私はあの女が嫌いだ   作:yudaya89

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第48話「再指導」

 全国大会

 聖グロVS黒森峰

 

 先ほどより試合が開始された。試合前に整列した時オレンジペコ、ローズヒップ、ルクリリの表情を良く観察した。ペコは俺を見ていた。まっすぐに俺を見ていた。なるほど純粋な子だ。ローズはルクリリと何か話している。まぁ口の動きからして「ちゃんとしろ」や「じっとしていろ」などルクリリがローズを注意しているが・・・淑女とは何かを彼女達にしっかり教えたほうがいいんじゃないか?

 

 

 試合が開始されたが俺は事前に調べておいた丘に部隊を動かした後、待機を命じた。事前に今回の作戦は伝えている。勿論異論が無かったわけではない。

「何故格下相手にそんな戦術を?」「なぜそんなに腰が引けている作戦なのか?」

「そんな作戦は黒森峰らしくない」

など、まぁボロカスでしたよ。でもな?考えてみろ。なぜこんな作戦を実施するか・・・この先の事を考えているからだよ。

 

 去年の全国大会で俺は文部省やその他部署の不正行為を暴露した。結果現在文部省や不正を行った部署ではかなり俺への批判がある。勿論全て事実であったことは問題ないが・・・俺の行為はダージリン風に表現するなら「虎の尾を踏む」だ。1つだけ、そう1つだけ、国民に明かしてはいけない事実を俺は公開した。これは歴代大臣も関わっていたため、大問題になった。その事実は

「学園艦」についてだ。元々学園艦は

「来るべき国際化社会ために広い視野を持ち大きく世界に羽ばたく人材の育成と、生徒の自主独立心を養い高度な学生自治を行うために、これからの教育は海上で行うべしと」

 などという理由から、陸から海に学校は移った。しかし良く考えて欲しい。どう考えてもコストに見合わない。どう考えてもだ。だから廃艦などの問題が発生している。しかしその問題を後回しにして現在でも運用されている。なぜか・・・それは

 

 

 

 

 「製造資金の横領」

 

 

 まぁ当初はしっかりした学園艦が製造されていたが、あるときを境に製造資金を横領する議員が出始め、当初の学園艦の耐久年数が大幅に低下していた。その事実が公表された。どうなると思う?まぁ世界問題まで発展しましたよ。生きている大臣は全員国会に証人喚問される、勿論証言拒否などがあったが、証拠を突きつけられ観念し事実を公にしたり、過去に横領した金額の全額返納などがあった。勿論故人の家族やその親戚までも攻撃対象になってしまったことは真に遺憾と感じるが、俺の知った事ではない。まぁ脅迫状などは届いたので、送り主を突き止め、近所に「あの人今問題の学園艦に関わった人物の親戚」「脅迫状を送った人」などと言いふらしたぐらいの嫌がらせは行った。賛否あると思うが聞かない。

 

 そうした経緯からこの全国大会後に何かあると思わないほうが可笑しい。だから俺はなるべく車両に負担をかけたくない。だが今の聖グロがそこまで甘くない事ぐらい分かっている。しかし多分試合終了直後に試合が決まるだろう。勿論拒否は出来ない。今の我々に勝てるのはプロしかいない。しかしプロにまけた処で我々にダメージは無い。我々が負けて西住流の名が地に落ちる相手・・・

 

 

 そういった理由から俺はこの作戦を強行する事にした。流石に理由は完全に隠して説明したがな。納得は得られたが・・・

 

 

 

「隊長!」

「どうした?」

「敵車両距離6000に入りました」

「5000まで引き付けて。その後第2小隊砲撃を開始し、各車両5発。撃ち終わり次第、第2小隊はこの場で待機」

「了解」

 多分クルセイダーだろう。

 

 

 

「5000を切りました。第2小隊砲撃開始!!」

 小梅の綺麗な声と共に砲撃が開始される。小隊5両の砲撃、計25発を無事に掻い潜れるかな?

 

 

 『聖グロリアーナ女学院 クルセーダー2両 行動不能!!』

 

 

 

 さて攪乱役が4両から2両へ減った。そろそろ問題ないだろう。

「水樹!!10両まかせます。結果を出して下さい」

「了解しました」

「くれぐれも油断しないように」

「はい!」

 

 油断するなと言っても、この状況自体俺の油断と言ってもいい。まぁペコもこうなることはある程度予想しているだろうな。だからその期待に俺は応じる。さぁペコ?どうする?

