あれから新入生の資料をまとめていた俺は・・・・倒れた。
倒れた理由は
・栄養状態が悪い
・貧血
・ビタミン不足など
・疲労
・ストレス
といった内容だった。下の2つには心当たりがある。というか慢性的にある。しかし残りの2つに関しては心当たりがない。しっかり飯は食ってる。これは誤診と俺は保健医に異議申し立てをし、訓練へ参加しようと考えた。
「ダメだろ~絶対」
一人屋上から訓練風景を見ながら呟いた。
「あの保健医・・・ある程度感ずいてるポイな」
冗談抜きに、俺の妊娠が今ばれるのは・・・非常にマズイ。今の状況を整理すると
①妊娠ばれる→退学
②戦車道の隊長が在学中に妊娠→隊員達も同じと見られる
③戦車道大会への参加不可
④橋本さんクビ??
やばい、やばい事以外ない。もうこれは完全に後戻りは出来ない。というか、もう隠し通すし道しか残っていない。どうやって?今6月だよな?多分2ヶ月だよ・・・で、計算上4月のあの時の・・・あれが・・うん。間違いない、あの時のあれが多分そうだ。で出産が・・・来年の2月!!よし全国大会までなんとか隠そう。水樹との勝負は・・・そうだ。簡単だ。動かないで、スタート位置から指示を出して勝つとしよう。よし!!そうと決まれば図書室及び資料室で作戦を練ろう。
「「「よろしくお願いします」」」
予告通り水樹は練習試合に全勝した。当初は4回目の試合終了後より3年生は別メニューとし、1年、2年生で試合を行ってもらう予定だったが、俺の体調不良を理由に全試合を1.2年生で行った。結果黒森峰に恥じない試合結果だった。これには家元も認めざる得なかった。私の体調不良の情報は未だ何処にも流出していない。それどころか、水樹は俺の後継者であり、練習試合は後継者としての試験の一つと言う情報が先行している。勿論そんな事を言った事は無い。
見事テストをクリアした水樹は約束通り、模擬戦を申し込んできた。俺の今の心境も知らんで!!ならばあの手しかない!!
水樹
練習試合に全勝した。でもそんな事どうでも良かった。私が今欲しい物は名声でもない、家元の承認でもない!!あの霧島隊長から認められることであり、彼女を部下にする事だ。それ以外に今は不要だ。体調不良だか何だか知らないが、自分の体調管理も出来ない人間は隊長失格だ。
「「「よろしくお願いします」」」
顔色が悪い、明らかに痩せている。このジメジメしている日にジャケット?
「霧島隊長」
「なんだ?」
「申し訳ありませんが、今の隊長に勝ってもうれしくありません」
「水樹」
「それよりも退任してくれませんか?自己管理が出来ない人間は隊長の資格・・・ありませんよ」
「そうかもしれないわね」
そんな!!そんな弱弱しい声を出さないで!!
「じゃあ模擬戦やめませんか?」
私の!!私の霧島エリをこれ以上壊さないで!!
「でも約束だから・・・」
なんで何も言い返さない!!なぜ私の!!私の嫌味に対していつものように返さない!!あなたは!!あなたは!!
「もういいです、わかりました。私が彼方に引導を渡しします」
「水樹」
「それでは!!」
試合は・・・もう無茶苦茶な展開だった。相手の待ち伏せのタイミングが早すぎて位置がばれる、遠距離での砲撃が明後日の方向に、そして霧島エリが絶対しない事が今私の目の前で起っている。その出来事は私だけではなく、副隊長候補の柚木、その他の車長にも衝撃を与えた。それは
「隊長車のみを残して・・・全滅?」
「水樹・・・これは何?現実?」
「柚木現実よ。霧島隊長の体調不良の話、本当だったんだね」
「そうね。で?どうする?」
「勿論撃破するに決まってる」
「そうよね」
私は・・・あの霧島を過大評価していたのか?それとも・・・もう訳がわからない。相手のフラッグ車の位置は把握している。私もそこに向かっている。砲撃音も聞こえるが撃破報告は無い。まったく・・・
それからしばらくして霧島隊長のオープン回線でさらに驚くことになる。
『水樹隊長?』
はぁ?弱弱しく、そして女の子らしい声がオープン回線を通して私に話しかけてきた。
『え?・・・霧島隊・・長?』
『水樹隊長?もう此方に弾は3発しかありません』
何を言っているのだ?彼女は?
『最後のわがままを聞いて下さい』
敬語?私に?少し前まで上から目線でしか話をしなかったあの人が?
『何でしょうか?』
『私と一対一で勝負して下さい』
『何故でしょうか?』
『このまま無残に負けるより、水樹隊長と打ち合って終わった方が『気持ちよく引退できると?』はいその通りです』
この人は・・・ここまで落ちたんですか!!!
『少し待っていただけますか?』
『はい』
「柚木?」
「何?」
「この提案を受けてもいい?」
「なぜ?」
「情けよ」
「私は反対よ」
「理由は?」
「こんな試合早く終わらせたいの。嫌な予感がずっと続いているの。分からない?」
「・・・あなたの予感の信憑性は聞いてる」
「確かに今の状況からして隊長の勝ち目は無い・・・でも私達は今後「勝」たなければいの。だから目の前に勝利があるのに、どうしてワザワザ危険を起こすの?」
「分かっている。でもこの勝ち方で周りが認める?」
「私なら・・・認めない。もう一度試合を・・・まさか?」
「そう、なら相手の提示した条件で私達が勝てば、周りは認めざる得ない」
「そうなれば、霧島隊長も引退?」
「そういう事ね。事実上私達が全国大会に出場する事になる」
「OK。でも十分気をつけてね」
「ええ」
『霧島隊長?』
『はぃ』
『そちらの一対一を受ける代わりに勝負方法はこちたが決めても』
『お願いします』
『方法は簡単です。こちらに居るパンターが空砲を撃った瞬間が勝負開始です。何処にでも逃げてください』
『分かりました』
『勿論攻撃しても構いません』
『了解しました』
あの大きなティーガⅠがロケットスタートなんて不可能。ならば開始と同時に砲撃しかない。彼女は過去にそういう試合をしている。勿論こちらも考えはある。少し卑怯だけどパンターの砲手に撃つ瞬間を教えてもらう。そうなればコンマ何秒はこちらが早く砲撃できる。再装填も勿論スタンバイしている。一発目を相打ちに、呆然としているところに2発目を・・・それが彼女の戦術。でもそれは読んでる。相手は残弾は「3発」だ。4発目を装填した時点でこちらの勝ちだ。砲手には砲塔を狙うように指示している。
あの霧島はキューポラから顔を出している。間違いなく本人だ。それにあの暑苦しいジャケットも着ている。あそこの砲手は霧島直伝だ。しかし霧島ほどではない。ならば勝負に勝つのはこちら以外にあり得ない。
『聞こえる?』
『はい』
『そろそろお願い』
『では行きます。3・・2・・1・・撃ちます』
『撃って!!」
パンターの空砲と水樹の乗るパンターの砲撃音が重なって、黒森峰に響き渡った。
勝てば官軍。負ければ賊軍。
勝てば正義。負ければ悪。
勝てば賞賛。負ければ嘲罵。
勝てばその過程について何も批判されない。それが間違っていても
しかし負ければその過程を批判される。