――翌日
「おはよーす」
「おう」
寝過ごすどころか早朝と言える時間に目が覚めてしまった俺は中学時代から考えると早めに家を出て、早めに学校に着いて教室でだらけていた。
それから少ししてから何とも意外なことに佐竹の奴がやってきた。なんと、遅くに来る訳ではないが少なくともこんな早くに来る奴ではなかったのだが。
ふと教室内の時計に目を向ければ時刻は七時四十分。ううむ、こいつ中学んときは大体八時くらいにクラスに入ってくるんだけど……
「珍しいなこんな時間に来るなんて」
「あー、まあちょっとな」
茶化すように言えば佐竹は歯切れが悪そうな顔。そう言えば昨日の結果を帰り道聞いてなかったが、もしや芳しくなくて今度はクラス内をと思ったのだろうか。良さげな女の子がいれば自分から話しかけるくらいのこと、佐竹なら普通にやる。
「なんというか、二日目ってのが緊張してよ」
「お前は俺か」
これには思わず苦笑い。まあ昨日はほとんど入学式で終わって教室に戻った俺達は黒板に描かれた通りに座って、そこで担任の先生から挨拶があってその後解散したのだ。クラスメイトの自己紹介は翌日の一時間目に、と綺麗な予告も貰っている。内容なんて考えてないよう……なんて。
どうせ特に何か言うでもあるまい。出身中学を言ってちょっとこんなのが好きですよみたいなこと言えば終わりである。
「あ、日下部くーん! やっほー!」
「ん? ……あれ、小鳥遊さん、だったっけ。やほー」
さてどんな話をして時間を潰そうか、幸い佐竹がいるから携帯を覗いてポチポチするよりは楽しく過ごせるだろう――と思ったところで教室の外側から声がかかる。
昨日と同じ左右に謎のでっぱりは立派な目印になりそうだ。快活な表情を浮かべて片手をぶんぶんと振るのは昨日の正義感溢れる美少女、
どうやら彼女たちも早く来てしまった組らしい。二日目なのだからまずは各々のクラスで交友を広げた方がいいんじゃないと思うのだけど。
「おい」
「あ」
肩をガッシリと掴まれる。そんなことをする奴はもちろん一人。そして今さら気付いたのであるが俺はそいつに待ってる間の出来事など伝えていなかった。
振りむけばそこには説明してくれるよな? と言わんばかりの佐竹の顔。めんどくさいって言うのが感想です。
「いやお呼びは俺だけみたいなんで?」
「おい」
「ホントごめんな」
「笑ってるのごまかせてねーから、今のお前最高に変な顔してるぜ」
「あんまり女性待たせると怒られるって聞いたんで」
「昼休みは覚えておけよ」
ごめんだけどその頃には忘れてると思う。
「や、おまたせ」
「いえ、お友達と会話してましたけど良かったんですか?」
「もちろん」
ひまりさんが申し訳なさそうに佐竹の様子を伺ってるがあいつはあいつでなんとかなるだろう。ほら、暇そうな奴一人捕まえて話し始めてる。昼休みは捕まった奴と話せばごまかせるだろう。
「いやー、学校が楽しみすぎて!」
「お姉ちゃんにしては珍しく、本当に珍しくこんな時間に登校できるくらいの時間に起きたんです」
「ひまり、酷い!」
「実は俺と佐竹も同じクチだ。と言ってもクラス内の自己紹介とか高校生活始まった緊張とかあるからなんだけど」
どうやら俺達は意外と似たところもあるようだ。小鳥遊さんはさもありなん、昨日からして女生徒を凝視する人間に話しかけるくらいには楽しかったのだろう。俺としては楽しみすぎて寝れないような小学生みたいな一面を持つ人かなとも思ったんだけど、むしろ疲れて寝てしまった結果早朝に起きてしまったのだろうか。
と、ふとここで俺は強烈な違和感を覚えた。小鳥遊さんは、まあわかる。いや昨日知り合ったばかりだろと言われればそうなのだがそれでも彼女はそんな人なんだなあみたいなイメージがある。
だが待ってほしい、情けない姉にしっかり者の妹と言うこの姉妹の妹の方がそんなに早く起きるのだろうか、と。家が近い可能性に無きにしも非ずだが……
「あ、私はいつも起きるのが早いんです」
「なんと」
「お姉ちゃんは遅いんですけど遅刻しそうになるのを何度も見るうちに自分だけはと」
「それは、小鳥遊さんサマサマだね」
「ひまりったら本当に遅刻しそうな時は容赦なく置いてくからねー! 血も涙もない妹なの……」
それは遅刻しそうになるやつが悪いだけなのでは。流石に俺も遅刻しかけたりしたのを他人のせいにしたことはない。電車が遅延すればそれのせいに出来るが生憎と俺は自転車通学である、無念。
「そう言えば昨日の事なんだけど」
「?」
「いやそんな顔されても、ほら
結局あれからちょっとは調べてみたのだがあまり遅くまでやれば寝坊するんじゃという懸念(経験則からの勘とも言う)があったので深くは調べ切れていない。
いやもうほんと基礎的なことくらいしかわからんかった。あと
「俺って
「そもそも学校に一人いるだけで珍しいくらいだしねー!」
「佐竹とかもそうなんだけど、多分」
あいつなら知らないとこで
まあ何が言いたいかってーと、だ。
「これから先気に障ったこと言ったらごめんねって思って」
「それは言うの前提なの……?」
「俺らではなんともないと思ったことももしかしたら
「それは無い訳じゃないけどほんと気にしないよ? 気にしたら言うし」
そんなもんなのかな。でもこれはどちらかと言うと俺のためでしかない。予防線、と言う奴だ。
「小鳥遊さんがそうならそっちは安心かな? 遠慮はいらないよそう言うことがあったらガンガン言ってほしい。今後お付き合いがあるかはわからないけど」
「ひどい!」
「小鳥遊さんはB組だし妹さんはC組でクラス違うし、お互いのクラスでの人付き合いもあるじゃん?」
ほんとはそんなことにはなってほしくないのだけれど、と言うかデュラハンの子もいるしどちらかと言えばそっちの方に行きそうだ。
ひまりさんはむしろ俺と佐竹を戒める係りになりそう、一緒のクラスになってたら間違いなくよく怒られるようになるだろうなあ。
「あの、日下部さんがこちらに会いに来たりとかしてもいいんですよ?」
「それは……」
「それは?」
「なんか、言い寄ってるように見えないかな?」
そこらへんのさじ加減がわからない。まさか面と向かって二人は結構可愛いし、なんて言える訳がないし言えたら中学時代に彼女の一人くらいで来ていたに違いない。
「「小学生か!!」」
二人とも結構辛辣だった。