私はあの女が嫌いだ   作:yudaya89

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 最近眠くて眠くて


第6話「霧島エリとは その1」

 父親・母親

 小学校に入学した直後、娘が射撃をしたいと言ってきた。最初おかしいと思った。元々めんどくさがり屋で、基本的には自分から何かをしたいと言う子ではなかっし、普通小学生が射撃をしたいと普通言わない。しかし娘が戦車の雑誌を熟読しているのを見てから、やはり血は争えないと気付いた。

 

 主人から戦車の事を聞いた時血は争えないと思った。私も戦車道をしていた。その時戦車の整備をしていた今の主人と出会い、25歳まで戦車道をして、子供の妊娠を切っ掛けに引退した。幸一が生まれて、もう一人欲しいと思っても中々出来なかった。それから数年後にエリが生まれた。幸一は活発な子供、でもエリは違った。基本何もしない。周りに流される子供と言うのが、私達夫婦の認識だった。

 

 2人で話し合い演習場に連れて行った。昔なじみの仲間が仕事をしていたから話は順調に進み、今日少しだけ乗る事になった。

 

 戦車に乗ったその日からエリの様子が少し変わった。戦車に関する資料や歴史を見ている事に気付いた。

 

 中学に上がる頃には演習場でエリの事を知らない人は居なかった。射撃、操縦、整備、指揮能力。どれも大人顔負けの実力になっていた。才能を伸ばすなら中学は黒森峰女学院付属中学がいいと思い本人と相談したが、それを言う前に本人から「地元の中学以外行かない」と言われた。流石に強制したくなかったので地元の中学に入学した。あの時みたいに怒ると困るし。

 

 

 

 兄 霧島幸一

 

 うちの妹はよく分からない。俺が9歳の頃に生まれた。高校卒業し、大学へ進学する事には少し違和感を覚えた。小学3年生がドイツ語を辞書なしで戦車の資料をみるなんて普通しない。それを平然と目の前でしている妹が怖かった。

「それ読めるのか?」

「うん」

「どうやって理解したの?」

「辞書みて」

「何ヶ月ぐらい?」

「1~2週間」

「この単語の意味は?」

「行進間」

「なぁエリ?」

「何?」

「今から少し付き合わないか?」

「いいよ?暇だし」

 俺は後輩が戦車道をしているのを思い出したので、高校にエリを連れて行った。

「妹のエリだ」

「へ~先輩の妹?よろしく♪」

「よろしく」

 その後エリを戦車に乗せてもらい、俺はしばらく眺めていた。3時間ぐらいしたら妹と後輩が戻ってきた。エリは他の戦車道のメンバーと話している。しかし後輩が真剣な表情で俺に話しかけてきた。

「ねぁ先輩?妹さん何処の中学に行くの?」

「いやいやまだ小学4年だぞ?考えてないよ」

「先輩。マジな話ですが、黒森峰女学院付属小学校に編入とかどうですか?」

「はぁ?」

「いや、妹さんヤバイです。」

「どういうふうに?」

「全部です。一回試験受けてみませんか?受けるだけでもいいと思います。知り合いが黒森峰にいますから」

「いや、やめとこう。エリは嫌いなんだ。そういうの。」

「でも!」

「ダメだ。一回検討したんだ。小学校入学のとき。その時思いっきり怒ったんだ。もうこりごりだ。」

「どんな風に怒ったんですか?」

「演習場で砲塔が両親に向いた。中にいたメンバーのお陰で何とかなったが、あの時トリガーに指は掛かっていた。その時言った言葉は「あの?あそこに居る人たちに伝言お願いします。嫌だ。これ以上強制するなら・・・」どうだ?体験するか?」

「・・・い・いえ、辞めときます。」

「いい判断だ」

 

 

 その後俺は大学を卒業後中学に教師として就職した。この時俺は22エリは13だった。勿論エリがいる中学。最初の2年は忙しくエリが戦車道で優秀な成績を収めて、開校以来始めての快挙を成し遂げていると職員室でも話題になっていた。当然だ。エリが3年の時に俺が担任になった。

 

 進学時期に進路指導したが、地元の高校に行くと頑なに拒否した。校長からは黒森峰へ進学するように言われたが、過去の話をして砲弾をこの校長室に打ち込まれたいのなら進めてください。と伝えた。話を聞いた後「冗談だろ?」と言われたが、「色々と後始末が大変と思いますが、頑張ってください」と伝えた。その後校長からは無理に進める必要なしといわれた。でもここから先俺の頭を悩ます事態が発生する。

 

 

 

 西住まほ

 黒森峰女学院付属中学は今年も戦車道で優勝した。当たり前の事過ぎて今更大いに喜ぶものは戦車道を受講している人間程度だろ。しかし今年は例年と違った。何でも相手の弾切れによる優勝であり、フラッグ車同士の砲撃戦の末の決着だ。こちらは10両。相手は4両・・・不甲斐ない。今年の戦車道メンバーのレベルの低さがうかがえる。

