いや本当は次話にしようかなって思ったけどあと700文字くらいが書けなかったのでいっそくっつけました
――あーじゃあ日下部、とりあえずもう大丈夫だから、あとは先生で引き受ける。
――日下部さん、ありがとうございます。あ、良かったら連絡先交換しませんか?
――反省文はあとでね、日下部君
というわけでクルツさんの連絡先を入手。また会いましょうなんて言われたし、そんな断ることでもないことだったので快く承諾した。懐かれて悪い気はしないよね。
しかしやることはなくなったし、いよいよ帰るかなあ。
「あー日下部! 日下部! 大変なんだけど!!」
「不審者の話なら解決したぞ」
「……ほ? なぁーんだ」
手を振って走ってきたのは小鳥遊だ。焦っている理由はわかるので、解決したこととついでに刑事だったことを伝えた。
良かったぁと大きく息を吐き、そして直後に動きを止める。そして不安な表情を浮かべておろおろと、
「刑事……何かあったの?」
「いや、なんか佐藤先生の知り合いだったみたいだけど。どうしたんだろうなー、連れもいたし」
「知り合い……そして連れ?」
「そ、クルツさんって言うんだけど。凄かった。小鳥遊の見た人を一瞬で地面に叩きつけたからなあ」
「な、なにそれ」
何それと言われても、そうとしか言いようがない。飛んで蹴ってどしーん。一瞬だったなあ。相手が不審者じゃなくてクルツさんの先輩で、めっちゃ謝ってるのを見なければ尊敬してたよ。
この後どうするかーと聞いてみればセンセーとお話するから待つよーと返ってくる。
俺も気になってたから一緒にいるかな。いや小鳥遊と喋るってのも、もちろんあるんだけど。
「あ、そうだ、お父さんが日下部に会いたがってたよー」
「あれ? でもこの前行ったばかりじゃなかったっけ」
「いつも荷物置いてちょっと話して帰っちゃうから、一回ぐらいご飯一緒にしようって」
「なんで俺そんなに気に入られてんの?」
いや、あれからも何回か小鳥遊に呼ばれて、買い物付き合って荷物持ちやってるけどさ。あれくらいでご飯頂くのもなあって。
ほらほらそんなこと言わずに! って押してくるのを遠慮するのって、結構精神削るんだなってよくわかったよ。小鳥遊もノリノリで一緒に食べようよって言ってくるしさ。
ただそうなると親にも当然説明しなきゃいけないわけで。もう小鳥遊のこと知られたらそれで何日それをネタにからかわれるか、それが嫌なんだよね……
ニヤニヤしながら一から十まで聞き出す、俺の親はそれをする性格をしているから、そうなったら精神がもたない。
「ほら、この前のって量増えてるじゃない? 日下部がいるお陰なんだよねー」
「それって俺が用事入ってたらダメなんじゃ?」
「その時は一部だけ買って来たらいいって言われたのよ。だからくれぐれも無理して付き合わせないようにって、酷くない?」
「ははは、俺だってちゃんと用事ある時は断ってるのにねー」
「……断る回数より付き合ってくれる回数の方が多いよね? それもあるんじゃないかなあ」
頬を膨らませて自分の父親へと不満を表して、俺にはどうしてそんなに来てくれるの? と首を傾ける。
たまたまだよと言うものの、本当の理由は言うまでもない。予定が空いてることに関しては、たまたまだけどね。
「ま、そんなわけで、うちのお父さんの方が気にするようになっちゃって。ご飯ぐらい御馳走しないと気が収まらないってさ」
「うぐ……まだ片手で数えるくらいだし、そんな気にすることでもないと思ったんだけど」
「日下部が気にしなくても、こっちが気にするんだよ! だから今度は一緒に食べよ!」
ばしばしと肩を叩いて、いつも以上に押しの強い小鳥遊に意思が揺らぐ。
……うーん、そこまで言われたならもうしょうがないかなぁ。元々、小鳥遊と一緒に飯も食えるわけだし、悩ましい選択ではあったんだ。
そうだ、別に友達の家で御馳走してもらう、とだけ言えばいいのだ。性別まで言う必要なんてどこにもない。
「じゃあ今度ね」
「やった! ふー、これでお父さんも少しは静かになるよ」
「そんな言いぐさをするて、どれだけ言われたのさ」
「日下部が帰ったあとは必ずと言っていいほど、あとは最近になって毎日」
「……何が小鳥遊のお父さんを駆り立ててるんだろうな」
「私が知りたいくらいだよ」
廊下の壁に背中を預け、その隣で小鳥遊も同じ様に壁に寄りかかった。
それからしばらく無言のまま時間が過ぎる。というか、先生へとお話しするのはどうしたんだ。
「あ、そうだねー、そろそろ行ってみようかな?」
「何処にいるのかわかるの?」
「うーん、どっかの部屋に入って行ったのは見えたから、そこかなーって」
いや、それここにいていいのか? 入れ違いになったらまた探さなきゃいけないわけだけど。
その時はそのまま帰るから、とは言うけれどそれじゃあなんのために残ってたかわからない。
やけにのんびりしてる小鳥遊が、こっちーと歩いていく先は……うん? 喫煙室? しかもちょうどそこから先生と刑事さんが出てきていた。
ぐっじょぶ俺、もうちょっと遅ければ入れ違いで会えないところだった。一言二言会話して、ん?
何かに気付いたのか止まる動き、すんすんと鼻を鳴らして数秒、心底嫌そうに「くさい」。
煙草は嫌いー! そんな叫びを残して小鳥遊はあっという間に消えて……え、えぇ、待ってた意味ないじゃん。
「っと、そこいるのは……」
「あ、日下部です。日下部、春明です。刑事さんは……」
「おぉ、宇垣ってんだ。クルツの世話、あんがとな」
「いえいえ、話してて楽しかったですから」
うちのもんが悪かった、と言われれば困惑しかない。「早紀絵には言っといたからはんせーぶんは無しだぞ」宇垣さんに滅茶苦茶感謝した。
「ところで、刑事……宇垣さんはどうして今日ここへ?」
「あー、ちょっとした野暮用だ。ま、悪い事があったわけじゃねーよ」
「そうですか……それはよかった」
「君はさっきのバンパイアのおじょうちゃんと仲が良いのか?」
「はい、自分で言うのもなんですけど、めっちゃ仲良くしてます」
そうかー、と宇垣さんはどこかほっとしたような、柔らかい笑みを浮かべる。この人も亜人が好きなのだろう。佐藤先生という亜人を知り合いに持っているからなのか、それとも元からなのかはわからない。
スマホを取り出し、どこかへ掛けたかと思えば相手はクルツさんらしく、もう帰るから喫煙室の前まで来いよと言ってすぐに切っていた。
「あぁ、クルツとも仲良くしてくれよな? 感情がちぃとばかし顔に出るだけで悪い奴じゃあねぇからよ」
「あ、はいそれはよく知ってます……あと、凄い正直者ですよね」
「そう、そうだったな……」意味が通じるのか頭に手を当てて大きく息を吐く宇垣さん。感情が出るのは悪い事じゃないけれど、出過ぎるのは考えものだよね。
それから程なくしてクルツさんが小走りでこちらへやってきて、宇垣さんに頭をがしがしと撫でられ両手を振って抗議を示す。
それが微笑ましくて、年の離れた兄弟みたいだなぁなんて感想が浮かぶ。なんかところどころ本気で嫌がってる気がしなくもないけどきっと気のせいだろう。
アニメとの矛盾点はいっそ終わってから直そうかなと思います