亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

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ひかりちゃんと初詣に行きたいだけの人生だった……


佐竹裕介は舞い上がる

 話をしよう。特別な話じゃあない、一人の友人の話だ。

 佐竹裕介は、日下部雪に一緒に遊ぼうと誘いを出し続け、その度に断られて、それでもめげなかった。

 何度も何度もアプローチをかけ、それでも断られ続けて、そしてある時、日下部雪の抱える特殊な理由が関係してるのではないかと仲間内で話になり、そこからは佐竹も自重することにした。

 そんなことがあった過去、そして今、佐竹の夢は成就することになる。

 

 

――

 

「佐竹君!!」

「……日下部?」

 

 息を切らせた少女が無駄話をしている俺達へと叫ぶ。そんなに火急な用事なのだろうか。

 しばらく息を整えている雪女の少女に、三人は焦ることもなく言葉を待つ。

 

「その、今更になっちゃったけど、前に私が倒れた時、すぐに声をかけてくれてありがとう、お礼を言うのが遅れてごめんなさい」

「お、おうそんなん気にすんな」

「あ、あと何度も遊びに誘ってくれたのにそれも邪険にしてしまってごめんなさい。それで……」

 

 それは過去のことへの感謝と謝罪。佐竹はそう言えば何も言われてなかったなと気付く、つまりそれくらいには気にしてなかったのだ。

 お誘いだって、純度百パーで、助けたんだからちょっと遊ぼうぜなんて片隅にも考えてなかったわけで。

 

「こ、こんど、遊びに行かない? カラオケとか……」

 

 それはさておき、こうして佐竹はこうして日下部さんからお誘いを受けることとなった。

 

「お、おお、いいけど……その、良いのか? ずっと断ったのは何か理由があるからと思ったからなんだけどよ……」

 

 だからこうなって嬉しい反面、今までと正反対の展開に、もしかして無理をしているのではないかと佐竹は心配になった。

 見ていた感じ悪い奴じゃない、心根は優しい女の子なのだから。もしかしたら断り続けるうちに良心が痛んで無理にでもなんてことだったら、自分自身も楽しめない。

 

「あ、それは、そうだったけど……大丈夫! 解決したから!」

「……そ、そうかっ! ならいいぞ! カラオケでもなんでも……っっっっしゃあああああー!!」

 

 だがそれは佐竹の杞憂であった。悩み事はもうないのだと、とびきりの笑顔を佐竹に向ける。見惚れるような美しさのそれに佐竹は凍ったかのように動きを止めた。

 雪女なのだから、人ひとり凍らせることなんてわけないってことだろう。

 しかしいち早くそれから復帰すると、ぐっと膝を曲げ、その場で飛び上がる。喜びを隠さないのが佐竹という人間の性格だった。

 

――

 

 

 と言うのが今日あった出来事。まあ佐竹の喜びようは、玉砕していた回数の一部を間近で見ていた俺達は納得だ。

 日下部さんが去ったあと、未だに喜びに浸る佐竹に太田と二人で拍手しながら、おめでとうなんて言葉を送って、そのまま放置しておいた。

 多分あれ、しばらくそのままで復帰に時間かかるだろうなーって予感あったし。

 教室への帰り道、横合いから聞きなれた声が飛んできた。

 

「あ、ちょうどいいとこにいるじゃんー」

「ん? おっ、小鳥遊か」

「今度暇?」

「今度って何時?」

「明後日、放課後にマッチーやユッキー達と遊びに行くんだけど、よかったらどうかなって」

 

 明後日……放課後は基本暇だから大丈夫かな。もちろん、何か用事があっても小鳥遊の誘いを断るなんてよほどのことがない限りはあり得ない。

 答えはもちろんイエス、「じゃあ明後日、下駄箱の前集合ねー」と手を振りながら小鳥遊は予鈴と共に慌てるようにC組へ戻っていく。

 

「なんか、誘うタイミング重なってない?」

「……ん?」

 

 言われてみれば確かに、太田の言う通りだ。と言っても日下部さんは何時かまでは言ってなかったし、まあ被っても別にいいだろう。

 まさか佐竹もサシのデートだと思ってるわけじゃない……じゃないよな? いやあいつの浮かれ具合だとなんか不安になってきた。

 

「うーん、まあ仮に被ったとして、春明は小鳥遊さんと遊ばないなんて選択は」

「しないしない」

「だよね……即答するくらいだもん」

「あ、太田はどうする?」

「あれ? いいの? 僕も行って」

「そりゃあお前、小鳥遊さんとのデートならともかく、日下部さんや町さんも来るんだし、小鳥遊だってマズければ俺が一人のとこで誘うだろ」

「なるほど……じゃあ一緒しようかな」

 

 こっちもこっちで重症だ……なんて呟きは聞こえないことにする。何、某国曰く恋と戦争では手段を選ばないらしいしこれくらい、大人しい方だろう。

 まあ、もしそうなった場合は佐竹を慰めて昼飯奢るくらいはしようかな……

 

 

――

 

「なんで……」

 

 佐竹の絞るような声が響く。

 

「なんでお前らがいる……!」

 

 まるで赤点取ったらお小遣い減額よと言われた後のテストで見事真っ赤な点数を取った時の如く、佐竹は擦れた声で俺と太田を睨みつける。

 はい、見事に被りました。この場には俺ら三人組と亜人(デミ)ちゃんズの三人、あと知らない二人がいて、その二人は亜人(デミ)ちゃんズとわいわい話している。

 

「まあその、なんだ、小鳥遊から誘われてな……」

「僕は春明に誘われて」

 

 膝を曲げ、腕をだらりと下げた佐竹の姿に涙を禁じ得ない。こいつ、もしかしなくてもデートだと思っていたのか……

 亜人(デミ)ちゃんズから今日は楽しもうねーなんて歓迎されているのが余計に哀愁を誘う。

 その時に精いっぱいの笑顔で応えたあいつを誰か褒めてやってほしい。

 

「今度飯奢るよ佐竹……」

「あぁ、デートなんて儚い夢だった……」

 

 人の夢と書いて儚い。頑張れ佐竹……

 

 

 

 




あけましておめでとうございます
今年もまったり更新を心がけて参りますので気が向いた時に読みに来てください
冬コミのB2タペストリーは無事回収できたのでご満悦です
はー、イイ(語彙力皆無)

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