 

 

 

 

 水樹

 

「敵車両は18両!攪乱役の車両は2台、各員警戒を怠るな。奴等は車両の足回りを狙ってくる。発見次第2両で追い込め。斥候車両からは?」

「敵部隊の本隊ですが、現時点で発見していません。ただクルセイダーが後方に引いていきます。追跡します」

「了解。発見された時点で後退」

「了解」

 

 

 脅威なのはパーシングとチャーチルだけ・・・でも他の車両でも足回りを壊すことはできる。それに相手はペコ。霧島隊長の評価はそこそこ良かったはず。

 

「敵部隊発見しました」

「位置は?」

「現在の位置から東に2000」

「了解。相手の動きは」

「低速でこちらに向かっています。優雅に紅茶を飲みながら」

「了解。斥候は終了です。後退しつつ我々に合流して下さい」

「了解しました。それと相手車両ですが目視で18台です。1台不明の車両がいます」

「不明?」

「はい。シートと隠しています。あと形を変えている可能性があります。シークレット枠の車両かと」

「大きさは?」

「おそらく中戦車程度かと」

「分かりました」

「後退します」

 

 嫌な予感がする。聖グロに新しい車両?・・・いや問題ない。中戦車程度ならこちらの戦況が悪くなる事は無い。

 

 

「全車両前進。相手本隊へ向かいます」

 

 

 

 

「聖グロ本隊発見!!」

「では攻撃を開始!!」

 

 私の合図で砲撃を開始した。砲撃をしつつ前進、相手を翻弄する。しかし相手の部隊の一部が森に逃げ込んだ。後々メンドクサくなると鬱陶しいので追撃させる。

「森へ逃げ込んだ車両を追撃!」

「しかし罠の可能性は?」

「あります。罠と分かっていても問題ありません。ある程度の犠牲は覚悟です」

「了解!!」

 

 

 

 そして

 

 

「足回りをやられました!!」

「此方もです!!」

「修理可能か!?」

「機銃の攻撃で確認不可能です!!」

 その時

「「キャー!!」」

「どうした!?」

 

 

 『黒森峰女学院 パンターG 2両 行動不能!!』

 

「状況報告」

「ハッチが壊れ確認できません」

「同じく」

 

 ハッチが?壊れる?何故?その時追撃を指示したほかの2両から通信があった。

 

「こちらも足・・・・木です!!」

「何だと!!」

「足回りを破壊後木を砲撃、木の重量で戦車を撃破しています。こちらも・・・」

「どうした!!」

 

『黒森峰女学院 ヤークトパンター 2両 行動不能!!』

 

 

「全車両後退!!」

「無理です!!」

「何故!!?」

「カヴェナンターです!!カヴェナンターとクルセイダー2両!!計3両がこちらに向かっています。機動力はあちらが上です。おまけに敵本隊が!!」

 

 

 森へ逃げ込み我々を誘い込む。足回りへ攻撃し車両をそこから移動できなくする。木を砲撃し、倒れる木で我々の車両を撃破する。倒す木もある程度重量のあるものを選んでいる・・・

 

 今4両撃破され残存は6両・・そして6両を3両で攪乱し15両で蹂躙する・・・霧島隊長も10両・・・このままでは数の上ではこちらが不利になる。ここは恥を承知で隊長に指示をもらうことにする。指示をもらうと無線を繋げた瞬間、そこから聞こえてきたのは

 

 

「あははははは!!」

 笑い声だった。それもとてもとても楽しそうな笑い声だった。

「水樹~~大変だね、あはははは」

「隊長・・?」

「どうしたの?もっと頑張りなよペコは頑張っているのに水樹はどうしたの?ダメだよあははははは」

「こちらは6両までに減らされました。このままでは」

「水樹?」

 その時私を呼んだ声・・今まで私は聞いたことのない冷たい・・そして無感情な声だった。

「私は結果を出せと言いませんでした?」

「あ・・はい」

「あなたの今の状況は?」

「あの・・えっ・・」

「このままではあなたが帰る場所はありませんよ?結果を出しなさい」

 

 その言葉を最後に無線が通じなくなった。この状況から打開?どうすれば・・・

 

 

 

 

 

 

 

 霧島

 

 

