亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

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原作の雰囲気を出し続けていけるかは未定です


デュラハンちゃんとちょっとだけ

「えー……」

「まあそこをなんとか、ちょっと会話してみたいんだけど」

「自分で話しかければいーじゃん」

「まあそうなんだけど」

 

 小鳥遊さんからの指摘に全くもってその通りと地面へ視線を向ける。だがどうしてもここは小鳥遊さんの力が欲しいのである。

 今回だけは別、どうしても小鳥遊さんに間を取り持って欲しかった。そう言うお話。

 

「私もあんまり喋ってないし~? でも頑張ってあげる。貸しイチねっ」

「ぐぬぅ……」

 

 

――

 

 

「小鳥遊さんいますかー?」

「お、きたきた! マッチー、この人がさっき言ってた人」

 

 授業が終わって適当に片づけたあと、A組を出て徒歩10秒。そこに小鳥遊さんと件の女子生徒が俺を待っている。と言えば聞こえは良いが本当のところただの顔合わせなのは言うまでもない。

 あんまり喋っていないと言う割には遠慮なさそうに会話している二人は亜人(デミ)同士だからだろう。

 ほらほらと小鳥遊さんが俺と女子生徒を交互に見ながらこちらへやってくる。あとなんかB組内から視線貰いまくってるのは気のせいですか。

 

 

「小鳥遊さんありがとう。しかしこれが……」

「あの、どうも町 京子(まちきょうこ)って言います。貴方は……」

「っとごめんごめん、日下部春明、だよ。これがデュラハンかぁ」

 

 短く切り揃えられた髪、快活そうなその顔は同じ亜人(デミ)の小鳥遊さんと比べても劣らない別方向の可愛さを持っている。あまり初対面の人に思いつくべきではないだろうがスタイルも良さそうだ。

 特に目を引くのが本来あるべき場所にない頭と、首があるはずの部分から噴き出る正体不明の煙だろう。そして頭はと言うと町さんご本人がしっかりと手で持っている。

 

 首と胴が繋がっていないデュラハンと言う存在の亜人(あじん)、昨日調べた限りでは世界に三人しかいないうちの一人が町さんだった。

 

「入学式の時は見なかったけど……」

「その、風邪で休んでいたんです。実は今日初めて学校来たんですよ」

「あ、なるほど。もう大丈夫なの?」

「はい、なんとか」

 

 幸先が悪いというかなんというか、季節の変わり目だからそれにやられてしまったんだろうなぁ。

 

「登校の時とか大丈夫? ここってショルダーバッグだし両手塞がっちゃうから」

「あ、それは私も思ってるんです。そのうちお父さんが一緒に話し合いしようって言ってました」

「マッチーは転ぶと大変だもんね、だから雨の日とか特にさ」

 

 なんとなく視線を落とした先、学校指定の手持ちバッグが目に入って何気なしに尋ねる。何せ頭持ちである、片手で頭を持ち、片手にカバンを持つ。もし手を滑らせて頭を落としたらとか、躓いて転びそうになったらとかを考えると町さんが使うには向いてないような気が……と、ここまで考えて無神経だったかなと頭を掻く。

 しかし二人は特に何かアクションを起こしもせず笑ってる。表情に出してないだけかもしれないけど……ここは甘えとこうかな、ごめんね。

 

「あ、雨の日は付き添ってもらってるんですよ。自分だけで良いって思ったんですけどやっぱり不安だったみたいで」

「へぇ~、良い両親じゃん!」

「はい!」

 

 良い話だなあ。やっぱり頭が離れてる時点で色々苦労することがあるんだろう。三人しかいないデュラハンでは生活の知恵みたいなのも調べるのは難しいだろうし、ある意味生活が戦いで親子の仲も深まったんだろうか。

 登校ですら危険が付きまとうくらいだし。うーんなるほど、ちょっと話しただけで色々考えさせられる。

 

「にしても、その炎みたいなの触ってみたい……」

 

 仲良く喋る二人にぼそりとずっと気になってたことを呟いてしまう。いや触ってみたいけどそれを口にするつもりはなかった、思わず口から漏れてしまった。案の定小鳥遊さんは変な目を向けてるし!

 

「セクハラはいけないと思うなー」

「ぐぬ……」

 

 あれがどうなってるかはともかく一応町さんの首から噴き出てるから身体の一部と言えなくもない。それを触りたいなんてまあ、不可抗力だとしても攻められるのはしょうがない。しょうがない、が得意げに小鳥遊さんに言われるとイラつく。

 この吸血鬼、その頭にあるでっぱりを鷲掴みにしてやろうか、引っ張ったら面白い反応をくれそうだ。

 

「あの、別に触ってもいいですけど……?」

「なぬ!?」

 

 まさかの本人からオーケー。

 おっかなびっくりで手を伸ばし、まさにそれに触れるか触れないかのところで思い出したかのように町さんが補足を加えてきた。

 

「ただなんて言うんですかね、神経を強い力で押さえられるみたいな感じがして辛いのでちょっとだけってなりますけど」

「……気持ちだけ受け取っておく。ありがとう」

 

 流石にそんなことを聞いてから触ろうと思う程俺は無神経ではない。伸ばしていた手を引っ込めてお礼を伝える。

 いやほんとそう言う事なら断って全然オーケーだし。そもそも本気じゃなかったからね? なんで小鳥遊さんはその人を蔑むような目を止めような。

 

「マッチーの優しさに付け込むなんて日下部君って思ってたより……」

「いやいやちゃんと引いただろ!」

「今は廊下でいっぱい人いるから、きっと放課後になって誰もいない教室に連れ込んでマッチーの炎を滅茶苦茶にするんでしょ!」

「町さんに俺の間違った認識を植えようとするのはやめてくれないか!?」

「えっと、仲が良いんですねお二人は」

 

 中々町さんは恐ろしいことを言う。確かに良いか悪いかで言えば悪くはない、なんだかんだ毎日会話するようになったし。けど仲が良いかは別の話。この吸血鬼はちょっと遠慮するとめっためたにしてくるのを俺は一回経験したんだ。おかげで現在小鳥遊さんの妹に睨まれるハメになっている。八重歯もう一回見せてと言っただけなのに翌日に妹さんから「姉に迫ったとはどういうことですか」と詰問されるとは思わなかった。おのれ吸血鬼。

 

「小鳥遊さんに遠慮したら負けかなと思っている」

「当たりが強すぎて一回話し合いをしたほうがいいかなって思い始めたわ」

 

 

 

「(は~……楽しそうでいいなあ)」

 

 本人達がわいのわいのと勝手に盛り上がり始めた結果、置いてけぼりをくらったデュラハンちゃんは二人を羨ましそうに見るのであった。

 

 

 

 

 

 


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