツは何処か疲れたような顔をする。

 その時、凍りついていたかのように動きを止めていたプレイヤーの一人が動き出す。血盟騎士団の制服を身にまとった一人の男であった。

 ハルバードを握りしめ、凄惨な苦悩を瞳に浮かべた男。

 

「貴様……貴様が……俺たちの忠誠を――希望を……よくも」

 

 けれどその男が地を蹴るよりも茅場晶彦の方が早い。()()を動かして素早くコンソールを操作する。

 

「うがっ」

「くっ」

 

 誰もが呻きながら倒れていく中、キリトとナッツは神から許されたように何事もなくその場に立っている。

 

「麻痺か」

「どうするつもりだ。このまま皆殺しにでもするつもりか?」

「そんな理不尽な事はしないさ。精々、私が去る姿をその目に焼き付けてもらうだけだ……が、その前に」

 

 冷徹とも思えるその双眸が真っ直ぐにキリトを捉えた

 

「キリト君。君には私の正体を看破した報奨を与なくてはな。チャンスをやろう。今この場で私と一対一で戦うチャンスを。無論不死属性は解除するし、私を倒すことが出来ればこのゲームはクリアだ、現在生き残っている全プレイヤーをこの世界からログアウトさせよう……どうかな?」

 

 それはまるで悪魔の誘いであった。

 鉄壁とも言えるヒースクリフ、GMである茅場晶彦。どの点を取った所で勝てる術は無いだろう。

 けれど、そんな事はどうでもよかった。

 神を気取り、人殺しを傍観していた男を許す道理もない。

 

「いいだろう、決着をつけよう」

 

 何より愛しい人の心を何度も傷つけたこの男を許せる程、自分は愚かではない。

 

 

 

「そういう事だ、ナッツ君――」

「……先に僕の報奨要求や」

「ほう。無しで良いと言ったのは君ではなかったんかな?」

「別に、確約がほしいだけや。キリトが勝てば()()()()()()()()()()()()()()をログアウトさせる事を、な」

「……なるほど。が、君の手出しは封じさてもらおう」

「みんなと同じ麻痺にでもする気かいな」

「いいや、君にはこの戦いを見届ける使命がある」

「……キリトが負ければ僕が勇者ですか」

「君が望んだ地位だろう」

「趣味悪いとしか言われへんなぁ」

 

 課せられた使命に嫌気が差しながらナッツはちょうどキリトと茅場晶彦との間へと立つ。立会人としてはこの場がイイだろう。

 

「ナッツ……その、悪かった。お前は考えて茅場の事を明かさなかったのに――」

「あー、エーエー。それは終わった事や。僕では勝てんとも思ってたし、そういう判断や」

「……少しくらい格好を付けさせろよ」

「無理な事言いなや。無理そうな事は全部止めて来とるやろ……だから今も止めて無い訳やし」

「……ああ!」

 

 どこか回りくどい弟分の激励にキリトは応じる。同時に何かを決めた様に、ナッツへと真っ直ぐ向く。

 

「アスナを頼む」

「……ん、安心し。ただ死になや、キリト」

 

 ソレは自身が負けた時の保険だった。アスナの性格上、後を追う可能性が大きい。それはキリトが望む所ではない。

 最期になるかも知れない。立会人として立つ弟分はきっとその役職を真っ当するだろう。

 憂いは断った。守るべきモノもある。

 

 キリトの思考が戦闘へとシフトしていく。景色も弟分も、愛しい人すら消し去り、目の前にいる敵を倒す為に――殺す為に思考が回転し始める。

 

 

 だから気付く事が出来なかった。

 戦闘を始め――殺される直前に自身とヒースクリフとの間に入り込んできた愛しい人に。気付いていたならば止める事も出来たであろうに。

 

 

 

 

 

 

 そしてゲームは無慈悲にもクリアされた。勇者とも呼べる男を救わないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 一定のタイミングで音が鼓膜を揺らす。

 空気の香りが鼻を擽る。何処か薬品臭い香り。

 瞼の上から強烈だとも思える光を感じて、瞼を強く閉じ、ゆっくりと慣らすように上げていく。

 

 知らない天井だった。

 記憶に残っている場面はキリトさんがゲームをクリアした所だった。ああ、そう――SAOはクリアしてしまった。

 まるで夢の様だった。自由に動け、自由に外に赴き、自由に自由だった。そういった役であった、と言えばソレまでだけれど、それでも僕は自由を感じる事が出来たのだ。

 

 窓の外を見れば、青い空が広がっている。とても広い空が、広がっていた。

 

 帰って来た。戻ってきてしまった。

 

 あの世界(アインクラッド)を地獄だと言うのならば、僕にとってこの世界(現実)は真逆になる。




>>キリトとヒースクリフによる熱い戦い
 その戦いは原作で君の目で確かめよう!(攻略本感

>>十二人死んだ
 原作では十四人です。君の目で(ry

>>ナッツが割り込んでも鎌を抑える事が出来ないなら飛び出す意味無くない?
 その辺りも確かめる事込みでの飛び込みです。数秒ぐらいの時間稼ぎ、と思って下されば……。

>>ナッツの集中力
 長時間保ちます。深いです。

>>最終戦が無いやん! ナッツが立会人として居る事で展開変わらんのか!?
 変わりません。アスナさんが愛によって麻痺を解除してキリトくんが愛の力(物理)によって茅場さんを八つ裂きにします。
 茅場さんがアスナさん乱入についてナッツ君を攻めようとしますが「手出しするなって言うたやん(棒」や「僕は手出ししとらんで(ニッコリ」とされる程度なので止めました。許してください、何でもry

>>現実編
 次から現実編です。因みに一話で終わる予定です。まあナッツ――加藤夏樹君を取り巻いている現状をパパパッと書いてGGOに移行する予定です。
 ALO? おっぱいはまた今度な! 時系列的には入れても問題無いのですが、夏樹君の疲労がスゴイのと多分余裕も無いでしょうからカットだッ!

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