「しかし雪女の亜人か」
「隠しててごめんなさい」
さてさて、保健室に辿りつくと女子生徒は友達とお話の途中だったらしく「お大事にね」と一言残すと居座ることなく戻って行った。今この場にいるのは佐竹、保険室の主こと八千草先生と、二人の日下部の四人である。太田? 俺らと違って真面目だから女の子と一緒に戻ったよ。俺達も見習うべきなんだけどね。
シーツで口元を隠す日下部さんに俺と佐竹は揃ってどうしたものかと顔を見合わせる。
「いやそれはいいんだがよ、ほんとに冷やせば大丈夫だったのか?」
「あ、それは、はい。冷やさなくても涼しいところにいれば大丈夫なんです……今日はちょっと熱くて日差しも強かったからそれで……」
「自己紹介の日に無理するなと言ったんだけどねぇ……?」
残念ながら俺の忠告は意味をなさなかったわけだ。今はまだ春ではあるものの、まさか日下部さんが雪女だとあの頃は想像していなかった。
確かに今日は四月にしてはちょっと熱いし雲も風も一つないもんだからグラウンドは陽射しがきつかった。俺ですらそう思ったのだから日下部さんはそれ以上だったろう、しかもその条件下で運動したもんね、うん、そら体調崩すわ。
「う……」
「お前はあんまいじめんなっつーの、体験談的にお前の説教は心にクる」
「おぉ……佐竹ですら心にクるなんて言うとは……ごめんね日下部さん、責めてるわけじゃないんだ、無理はよくないよって言うだけで」
「お前の中での俺はなんなんだよおい」
なんなんだって何度言ってもバカ繰り返すんだから何とも思ってない鋼鉄の精神を持ってるかと。先生が不憫で仕方なかったよ……
「先生! 私1年B組のバンパイアですけどデュラハンちゃんの頭だけ持ってきましたー!」
「なんでそうなったの!?」
「「うおわ!?」」
「ヒッ!」
そろそろ俺らも戻りますかねと佐竹と保健室から去るべきドアに手をかけた瞬間だった、奴がやってきたのは。
一人は小鳥遊ひかり、説明するまでもなく俺の友達(一応)、そしてもう一人は首だけの町さん。いやホラーだろこれ! ドアの向こうからいきなり現れたら腰抜かすわ!
日下部さんなんか俺らの声にも驚いて町さん見て体縮こませてるじゃないか! うん、半分は俺らのせいだね、ほんとごめん。
八千草先生なんかほんと理解追いついてないじゃないか……
「ま、町さんか……驚いた」
「す、すげぇどうなってんだこれ」
「佐竹、お前も話くらいは知ってるだろ、デュラハンの
「お、おぉ……えーと、すまん、いやごめんなさい」
「あ、驚かれるのには慣れてるんで大丈夫ですよ」
ううむ、町さんの懐が深い。自分も驚いたから正当化するわけではないが、やっぱり頭だけ持ってきた小鳥遊さんが悪い、悪いったら悪い。
八千草先生はどうしたものかと悩んだ末とりあえず空いてるベッドに町さんを置くことにしたようだ。色々聞いているっぽいが盗み聞きする限りではちょっと体調を崩してしまったらしくて休んでれば治るらしい(本人談)。
治ったと言ってた風邪がぶり返したのか、油断してたのかな?
「じゃ、私はマッチーの身体の部分をなんとか持ってくるために誰か先生捕まえてきます!」
「あ、俺も行こうか?」
「いーよ、日下部君は男子だし、何するかわかんないもん」
「お前の中での俺は本当にどうなってるんだろうな……」
「なぁ、俺もう行っていいか?」
流石に昨日知り合ったばかりの女の子にそんなことしないしする気すら起きないよ……だから町さんも微妙な視線を俺に投げかけるのをやめてくれ、それは俺の心にクる。
そしてお前は帰るのか佐竹よ……、いや俺サッカーしたいしじゃねーよ、お前の大好きな可愛い女の子が一人消えてもあと二人もいるんだぞ……
「日下部君は、お二人と知り合いなんですか?」
「ん? まあさっきの首運んできた女の子、小鳥遊さんって言うんだけどね、入学式の日にちょっと話して以降良く喋るようになったんだ」
「私は、昨日お友達になったばかりなんです。あ、すみません私は町京子って、見ればわかると思うんですけど
「あ、私、は……日下部雪って言って……その……」
掛け布団を両手に持ち、首から上だけを出した日下部さんが伺ってくる。そこから始まるのは
日下部さんの名前を聞いた時に町さんがちらりとこちらを伺うような目を向けてくるが大丈夫だ。
「言いたいことはなんとなくわかるけど町さんや、同姓なだけだよ。あと言いよどんでるのは……」
と言うか日下部さん程の可愛い妹がいたら俺はシスコンになってるに違いない。
そしてこればかりは俺が言う訳にもいかないだろう、日下部さんが隠してきたことだし俺から言うのは駄目ってくらいはわかる。と思ってたら日下部さんはさらりと
「私も、
「え……? じ、じゃあこの学校には三人も
「と言うことになるな、なぁ、
「三人……?」
これは驚き桃の木、と言う訳だ。そしてその三人とお知り合いになったって人生解らないものだなあ。入学式の日に小鳥遊さんに話しかけられなければそんなこともなかっただろうに。
あ、もう一人ってさっきの小鳥遊さんね、日下部さんは知らなかったっけか、あいつも
そう伝えれば流石の日下部さんも絶句である、うん、
次回、原作