亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

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ピタッとポスター結局全種買いました


小鳥遊ひまりをからかいたい

「おはよー!」

「おはーよ……う……?」

 

 本日の小鳥遊は普段のこれどうやってんだ的な一対の出っ張り髪型を止め、両サイドの髪を結んで垂らした、所謂おさげと称されるそれに変わっていた。

 どうしたのかと聞いてみれば、ひまりさんと髪型をチェンジしてみたそうで。衝撃の方が強かったから気付かなかったけど、なるほど改めて見れば確かにひまりさんが普段しているヘアースタイルだ。

 

「どうどう? 似合ってる?」

「うん」

「そ、即答しちゃう?」

「……ま、まあ、な?」

「何が『まあ』なの……?」

「はーいそこイチャイチャしないー」

「してない!」

 

 いや新鮮味があるというかな? 普段からあの髪に慣れていたから、それ以外を見て動揺してるのもある。それを抜きにしても、こう……妹の髪型を姉がしているのが良いし、純粋に似合っている。普段の髪型と一日ずつ交互にしてもいいんじゃないかな?

 そんなんだから深く考えず間髪入れずに答えてしまったし、気付いてまた動揺して、どうしたもんかと思っていたら横からひまりさんが溜息を吐きながら割って入ってきた。

 小鳥遊が顔を赤くして抗議の意を示す。それをいつものことだと言わんばかりに、ひまりさんは右から左へ流していく。

 ……ところでひまりさんや。

 

「ふーん、チェンジしたなんて聞いたけど、ほーう」

「何ですか」

「姉妹の仲が良くて何よりだね」

「ぐ……し、しょうがないんです! お姉ちゃんが同じことしたら私も遅刻するなんて言うから!」

 

 それでムキになって、そんなわけないじゃんと髪型を真似て、せっかくだから小鳥遊もひまりさんのを真似たのか。

 俺を威嚇するひまりさんだけど、その行為が更に微笑ましさを加速させるってわからないのか?

 見ればちょくちょく通りかかる他の生徒もひまりさんに視線をやっては、次に小鳥遊を見て得心が行ったかのように口の端を上げながら歩いていく。

 それがわかっているからこそ、ひまりさんも大きい声で言えない。大きな声を出せば余計に注目を浴びるからだ。

 

「ひまりったらそれでも全然時間に余裕あるから凄いよねー!」

「誰かさんが遅いだけじゃないの?」

「もしかして私のこと言ってるの? ふーん?」

「お姉ちゃんいっつも私に手伝わせてるじゃん……昨日だってズボラって認めてたし」

 

 昨日。昨日と言えば、ちょっと佐竹達や日下部さんとも話題になったのだが、あの優等生の小鳥遊ひまりが廊下を全力疾走したという噂があった。

 というか、太田がそれを目撃しており、その後をテツせんせーが追いかけていたらしいのだが……丁度本人もいることだし、聞いてみよう。俺も気になっていたのだ。

 

「あぁ、ひまりさん昨日どうしたの?」

「はい?」

「いや廊下走ってたって聞いたけど何があったの?」

「私だってたまにはそういう時もありますけど?」

「めっちゃ全力っぽかったって聞いたけど」

「……ちょっとした勘違いをしただけです」

 

 そっと目を逸らしているその姿は、全力で何かを隠したがっている様子だった。小鳥遊は隣でニヤニヤしてるし。

 あー、ひまりさんが廊下走るなんてよっぽどなことだもんね。悲しいかな、一人だったら隠し切れたかもしれない。しかし隣にいる姉の反応で、おおよその検討がついてしまった。

 

「そっか、小鳥遊に関係する大事なことだったかー」

 

 反応は劇的。

 

「し、知ってて聞いたんですか!?」

「いや単純に小鳥遊が隣で笑ってるから」

「うぐ……」

 

 ま、細かいところまで聞くつもりはないよ。教えてくれそうにもないし、何よりも顔を片手で隠している隙間から、いつもと比べてやや赤みがかった頬が見えているから、これ以上の追撃はいらない。

 俺はそんなひまりさんの珍しい姿が見れて、充分だからね。あまりやりすぎても反撃が怖いし。

 

「で、その髪型だけど」

「その話題引っ張ります?」

「似合ってるなーって」

「……ありがとうございます」

 

 これはちゃんと、伝えないと。なんか恥ずかしがってるけど、いいじゃない堂々としていれば。姉妹で髪型変えたりするのは変なことじゃないと思うけど。

 そう言ってみれば、そこじゃないんですけどねと、拗ねた言葉が返ってくる。

 

「あー! それさっき私にも言ってたじゃん!」

「だからなんだよ……」

「ひまりは渡さないんだからね!」

 

 別にいらないけど。

 横からぎゅっとひまりさんを抱きしめて睨んでくる小鳥遊。少し褒めたくらいでこれは過剰ではなかろうか? むしろ俺が欲しいのは睨んでくるお前だお前。

 思わず、溜息が出る。結局いつ言おうかと思って、でも今の距離感も好きだから失敗した時のことが怖くて中々踏ん切りがつかない。

 せめて夏までは、なんて思っているけれど、それが出来るかどうかはわからなかった。

 

「……日下部さん?」

「ん?」

「いえ、なんかぼーっとしてたみたいで」

「立ちながら寝でもしてた? ちゃんと睡眠はとらないと駄目だよ?」

「あぁ、いやごめんちょっとね」

 

 時間にしてちょっとのことだっただろうけど、それでも焦点の定まっていない目をしていれば気にもなるのだろう。

 訝し気に呼びかけるひまりさんに、今考えることじゃあなかったかなと頭を掻く。小鳥遊も結構真面目なトーンで言っているから、いらぬ心配をかけてしまった。

 

「ちょっと、とは?」

「大事なことなら相談に乗るよ? 頼られるのは好きだし!」

「まー、どうにもならなかったら頼むかもね」

 

 そう言ってくれるのは有難いが、その『ちょっと』が相談に乗ってくれる本人のことなので始末に負えない。ひまりさんはそこらへん察してくれたのか、特になにも言ってこなかった。

 どうにもならなかった時は頼む、なんて言っても本人にそれを言うってことは覚悟が決まった時。どんな反応をするのかな。

 

「お姉ちゃんに日下部さんが相談事する時、ですか」

「おいやめろ、それ以上はいけない」

「私、そんなに頼りない!?」

「あ、いや違うそうじゃない!」

「じゃあどういうことなの?」

 

 説明説明ー! とやたらと食い下がってくる小鳥遊、あーこれ面倒なやつだ。

 狙った獲物を逃さないバンパイア(吸血鬼)らしさをここで発揮するのは止めて欲しい。

 

 チャイムで強引に逃走は出来たけど、ムキになるのは実に姉妹だなと思った。

 

 

 




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