ホントにスイマセンしたぁ!
夜天を囲むように天から強い光が落ちる、それに触れた狐の幽霊は停止することができず突っ込み、その身を消滅させた。
残り僅になってしまった狐の幽霊は、光の柱が無くなるのを待っている。だが、光線が上から降るだけでは済まなかった。
閃光のごとく、光線の中から銀色に光る何かが飛び出し、残っていた狐の幽霊を全て真っ二つにしていった。
「他愛ないですね。霊体相手に格の違いもわからない不敬者。神格の前に蒸発しよった」
光の柱が無くなっていくと、そこには夜天の姿がない。いや、夜天と瓜二つと似た、少女の姿があった。
白装束に床まで付きそな髪を金色の鈴がついた簪で玉を止めてギリギリにつかない程度に済ませた髪型。
そして一番目を奪うのは少女の後ろに浮かぶ大きな鏡。その鏡のなかには、後ろ姿の少女とその背中に取り憑くように夜天の姿があった。
「宿主に呼ばれるのはいつ頃だったか...すっかり体が生ってしまったわ。どう責任をとってくれるのかしら?」
『“八咫鏡”それを使う許可を出す。てか使えよ。ただしおれの霊力が残り少ないからそれ一発だけしか使えない』
「あら、そんなにヤバイ相手なのかしら? それは楽しみねぇ」
少女は不適に笑みを漏らすと後ろに浮かぶ鏡を少女の前まで誘導させる。それに会わせて夜天の姿も移動し、少女と向き合う形になった。
「それじゃあちゃっちゃと済ませちゃいましょうか、霊力の供給お願いね、夜天ちゃん」
『相手はデカイ怪物だ、映せ』
「はいはい...あら、これは本当にデカイはね。それに対象が三つ...いえ四つあるわね。どれに入り込むの?」
四つ? 夜天は疑問を浮かべながら、鏡の世界にもうひとつの鏡が出現。夜天はそれを覗き混むように見る。すると、二つは金色に光るものと一つは禍々しく光もの。そして、最後の一つは、その禍々しい光に取り込まれそうになっている、弱々しくしかしどの光よりも輝いている光が存在していた。
『どうやら俺と同じように依り代になってるものがあるらしいな...』
「ちょっと違うわね。これは無理矢理依り代とされているみたいよ? このままだと宿主が死んじゃうわね。それで、どれに入り込むの? ま、言わなくてもわかるけど一応聞いとくわ」
『わかってるなら聞くな、でもまいくならひとつだよな。依り代を助けにいくぞ!』
了解と短く返事を返す少女は目の前の鏡に手を当てる。それに会わせて夜天もその手を当てている反対側に手を当てる。
「妾、神格、八咫鏡の所持者である天照大御神が命ず。依り代、宿主の夜天を対象に光をつくり導き、道を示せ。汝、光の導きに従い進め。妾、天照大御神が承諾する。神ノ恩恵“八咫鏡三鏡・心魂”」
視界がグニャリと歪む、夜天は目眩を起こす。しかしその現象もすぐに治まる...が、先いた場所とは全くことなる場所に立っていた。
「まるで戦場だな。草木の緑が見当たらない...寂しい空間だ。さて、元凶を探すか...ッ?」
夜天の前に数本の尻尾を持った狐の姿を目にした。この場所は、特定の人物の心のなかを映し出した世界であるため、生き物が存在することはあり得ないはずなのだ。しかし現に目の前にいるということはあり得ることは二つある。
一つは心の持ち主である理想姿の分身。そしてもう一つは、その持ち主を守るために現世に止まった魂、守護霊のどちらかになる。
夜天はその二つの中の後者と思った。いや、夜天にはその者が何か訴え、助けを求めている顔をしているため、守護霊だと決め付けた。
「長い間この子を守り続けていた...母狐だな」
心の世界に無理矢理入り込んだため、こちらの声は聞こえるが、相手側の声は届かない。その事を察しているのか、狐は自分が母狐だということを固定した。
「そうか、大変だったろ。でももう大丈夫だ、お前の子もお前も俺が...いや、オレ等が助けてやる」
夜天の言葉に母狐は何度もまるで感謝と謝罪をするように頭を下げる。
「さて、それじゃあ連れてって貰えるか? お前の子の場所まで...」
