亜人ちゃんに伝えたい   作:まむれ

10 / 35
野郎共は語りたい

「しかし佐藤先生だっけ、凄いねえ」

 

 休み時間、廊下で真っ先に口を開いたのは驚くべきことに太田だった。太田は俺や佐竹と違って女性にキャーキャー言わないと思ったのだけど。

 

「あーわかるッ! 美人な数学教師! これはたまらねーよ! なあ!」

 

 両手に拳を作り、身体を縮ませて歓喜を表す佐竹がそれに続き、ボールを投げられた俺はと言えば――

 

「んー、いや特には何も……」

 

 特にコメントすることがないので興味なさそうにそれを見送った。

 

 

 

 

 

「あぁ、それで日下部はビックリしなかったんだね」

 

 はぁ? と信じられないものを見るような顔で見られた俺は事前に佐藤先生が赴任することと亜人(デミ)であることを知ってたのだと伝えると二人はなるほどと頷いた。

 そもそもからして既に三人の亜人(デミ)を知っているのだから、そんなに驚く必要はないと思うんだけど、それは俺だけなのだろうか。

 

「いや、どっちかっつーとよーまた亜人(デミ)かよ!! ってとこだな、悪い事じゃねーぞ?」

 

 あぁ、言いたいことはわかる。ほんとに亜人(デミ)ってこの狭い学校に四人もいる程絶対数は多くないからなあ。

 それが何をどう間違ったのか生徒に三人、そこに先生が後からもう一人とやってきたのだからきっと亜人(デミ)好き人間が見れば羨ましくてどうにかなってしまうんじゃないかな。

 

「んー、でもそれだけじゃないよね? 春明は」

 

 ふと、太田がそんなことを言ったのがきっかけとなった。日下部さんがいることもあり二人は既に俺に対して呼び方を苗字から名前へと変えている。俺もその方が間違えなくて済むので楽である。

 

「は?」

「あぁ、確かにおめーは佐藤先生で騒ぐ前にいい相手がいるもんなあ?」

「そうそう」

「隣のクラスに、いーい感じの相手がよー?」

 

 ……オーケイ理解した。目の前の二人(バカ)は俺が小鳥遊さんにそう言う気持ちを抱いてると、そう言いたいんだな?

 楽しそうに口の端を上げた二人には少しわからせてあげなければなるまい。両手をグーにかたどって、太田と佐竹に一発ずつ軽い一撃を落とす。

 殴ることはないだろとの抗議も聞き流し、努めて優しい声で子供に言い聞かせるように話しかける。それに、俺をそう言うネタでいじくると言うならば俺は佐竹に対しては反撃出来るんだからな。

 

「友達だよ友達、二人の下衆な勘ぐりは的外れってわけだ。ところでそんな話題を出すってことは太田はともかくとして佐竹は反撃にあっても文句は言えないよな?」

「なんのことだよ?」

「日下部さんがいるじゃあないか、えぇ? 最近ずいぶん積極的じゃないか」

 

 そうやってカウンターを食らわせると佐竹は目に見えて狼狽し――いやいやあんだけお近づきになろうと奮闘してるのにそこ狼狽えるところじゃないだろう。太田もそんな佐竹の姿がおかしいのかやれやれと首を振っていた。

 いやいやそんなつもりは一切ねーからとは彼の言だがつっかえながら言ったソレに説得力などあるわけもなく。いいから吐いちまえと二人の共同攻撃に耐えられず、やがて単純に仲良くしたいだけなのだと語った。

 

「日下部は亜人(デミ)だったろ? ちょっと余所余所しいのが気になってたからよー、だからこれからはかんけーねーって誘ってやろうかなと」

「ふぅん……」

「ま、ほどほどにね佐竹」

 

 何か事情があるかもしれないんだからねと注意だけ飛ばす。太田の言う通りだと俺もそれに頷く。まあ好きにやればいいとは思う。やりすぎればそりゃ駄目だけどな。

 

「ま、日下部さん泣かせてみろ、その時は俺と太田で……こうだぜ!」

「そうだね、佐竹より日下部さんの味方をする方が男だし」

「おいおい脅かすなって……」

 

 軽く腕を振りかぶって佐竹に殴りかかるモーションを取る。それに太田も加わり佐竹は一歩、二歩と後ずさる。なお俺らはノリノリで止める気がない模様。

 三、四、五、六……やがて曲がり角に到達し……

 

「やべっ、止まれ佐竹!」

「ん? おっ」

「あっ」

 

 気付いたものの警告は間に合わなかったようで、運悪く曲がり角の先から出てきた人物と軽くぶつかってしまう。

 謝ろうと思ったもののぶつかった瞬間、佐竹が凄い勢いでそちらへ振り向きその相手を見つめる。そのまま数秒が経つ。やがて沈黙に耐えきれなかったかのように相手が歩いていくと、その後ろ姿を見つめた佐竹がポツリと零す。

 

「なんかめっちゃエロい人に当たった気がしたんだが……気のせいか」

「何だその具体的な感覚!」

 

 おまえらコントしてる場合か。とは言え、その感想はとても正しいものだろう。上下ともにジャージを着用し、髪は後ろにしばってそのまま垂らしているその人はつい先ほど話題にしていた美人な数学教師の佐藤先生その人である。

 さて、感想は正しいと言ったけどその理由を教えよう。

 

「あぁ、佐藤先生はサキュバスの亜人(デミ)だからなあ、地味な格好してるのはそのためだって話だ」

「あぁなるほど」

「こ、これがサキュバスか……すげーな……」

 

 サキュバス。

 女性の夢魔を指し示すとされるソレは悪魔の一つでその性質からなのか美男美女が多く、そのくせ自分を着飾ってしまうと無意識に誘惑してしまうのだとか。着飾ってそれなのだから直接触れてしまったらどうなるか……と言うのは佐竹がたった今証明したばかりだ。

 それらの特性故に色々と問題もあるようなので佐藤先生を知ってからなんとも言えない気持ちになる。教師になるまでどれほど苦労したのかなど考えも及ばない。

 

「浮気か佐竹」

「いやいやいや、日下部とはなんもないって言ったよな!? ……いや佐藤先生めっちゃ美人だけどきっとドキドキしすぎて精神もたねーってあれは」

 

 ちょっと茶化すと割と生々しい答えが返ってきて二人そろって沈黙することとなった。

 そんな感想を貰ってもコメントに困るわ!!

 

 

 

 

 

 

 




更新頻度は最低週一を心がけたいところ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。