私はあの女が嫌いだ   作:yudaya89

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 今年もよろしくお願いします。



第11話「準決勝」(中編)

 

 アールグレイ

 

 あの女、霧島エリは「魔眼」と呼ばれている。私の中でもっとも記憶に残っているのは、彼女が中学時代に行ったドイツとの交流試合だ。私はあの試合を現地で見ていた。私は始終感じていた事がある。まるで全てが彼女の手のひらで踊っているように思えた。それほどまでに相手の動きを読んでいる、そう思える戦いだったと私は評価する。ドイツの隊長が言った「Alle sind erschrocken. Ich fürchte, sie ist.」(全てを見透かされている。私は彼女が怖い。)この言葉とその時の隊長の表情が私の脳裏にしっかり焼きついている。まるで悪魔か怪物に出会ったような表情だった。

 

 

 

 

 

「アールグレイ様?」

「何かしら?フレーバ?」

「いえ、先ほどからダージリンから通信が入っていますが」

「ごめんなさい。『こちらアールグレイ、どうかいたしました?』」

『アールグレイ様、こちらダージリン。敵戦車発見いたしましたが、いかがいたしましょう?』

『数は?』

『3両』

『囮ですわ。そのまま一定の距離を空けなさい。射程に入ってはダメよ』

『了解しました』

 通信を終了させ、相手の出方を見る。「西住みほ」一度見たことがあるが、頼りなさそうな、おっとりとした女の子。「逸見エリカ」残念ながら彼女のことは良く知らない。少し噂を聞いたことがある程度だ。その噂は「西住流門下生の中ではトップクラス」。そして「霧島エリ」。この3人が率いる黒森峰に来年、我が校は勝てるのだろうか?今の戦車の戦力では勝てない。天才3人とダージリンとアッサム・・・この試合後私は『アールグレイ様!!』通信が入った。

『どうしたんですか?騒々しい』

『砂嵐です!!それもかなりの規模の!』

『分かりました。敵戦車は?』

『敵戦車は砂嵐が発生した地点を通過。砂嵐は現在我が校の待機地点へ向かっています。しかし幸運な事に、敵戦車の数両が車両故障で立ち往生及び修理中との事です』

『分かりました。ダージリンはこちらへ帰還。残りの3両はその場で待機し、砂嵐をやり過ごしなさい。その後は情報収集をしなさい。状況に応じて発砲も許可します。

『『『了解』』』

 

 

 

「ふっう~」

「お疲れ様です。アールグレイ様、紅茶を」

「あら、ありがとう」

 フレーバが紅茶を注いでくれる。そして一口口をつける。

「本当、貴方の入れる紅茶は最高ね」

「ありがとうございます。アールグレイ様?」

「何?」

「やはりあの情報は本当だったんですね」

「そうね」

 事前に手に入れた情報だが、今回黒森峰の戦車には「砂」「熱」への対策が間に合わなかった。理由は隊長入れ替え時のゴタゴタが原因らしい。

「彼女達も不運ですね」

「そうね。しかし油断大敵よ?」

「分かっています」

「砂嵐は?」

「現在こちらに向かっています。どういたします?」

「砂嵐をやり過ごします。こちらは「砂」への対策は万全です。今無闇に部隊を動かすのは愚の骨頂。先に偵察車両が砂嵐をやり過ごし、情報収集を行います。それからでも遅くありません」

「了解しました。砂嵐が接近。全車両はエンジン停止」

 

 

 

 

 

 

 

 20分後

 

 

 

『全車両、損害は?』

『2~5号車、異常なし』

『6、7号車、異常ありませんわ』

『では全車両、前進』

 

『8~10号車?状況は?』

『8,10号車は異常なし、9号車はエンジン始動できずリタイアしました。現在相手の車両を捜索していますが、見当たりません』

『分かりました。引き続きそう『敵戦車発見!11時の方向!撃て!敵パンターより攻撃を受けて、キャー!!』』

『どうしました?』

【聖グロリアーナ、マチルダII 戦闘不能!!】

『10号車!!状況は?』

『パンター1両より攻撃を受けています。現時点はK地点!!先ほどV地点方向へ向かうフラッグ車を目視にて発『キャー!!』』

『10号車!?」

【聖グロリアーナ、マチルダII 戦闘不能!!】

 偵察部隊が全滅した。しかし

『全車両Y地点へ急行しなさい』

『了解』

「アールグレイ様、何故でしょうか?偵察車両からはV地点と」

「あれは多分ワザとです。我々をV地点へおびき出すのが狙いだわ。そして待ち伏せをするならW地点」

「どういうことでしょうか?それなら我々はZ地点へ向かうべきでは?」

「昨日少し考えてみました。どう考えてもこの状況になった場合Z地点が我々にもっとも有効です。しかしそれは相手もわかります。そこにムザムザ出向くのは悪手。そこでチェス盤をひっくり返します。我々にとってもっとも有効なのはZ地点。しかし我々にとってもっとも悪手なのはY地点です」