短く頷くとくるりと半回転をするとそのままテコテコと進んでいく。夜天はその後ろ姿に付いていく。
同じ光景が続く、そこはどこもが戦場の跡地のように荒野が続くばかり、こちらまでもが鬱になりかける。
そんなことを思っているうちに目的の場所にたどり着いていた。
「...これはひどいな、まさか生き物すらないとは...」
夜天は目の前の光景に目を反らす。このとき夜天は自分の無力差を悔いた。
それが生物としてのものであったら夜天一人でなんとか引き剥がすことが出来るが、生物ではなくモノ、この場合は呪器の一種の場合は話が大きく変わってしまう。
呪器はモノとして顕然し、心に突き刺さるもの、つまりは本体は心のなかではなく現世に存在する。
目の前に子狐と思わしき生き物が地に横たわっている。その腹部には深々と赤黒い剣が突き刺さっている。
その剣が子狐に取り憑いていると見て取れる、こちらから子狐から剣を抜き取ることは可能だが、その場合、心との繋ぎが千切れてしまう、つまりは子狐は死んでしまう。その逆もしかり、外の本体を引き抜いても心と体が分離され、生きる屍となってしまう。
「方法は一つだけか...」
夜天は八咫鏡手にそのなかを覗き込む、その鏡にはシンクとミルヒーの姿が写っていた。二人は本体である呪器、魔物の本体に向かっていた。
「こいつを助けるには心の世界の魔物と外の世界の魔物を同時に抜くことが条件だ。あいつらには何かの加護が働いてるから抜くことには問題ないだろうけど...こっちに問題がある...オレ死ぬかもな」
深いため息を吐く姿に母狐は心配そうに顔を覗かせる。
「安心しろ、三割は冗談だ。それにオレの勝利条件は誰も死なないことだ...お前はすでに死んでるからノーカンだからな、やる前から敗けはつまらん。許せ」
夜天は最後にへらへらと笑ったあと真剣の表情で外にいる天照大御神と通信する。
「おい聞こえてるから今から“八咫鏡七鏡・一心”をやるぞ!」
『はあ!? ちょっ夜天それ本気でいってるの? あんた死ぬ気? 陽力も気力も陰力もカラッカラの状態で使ったらあんたの身が持たないわよ!?』
「わかってる。わかっての使用を許可してんだろ?」
『ハア...夜天のバカさ加減は昔から知ってるつもりだったけど、ここまでの大バカ者だとはおもわなかったわ...。夜天、それを使うのに一時的とはいえ何かを失うのよ、それがもし魂なんてことになればあなたは確実に死ぬのよ? それに保つための陽力や陰力がない状態で使用するなんてそれこそ自殺行為、それでも...使用するって言うの?』
本当に心配しての言葉なのだろう。できれば夜天だってこんな自殺行為を行いたくない、むしろ今からでも遅くない、使用を取り下げれば戻せることができる、たった一言「取り下げる」と言えば後戻りができる。
しかし、夜天はその言葉が出掛けることも、ましてや考え付くこともなかった。今目の前に救える魂があるならそれを救わずに見殺しなんてそんな残酷の選択は夜天の意に反する。
「オレは貪欲で強欲で...欲望に忠実な男だ。拾えるものは全て拾い上げる! オレの信念は曲がらない、やるぞ!」
頭のなかにアマテラスのため息をする音が聞こえた気がする。夜天のことを思って止めに入ってくれたのだろう、だけど今の夜天を止めることが出来ないと、長年の付き合いであるアマテラスは察したのだ。
『妾、天照大御神の名で告ぐ。八咫鏡をしよう許可を確認。汝、貢ぎは汝の一部。汝に捧げるは妾の加護。その身その力を良き道に導きたまへ...“八咫鏡七鏡・一心”これより汝と妾は心の繋ぎが出来た。...死ぬんじゃないわよ』
最後の言葉にアマテラスの声は届かなくなったそれと同時に夜天の体が淡い水色のオーラが包み込む。加護が働いている証拠のなる。今の状況はアマテラスの八咫鏡を自由に使うことができるが、それは夜天の霊力が残って入ればの話になるが、支援程度ならば使える。
