さて、ここ数日ギクシャクしっぱなしである。
誰と、と言えばもちろん小鳥遊ひかりと、である。フォローしようと口を開けば少々そのフォローが過ぎたようで、それから数日を経た今でも話そうとすれば目も合わせてくれないし言葉は途切れ途切れになるしでまともに会話にならない。日下部さんも町さんもひまりさんも当然ながら何があったのかと――ひまりさんは何をやらかしたんだと表情の消えた顔で――問い詰められ仕方なしに件の事件を白状した次第。
日下部さんや町さんは佐竹が俺に向けてきた生暖かい目を向けてきたし、ひまりさんは私はわかってますよアピールなのか慈愛の笑みを浮かべるしで弁明に終始することとなった。
「それもこれも佐竹が悪いんだよ!」
「その言葉、何回目なんですか」
ガンッと壁を蹴りながら八つ当たりの言葉を吐く。そこまで強く蹴ってないので足の痛みはない。うん、俺の迂闊さが招いたことだからね。
にしても意外だったのは数日も後を引くことであった。いやぁ小鳥遊さんの性格から一日か二日経てばはいおしまいかと思ってたんだけどねえ。そこんところどう思うよひまりさん。
そう問えば彼女はとても難しそうな顔で考え込んだ。
「姉はあまり自分の容姿を褒められることに慣れてないんですよ」
「えっうっそだろ、まあ小学校の頃はともかくとして中学なんてほら、女子のグループとかさぁ、あと男子だって可愛い子を気にし始めるだろ?」
ちなみにソースは俺と佐竹。受験なんて地獄が始まる前はほんと誰々が可愛い、いや誰々の方がなんて話をしょっちゅうしてたものである。もちろん恋心などではなく単純に見たままの感想的な意味で。
「そうですけど、男子はそれを直接本人に言うことなんてほとんどしないでしょう?」
「うんまあそうだけど、小鳥遊さん程となると告白とかさぁけっこうされたんじゃないの?」
「そのような話は少なくとも聞きませんでしたし、姉に彼氏が出来たなんて話もありませんでしたね」
「そりゃまた……」
うーん、モテていたかどうかもわからないとは。仮に告白されてたとしてもフッたのかな? でもひまりさんすら知らないとなるとなー。わからない。
ところでひまりさんはどうなのよ? と言ってみればまあそこそこにはと何とも曖昧な返事を頂いた。そこそこってなんやねん。どうせ彼氏いないんでしょうに。
「とにかく!」
「はい」
「そんなんだからまああんなストレートに言われてビックリしてるんじゃないですか? ああ見えて姉は言葉が本心かそうじゃないか判りますから」
「そりゃあまた、機嫌を損ねた時が大変だな……」
「えぇ、それはもう」
何を思い出したのか知らないがうんざりした顔に苦労してるんだなぁと同情する。
それよりはいつになったら小鳥遊さんが戻るかが大事だ。いつまでもああなられるとこちらが調子狂う。
「ふふ、でしたら姉に直接聞いては如何でしょうか」
「それが出来る空気だったら良かったんだけどねぇ? わかる? 露骨に俺から視線逸らしてるんだよ小鳥遊さん」
しかも会話が長く続かないの。ちょっとしたらうん、だのそうねだのさっき聞いたからその言葉。
そんなんだから俺が他の
「ですがその姉、後ろにいますけど」
「んふふ~、どうだった? どうだった? 流石に二日目からは演技だったよー!!」
「こいつ……」
いつから俺の後ろにいやがったんだ、と言いたくなるのはさておき悪戯大成功とこちらを嘲笑う小鳥遊さんはいつものウザいテンションを発揮、芸術のように俺のイライラを高めてくれる。
「ねーねー、ちゃんと話せなくて寂しかった!? 寂しかった!?」
「ひまりさん、こいつの頭ぐりぐりしていい?」
「えぇどうぞ」
「お姉ちゃんを裏切らないで!? 痛い痛い!! あ、これ結構本気だ! ごめんなさい!」
こっちだって割と真剣に悩んでたんだぞ馬鹿野郎め。小鳥遊さんの頭を握った両手でぐりぐりとしながらそんな恨みも乗せていく。俺のことをからかった分くらいはやっちゃったっていいよね? いやいいはずだ。
この際、ひまりさんの顔の方は見ないでおこう、絶対俺が突っ込みたくなる顔してるから。
「反省した?」
「したした! したからぐりぐりやめて!」
「よろしい」
「本当に、遠慮ないよね日下部君」
こちらを恨めしそうに見る小鳥遊さんには悪いけど、あんだけ綺麗にからかわれればやり返しを厳しくなるというものだ。恨むならば自分の行動を恨むがよい。
さて、無事解決したようだしそろそろお暇するとしますかねえ? いや放課後だしね。帰ってゲームやりたい……
「じゃあ一緒に帰ろーよー!」
「お、いいね。最近は誰かさんのせいで一緒することもなかったし」
「えぇ、姉の下らない仕返しのせいですね、わかりますよ」
「ちくちく攻撃してくるのはやめてくれないかな……?」
え? 佐竹のせいじゃなかったのかって? いやいや何の話かわからないなー。
じゃあバッグ取ってくるー! と小鳥遊さんが走り出せばこの場には俺とひまりさんの二人が残る。ああよかったと安堵の息を吐けばひまりさんは意地の悪そうな笑みを浮かべて俺をからかってきた。
「良かったですね? 姉と元に戻れて」
「小鳥遊さんじゃなくてもわかるぞ、今のひまりさんからは他意しか感じられないわ」