『黒森峰女学院 ヤークトパンター 2両 行動不能!!』

 予定通りというか計算通り!!水樹の悪い癖がでだ。あいつは罠と分かっていてもそれに飛び込んでしまう癖がある。それがいいときもあるが、悪いときもある。今までの相手なら通じたかもしれないが、今回は通じなかったみたいだ。

 それと状況からして紅茶を飲みながらは試合を行っていない・・・嘘だろ?伝統を捨てやがった。それに木を使って撃破するなんてそんな淑女らしくない戦い方・・・そんな事って・・そんな事って・・・ダメだ、もう我慢できない。

 

「あははははは!!」 

 こんな事があるから戦車道はやめられない!!淑女を捨てて、先輩方が積み上げてきた伝統を捨てて、勝利を取りにきた!!こんな状況で笑いを抑えろと言うほうが難しい!!

「あはははは!!見ろ!!あいつら淑女を捨てたぞ!!あいつら伝統である紅茶を持って戦う事を辞めたぞ!!あははははは!!」

 これは誰の指示だ?アールグレイか?ダージリンか?

「ちょっと!!」

「何?今凄く楽しいんだけど?」

「何が面白いのよ!!水樹の部隊が壊滅寸前よ!!今すぐ増援をを!!」

「どうして?どうして増援を出さないといけないの?今伝統を捨ててまで勝利を掴みにきた人間と戦っているのに?何故?」

「あんた分かってるの!!今水樹を失うと数の上で18対10で不利なのよ!!あんたいつも言ってるでしょ!!態々不利な状況に自分達を追い込む必要は無いって!!」

「え?何が?数が少ないと不利なの?」

「さっきから何言ってるの!!」

 その時

「エリカ副隊長!!」

「何よ!!」

「今は試合中です。それと隊長への暴言は部隊内では禁止です」

「小梅!!あなたも今の状況分かってるの!!」

「分かってます。だから一度隊長の考えを聞きたいと思います」

 小梅は俺に向かって

「今の状況を水樹に任している理由を教えてください」

「水樹の欠点の修正」

「数の上で不利ではない理由は?」

「この試合はフラッグ戦。数の勝負ではない。先にフラッグ車を撃破されたほうの負け」

「勝算は?」

「100%こちらの勝利」

「作戦は」

「西住流らしく「まっすく行ってブッ飛ばす」」

「了解しました」

 了解したのかよ!!

「エリカ副隊長?」

「何よ小梅」

「問題ありません。このまま隊長の指示に従いましょう」

「小梅まで!!」

「冷静になってください。エリカ副隊長ならわかってると思います。水樹の欠点を今ここで修正しないと後々彼女にとって不利になること」

「確かに彼女に何度か注意はしたけど、改善されなかったわ」

「だから今がいい機会なんです」

「しかし・・・」

「今は我慢です。後輩の尻拭いは先輩の役目では?」

「確かにね・・・・霧島隊長!!」

「何?」

「先ほどまでの御無礼申し訳ありませんでした!!」

「問題有りませんよ。分かっているけど、我慢できなかった・・・他の隊員も言いたそうな表情だったしね。さてそろそろ恥を承知で私に無線が入る頃。皆に悪いけど水樹には最後の指導を行います」

「「「了解」」」

「それにしても皆後輩には厳しい先輩方ですね。了解って・・・・あははははは」

 そして通信が入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水樹

 考えても打開策など思い浮かばない。私達は密集隊形をとり、敵車両3両の砲撃を浴びている。敵の砲撃ではこちらの正面装甲は抜けないが、もう間も無く相手本隊が到着する。そうすれば集中砲火だ。これを回避するには後退がもっとも合理的だが・・・それでは私は・・・・だめだ後退は絶対しない!!ならばどうすれな・・・

 

 何を・・・私はさっきから考えているんだ?さっきまで敵車両でパーシングとチャーチルだったじゃないか。なぜ私は密集隊形を指示したんだ?何故装甲や性能で劣るクリセイダーやカヴェナンターに過剰に反応しているんだ?

 

 

 

 私は

 

 

 

 

 

 

 

 バカじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全車両全速で敵本陣へ!!隊列は単縦陣!!急げ!!格下の砲撃など無視だ。今から本陣に突撃を実施する」

 

 私に恥を欠かせたあのクソッタレに目に物見せてやる!!

 

 

 





第50話で
黒森峰「あの女は嫌いだ」を終了させていただきます。

外伝は2話?を予定しています。

最終までよろしくお願いします。

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