これはどうしようもないこと。俺も佐竹も、奮闘及ばず一部を赤色の世界に落としてしまう。
それでもテスト前に多少は勉強したお陰か、ギリギリ崖に捕まって落とさずに済んだものがいくつか。それらを見比べて二人で安堵。
「いやーあぶねーあぶねー」
「片足どころか全身突っ込んでるのもあるけどな?」
「春明もそうだろ……」
全科目の点数が書かれた細長い用紙をお互いひらひらと振り、補習と追試はとりあえず置いて達成感に身を任せる。
祝、中間テスト全科目返却。これで点数がどうなるかドキドキしたり、結果が判り切ってる科目で蒼褪めたりせず済む。
「僕はまあそこそこかな」
「それでそこそこなのか……」
赤点ゼロ、総合点数が400近い太田の謙遜も俺らにとってはただの自慢だ。俺の力の籠らない声が響く。
佐竹も俺も、一部の教科で点数を稼いだので総合点数はそこまで悪くない。うん、苦手な科目が致命的過ぎたんだよ。
四月からもう何度預けたかわからない椅子に背中を預け、ふと後ろの席の女の子に目を向ける。
「日下部さんは、どうだった? テスト」
「あ、私は中々、かな?」
要領を得ない回答だった。
あ、これは気を遣われているな、と思った。俺の後ろだから、今までの会話が聞こえていただろうからね。
「総合何点だった?」
「え? えーと……」
「春明、あまりごちゃごちゃ聞くなって」
「っと、そうだった。ごめんね」
「いいよいいよー。あ、そういえばテストの成績上位者が発表されてたけど見た?」
佐竹の嗜める声に同意し、日下部さんの話題へと食いつく。発表ってーと、廊下に貼られていたアレか。
それならばついさっき見に行った。そしたらびっくり、ひまりさんが二位に町さんが五位。うちのクラスからだと藤川って奴が四位だったかなあ。
知ってる人がああいうのに乗ってるのはなんというか、新鮮な感じだった。ひまりさんは勉強が出来そう、というのは話しててなんとなく思ってたんだけど、実際に目の当たりにすると、やっぱり衝撃というかなんというか。
「小鳥遊の妹って頭いいんだなー」
「ね」
「ひまりさんはなぁ、なんというか小鳥遊を反面教師にでもしたのかなんなのか」
「日下部君も結構言うよね……」
いや成績表が来る前にちょっとその話を小鳥遊としたんだけど、漫画的表現の汗が幻覚で見えるくらいには酷い反応だったから。
そう言えば、佐竹や太田はひまりさんとあまり絡んでなかったと今更思う。いや話したりはしてるよ? でも俺とか小鳥遊を抜きにしてってのは見たことがない。
ひまりさんの成績を見た二人が驚くのも知らなければ当然か。
「小鳥遊妹に教えて貰ったりとかは……」
「それは多分無理だと思う」
佐竹がふとそんなことを言い出すも、すぐに日下部さんが首を振る。うん、俺も一瞬考えたんだけどね?
「ひかりがその、点数が良くなくて」
「だよねー、テストの話をしたがらなかったもん」
「それじゃあ小鳥遊さんの妹さんは、小鳥遊さんの勉強を見るのに手いっぱいだろうねー」
四人揃って溜息。ただし俺と佐竹は五十歩百歩な成績なので強くは言えなかったり。
高橋先生がテストまで真っ赤にしなくてもなって呆れてたよーとは日下部さんの余談。誰が上手いことを言えって言った。
「それでひかりったらお説教回避したくてごまかそうとしたら高橋先生に見捨てられちゃって……」
「テツせんせーはそこらへんキッチリしてるからなあ」
「教師してるところはちゃんと教師してるよね」
「あ、そう言えば私達三人で勉強会やったりするけど、皆はどうする?」
勉強会……良い響きだ。馬鹿二人には渡りに船とも言える。
そこに太田を含めて男三人で顔を見合わせ、まずは佐竹が一言。
「いや、俺は遠慮しとく。そっちの方が集中出来んだよなー」
「佐竹に同じく。俺は赤点取ったのがマジで勉強しないと追試も同じ道を辿りそうなんだよな」
「僕はこの二人に勉強教える役目があるからね、それに僕だけ行ってもちょっと気まずいし。誘ってくれてありがとう」
続けて俺と、二人が断ったことで太田も申し訳なさそうに頭を下げる。
というか小鳥遊がいるのに俺が集中出来るわけないよね。ちょっとしたことからおしゃべりが拡大したりして、それが周りに広がって、皆の勉強の邪魔をしちゃいけないし。
流石にそこまで不真面目ではない。ふざけるところはふざけるけれど、締めるところは締めるのだ。
そっかー頑張れーと応援を貰ったものの、予定は未定だったりする。うん、これから決めるところだったんだよ。
どうせ暇だし、うーん小鳥遊の家で飯食うのは追試とか全部終わってからかなぁ……
「太田が勉強できる奴で助かったね」
「俺らはダメなとこ、とことんダメだからなー」
ま、だからこそ得意科目や比較的出来る教科だけ勉強したんだけど。そのせいで英語とかもう壊滅的だ。
成績表をクリアファイルに仕舞い、身体を預ける先が椅子から机へ、顔をべったりとくっつけ脱力。
「これでも人並みには勉強してるからね、中学でも友達に教えてたし。あと教えたことを吸収してくのが、見てて好きなんだ」
「ほー……」
「教師にでもなるのか?」
「そういうわけじゃないけれど……教師、教師かぁ……」
――将来は目指してもいいかな。
へぇ。
本気の顔でそう呟いた太田は、しかし次の瞬間我に帰ると「あ、目指せたらだけど!」なんていつもの空気に戻っていた。
「いいじゃん教師。目指してみたら?」
「もーちょっとした冗談だよ」
「いやー教えるのが好きならいいんじゃねーの? まあ教師って大変そうだから絶対ってわけじゃねーけどよ」
本人は頬を掻いて照れているが、あんな太田は初めて見た。だから佐竹だって茶化さない。
「じゃあ生徒第一号は二人ってことで」
「お手柔らかにお願いしたいなあ」
「二人とも赤いのは20点台だからミッチリやるよ?」
「うへぇ……」
ちなみにテストが赤くなった俺らの末路なのだが、勉強会のあとは太田先生の容赦無さに顔が青くなった。
教え方も上手く、わかりやすい説明は助かるのだが俺らが理解したと見るや、次へ次へ進んで時間を忘れさせるのは勘弁願いたい。
誤字脱字報告ありがとうございます
連絡事項:オリ主のひまりちゃんに対する呼び方をひまりさんに変更
なんか読み返してるうちにいやおかしい(真顔)ってなったので慌てて変更
漏れがあったら報告お願いします