 

 そして1年後私は黒森峰女学院へ進学し、戦車道を受講した。入学早々副隊長となった。それから2ヵ月後、中学の顧問と、隊長から相談された。内容は「この中学への対策」だ。確か去年の準優勝中学だ。

「で?どのような相談だ?」

「去年の映像を見ていただければ」

 そう言い、彼女はDVDを差し出した。中身は去年の決勝戦。

 

 

 

「いかがでしょうか?」

「・・・この隊長は?」

「霧島エリ、今年3年で、去年も出場していました」

 その後我々は話しあった。有効な対策はいつも通りの作戦を決行する事で決まった。しかし

「去年私は彼女と最後まで戦いましたが・・・怖いです。何もかも見透かされているみたいで。最初の砲撃、あれで2両撃破されました。その中には副隊長が乗車する車両がありました。それで指揮系統に若干の混乱があって、その最中に奇襲を受けました。まるで何でも知っているみたいに」

「安心しろ。そんな人間は居ない。今年の対策は去年と同じ過ちを犯さない事だ。指揮系統を1系統だけではなく、緊急時用にもう1系統用意するなどの対策は必要だ。」

「分かりました。」

 

 あの隊長は西住流を受講している。西住流を受講するものは殆どが高校から戦車道を受講する。しかしあの隊長のように中学から戦車道を受講するものも居る。中学の戦車道の講師も西住流派が指導している。それもかなり実力がある。そういえば去年の隊長、副隊長も西住流を受講していたな。

 

 

それから数ヵ月後

 

 去年の雪辱を晴らすため万全の状態で挑んだが、敗北した。それも5両相手に完封負け。それから数日後、あの隊長が私の元に訪れた。

「今お時間よろしいでしょうか?」

 普通はアポを取るものだが、顔色が優れない。

「ああ大丈夫だ」

 

「あの試合に関してですが・・・」

「言ってみろ」

「まず開始から直ぐに2両撃破され、1両履帯破損しました。指揮系統が一瞬、ほんの数秒乱れました。そこへ敵車両2両による奇襲、3両撃破されました。この時点で5VS5になりました。勿論こちらも反撃しましたが、まるで何もかも知っていたように追撃をかわされ、しかも待ち伏せもされました。私たちが何をするのかも、どう対応するかも分かっているような・・・そんな気がしました。」

「それで」

「フラッグ車のみになり、敵車両に囲まれました。私は車両から顔を出し、相手のフラッグ車を見ました。其処には彼女が居ました。砲撃手兼車長の霧島エリが!!」

「其処で何があった?」

「彼女は拡声器で「一騎打ちだ、いつでも撃って来い。」そう言いました。屈辱以上のものを感じました!!勿論その時は隊長として表情に出しませんでしたが・・・」

「私も中継で見た。あれは私でもそう感じるだろう」

「それで私たちはタイミングを見ました。相手を見ながら!!あの女を見ました。ずっと彼女は笑ってました。私を見下し、何もかも見透かしているあの目、表情!!そして少し北に吹いていた風がやんだ瞬間、私は砲撃を指示しました。」

「しかし白旗を揚げていたのは・・・」

「そうです、私達の車両でした。あの時何があったのか、よく覚えていません」

「なら教えてやる。彼女はお前の砲撃を打ち落とし、2発目を装填し、お前達を撃破した。散々周りから教えてもらっただろ?でも納得し切れない。だから私のところに来た。そうだろ?」

「はい、未だに信じられなくて」

「今はゆっくり休め。それから考えろ。」

「分かりました。御忙しいところ申し訳ありませんでした」

 彼女は一礼し退室していった。

 

 私はこの中学の隊長に会ってみたくなった。だがお母様からは西住流では必要ないと言われた。私は彼女のことが気になり調査した。調査中に彼女がアップしていた動画を見て驚愕した。まず停止した状態で1.5km離れた的に一発命中。勿論ど真ん中。其処へ10発ワンホールショット、その後走りだした戦車から砲撃を開始。その砲弾も先ほどと同様、ワンホールショット。普通出来ない。いやありえない。私はお母様を説得し彼女を黒森峰にスカウトするように頼んだ。勿論学費免除という特典付きで。

 

 しかし彼女は黒森峰を蹴った。担任の教師に直接聞いたが、黒森峰の名前を聞いた瞬間「行かない」と言い始めたそうだ。

 

 彼女をどうしても諦めきれず、担任の教師に直接会いたいと打診した。その時の教師からは「どうなっても知りませんよ?」と言われた。そして3日後彼女の家で彼女を待った。そして彼女と話をしたが、始終彼女は不機嫌だった。そしてイヤイヤ彼女は承諾した。

 帰宅の際彼女と話したが、予想外に彼女は、何と言うか女ではなく男っぽかった。それもかなり口とガラが悪く、わがままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




その2へ続きます。

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