私はあの女が嫌いだ   作:yudaya89

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第45話「避妊しろよ」

 

 

あれから新入生の資料をまとめていた俺は・・・・倒れた。

 

 

 倒れた理由は

・栄養状態が悪い

・貧血

・ビタミン不足など

・疲労

・ストレス

 

 といった内容だった。下の2つには心当たりがある。というか慢性的にある。しかし残りの2つに関しては心当たりがない。しっかり飯は食ってる。これは誤診と俺は保健医に異議申し立てをし、訓練へ参加しようと考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだろ~絶対」

 一人屋上から訓練風景を見ながら呟いた。

「あの保健医・・・ある程度感ずいてるポイな」

 冗談抜きに、俺の妊娠が今ばれるのは・・・非常にマズイ。今の状況を整理すると

①妊娠ばれる→退学

②戦車道の隊長が在学中に妊娠→隊員達も同じと見られる

③戦車道大会への参加不可

④橋本さんクビ??

 

 

 

 やばい、やばい事以外ない。もうこれは完全に後戻りは出来ない。というか、もう隠し通すし道しか残っていない。どうやって?今6月だよな?多分2ヶ月だよ・・・で、計算上4月のあの時の・・・あれが・・うん。間違いない、あの時のあれが多分そうだ。で出産が・・・来年の2月!!よし全国大会までなんとか隠そう。水樹との勝負は・・・そうだ。簡単だ。動かないで、スタート位置から指示を出して勝つとしよう。よし!!そうと決まれば図書室及び資料室で作戦を練ろう。

 

 

 

 

 

 「「「よろしくお願いします」」」

 

 予告通り水樹は練習試合に全勝した。当初は4回目の試合終了後より3年生は別メニューとし、1年、2年生で試合を行ってもらう予定だったが、俺の体調不良を理由に全試合を1.2年生で行った。結果黒森峰に恥じない試合結果だった。これには家元も認めざる得なかった。私の体調不良の情報は未だ何処にも流出していない。それどころか、水樹は俺の後継者であり、練習試合は後継者としての試験の一つと言う情報が先行している。勿論そんな事を言った事は無い。

 見事テストをクリアした水樹は約束通り、模擬戦を申し込んできた。俺の今の心境も知らんで!!ならばあの手しかない!!

 

 

 

 水樹

 練習試合に全勝した。でもそんな事どうでも良かった。私が今欲しい物は名声でもない、家元の承認でもない!!あの霧島隊長から認められることであり、彼女を部下にする事だ。それ以外に今は不要だ。体調不良だか何だか知らないが、自分の体調管理も出来ない人間は隊長失格だ。

 

 「「「よろしくお願いします」」」

 顔色が悪い、明らかに痩せている。このジメジメしている日にジャケット?

「霧島隊長」

「なんだ?」

「申し訳ありませんが、今の隊長に勝ってもうれしくありません」

「水樹」

「それよりも退任してくれませんか?自己管理が出来ない人間は隊長の資格・・・ありませんよ」

「そうかもしれないわね」

 そんな!!そんな弱弱しい声を出さないで!!

「じゃあ模擬戦やめませんか?」

 私の!!私の霧島エリをこれ以上壊さないで!!

「でも約束だから・・・」

 なんで何も言い返さない!!なぜ私の!!私の嫌味に対していつものように返さない!!あなたは!!あなたは!!

「もういいです、わかりました。私が彼方に引導を渡しします」

「水樹」

「それでは!!」

 

 

 

 

 

 試合は・・・もう無茶苦茶な展開だった。相手の待ち伏せのタイミングが早すぎて位置がばれる、遠距離での砲撃が明後日の方向に、そして霧島エリが絶対しない事が今私の目の前で起っている。その出来事は私だけではなく、副隊長候補の柚木、その他の車長にも衝撃を与えた。それは

 

「隊長車のみを残して・・・全滅?」

「水樹・・・これは何?現実?」

「柚木現実よ。霧島隊長の体調不良の話、本当だったんだね」

「そうね。で?どうする?」

「勿論撃破するに決まってる」

「そうよね」

 

 

 私は・・・あの霧島を過大評価していたのか?それとも・・・もう訳がわからない。相手のフラッグ車の位置は把握している。私もそこに向かっている。砲撃音も聞こえるが撃破報告は無い。まったく・・・

 

 

 それからしばらくして霧島隊長のオープン回線でさらに驚くことになる。

 

『水樹隊長?』

 はぁ?弱弱しく、そして女の子らしい声がオープン回線を通して私に話しかけてきた。

『え?・・・霧島隊・・長?』

『水樹隊長?もう此方に弾は3発しかありません』

 何を言っているのだ?彼女は?

『最後のわがままを聞いて下さい』

 敬語?私に?少し前まで上から目線でしか話をしなかったあの人が?

『何でしょうか?』

『私と一対一で勝負して下さい』

『何故でしょうか?』

『このまま無残に負けるより、水樹隊長と打ち合って終わった方が『気持ちよく引退できると?』はいその通りです』

 この人は・・・ここまで落ちたんですか!!!

『少し待っていただけますか?』

『はい』

 

 

 

 

 

「柚木?」

「何?」

「この提案を受けてもいい?」

「なぜ?」

「情けよ」

「私は反対よ」

「理由は?」

「こんな試合早く終わらせたいの。嫌な予感がずっと続いているの。分からない?」

「・・・あなたの予感の信憑性は聞いてる」

「確かに今の状況からして隊長の勝ち目は無い・・・でも私達は今後「勝」たなければいの。だから目の前に勝利があるのに、どうしてワザワザ危険を起こすの?」

「分かっている。でもこの勝ち方で周りが認める?」

「私なら・・・認めない。もう一度試合を・・・まさか?」

「そう、なら相手の提示した条件で私達が勝てば、周りは認めざる得ない」

「そうなれば、霧島隊長も引退?」

「そういう事ね。事実上私達が全国大会に出場する事になる」

「OK。でも十分気をつけてね」

「ええ」

 

 

 

『霧島隊長?』

『はぃ』

『そちらの一対一を受ける代わりに勝負方法はこちたが決めても』

『お願いします』

『方法は簡単です。こちらに居るパンターが空砲を撃った瞬間が勝負開始です。何処にでも逃げてください』

『分かりました』

『勿論攻撃しても構いません』

『了解しました』

 

 

 

 あの大きなティーガⅠがロケットスタートなんて不可能。ならば開始と同時に砲撃しかない。彼女は過去にそういう試合をしている。勿論こちらも考えはある。少し卑怯だけどパンターの砲手に撃つ瞬間を教えてもらう。そうなればコンマ何秒はこちらが早く砲撃できる。再装填も勿論スタンバイしている。一発目を相打ちに、呆然としているところに2発目を・・・それが彼女の戦術。でもそれは読んでる。相手は残弾は「3発」だ。4発目を装填した時点でこちらの勝ちだ。砲手には砲塔を狙うように指示している。

 

 あの霧島はキューポラから顔を出している。間違いなく本人だ。それにあの暑苦しいジャケットも着ている。あそこの砲手は霧島直伝だ。しかし霧島ほどではない。ならば勝負に勝つのはこちら以外にあり得ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえる?』

『はい』

『そろそろお願い』

『では行きます。3・・2・・1・・撃ちます』

『撃って!!」

 

 

 パンターの空砲と水樹の乗るパンターの砲撃音が重なって、黒森峰に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 勝てば官軍。負ければ賊軍。

 勝てば正義。負ければ悪。

 勝てば賞賛。負ければ嘲罵。

 勝てばその過程について何も批判されない。それが間違っていても
 しかし負ければその過程を批判される。

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