書きたいところまで書こうと思ってたら、めちゃくちゃ長くなってたので一旦投稿いたします。
結構原作との差異が現れてくるので注意です。
それではどうぞ
緑谷は固く瞑った目を恐る恐る開く。
目の前に広がったのは水面と大きな船だった。USJの水難エリアである。
ワープで湖の上に飛ばされたようだ。
「水難んんんんんん!?」
既に自由落下を始めている自身の体はどんどん水面に近づいている。
着水しても大丈夫なように体勢を整えようとすると頭上から声が。
「船までぶん投げるから歯ァ食いしばれ!」
「逆廻君!?」
(そうだ!逆廻君に襟を掴まれたまま飛ばされたんだった!って、)
「「うわああああ!!!」」
緑谷が現状を把握している間に、逆廻は宣言どおりに遠慮なく緑谷と、もう片方の腕で掴んでいた峰田を放り投げる。
「「あで!!!」」
転がるように船の上に乗っかる2人は互いを見合わせて、お前もか・・・、と同情しあう。
「っていうか逆廻君!?」
「あ、そうだ逆廻!!!」
2人を船まで投げた張本人は、流石のオレでも空は飛べないからなーヤハハ!と笑いながら着水し、沈んでいってしまう。
が、間もなく水面から勢いよく飛びててきて船の上に着地した。
「な、なるほど。底まで行って跳んできたのか・・・。」
「ほぼ飛んでんじゃねーか・・・。」
「ヤハハ!」
緊張感もなく2人が逆廻の規格外の力に驚きを通り越して呆れていると、そこに蛙吹が長い舌をつかって合流する。
「蛙吹さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで。それより、大変なことになったわね。」
蛙吹は水面を見下ろす。
それにつられる峰田。
水面からは、たくさんの敵が顔を出していた。
「たたた大漁だああああああ!」
峰田がパニックを起こす。
緑谷はワープでここに飛ばされる前に、あの黒い影が言っていたことを思い返していた。
『何か変更があったのでしょうか。』
「・・・向こうにここのカリキュラムが割れてた。単純に考えれば先日のマスコミ乱入は情報を得るために奴らが仕組んだってことだ。轟君の言ってた通り、虎視眈々と準備を進めていたんだ・・・!」
緑谷のブツブツに峰田がパニックから抜け出せないまま反応する。
「でもよでもよ・・・!オールマイトを殺すなんてできっこねーぜ!?オールマイトが来たらあんな奴らケチョンケチョンに・・・」
「読みが甘いぜ峰田。あいつらにはオールマイトを殺せる算段が整っている。だからこんなはたから見たら無茶苦茶なことをしてる。違うか?」
峰田の発言を遮ったのは逆廻だった。
その顔にはいつもの笑みはなく、無表情で水面に浮く敵を見つめている。
「そうよ峰田ちゃん。そこまでできる連中に、私たち殺されそうになってるのよ。オールマイトが来るまで連中相手に持ちこたえることができるのかしら。オールマイトが来たとして・・・、無事に済むのかしら。」
逆廻の言葉に続いた蛙吹の大きな瞳は静かで、峰田は恐ろしくなり緑谷に縋りつく。
「みみみ緑谷あああ!なんだよこいつらあああ!!」
腕に峰田をぶらさげたまま、緑谷はブツブツと考えを巡らせ続ける。
「奴らにはオールマイトを殺す算段がある。・・・多分その通りだ・・・。それ以外考えられない・・・。でもなんで・・・?平和の象徴だから・・・?悪への抑止力だから・・・?」
「理由なんて関係あるのか?」
逆廻が何ともないように、水面を見つめたまま静かに呟いた。
「え・・・?」
その言葉に考えが停止する。
自然と思い浮かんだのは、オールマイトだった。
『君はヒーローになれる!』
『合格おめでとう!』
『来いよ!緑谷少年!』
『もう大丈夫!私が来た!』
「・・・っ!!!」
オールマイトに憧れる日々を、初めてあった日のことを、ともに特訓をした日々を、思い出した。
あの、オールマイトが、殺されそうになっている。
そのたった一つの事実に、平和の象徴とか、抑止力とか、敵の思惑など、少しも関係はない。
「そうだ、今、理由なんて関係ない。」
