死刑囚、霧島レオナは暇してる   作:凪紗わお

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第壱話

 

島に着いた。ああ、忘れるところだった、リストバンドを付けないとな

 

「中尉、それは何ですか?」

 

「カンタレラには特殊な警備システムが備わっていてな。こいつを付けないと、どこからともなく銃撃されんだよ」

 

「うへぇ」

 

まぁ銃撃は嘘だが、大変な目に遭うのは事実だ

 

「じゃあ付けなきゃいけませんね。私のはありますでしょうか?」

 

「おう」

 

東雲がリストバンドを装着している間に島の様子を見る。馬鹿でかいコンクリート製の四角い建物以外は何も無い、質素な島だと俺は思った

 

「中尉、付けましたよー!」

 

「うし、じゃあ入るぞ。いいか、霧島レオナは殺人鬼だ。俺達の任務は奴の話し相手だが、くれぐれもそのことだけは忘れるなよ」

 

「承知しました!!」

 

 

扉を開けると冷たい風が吹き込んだ。暖房とかは無いようだな

薄暗い廊下の先に幾つか扉が確認され、更にその奥に鉄格子によって隔離された空間がある。それにより漸くこの場所が独房なのだと再認識された

 

「やあ、久しぶりだね。……ああ、そっちの子は初めましてかな?」

 

拘束衣を身に纏った霧島レオナがそこにいた

 

「綺麗な人……」

 

おい、そいつは殺人鬼だぞ。しかもお前より年下だ

まァ確かに端正な顔立ちをしているとは俺も思うよ。俺が霧島と同世代だったら恋に落ちていたかもしれない

 

「初対面の人にそう言ってもらえると嬉しいな。自己紹介をしようか。私の名前はご存知の通り霧島レオナ。先日来た雷動さんによると、どうやら私は死刑囚になったらしい」

 

来てたのかよ雷動大佐。では俺からも自己紹介すべきだろうな。今回の任務はこいつの話し相手なのだから

 

「特殊部隊『JUC』霜月悠馬、中尉だ。こいつは東雲亜子。一昨日刑事1課から転属になった」

 

「……随分変わった経歴の持ち主だね」

 

「えへへ、それほどでも」

 

褒めてねぇよ

 

「それにしても、本当に話し相手を派遣してくれるとは、JUCも太っ腹だね」

 

そこら辺にあったパイプ椅子に腰を下ろし、一息つく

 

「俺は俺でいろいろあってな。今回の件は簡単に言えば東雲の教育だよ」

 

嘘は言ってないぞ、嘘は

 

「えっと、何も聞かされてないので幾つか質問してもいいですか?」

 

「もちろんさ。時間はたっぷりあるからね」

 

「まず、おいくつですか?」

 

「18だよ」

 

「ふぇ!?」

 

驚きすぎだろ。ニュースでも未成年の少女が云々言ってたのを知らないのかな(適当)

 

「……なぜ、殺人を?」

 

「取り調べか何かかい?……そうだね、何故と問われると少し困る。特に東雲さんのような方には聞いて欲しくない事案なんだ」

 

「そうですか。ではせめて霜月中尉には話しておいてくださいね」

 

取り調べで黙秘を使われたんだが?

 

「ああ、約束しよう」

 

おいおい

 

「それにしてもお綺麗な方ですね。羨ましいです」

 

「触るなッ!!!」

 

霧島の顔に触れようとした東雲。その手が霧島に触れかけた刹那に彼女は声を荒らげた

 

「済まない、東雲さん。貴女が悪い人じゃないのは分かってはいるんだけどね」

 

鉄格子越しにあった三人の距離が少し遠のいた気がした

 

「トラウマ、というやつかな。下衆なおっさんに同じような言葉をかけられ胸や尻を触られたんだ。思い出すだけで鳥肌が立つよ」

 

「霧島、さん……」

 

「それ以降、私は他人に触れられるのが極端に嫌になってね……嫌な思いをさせたのなら本当にごめんなさい」

 

その調子でお前の連続殺人についても謝罪が欲しいところだ

 

「大丈夫ですよ、霧島さん」

 

まるで聖母のような微笑みで霧島に向き直る東雲

 

「私も小さい頃から碌なことが無かったんです。全く同じとは思えませんが、私達似たもの同士だと思いますよ」

 

触れたら何をされるかわからないにも関わらず、東雲の左手が霧島の頬を優しく包み込む。俺は何があってもいいようにポケットに忍ばせた小型拳銃を握りしめる

 

「ですから、ここにいて辛いことや悩み事に相談事……どれほど些細なことでもいいんです。私達に相談してみてくださいね?」

 

「………………うん」

 

霧島は小さく、本当に小さく頷いた後静かに涙を流した

 

 

 

その様子を見て俺は一つ、違和感を覚えた。

 

本当に、霧島レオナは犯人なのか?

 

しばし考えに耽っていると、数分前から降り出した雨音と霧島レオナの啜り泣きの音だけが鼓膜を叩いた


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