目を覚ました時最初に見たのは、涙で顔をグチャグチャにしたエリカだった。手を伸ばして頭を触ろうとしたが、体がまったく動かなかった。声を出そうとしたが、喋れなかった。エリカが俺から離れ、医師が代わりに俺に声を掛けてきた。
「こんにちは、久しぶりかな?」
「・・・」
声を出したかった。
「しゃべれない?」
俺は1回頷いた。
「わかった。ならYESなら1回頷く、NOなら2回。どうだい?」
俺は1回頷く。
「詳しくは話さない。君は戦車道の決勝戦で大怪我をおった。そしてその怪我のせいでエリちゃんは瀕死になった。エリちゃんの体は特殊だからね。それで小さいころから主治医だった僕が呼ばれた。そして手術は成功。でも意識は戻らなかった。エリちゃんの遺書通り1か月経過した時点で延命処置を中止した。心静止後友達が君が目を覚ましていると言うから、心電図を装着。結果は見ての通り」
それから医師は俺が意識がなかった時の情報を色々と教えてくれた。流石に情報量が多かった。それを察した医師が
「まぁ今日はこれまでにしよう。また明日ね」
俺は1回頷いた。
次の日から俺は情報収集とリハビリを開始した。医師から「まだ早い」と言われたが、結局向こうが折れた。悠長に休んでいる暇はない。いつ「死」がくるかわからないのだから。今日の夜にでも病院が火事にでもなったら俺は死ぬだろな。ナニコレ?死亡フラグ?
1週間後
俺はある程度動けるまで回復した。3日目まで面会拒絶だったが、4日目より面会可になった。色々な人間がお見舞いに来てくれた。アールグレイ先輩とノンナ先輩が来た時は流石にびっくりした。声が出なかったので謝罪が出来なかった。退院後にはちゃんとノンナ先輩に謝罪しよう。アールグレイ先輩からは決勝戦に関して色々聞かれた。しかし俺が覚えているのは、3発砲撃したところまでだ。それから先は知らない。なので答えることができなかった(声が出ない)。仕方なく笑うことにした。
2週間後
リハビリを終えゆっくりしているところに西住隊長が病室を訪れた。面会時間は過ぎていたが西住の名前で面会しにきたのだろう。軽く雑談を交えた後西住隊長は本題を持ち出した。
「エリ」
「なんでしょうか?」
リハビリの効果もあり、大分声がでるようになっている。
「来年も副隊長を続行してもらいたい」
「勿論」
「いいのか?」
「どうしてですか?」
「今回の件で、その、戦車に乗りたくないとか思ってないか?」
おお、この女なりの気遣いか?なら
「問題ありません。副隊長は続けられます」
「そうか。家元にもそう話しておこう」
「ありがとうございます。隊長はみほが?」
「そうだ。今は引継ぎで大変だろうがな」
「まぁ彼女には頑張ってもらいましょう」
「そうだな」
何か違和感というか何かおかしい。
「西住隊長?」
「もう隊長じゃあないぞ?どうした」
「今後なんと呼べば?」
「まほ先輩でいいぞ」
「了解しました。まほ先輩?何かあったんですか?」
「何かとは?」
「黒森峰で何かありましたか?」
まほ先輩の顔が曇った。何か隠しているのは間違いない。しばらく沈黙が続いた。
そして
「みほの様子がおかしいと思う」
「・・・どんな感じにですか?」
「何か思い詰めている。そういう感じだ。」
「詳しく教えていただけますか?」
「時折何かを考えている。隊員が声を掛けても上の空だったり、その他にも色々ある。他の隊員からもその様子に関して相談があるぐらいだ」
「なるほど。確かに様子がおかしいですね。でも色々あるからじゃあないですか?決勝戦後の疲れ、隊長就任までの引継ぎとか。それらの疲れが今頃一気に来ているのではないでしょうか?」
「そう言われればそうだな」
「もう少し様子をみてもいいかもしれませんね」
「そうだな。すまないな」
「友達ですから、何か進展あればまた教えてください。私もなるべく早く退院できるように頑張りますので」
「ああ、だが無理はするな。と言ってもするだろうけどな」
「勿論来週には退院します」
その後少し話をし、まほ隊長は帰っていった。
そして退院前日 検診にて
「明日には退院だね」
「ええ、無事に退院できてなによりです」
「確かに。今目の前で生きているエリちゃんを見ていると、まるで夢をみているかのようだよ」
「そうですか?」
「そうだよ。医学的にはエリちゃんは一度死んだんだよ?生き返った人間をみたのは、僕は初めてさ」
「まぁテレビとかではよく聞きますけどね」
「ああ、でも異常なしってのは聞かないね。何かしら障害は残るのが普通。だから奇跡なんだよ?」
「で、その奇跡を目の前にして何か言いたいことは?」
「今後絶対に大怪我はしないこと。いいね?」
「それは無理なお願いじゃあないですか?」
「体のせいで、普通の医者じゃあ君を治療できない。わかるかい?」
「善処します」
「宜しい。はい、終了。脳波や血液データ、心電図波形に異常なし。体に異常は?」
「問題なしです」
「OK。なら明日退院だ」
「お世話になりました」
「お大事に」
その夜
明日退院するため粗方の荷物を両親に寮に運んでもらった。退院後すぐに寮に戻ることに少し両親は納得しなかったが、特待生であること、引き続き副隊長を継続することもあり強引に納得させた。残りの荷物を片付け、就寝しようと思ったとき、ドアがノックされた。
「エリちゃん?」
「みほ?どうしたの?」
「うん、ちょっとね」
どこか様子がおかしい。少しの雑談を交えた後、俺は
「で、みほ何があった?こんな時間に他愛のない雑談をしにきたわけじゃあないだろ?」
「あのねエリちゃん、私
黒森峰をやめる」