亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

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亜人好き教師と語りたい

「この屁理屈亜人(デミ)好き教師ーーーッ!!!」

「それは否定しないがーー!」

 

 叫び声を響かせながらテツ先生へと背を向けて走り去るひまりさん、それに愕然としながら否定しきれない先生。どうしてこうなったのか。

 いやね、さっきまでは良い雰囲気だったんだよ。先生がめっちゃ先生してて。

 

 

――ひかりは人から血を吸いたい気持ちはあるがパックで我慢している、またバンパイアの性質を上回ってなお臭いの強い食べ物が好き。そう言った『人間性』があいつのバンパイアらしさ(・・・・・・・・)であり、人間としての個性(・・・・・・・・)だ。

――「らしさ(・・・)は生まれ持った『性質』ではない、『性質』を踏まえてどう生きるか。

 

 それはひまりさんからテツ先生へ向けた疑問。バンパイアという亜人(デミ)の性質にばかり目を向けていて、姉自身のことはどう考えているのかと。

 テツ先生は真面目な空気を感じ取ったのか、自分の考えを丁寧に伝えた。

 

――『亜人(デミ)の性質』だけ見ていると個性を見失う、『人間性』だけ見ていると悩みの原因に辿り着けない。どっちも大切だ、バランスが大事なんだ、そう俺は考えている。

 

 先生はそう締めくくって、俺とひまりさんは二人そろってその言葉を噛みしめていた。何も言えることがない。いやほんと凄いなって。

 流石テツ先生、学生時代から亜人(デミ)に興味があったのは伊達じゃない。亜人(デミ)の家族であるひまりさんが何も言わないのだから、それがどれほどか俺だってわかる。

 ただまあ、そのあとがちょっと締まらなかっただけで……

 

「で、先生」

 

 俺もちょっと先生にお話し、したくなったんだ。ひまりさんに問い詰められてる時、恐る恐る俺の方も見ていたから先生もわかってるのは間違いない。

 だけど俺は先生に恩がある、だからちゃんと聞くぐらいはしないといけないと思う。  

 

「小鳥遊をハグしたこととは? 襲ったことについて弁明は? 今ならまだ通報は勘弁しますから」

「違うんだって、ほんとに……誤解なんだ」

「誤解とは?」

「ちゃんと全員ハグしたんだ!」

「明日教頭先生にチクります」

「違う! 元々小鳥遊が私だけハグされてないって言って抱きついてきたんだ!」

「それも羨ましい! やっぱり教頭先生に言いつけてやる!!」

 

 小鳥遊が、自分から(・・・・)抱きついてきた。なんて夢のような体験をしてやがるこの教師! そのタイミングだけ俺と代わってくれよ!

 本音が漏れてんぞ! とテツ先生が叫んでいるが俺には知ったことではない。うごごご、テツ先生がそんなことする訳ないとわかってるからこそ! 小鳥遊からハグしにきたって事実が! 妬ましい!!

 

「それより日下部」

「なんですか?」

「日下部はどうなんだ? ひまりさんの話聞いて」

「……実を言うとそんなこと考えてなかったんです」

 

 いや本当に。最初は確かに亜人(デミ)だって認識はあったし、変なことを口走らないようにしないとって意識もあったんだけど、最近はそれがなくなっている。ただ小鳥遊ひかりって女の子とぺらぺら喋って恋して、ちょっとドキドキしたり?

 そんなことを言ってみるとテツ先生はそうか、としか返してくれなかった。

 

「えっと、いけなかったですかね」

「悪い事じゃないがな、ただ、絶対に『亜人(デミ)の性質』も頭の片隅には入れておくといい。そうすれば普段気付けないことにも気付けるはずだ」

「わかりました。意識して出来るといいんですが……」

「ちょっとずつでいい、ひかりとしての魅力と、バンパイアとしての魅力、二つが合わされば……もっと好きになれるだろう?」

「……亜人(デミ)っていいですね」

 

 ドヤ顔で宣うテツ先生。確かに、ただでさえ可愛い小鳥遊が「あ、ここの仕草ってバンパイアだからかな」とか。陽射しが苦手だってのは知ってるけど、それでぐったりしてるところとかバンパイアの亜人(デミ)でいてくれてありがとうってなるもんなあ。

 他だと……あ、吸血衝動とかってあるらしいし、その時なんか我慢してるなーとかわかったら微笑ましいよね。そこでちょっと我慢できずに甘噛み風にかっぷりしたらと考えると……あ、これはいい。欲を言えばかっぷりされるのが俺だったらなおよし。

 

「……て……い、もどってこーい!」

「は!」

「だ、大丈夫か? 軽く意識が飛んでいたみたいだが」

「いえ、ちょっと噛まれたいと思っただけです」

「……それ、本人の前で言うなよ?」

「え?」

「バンパイアの繊細な理由だ」

「は、はぁ……」

 

 理由はよくわからないけど先生が言うならまあ、そうなんだろう。変な事を言って小鳥遊の好感度が下がるのは嫌だし。しかし繊細な理由とは一体なんぞや。

 まあいずれはこう、噛みつかれて、血を吸われる感覚を体験してみたいんだけどね。好きな人に血を啜られるって本当、想像がつかないんだけど。

 

「あぁそうだ」

「まだ何か?」

「ひかりのこと小鳥遊って呼ぶようになったんだな」

「先生は良いですよね……いつも名前で呼べて」

「呼び方なんてどうでもよくないか……?」

「よくないです! この屁理屈亜人(デミ)好き教師!」

「勘弁してくれ……!」

 

 

 

 

 

 

 


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