「緑谷?」
峰田が緑谷を見上げる。
「奴らに、オールマイトを倒す術があるとするなら、どうする?緑谷。」
逆廻が試すように笑う。
「今僕らがすべきことは、・・・戦って、それを阻止すること!」
緑谷の翡翠色の瞳に、強くかたい意志が宿る。
あまりに無茶で無謀で、愚かな、自己犠牲的な考え方。
そんな緑谷を、逆廻は呆れたように、しかし眩しそうに眺めた。
「何が戦うだよバカかよヤツらはオールマイトぶっ倒せるかもしれねぇんだろ!?矛盾だぜ緑谷!ここは大人しく雄英ヒーローたちが来るのを待つのが得策に決まってるだろ!!!」
「そうだぞ緑谷、いくらここがヒーロー科とはいえオレたちはまだ生徒なんだから。」
「ほらー!」
半泣きで峰田が緑谷に反論して、それに逆廻が同調する。
「峰田君。下の連中・・・、明らかに水中戦を想定してるよね?」
「無視かよ!!!」
緑谷の言う通り、確かに奴らは水中をなんの不自由もなく動いている。
「この演習場の設計を把握した上で人員を集めたってこと?」
蛙吹が緑谷の言いたいことに気がつく。
「そう!そこまで情報を仕入れておいて、周到に準備をしてくる連中にしちゃおかしな点がある。この水難エリアに蛙吹さんが移動させられてるって点!」
「だからなんだよー!?」
「だからつまり!生徒らの個性はわかってないんじゃない?」
峰田はハッとする。
逆廻は緑谷の話を黙って聞いている。
「確かに、蛙の私を知っていたら火災エリアに放り込むはずだわ。」
「僕らの個性がわからないからこそきっと、バラバラにして数で攻め落とすって作戦にしたんだよ。」
一呼吸おく。
緑谷は3人の顔を見渡した。
「数も経験も劣る!勝利の鍵は一つ!生徒の個性が相手にとって未知であること!敵は船に上がろうとしてこない。これが仮説を裏付けてる。」
「た、確かに・・・。」
「考えたらわかるだろ峰田ちょっとは自分で考えろ!」
「つーか逆廻はさっきからどっち側にいるんだよ!?」
立場をコロコロ変える逆廻に峰田がさすがにキレた。
「私は跳躍と、壁に張りつけるのと、舌を伸ばせるわ。最長で20m程。後は胃袋を外に出して洗ったり、多少ピリっとする程度だけど毒性の粘液を分泌できる。後半2つはあまり役に立たないかも。」
敵を倒す作戦をたてるために、まず互いの個性を把握することにした緑谷たち。
蛙吹の個性を聞いた緑谷は、下唇に親指をあてがい考えるような仕草をみせる。
「薄々思ってたけど・・・、強いね。」
緑谷は未だコントロールできない自分に歯がゆさを感じながら、自身の個性の説明をする。
「僕は・・・、超パワーだけど、使った先からバッキバキになる、諸刃の剣的なアレです。」
緑谷が個性発動時に怪我をするのを見たことがある3人は、特に疑問に思うことなく説明を受け入れる。
そして峰田の番が来た。
「超くっつく。」
峰田は頭から生えている球体を一つもぎると、それを船の壁にくっつけた。
「体調によっては1日中くっついたまま。もぎったそばから生えてくるけどモギりすぎると血が出る。オイラ自身にはくっつかずにぷにぷに跳ねる。」
球体をバシバシ叩く峰田。叩かれた紫色の球体はぷるんぷるんと震える。
沈黙。
「だから言ってんだろ大人しく助けを待とうって!オイラの個性は戦闘にはバリバリ不向きなあああああああ!!!」
「ち、違うってば!すごい個性だから活用法を考えて・・・!」
こうなることはわかってましたと言いたげに騒ぎ出す峰田を緑谷が必死になだめる。
しかしそれでも落ち着かない峰田は、まだ個性について説明をしていない逆廻を指さすとまた喚く。
「っていうか、個性の説明なんかしなくたって逆廻が規格外に強いっていうのはもうわかってんだろ逆廻なんとかしてくれよおおお!!!」
確かに逆廻の規格外の力や観察眼は、体力テストや先日の授業を見ていた誰もが認めざるを得ないものだ。
「ヤハハ!」
逆廻はこの状況でもいつも通り笑ってみせる。
笑ってる場合じゃねぇんだよ、と峰田が逆廻の体を揺する。
THOOOOOM!!!
