―4月 柴崎高等学校
俺は日下部 春明。15歳
この春入学した、と言うかまさに今日入学式を終えて顔合わせを済ました新鮮な高校生である。中学では何事もなく過ごし、問題も起こさずたまに級友の佐竹とバカな騒ぎをしてはクラスの連中に笑われる日々を過ごした。
なんだかんだ頭の出来は似たようなものだったので佐竹と俺は同じ高校を選び、周りに色々(主に勉強とか勉強とか勉強とか)助けられながら受験と言う苦難の道を乗り越えて今ここにいる。
「あー、なんかドキドキするわやっぱり」
ちなみに佐竹とは無事同じクラスになれた。一緒に帰るかとお誘い申したものの、あいつは他クラスの女の子を見に行くと言って消えて行った。相変わらずだった。
しょうがないので校門前で壁に寄りかかりながら待機中である。佐竹も馬鹿な奴だな、校門なら帰りに皆が通るから女の子もチェックし放題だと言うのに、あとは特徴を抑えて翌日以降に男子に聞き込みすればいいのだ。
俺とていよいよ高校生へ突入した健全な男子学生。中学ではそんなイベントはなかったが進学した今、俺は彼女が欲しい。
「…………」
「…………」
「……………………何か?」
と言う訳で下校する生徒を眺めていたところ、一人の少女がこちらに振り向いてじーっと視線を向けている。なんなのだろうと声をかけることにした。ほら、可愛いしその子。
「ねぇねぇ、何やってるの?」
「友達を待ってるところだけど」
「へー、その割には女の子ばかりじろじろ見てたみたいだけど」
「……気のせいじゃない?」
「私、そう言う視線とか気になるタイプなんだ」
別にそこまでガッツリ見てたわけじゃないし、ついでに言えばこの子を見ていたわけではない。しかしその女の子は得意げに腕を組むと俺への口撃を始める。俺が君に何をしたというのか。
携帯に視線を向けながらさりげなく女の子を見るとは狡賢いとか入学初日から一体何をしているんだとか散々な言われよう。もう一度言うが俺が何をしたって言うのか。
「わかったわかった。で、君は何でそう俺に絡んでくるんだ……」
「いやー、暇だったから」
「は?」
「んー、妹を待っててね。そしたらなんか女子に如何わしい視線を向ける変な人が! そう言うのよくないよ! ってね」
なんと正義感に溢れる女の子なのだろう。冗談はその左右にツノみたいなデッパリがある髪型だけにしてほしい。
いや可愛い女の子と喋れるのは結構なことだ。俺も佐竹が来るまでの暇を潰せる。ただ文明の利器である携帯がある以上女の子の方はわざわざ俺を暇つぶしにしなくても良さそうなものだが。
「ま、そーゆー訳だから。えーっと名前は?」
「日下部、
「
名前はわかった、次はお互いの紹介を済ませたところで気になっていたことを聞いてみる。
「そう言えば妹って?」
「あー、うん。双子なんだ私。妹はひまりって言うんだけどね」
「へぇ」
姉の私がいないとダメなんだよねー、とからから笑う小鳥遊さんに俺はうさん臭そうな視線を向けるしかなかったのである。ブレザーの下から白いシャツが見える小鳥遊さんを見ればそれは十人中九人が同意することだろう。ちなみに残り一人は大穴狙い。妹が人見知りな性格で姉に頼るような小動物系の妹で姉は面倒見が良いという可能性の大穴である。
「にしてもやっぱりデミって珍しいんだね。中学の時もそうだったんだけど」
「ん? デミ?」
「あ、
「知らなかった」
神話やおとぎ話の中に出てくる存在をモチーフとした人間とはちょっとだけ違う性質を持つ人たちを総称して
それくらいなら俺でもわかる。ただ、それが何故唐突に出てくるのかがわからない。
「で、それがどうしたんだ? 俺も小中で
「そうだけどぉ~……」
煮え切らない表情だった。左右に目線を走らせ、言うか言うまいかと悩んでいる姿にこう、うさん臭さと言うか不審者と言うか。
「お姉ちゃんお待たせ……ってもう友達作ったの?」
微妙な空気が流れる中、それは後ろからやってきた第三者によって霧散する。
どうやら小鳥遊さんの妹さんが来たようだ。そちらを向けばなるほど、小鳥遊さんとほとんど同じ顔だが明るい茶色の髪を左右で結んでいて、制服は姉と違いちゃんとしたまま。これは小鳥遊さんの大ホラの可能性が高くなってきた。
「私が友達作れないみたいな言い方はよしてよ~」
「一週間は友達作りどころじゃないだろうな、なんて私に愚痴ってたのはお姉ちゃんじゃない! その割には私より早く校門にいるし!」
「妹が待ってるからって後回しにしちゃいました。えへへ」
「まったく……そちらの方もすみません、姉がご迷惑をおかけしました」
「あ、あぁ俺も友達待ちだったし大丈夫だよ」
「そう言ってくれると気が楽になります」
まさか女の子観察してたらそれを咎められました、なんて正直に言う訳にはいくまいて。小鳥遊さんの妹も当然と言うか可愛いので何と言うか、変な人と思われたくない。小鳥遊さん? まあ、そう、だねうん。
しかし礼儀正しいな。小鳥遊ひまりですと軽くお辞儀する少女に自分も気後れしつつ返す。この姉妹の差はどこから生まれたんだ。
「あ、そうそう」
「?」
「さっき
「私も
「お、おお?」
「
口の端を指で持ち上げ、ほらほらと笑顔で八重歯を見せてくれる小鳥遊さんに一瞬見惚れながらまさか小鳥遊さんが
「それじゃーねー日下部君」
「お先に失礼します」
「お、おうさいならー」
かろうじて挨拶だけを返すと二人の背中を後目に校門によりかかる。うわーまじかー、
帰ったらちょっと
そんな俺の思いを他所に佐竹はその三十分後にやってきた。とりあえず頭叩いて一緒に帰った。
本文は変えませんが細かいところをこれから随時修正予定
今更だけどブレザーは独自解釈です、当然原作が冬服になって違うのであれば修正するでしょう