私はあの女が嫌いだ   作:yudaya89

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第28話「敗者の覚悟」

「あら?白雪姫?王子様のキスなしで目を覚ましたの?」

 胃痛と頭痛の原因であり、今一番会いたくない人間が今私の目の前にいる。

 

 

 エリカ・・・この恨み・・・いつかお前の体で払ってもらう!!

 

 

 何と返答したらよいか俺はかなり悩んだが、まぁ謝罪が普通だろ。

 

「私の体調管理不良が原因で貴重な時間を潰してしまいました。大変申し訳ありません」

 軽く謝罪した。

「いいですよ。貴方の疲労の原因はこちらにもありますから。立って居ないでお座りなさい」

 何だろう?緒方がいやに優しい。

「ありがとうございます。失礼します」

 

 

 少しの間があり、最初に喋ったのは緒方だった。

 

「今回の試合には感服しました。まさか黒森峰があのような奇抜な作戦を実行するとは夢にも思いませんでした」

 緒方はあの作戦が如何に自分の虚を突いたか語った。しかし

「確かにあの作戦で私は撃破されました。しかしその後の作戦は酷い。まさか「部下任せの作戦だった」なんてことはありませんよね?」

 俺は少しこの婆さんを見直した。世間では緒方の婆さんを撃破したあの作戦を絶賛するものが多い。しかしその後の作戦、エリカや赤星等が実施した作戦に目を傾ける者は殆どいない。

「酷い?どの点において?」

 俺は質問を質問で返す。失礼な行為だが、聞かねばならん。

「見ればわかります。あれは貴方が考えた作戦ではなく、他者が考えた作戦であると。貴方流に言えば「見えない」です。あの作戦からは「霧島エリ」の姿が見えませんでした。見えたのは「貴方の傍にいる者たち」ですかね」

 今まで居なかった。ここまで我々を見てくれた人は居ない。

「あの作戦に関しては、わが校の副隊長及び各小隊長が考えた作戦です。自分たちが考えた作戦がプロの戦車乗りにどこまで通じるか・・・というのが表向きです。本当は「打ち止め」だったんです。緒方様をいかに撃破するかのみに集中してしまい、その後に関しては当日までに間に合いませんでした・・・そのため保険の意味で試合前に副隊長、小隊長に作戦を考えておけと命令していました」

「わかりました。では・・・あなたは隊長として、自分の役目を放棄したと」

 俺は覚悟を決めた。敗者らしく勝者の問いに答え、勝者の要求に従う。

「そうです。私は隊長としての役目を放棄しました。そして最後の作戦においてもパンター以外の車両への指示も放棄しました」

「わかりました。しほさん?」

「何でしょうか?」

「この方に今後黒森峰の隊長が務まりますか?」

「再教育が必要かと」

「どのように?」

「緒方様の指導が必要かと」

「その間は誰が隊長代理を?」

「赤星隊員が妥当かと。霧島エリ及び逸見エリカ、両名を緒方様に預けたいと考えます」

「私の指導についてこれない場合は?」

「両名を黒森峰及び西住流から永久追放、並びに黒森峰生徒への徹底した教育」

 おっと、ちょっと待った!!

「発言よろしいですか?」

 しかし

「だめです。敗者はそこで黙って聞いていなさい」

 ふざけんな

「先の試合は私と緒方様の戦争だったはず、なぜ私以外の人間に被害が「あなた戦争を理解している?」え?」

「貴方達は「捕虜」ですよ?捕虜の扱いはこちら側に決定権があります。わかりますか?」

 マジか?くっそ!!そこまで見越していなかった。

「・・・では、霧島、逸見両名以外への「罪」を許して頂けるには、先ほどの条件以外に何を?」

「そうね。しほさんは何がいいと思いますか?」

「緒方様に委ねます」

「そうですか・・・なら霧島エリ?貴方に今後「砲撃士」を禁止します」

 

 

 

 

 一瞬俺は頭の中が真っ白になった。俺が戦車道を続ける切っ掛けとなった「砲撃士」を禁止?一番大好きな砲撃士を?・・・しかし俺やエリカが本物のプロの練習に付いていけるはずがない。それも緒方様の指導だぞ?噂じゃかなりキツク、指導についていけない人間は問答無用で「クビ」だそうだ。

 

 

「分りました」

 俺は・・・従う事にした。敗者として当然だがな。

「そうですか、では両名以外は不問としましょう。しかし私の指導中に貴方が砲撃士に指名される恐れがありますが・・・その時はどうしますか?」

 そうか、そういう場合もあるのか・・・目の前の人は俺の「覚悟」をみたいのか。未熟な俺への最初の指導。黒森峰女学院戦車道受講者全員(約300人)を背負えるかと・・・

 

 

 

 

 俺も甘い。前世から確かに甘かった。

 

 

 だからここで俺は「覚悟」を決めなければならない。

 

 俺は

 

 「少し・・・失礼します」

 席を立ち、台所へ立ち寄り、お手伝いさん目を盗みあるものを拝借した。そして

「すみません、タオルを2つ貸して頂けますか?」

 

 

 

 タオルとある物を持ち、2人が待つ座敷に向かう。俺の「覚悟」を2人に見てもらう。

 

 

 

 

「お待たせしました」

「それは?」

「緒方様、西住様、私は・・・「覚悟」が足りませんでした。ここで私は両名に誓います。今後絶対に砲撃士は行いません。何があってもです」

 俺はそう言い、タオルの間に挟んであった包丁を取り出し、

「これで二度と砲撃レバーは握れません」

 

 

 

 

 

 

 

  俺は右手の「人差し指、中指」を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の事はよく覚えていない。漫画とかで、小指を切り落とすシーンがあるが、実際は気絶するぐらい痛かった。ただ俺は2本切り落とした。一本目は何とか耐えたが、2本目を切り落とした時、俺は気を失った。

 

 

 

 次に目を覚ましたのは病院の病室で、目の前には鬼の形相をした主治医だった。

 

 

 

 

 




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