今回も良い話でしたねぇ……
感想と評価、お気に入りありがとうございます
ふと、考える。そう言えば、あまり
というか、
普段は昨日のテレビがどーとか、家族がどーとか、授業がどーとか、そんな会話ばっかりだった。
「だらっ!」
割り切れない感情を滲ませた佐竹の声とともに、ボールが宙を舞う。
放課後にサッカーでもやるかーと集まった今、俺は現地集合だったが佐竹と太田は途中でテツ先生と遭遇したらしく、人が足りないからと巻き込もうとしたらしい。教師をなんだと思っているんだこいつは。
その時に、教頭先生とも鉢合わせたらしく、それでテツ先生が色々、言われたらしい。
その場で教頭先生に反論した佐竹とは反対に、太田は教頭先生の言葉に肯定を示していた。
「確かにすぐ解決出来るのはいいことだと思うけどさ、でも毎回テツ先生ばっかだから、例えばテツ先生がいなくなった時にどうするんだろうねって」
「そん時は俺らがいるだろーがよー」
「僕たちはそのつもりだけど、
――だから、そう言う時のために今からでもってお話じゃないかな。
言いたいことは、わからないでもなかった。テツ先生は先生だから忙しい時期はあるし、例えばちょっと体調不良でいなくなった時、ピンポイントでデミちゃん達に深刻な悩み事が発生した時に、果たしてそれを言える相手がいるかって問題。
俺達は
「そしたら、俺にも相談してくれんのかな……」
「さーなぁ……」
ぼんやりと佐竹が誰かに思いを馳せる。きっと日下部さんだろうが。
「あ」
「あ」
「ん?」
小さな球体が飛んでくる。それは綺麗な放物線を描いて、佐竹の背中へcritical hit! 逆くの字に曲がって数十センチ飛んだ佐竹の姿はある種の芸術を感じさせる姿だった。
飛んできた先を見れば、赤みがかった髪とキツイ目をしている女子生徒がシュートした体勢のまま固まっていて、その一歩後ろでストローを咥えながら控えめな表情で手を振る女子生徒――
あ、わりぃと軽く謝って近くの木で作られたテーブルへ座る二人に、俺達も反対側へ座って会話を駄弁りだして、井森のさっき何の話をしてたのーから太田は都合二回目の説明をする羽目になった。
「ふーん、そんなことがねぇ……そういやアタシもないなあ相談されたこと」
「そりゃそーだ」
奇しくも佐竹と意見が一致する。違いはそれを声に出すか出さないか、だが。
そりゃそーだろ、男勝りな性格でガサツを地で行く木村に相談するとしたらもう世界が滅亡する時なのではないか。
「あ゙?」
「す……すみません……」
危なかった、声に出してたら俺もあんなガン飛ばされてたのか。
「日下部も顔に出てるから、ブッ飛ばす」
「ほんとごめんなさい」
魔王からは逃げられなかったよ……表情でわかるとかエスパーかよ。
そこからはわいのわいのと
ただ、流石に小鳥遊がトマトジュースのことでテツ先生に相談へ行ったりはしないと思うけどなあ……
「あのさぁ」
「ん?」
「亜人のこと、その……同じ人間だと思ってていいのかな?」
それは唐突だった。井森が、本当に小さく言い放ったそれは、不思議なくらい俺達の耳を打った。
太田が凍り付き、木村ですら言葉を濁して窘めて、佐竹は立ち上がって抗議を示す。どういう意味なのか、どうしてそれを言ったのか、それが俺は気になったから続き早くと言わんばかりに井森を凝視する。
井森だって
「亜人は普通の人間とほとんど“変わらない”って言ってたけど、それはつまり“違うところがある”ってことでしょ? そういうところ、理解して挙げなくていいのかなって」
あー、なるほど。何を伝えたいか、それで全員がほぼ同時に気付いた。
――妄信的に同じ人間だと思っている相手に
「私たちはアイツらのこと何も知らないんだなって……てなことを……思ったりしてました~~」
途中から注目に気付いたのか、吐露しすぎたのか、いつもの気の抜けた雰囲気を戻してパックジュースを飲みだす井森。
ただただ、皆がそれに圧倒されて、「かもな」という呟きだけが漂う。
「日下部はどーなのよ、仲が良いでしょ? 小鳥遊とかにそういう相談事とかされたり」
「ないぞ」
「へ?」
「いやだから、ない、一回も」
「マジ?」
「マジ」
マジ。語る程
それが予想外だったのか、佐竹と太田はお互い顔を見合わせている。
「きっと全部テツ先生に持ってってるんだろうなぁ……俺は別のことで頼られてるし……」
「別のこと?」
「小鳥遊家の買い物のお手伝い」
「えっなんだそれ」
いやそのまんまだが。放課後に呼ばれて、俺がその時暇だったら食材とか生活用品とか買いに行って家までの荷物持ちするってだけだ。
そう説明すればこれまた一同が微妙な表情で、言葉に困っているのが俺でもわかる様子だった。
特に難しいことでもないと思うんだけどな、ま、まあ
「わからねー、距離感がわかんねー」
「うーん、独特だねえ……」
わかんねーも何も、そんなもんだと思うけどなぁ。同意を求めてみるも、佐竹はいやわからん、太田は曖昧に首を傾けるだけ、木村と井森はうさん臭いモノを見るかのような視線を向けてきやがる。
どうしたものかと途方に暮れている時、視界の端に踊ったその姿は俺にとって救世主だった。
「小鳥遊ー! 小鳥遊ひかりさーん!!」
「はーい! なんでしょうかー! やっほー!!」
「どうやら俺と小鳥遊の関係が理解できないらしい」
「友達かなー? ……うーん? うん! 多分!」
「ほらな?」
「いや何がだよ」
うん、これで誤魔化せるわけないよね。この救世主はポンコツだったようだ。解散!
「あ、そだそだ、なんかさ~~先生の様子が変だったんだけどさ~~なんか知ってる?」
小鳥遊が腕を組み、唇を尖らせこちらを伺う。その話は丁度さっきやったばかりだった。
佐竹がおずおずとテツせんせーと教頭先生のやりとりを掻い摘んで伝える。その間、一言も喋らず終わるまで黙っていた小鳥遊は、しばらく考え込むと、名案でも浮かんだのか、ウィンクをして佐竹にお礼を言いながら走り去って行った。
――ありがとうサタッケー!
「サタッケー……」
「……」
「なんだそりゃ!? あだ名か? なんかモンスターみたいじゃんか! なあ!」
「ああ、うん」
言葉は不満そうに、しかし顔はだらしなく崩れていて、まるで見せびらかすように笑っている様はあだ名を付けられた嬉しさが全開で、うん、とても喜ばしいことだと思うよ?
「おめでとう佐竹……!」
「両手を握りしめて我慢してるね」
「コイツは相当わかりやすいよな」
嫉妬の怪物に飲みこまれないようにするのが大変だった。