まあ何と言うか、俺が彼女に惚れたのは例の一件が決め手だと断言する。
元々件の女の子に関しては入学式の日に見て可愛いなーぐらいには思ってて、彼女は星のように光っていた。つまりその時にはもう好感度ゲージが伸び始めていたのでアレがあってもなくても好感度MAXの到達は遠い日ではなかった。
「せんせー……」
「人間の方の日下部、どうした」
「その呼び方は酷くないっすか」
「男なんだから我慢してやれ、それがもう一人への思いやりってもんだ」
「理不尽過ぎる」
ただ俺の好きな女の子はちょっと特殊と言うかなんと言うか、いやほんと文字通りと言うか。
「それよりせんせー、テツせんせー」
時は放課後、例の一件から数日後の夕方。一人になった高橋鉄男先生(目下最大の敵)を捕まえて連れ込んだところである。
苦渋の決断ではあるが俺はこの先生を頼ることにした。遠い道のりの中で一番の壁になるのは確信を持って言えるが、それでもこの先生の知識は俺にとって学校の先生など遥かに及ばぬ、どころかあの諭吉先生をもってしても入手できない至高のお宝なのだ。
おうどうした、といつも通りのぼけっとした表情を向ける先生に俺はいよいよもって心中を打ち明けるのである。
「いやその、なんというか……」
「おう……」
いや待ってこれ恥ずかしい、誰かに恋愛相談とかクソみたいに恥ずかしい、堅苦しく用意しても駄目だこれは。
「…………」
「…………」
そして流れる沈黙の時間、野郎二人が放課後にこれとは死にたくなってくる……
ええい、覚悟を決めろ俺! 今ここで言えなかったら将来も言えないだろ!!
「…………~~!! はぁ……」
「で、なんだ
「何故フルネームなのかはおいときますけども、俺、恋しちゃいましたわ、どうしましょう」
「お、おう」
「いやそんな鳩が拳銃突きつけられたような顔されましても」
「まあそんな相談を生徒から受けるとは思わなくてな、オレおっさんだし、先生だし」
お前友達いるよな? と確かめるような表情の先生にやるせない気持ちになる。
確かに普通は先生とかじゃなくて男友達とか女友達とかそっちに相談する。例えからかいの材料となったとしても。俺の友達はそんなことしないと思うが、いやしないと信じさせてくれ。
「オレに相談したということはあれか」
「えっ」
「いや、三人の誰なんだと思ってな」
「……小鳥遊 ひかりさんです」
「そっかーひかりかー……いやすまん、そんな顔しないでくれ」
うんすまない、先生という立場で女生徒を名前で呼んでるなんてけしからんと思うんだ。ああいいなあ……羨ましいなぁって……ちくしょーめ。
それはさておき、
だから恋愛相談を持ちかけられればどういうことかわかるのだろう。
「どうすりゃあいっすかねー……」
「どうするも何もな、特に何も気にしなくていいだろう」
「でも俺は小鳥遊さんのこと知らないんですよ、いや知ってはいますけど、それでも大切な部分は知らないわけです、そう言うことで嫌われたくないんですよね」
「なるほど」
そう、小鳥遊 ひかりは可愛い。性格は明るく常に周囲と騒いだりして喜怒哀楽の哀の部分を他に変換してるんじゃないかってレベル。それなのに妙なところで気が利くというか他人の心に敏感なのだ。距離感を掴むのが上手いというか。しかしそれを全然感じさせない、気付いてるのは本人と俺と、数人くらいじゃないだろうか。あと先生たち。
ちなみにチャームポイントはちらりと見える控えめな八重歯だと思います。
ただしこれだけならほんとに友達内で済むのだ。別にテツ先生に相談を持ち掛ける必要性は0。ただそう、本当に次の要因が大事なのだ。
「教えてください先生、
小鳥遊 ひかりは
あとこれは本当に恥ずかしい事なんだけど、デュラハンの
「教えるのは吝かではない」
「おぉ……流石先生です」
「が、やはり同じ男としてはどうしてそうなったのか気になっちゃうな」
「一瞬前の尊敬を返せ中年親父」
「その呼び方は酷くないか日下部」
この先生はやっぱダメ教師だ。今そう思った。
でもそれを伝えることで代わりに
「うーんとりあえず入学式からでいいですか?」
「そこからか……」
「いやほんと大事ですから」
「生徒の惚気を聞くことを了承した覚えはないんだが」
ちゃうねん先生、やっぱ初対面の思い出って大事だと思うんですよ。と言うか入学式の日に会わなければ、話さなければ今こうしていることもなかったと思うんです。
「
「はい」
「頑張って思いを伝えなきゃいけないな?」
「……」
「……そう、ですね」
それは簡単そうに見えてとても難しいことだった。好きな人に好きと伝えるのは難しい。それは人間も
それでも俺は、日下部 春明は伝えたい。
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