死刑囚、霧島レオナは暇してる   作:凪紗わお

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第弐話

 

「出ろ、霧島。運動の時間だ」

 

鳩が豆鉄砲食らったような顔をする霧島。まあ無理もない

 

霧島の話し相手をするにあたって、もう一つ俺や東雲にはやらなくてはならないことが出来た。それが運動だ

 

運動と言ってもこの建物の近くにある中庭のようなスペースで散歩したりする程度だが、全く日光に当たらないというのは体に悪いという雷同大佐の計らいだ

 

「ふむ、しかしそれはできないよ。見ての通り服装が服装だからね」

 

「そういうと思って用意してある。東雲!」

 

「はい!運動着です!あっちの部屋で着替えましょうね」

 

「……なるほど。了解」

 

独房から出て更衣室を兼ねた小部屋へ誘導する。

……俺は覗かないぞ。着替えの監視は東雲の仕事だ

 

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着替えから5分ほど経って東雲と霧島が出てきた。体の動かしやすさを優先した紺色のジャンプスーツに黒のアーミーブーツ。アメコミのヒーローのような格好だ。犯罪者なのでむしろヴィランだがな。

 

そしてここからは俺の仕事だ

 

「東雲、お前はキッチンで料理してろ。この間教えたカレー、三人分な」

 

「了解であります!」

 

「へぇ、霜月さんは料理するんだ?」

 

「一人暮らしが長かったからな。ほら行くぞ」

 

 

中庭の広さはおよそテニスコート1面分。ジョギング等をするには丁度いいと思う

 

「さて霧島。何かしたいことは?」

 

「特にないよ。動けること自体予想外だったからね」

 

「ふむ……では軽く歩いてみようか」

 

前任の奴が去ってから今日まで、まともに歩いたことは無いはずだ。足腰が弱っているかもしれない

 

「ありがとう。気を遣ってくれてるんだね」

 

「……霧島は犯罪者だが、その前に1人の人間だからな」

 

「霜月さんなりの優しさってわけね」

 

もうそういう事でいいよ

 

 

最初の方はそれこそぎこちない歩き方だった。例えるなら生まれたての子鹿といったところか

それも中庭を一周した辺りで治って普通に歩けるようになっていた

 

そこで俺は一つ提案をする

 

「なあ霧島。手合わせしてみないか?」

 

デスクワークと霧島の世話はしてきたが、戦闘能力はまだはっきりと分かっていないからな

 

男女差を埋める何かハンデが欲しいと言われたが俺は動き辛い軍服、霧島はジャンプスーツだ。充分ハンデだろうと説得したら怖いぐらいあっさり了承してくれた

 

「うし、どっからでも来い」

 

「じゃあ行くよ」

 

軽くジャンプをして俺にまっすぐ向かってくる。まぁその程度読めてるからアッパーの構えをとる

 

……消えた?

 

違う、背後か!

 

振り向くと高く飛んでこちらに殴り掛かる霧島がいた

 

「どこで覚えたよその身のこなし」

 

「僕のヒーローアカデミアさ」

 

低姿勢で向かうことで視線を下げ、そのあいだに飛んだという訳だな。コミック通りだ。ならば

体を強引にひねり側転。右足が霧島の顎に当たった気がする

 

「流石中尉ってところだね」

 

「てめーに言われたかねーよ」

 

こちらの動きはある程度読まれているらしく、殴りも蹴りも悉く躱されてしまう

 

 

こいつ、できる

 

コミックで身のこなしを学び、それを生かしてあの大量殺人を引き起こしたとするならかなり厄介だ

 

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2時間経った頃、お互い手の内は出し切った感じになっていた。それでも果敢に攻める霧島。何が彼女をそうさせるのだろうか

 

「これで最後にしよう」

 

「同じ手は喰らわねぇよ」

 

最初と同じように向かってくる。今度は奴が飛ぶ前にこちらが飛ぶ

 

回し蹴りが左肩に当たりバランスを崩す霧島。その隙を逃さず羽交い締めにし、漸くチェックメイトとなる

 

「……強いな」

 

誤魔化しようのない率直な感想だ。過去に大佐と手合わせをしたが、それに通用するレベルと思う

 

「霜月さんも、ね」

 

これほど嬉しくない賛辞があっただろうか

 

そしてカレーが出来て俺たちを呼びに来た東雲にいろんな角度で誤解されることになるのだが、それはまた別の話


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