ノンナ
我がカチューシャを侮辱したあの女を許すことはない。今の私にはあの女を殺す事以外考えていない。だから、だからこそ!!今この状況を神に感謝する!!
「各車両あのティーガーIIが率いている部隊を叩きます。私がティーガーII を引き受けます。その他は任せます!!最高速で追い回しなさい!」
「Понятно!!」
まさに前を走る部隊はあの女が率いている。私は砲撃士の同級生と車長を交代し、ティーガーII へ砲撃を開始した。
その後乱戦となり、また1台、また1台と我が校の戦車が撃破された。私の砲撃はティーガーII にあたらない。どうして?!大雨で弾道が変化している?私が冷静さを欠いているから?いや違う!!私の砲撃タイミングを読まれている?私が砲撃を行う瞬間にティーガーII が砲撃の射線上から少し避けるのだ。読まれている!!事前に私の事を分析している。
「装填士、装填速度をもう少し早く!」
「Понятно!!」
装填速度を上げて、砲撃回数を増やす。砲撃のタイミングをずらす等の即席の対策を施しても避けられる。まるで後ろに目があるかのように!!
我々の車両が2両になったとき
「車長どうしますか?」
「このまま戦闘を続行です!!」
「Пон「停止!!」」
車長が停止を指示したが、その直後車両が砲撃された。私はあの女に一発の砲弾を当てる事さえできず、無残に撃破された。
撃破され、数分たったが車長が動かない。負けたショックで動けない無いのか?
「さぁ、雨に濡れ過ぎると風邪を「あの・・・」どうしました」
「あの・・・えっと・・・飛びました・・・」
「え?」
「あの・・人が・・あっちに・・」
「どうしたんですか?」
車長の顔を見ましたが、何かおかしい。
「どうしたんですか!しっかりしなさい」
少し離れた草むらに指を差しながら
「前のティーガーII の車長が、あそこに飛ばされました」
前には我が高の車両がティーガーII に激突し、両車両が白旗を揚げていた。しかしティーガーII の乗員が外で何かを探していた。私は慌てて指を差している草むらへ走った。そこには・・・
樹木の横で、手足が明後日の方向を向き、口から血を出している霧島エリが横たわっていた。激突の衝撃で飛ばされた。飛ばされた先にあった樹木に激突したのだろう。私は目の前の光景をただ眺めていた。
黒森峰の生徒の声で私は我に帰った。声を掛けていたが返事はないだろう。もう彼女は死んで「おい」
「副隊長・・・?」
???どうして??
「じょ、状況報告」
「え?」
この女、生きている?
「二度言わせるな。状況報告」
状況報告?何を言っている?
「え・・・あの、敵5両撃破。こちらは10号車が撃破され、20号車がエンジン破損、ティーガーIIも足回りの破損でリタイヤです」
そんな事より早く!!
「分かった。では・・今からT地点・・急行するぞ」
急行させるのは医療班だ!!
「しかしその体では無理です!!今から救護班「聞こえなかったか?」・・え?」
「私を乗せてT地点・・急行。時間・・・い行くぞ」
私は声を上げようとしたが
「これ・・命令だ。次は・・・無い」
彼女は私の横を隊員に運ばれながら通過した。
そして別の車両に乗り込み、T地点へ向かった。
「あ」
誰かが声を上げた。
「ルール違反」
私は
「そんな事はどうでもいいです!!早く大会本部へ連絡しなさい!!」
「ダメです。この天気で無線が不調です!!」
私は回収車両の大会本部役員へ先ほどの事態を報告した。
「今大会本部側も無線が不調であり、そのようなけが人のことは把握していません」
「ですが、「そもそも」」
「貴女はプラウダ高の生徒です。黒森峰の生徒は何も言っていませんが・・・」
「そんなはずは!!」
そして役員は黒森峰の生徒に
「けが人はいましたか?」
そして
「我が校にけが人は発生していません」
私は耳を疑った・・・何を言っている・・・
「黒森峰高の生徒がそう申しているので・・・」
私はこれ以上申告する事をやめた。これ以上言うと、相手校への妨害工作と思われ、最悪失格になる可能性がある。私は黙って回収車に乗り込んだ。
回収車が発進し規定の場所に向かう。車内は雨の音とエンジン音が響いていた。黒森峰とは別の車両に乗っている。
私はあの時の状況が理解出来なかった。なぜ生きていられる?普通なら激痛で泣き叫ぶか意識が無い状態。前者は最悪。私なら後者を望む。しかし彼女は前者だった。感覚が麻痺していたのか・・・しかしもっと理解出来ないのは、黒森峰の隊員の様子だった。まるで何も無かった・・・そう伺える。
私はふっと考えるのを辞めた。何か・・・聞こえる?この騒音の中、何か聞こえるのだ。・・・・・・・・歌?そんな馬鹿な!!他の隊員の様子を伺うが、特に何もない。
幻聴?いや、私のみに聞こえる?何だ?分からない!
「何?これは・・・」
「ノンナ?」
「すみません!!止まって下さい。エンジンも停止してください!!」
私は役員にそう告げると外に出た。雨の量は先ほどより少なくなっていた。
「聞こえませんか?」
「何が聞こえるんですか?」
「歌です」
「歌?」
確かに聞こえる。女の声が・・・今!!あそこに影が・・・
私は無意識に走っていた。歌の聞こえる方に。木々を走り抜ける。枝で頬を切っても気にせず、歌の聞こえる方向に走る。木々を走り抜けた。そこには
「・・・」
其処には雨の中を「歩いている」霧島エリが居た。ドイツ語の歌を歌いながら
彼女を暫くの間見ていた。明後日の方向に向いている足を気にせず歩く。一体何処に歩いているのだろう。今私の目の前で起きている事を私は理解出来なかった。いや、脳が理解する事をやめていた。私の人生ここまで意味不明な光景は見たことが無かった。そして彼女は行進をやめ、私のほうを見た。目が合った。
「やぁノンナ」
声が出なかった。
「君に選択肢を上げよう。
①このまま私を見捨てる。この選択肢は最高だぞ?何せ私は死ぬからな
②私を助ける。この選択肢は不味いぞ?なにせ私を助ける事になる。君の崇拝するカチューシャを侮辱した私をだ。
どれを選んでもいいぞ?」
そう言いながら彼女は地面に倒れこんだ。そして彼女が倒れこんだ場所から赤い液体が広がった。
その後は私は良く覚えていない。覚えているのは、彼女を抱え、回収車に乗り込んだ事だ。そして医療室に運び込まれる彼女。慌てる関係者。そして黒森峰の隊長、副隊長、副隊長補佐の叫び声と怒声だった。その後のことはあまり覚えていない。