亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

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日下部春明は力になりたい

「あれ、町さんどうしたんだろう」

「え?」

 

 今日も小鳥遊とくだらない会話をしながら時間を消費している時、何気なく見た窓の先で人気のない校舎裏に行く町さんの姿を視界の端に捉えた。

 心なしかその足取りはいつものようなきちんとしたものでなく、どこかふらふらして危なっかしいものだった。

 

「何かあったのかなぁ……」

「マッチーが?」

「うん、なんかね、こう? ちょっと変だった」

「ふぅん……」

 

 急にそわそわし出す小鳥遊、非常にわかりやすい。気になるならさっさと行けばいいのに、もしかして俺に遠慮でもしてるんだろうか。

 あー、えーと、そのー、なんて煮え切らない様子に思わず笑みが零れる。

 だから一言、さっさと行きなって。

 

「ごめんね?」

「いいっていいって、いつだって話せるじゃん」

「うん!」

 

 ぱっと笑顔を浮かべ、駆け足で消えていく小鳥遊に満足。あのまま喋ってても気がそぞろでお互い楽しくないだろうし。

 うーん、そうしたら余計なお世話かもしれないけど、テツ先生でも探しますかね。

 亜人(デミ)ちゃんのことなら先生が一番だし、そうでなくても普段から町さんを見てるテツ先生ならきっと上手くやってくれるだろう。

 ただなぁ……この広い校舎の中ですぐ見つかるのか……?

 

 

――

 

 

 割とすぐ見つかった。

 職員室で教頭先生が荷物の運搬をお願いしたと、行先の教室を教えてくれたのだ。

 そこにいるかはさておき、そう時間も経っていないとのことなので怒られない程度に廊下を走り、その教室へ急ぐ。

 そこが見えた時、丁度着いたばかりなのか、先生がドアを開けるために奮闘しているところだった。

 

「手伝いますよー」

「……日下部か」

 

 ダンボール二箱を持っててはドアも開けづらいだろう。さっとドアを開け、先生がそのまま入って机に上に荷物を置く。そのダンボールを試しに持ってみれば結構な重量で、それ二つを軽々と運ぶテツ先生の力にすげぇとしか言えない。

 先生、もしかして巨人の亜人とか言うオチないよね? 結構体格も良いし、生徒から見たらほんとデカいし。

 手伝いますよと申し出れば最初は断られたものの、話があるんでそのついでですと言えば先生も断り切れなかったようで箱の中の本を渡してくれた。

 

「これはどこに?」

「そっちだな。……しかし急にどうした? 話ならオレの作業を手伝わなくてもいいだろう?」

「え? いや、見てるだけって言うのも気が引けますよ? もちろんそれだけじゃないんですけど、ちょっと気になることがありまして」

「?」

「あ、いや町さんなんですけど」

 

 あ、動きが止まった。

 

「何か知ってるんですか?」

「まあ、ちょっとな……」

 

 なんとも曖昧な言葉。

 うーん? 先生を呼んだ方が良いかなと思ったけれどこれは……もしかして先生が原因、だったりするのかな?

 予想もしていなかった可能性が出てきてどうすればいいか迷う。

 そのまま悩みながら片づけをして、先生も黙々と作業をするもんだから無言の空間が形成される。そのお陰で段ボール二つ分の荷物はすぐ終わったのだけれど。

 

「あーその、さっきの町の話なんだが」

「はい?」

「いや、どうしたのかと思ってな」

 

 やっぱり先生は気になっていたみたいだ。

 小鳥遊と話していたら町さんが元気なさそうに歩いていったこと、その先が誰も行かなそうな校舎の影だったこと、小鳥遊がそれを追いかけていったことを話した。

 俺はそれで先生を探してたんですけどね、と最後に付け加えるとテツ先生は申し訳なさそうに頭を掻いた。

 ちょっとしたトラブルがあった、そうで。何があったのかは言わなかったけど、それでこの後に探すつもりだったらしい。

 何もしなくても、先生と町さんは話せたのか。でもやっぱりあのまま帰ることなんて出来なかったし、例え無駄だったとしてもこれでいいんだ。

 

「ありがとな日下部」

「いやいや、別に結果は変わらなかったみたいですし」

「そうでなくてな、友達のために動いたってのが大事なんだよ。ひかりと話してたのにそれを終わらせてまで町のところへ送ったんだろう?」

「あのまま話してても上の空になりそうでしたし、町さんだって俺の友達ですから」

 

 そんな大層なことは考えてなかったので、テツ先生に褒められるとなんかこそばゆい。

 そもそも誰だって同じことをしたと思うんだけどなあ。

 テツ先生が教室から出る時に、「あ、俺がやったってことは内緒で」と付け加えたのは、なんか恥ずかしくなったからである。

 

 

――

 

 

「思ったよりセンセー来るの早かったなー」

 

 お互い謝って大団円、校舎へ戻る途中、私はそう呟く。

 急いでマッチーを探し出して話を聴いて、センセーならばすぐにやってくるだろうって思ったらすぐに足音が聞こえてきて、それに紛れて先生の荒い息遣いが耳に入ったので、慌ててマッチーの頭をギュッと抱きしめて逃げ場を無くした。

 いたいた、とこちらを見るセンセーに「はて?」とは思ったのだけれど、それよりはすぐに二人が話し始めたから、気を見計らってセンセーにマッチーを渡して……二人が仲直りしたタイミングで身体の方をいじってちょっと明るい雰囲気にしてみたり。

 それでちょっと怒られたりもしたけれど、これはしょーがない。

 

「あぁ、中身自体は……すぐ片付いたからな」

「でもよくここがわかったよねー?」

「……オレも学生時代に落ち込んだ時は人気のない場所へ行ったからな、もしかしたらと思ったんだ」

 

 どこか他所へ視線を向ける先生に、第六感が反応を示す。むむむ、この様子は何かを隠していると。

 ちょっとその部分を突いてみたい。けどセンセーもそこは言う気がなさそうに切り上げて、マッチーとわいのわいのしているんだから、そんな気も失せてちゃった。

 マッチーも笑顔、センセーも笑顔、私もハッピー!

 そう言えば私の様子を見て、日下部がすぐに背中を押してくれたのは本当に嬉しかった。理解されてるなーって。

 友達って、やっぱりいいなぁ……なんてね。

 

 

 

 


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