「この屁理屈
「それは否定しないがーー!」
叫び声を響かせながらテツ先生へと背を向けて走り去るひまりさん、それに愕然としながら否定しきれない先生。どうしてこうなったのか。
いやね、さっきまでは良い雰囲気だったんだよ。先生がめっちゃ先生してて。
――ひかりは人から血を吸いたい気持ちはあるがパックで我慢している、またバンパイアの性質を上回ってなお臭いの強い食べ物が好き。そう言った『人間性』があいつの
――「
それはひまりさんからテツ先生へ向けた疑問。バンパイアという
テツ先生は真面目な空気を感じ取ったのか、自分の考えを丁寧に伝えた。
――『
先生はそう締めくくって、俺とひまりさんは二人そろってその言葉を噛みしめていた。何も言えることがない。いやほんと凄いなって。
流石テツ先生、学生時代から
ただまあ、そのあとがちょっと締まらなかっただけで……
「で、先生」
俺もちょっと先生にお話し、したくなったんだ。ひまりさんに問い詰められてる時、恐る恐る俺の方も見ていたから先生もわかってるのは間違いない。
だけど俺は先生に恩がある、だからちゃんと聞くぐらいはしないといけないと思う。
「小鳥遊をハグしたこととは? 襲ったことについて弁明は? 今ならまだ通報は勘弁しますから」
「違うんだって、ほんとに……誤解なんだ」
「誤解とは?」
「ちゃんと全員ハグしたんだ!」
「明日教頭先生にチクります」
「違う! 元々小鳥遊が私だけハグされてないって言って抱きついてきたんだ!」
「それも羨ましい! やっぱり教頭先生に言いつけてやる!!」
小鳥遊が、
本音が漏れてんぞ! とテツ先生が叫んでいるが俺には知ったことではない。うごごご、テツ先生がそんなことする訳ないとわかってるからこそ! 小鳥遊からハグしにきたって事実が! 妬ましい!!
「それより日下部」
「なんですか?」
「日下部はどうなんだ? ひまりさんの話聞いて」
「……実を言うとそんなこと考えてなかったんです」
いや本当に。最初は確かに
そんなことを言ってみるとテツ先生はそうか、としか返してくれなかった。
「えっと、いけなかったですかね」
「悪い事じゃないがな、ただ、絶対に『
「わかりました。意識して出来るといいんですが……」
「ちょっとずつでいい、ひかりとしての魅力と、バンパイアとしての魅力、二つが合わされば……もっと好きになれるだろう?」
「……
ドヤ顔で宣うテツ先生。確かに、ただでさえ可愛い小鳥遊が「あ、ここの仕草ってバンパイアだからかな」とか。陽射しが苦手だってのは知ってるけど、それでぐったりしてるところとかバンパイアの
他だと……あ、吸血衝動とかってあるらしいし、その時なんか我慢してるなーとかわかったら微笑ましいよね。そこでちょっと我慢できずに甘噛み風にかっぷりしたらと考えると……あ、これはいい。欲を言えばかっぷりされるのが俺だったらなおよし。
「……て……い、もどってこーい!」
「は!」
「だ、大丈夫か? 軽く意識が飛んでいたみたいだが」
「いえ、ちょっと噛まれたいと思っただけです」
「……それ、本人の前で言うなよ?」
「え?」
「バンパイアの繊細な理由だ」
「は、はぁ……」
理由はよくわからないけど先生が言うならまあ、そうなんだろう。変な事を言って小鳥遊の好感度が下がるのは嫌だし。しかし繊細な理由とは一体なんぞや。
まあいずれはこう、噛みつかれて、血を吸われる感覚を体験してみたいんだけどね。好きな人に血を啜られるって本当、想像がつかないんだけど。
「あぁそうだ」
「まだ何か?」
「ひかりのこと小鳥遊って呼ぶようになったんだな」
「先生は良いですよね……いつも名前で呼べて」
「呼び方なんてどうでもよくないか……?」
「よくないです! この屁理屈
「勘弁してくれ……!」