亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

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ここらへんほんと難しいし原作読み前提になってしまうのほんと申し訳ない


日下部春明は盗み聞きする

「日下部! よかったら今度の休み遊びに行かね?」

「えっ?」

「あー、誘い方アレだけどどう? 日下部さん」

 

 気怠い午前の授業を終え、空腹状態から回復した昼休み。俺と太田を引き連れトリオと化した佐竹はその目で日下部さんを見つけ、休日のお誘いを試みていた。

 見てる限りではとても成功しそうにないのだが、そんなことを佐竹が気付くわけもなくこと俺も申し訳程度の援護射撃に留める。

 

「い、いや……私はいいよそういうの……」

「いいじゃんいいじゃんたまにはさ!」

「ほんとに大丈夫だから私は」

 

 保健室での一件以来、日下部さんはより一歩距離を置くようになった。ちゃんと会話もするし、時には昼食をご一緒することもある。けれどそれは『クラスメイト』と交流するような感じで『友達』とわいわいがやがやするようではない感じなのだ。

 佐竹はこの通り押しが強い。それは良い方向に働くことが多いが今の日下部さんにはマイナスだろう。波風立てず断りたい日下部さんもどうしたものかと困っている。

 

「ご、ごめんね!」

 

 結局、逃げるように走っていった彼女に三人で顔を見合わす。うーん、だめかあ、と。

 ぐいぐい行き過ぎな佐竹を窘めようと口を開こうとして――軽い声と共に後頭部に軽い衝撃が走る。

 

「とうっ」

「あたっ」

「てっ」

「ぐえっ」

 

 どこぞの誰だそんな事をしやがったのはと後ろを振り向けばそこには白衣を纏った生物教師、テツ先生がファイルを肩に立てて何とも言えない表情で見下ろしていた。凶器はそのファイルで間違いないだろう。

 短い沈黙と共に佐竹が不満そうにその所業へ至った理由を聞くも先生から告げられた理由はとても理不尽なものだった。

 

「オレが日下部に話しかけようと思ったのに……まったく」

「おい教師」

「そんな八つ当たりみたいな理由で……?」

「とんでもねぇなこの人……」

 

 まったくだ。俺も思わず敬語が取れるくらいにはツッコミどころしかなかった。けれどそれなら納得だ。テツ先生は亜人(デミ)好き生物教師、過去には亜人(デミ)と会いたくて色々模索したものの結局会えず、それが今年になって一気に四人も教師として勤めている学校に現れたのだからショックが先行するくらいの人間。亜人(デミ)だと発覚した日下部さんと雪女について話したいとなるのは当然のことだろう。にしたって俺らを叩くことはないと思う。

 

「……いやな? 実は何度か日下部に話しかけてたんだが悉く逃げられてしまってな……」

「放送とかで呼び出したら流石にくるんじゃ……?」

 

 スマンスマンと欠片も誠意の籠ってない謝罪を横に流しながら太田が言うも、個人的に聞きたいことで強制するのはなあと首を振っていた。うん、職権乱用だからねぇ。あと放送で一個人が先生に呼び出し貰うなんて奇異の眼差しで見られるしなあ……日下部さんってそういう視線苦手そうだし。

 そのまま先生は何かを考えてるのか目を閉じ、うんうん唸っては時たま上下に首を振って難しそうな顔でブツブツと独り言を呟いていた。なんなんだこの先生……

 

「なんかブツブツ言ってる……」

「テツ先生変わってるよなー」

 

 そこは二人も同じ意見だったようだ。まあ嫌いじゃないけど、と付け加えた佐竹に俺も否定はしない。

 なんだかんだ悪い先生ではないのだ。授業も解りやすいから楽しい、最近亜人(デミ)に関して話をしたりするけど嫌な顔もしないし。そう言えば先生には亜人(デミ)について色々聞きたい事あるし、今日の放課後もちょっと訪ねてみようかなあ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー、と、あの先生そもそもどこにいるんだ?」

 

 午後の授業はあっという間である。ちょっと、うんほんとちょっとね? 夢の世界行ったりしたけどね?

 そう言う訳でテツ先生を探そうと思ったのだけど、事前に何も言ってなかったから理科準備室にいるかもわからないし。あっちへふらふらこっちへふらふら。どこにも見当たらない。うーん帰るかね。

 そう諦めた時、視界の端に白色が過る。それを目で追えば階段の向こう側へと見慣れた白衣が消えていく。うーん、テツ先生かな? 違ったらまあいいかとそれを追いかけることにした。

 階段を上りきり左へと消えた先生を追いかけ声をかけようとして――その歩みを止める。

 ここからでも聞こえる怒声、その声には聞き覚えがあった。

 

 

「アンタ達、他人の陰口ばっかり言ってるんでしょ! やめなよそう言うの!」

 

 ちらりと顔だけを壁から覗かせると先生と……日下部さん? 二人がいて、小鳥遊さんの怒声。これだけでも察せる奴は察せる。

 

「確かにユッキーは亜人(デミ)だけど! 関係ない! アンタ達に文句を言うのはアンタ達に文句を言いたいからよ!」

 

 小鳥遊さんが怒っている相手は、日下部さんの悪口を言っていたのだろう。それが先生か小鳥遊さんか、日下部さん本人がたまたま聞いてしまったんだ。それできっと、こうなったのだろう。

 相手は誰だかわからない。小鳥遊さんに気圧されてるのか、相手の大きな声はなく小鳥遊さんの声だけが響く。

 

「相手を煽って、はぐらかそうとするな!」

 

 単純に凄いなと思った。あんな風に自分の気持ちを通すのは、俺には出来ない。波風立てず、俺が例えその時の現場にいて悪口を聞いてもなかったことにするに違いない。断言出来る。それに反応して変な地雷を踏んで、学生生活が滅茶苦茶にされるのが俺は嫌なんだ。平凡でいいからいつも通り過ごしたいんだ。むしろ、逆らえない相手が悪口を言っていて同意を求められたら絶対頷く。本人がいない場なのだから大丈夫と上辺を取り繕って。

 だからこそ、次に聞こえてきた言葉は深く、俺の心を抉ることとなる。

 

「『みんながやってるから』なんて理屈……私は嫌い!」

 

 そうしてちょっと間が空いてから、日下部さんがトイレの中へと歩みを進めて、小鳥遊さんが目元を赤くしながら出てきて。テツ先生が小鳥遊さんを追って行って。こっちへ来なかったのは幸運だった。どんな顔をすればいいか、ちょっとわからない。

 そこから動けたのはその後日下部さんと二人の生徒が出てきてからだ。鉢合わせしたらまずいと逃げるように階段を下りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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