「ワザワザ悪手を?」

「そうよ」

「被害が出るのではないでしょうか?」

「問題ないわ。なぜならY地点は相手にとってもかなり状況が悪い場所よ?」

「・・・」

「分からない?」

「降参です」

「砂が柔らかいの」

「なるほど。砂が柔らかいので戦車が埋まる?と」

「そうね。だからこちらは数両を残してY地点に急行。こちらのほうが車重が軽いから数回は砲撃が可能。相手が待機していると思われるW地点への砲撃を実施。相手に多少の損害を与えれば良し。撃破できれば最高ね」

「相手は追って来れない。砲撃の狙いも出来ない。」

「そうね。そしてダージリンと私はV地点へ急行します」

「挟み撃ちですね。W地点は相手にとって有効ですが、脱出の際に苦労します」

「そうね。あの狭さなら、1台でもギリギリね」

 我々をおびき出すためには、全車両で協力が必要。相手は砂丘地点(X)を通過し、その先にある急坂を下ったところにあるV地点に我々をおびき出す作戦。V地点を効率よく砲撃するなら少し先にある砂丘(W)にて待機する。Wから西に位置するY地点から我々は砲撃する。相手は固定砲台が多い。そして今の時間帯なら西日で標準が定めにくい。勿論Yでの砲撃は余り出来ない。調子に乗ると埋まってしまうからだ。6両編成でYとVから相手を挟撃、そしてある程度相手に被害を与えればいい。後は時間と共に相手は弱り、正常な判断が出来なくなる。そうなれば時間の問題。

 

 

 

『では、X地点へ向かいます。待ち伏せを警戒するため、2両のマチルダを先行偵察させなさい。ダージリンは私のクロムウェルの前方を、残りの車両は両脇に付きなさい。Y地点へは急行する車両は偵察をしつつ向かいなさい。それと異常があれば直ぐに連絡しなさい』

『『『了解しました』』』

 

 自分でも今日は調子がいい。今までの経験から相手の考えを推測、予測した。ダージリンや情報のアッサムからの異議もない。私は今日の日が怖かった。「魔眼」と試合をするのは初めてだったが、過去の戦歴を見ても身震いする。他の高校の隊長と話をするが、みな彼女の話をする時はただ一言「怖い」それしか言わない。しかし今はどうだ?彼女は追い詰められている。戦車の中で汗だくだ。下着も同じくびちゃびちゃだろう。試合前のあの顔が汗まみれの下品な顔になっているのを想像すると笑いが出る。そういえば彼女は自分が勝ったらお願いがあるといっていた。勿論私が勝利したら私は何をお願いしようか・・・。

「アールグレイ様、先行している車両から通信です」

『どうしました?』

『この先で黒森峰の車両2両が走行不能になり、道がふさがれて居ます。2両なら通り抜け可能です』

『審判団は?』

『今回収車を向かわしていると、到着は20分掛かると』

『ダメよ。遅すぎるわ。少し危険ですが2両ごとに通りなさい』

『了解しました』

『アールグレイ様?』

『何?ダージリン?』

『先行車両に周辺の偵察を命令されては?』

『そうね、ダージリン頼めるかしら』

『了解しました』

 ダメだ。少し油断しているな。気を引き締めないと。

『敵影なし』

『了解。ダージリンは私の右側を、残りの車両は後ろに回りなさい』

 敵車両を通り抜けた。その後X地点を抜ける直前にまた故障車両があると通信が入った。これで7対12で数的には圧倒的に有利だと考えていたその時!

『こちら先行車両!!フラッグ車発見!!どうしますか?』

『先行車両はフラッグ車を追いかけなさい!』

『ダージリンと『すみません!!やられました!!』くっ!』

 先行車両1両がやられた。情報が足りない!

『何両がフラッグ車の周りに?』

『2両です!!ですが、キャー!!』

『今度は何?』

『すみません!!敵車両と激突し走行不能です!!』

「何がどうなってるの・・・」

 あとから知ったが、この時敵車両が走行中に故障し走行不能。よけ切れず激突した。激突した際に当たり所が悪く、2両ともクラッシュした。勿論試合中の私はそんな事は分からなかった。もし分かっていても私の敗北した理由にはならなかった。

『ダージリン』

『何でしょうか?』

『フラッグ車を追いなさい。貴方のチャーチルの装甲なら大丈夫よ』

『了解しました。ですが無理と判断したら追撃を中止しても』

『あなたにまかせるわ』

『ではフラッグ車を追撃いたします』

『残りの車両は前後に分かれて護衛しなさい』

 両脇に居た車両が前後に護衛として分かれた。側面方向には砂丘、前後には護衛。これなら待ち伏せされていても問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後からダージリンやOB、OG共にこの戦いに関し、私の判断は全て適切なものと判断された。この時油断や慢心はしていなかった。それはOB、OG、他のメンバーも同意してくれていた。しかし私には何かが足りなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 それが分かっていたとしてもこの試合の結果は変わらないし、変わることはなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖グロリアーナフラッグ車走行不能!!」

 

 

「黒森峰女学院の勝利!!!」

 

 

 

 

 

 

 私は自分が敗北した事を理解したのは、この放送を聴いた10分後だった。

そして私に無く、彼女に有るものが判明したのは、決勝戦の4日前だった。

 

 

 






 アールグレイは艦これの「アクィラ」みたいな感じかなと思ってる。


 今回あまりの出来に、書きなおすかもしれません。皆様のご意見等よろしくお願いします。何かしっくり来ない・・・

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