残り少ない時間のなかいち早くシンクたちを本体にたどり着かせなければならない。
夜天は後ろに顕現した鏡を目の前にもってくるとその鏡にシンクたちを写し出す。
「手伝ってやるよ神力オンリで使った防護結界の力を...」
そう言うと鏡の中に一枚の紙を押し当てると吸い込まれるようにその紙は鏡の中に取り込まれた。
「オレは準備できた。早く抜きに掛かるぞ。急げ...シンク」
剣の柄に手を添えいつでも引き抜ける準備を完了した夜天、その瞳からは赤い液体が流れていた。
「数が多い、姫様! 大丈夫ですか?」
「はい、私は大丈夫です。シンクの方が怪我をなさっていますよ?」
「ボクは大丈夫! 早く行かないと、クッ...数が多すぎるって...ッ!?」
「シンク、危ない!」
狐の幽霊の猛攻を避けている隙をついてか、背中から草に巻かれた剣がシンクの後ろから突き刺してきた。
完璧なほどの不意討ち、避けることは不可能、受ける覚悟でいたシンクはその瞬間の光景に目を見開いた。
シンクを守るように消えない壁が剣を受け止める。シンクの頭上には一枚の紙が淡い水色のオーラを発していた。
「これって、夜天君の技だ」
「凄いです。何だか疲れもなくなっていきます。今のうちに先頭まで向かいましょう!」
ミルヒーの声に反応するパラディオンとエクセリードが強く光を発した。
「神剣パラディオンと聖剣エクセリードが...」
「力を貸してくれるの?」
シンクの言葉に肯定と言わんばかりにさっきよりも強く光を発する。
「ありがとう! 姫様、一緒にいきましょう!」
「はい! シンク!」
二人は互いの武器を重ね合う、するとさらに光が増っした。そして二人は一つの流星の如く、周りを吹き飛ばしながら目的の本体の前にすぐにたどり着いた。
しかしそれでも追撃を仕掛ける狐に幽霊と草に巻かれた剣が襲いかかる。だが、そのどれもが夜天の放った防護決壊によって弾かれていく。
「ハア...ハア...。たどり着いたみたいだな、なんとか間に合ったみたいだ」
息を荒げる夜天の口からは血が流れていた。それだけではない。シンクの到着するまでの間、夜天は何度も吐血を繰り返していた。そのためその夜天の周りは小さな血の池が出来上がっている。
「遅いんだよ...チッ。視界がぼやける、失敗は許されない、絶体絶命ってこう言う状態なんだろうな...笑えねぇ」
そうこうしているときに鏡に写るシンクが剣に手をかけ引き抜こうと力を入れている。
「こっちもやるか...子狐、少し痛いだろうが我慢してくれ。...神格全開。捧げるは我が血と寿命...求めるは力。退魔師が告ぐ、汝との契約を再接続、力の根元、吸い尽くす暴食吸血の蟒蛇。我が血を無限の霊力に引き換えろ!」
赤色の球体が夜天の体から次々と後ろに控える鏡に吸い込まれていく。吐血した小さな血の池からも同じ球体が出ては鏡に吸い込まれていく。その度に小さな血の池はその量を減らしていく。
「退魔師禁呪...“血命鬼華”」
夜天の言葉に鏡から赤色の光線が空高くに撃ち放たれ、隕石の如く光は夜天の周りに打ち解ける。
すると、その場所から真っ赤に咲く蓮が辺りを埋め尽くす。
最後に一つの光線は夜天の心臓に目掛けて被弾した。その瞬間夜天の後ろの鏡から鬼の手が出現。それは夜天の行動と同じ動きをする。
剣を掴み、砕かんとばかりに握り込む。案の定、剣からはピシリとヒビが入ったような音が聞こえた。
「鬼神の手、通常なら鬼の手なんだが、神格の力で鬼神を呼び出す。その力は通常の数十倍。体の負担も馬鹿にならないけどな...お前をすぐに解放してやるよ」
夜天とシンク、二人は互いの行動を目にしていないが、そのときだけ僅かの誤差もなく、子狐を苦しませた剣を抜き取った。
その直後、夜天は全ての力を出しきり糸の切れた人形のように体が崩れた。
ただいま活動報告にてキャラ募集をしております。
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