すると、轟音とともに凄まじい揺れと水飛沫が起こり、船が傾きはじめた。
どうやらなんのアクションも起こさないことに痺れを切らした敵が仕掛けてきたらしい。
「なんて力・・・!船が割れたわ。」
「うわああ!!!」
峰田はさらにパニック状態がひどくなり、頭から例のモギモギを敵に向かってモギっては投げ、モギっては投げを繰り返した。
ポチャ ポチャ パシャ パシャ。
モギモギは敵に当たることなく水面に落下し、ぷかぷかと浮かんだ。
「うわああああ!!!!!!」
「ヤケはだめだ!相手に個性が・・・!!!」
両目からおびただしい量の涙を流しながら緑谷に縋る。
緑谷はあっさりと個性を使ってしまった峰田を止めて敵の様子を覗き込んだ。
(いや・・・、警戒して触らない!?)
敵はぷかぷかと浮かぶモギモギに触れることを恐れ、すこし後退していた。
「峰田ちゃん、本当にヒーロー志望で雄英来たの?」
峰田の様子に蛙吹がズバッと鋭い物言いをする。
「うっせー!怖くない方がおかしいだろ!!!ついこの間まで中学生だったんだぞ!入学してすぐに殺されそうになるなんて誰が思うんだよ!!!ああせめて八百万のヤオヨロッパイに触れてから・・・!!!」
開き直った峰田は自分の願望をダダ漏れさせながらキレる。
そう、いくらここが最高峰の雄英だとしても彼らはまだ高校生になったばかりの子どもだ。峰田の主張は最もだ。
「峰田、気持ちはわかるが落ち着け。」
逆廻が峰田をなだめる。逆廻が峰田の言葉のどこに共感したのか気になる所だが、今はそんなこと言ってる場合ではない。
「確かにオレがやろうと思えばこの騒ぎをすぐ終わらせることができる。だけど、これはちょっぴり弱虫なお前から、一歩ヒーローに近づくチャンスだとは思わないか?」
笑みは絶やさないが、いつもより真剣な様子の逆廻に、峰田の涙はぴたりと止まる。
「何か策があるんだろ?緑谷。」
確信をもった逆廻が笑いかける。
「・・・うん。敵は今勝利を確信してる。そのときが大きなチャンスだって、オールマイトも言ってた。勝つには、これしかない。」
緑谷は思いついた作戦を語り始めた。
「おいおい・・・。さっきから誰に向かって攻撃してんのかわかってんのか?」
ずっと引っ込んでいた4人がついに動きをみせた。
ゆらりと姿を見せた逆廻は、敵に喧嘩を売るように、挑戦的な態度をとる。
「てめぇら全員・・・、ぶっ飛べおらあああああ!」
そして船を飛び出した。
敵は個性のわからない逆廻を警戒する。
その様子を見て笑みを深めた逆廻は、円型に陣をとっている敵の中心部上空までいくと、腕を構えた。
よく見るとデコピンするときのような手の形をしている。
その様子を見た蛙吹は、緑谷と峰田を掴み直し、いつ飛び出てもいいように態勢を整えた。
そして逆廻が中指をピンと弾く。
たったそれだけの動きで何が出来るのかと嘲笑う敵。
しかし、デコピンをしたのはあの逆廻十六夜である。ただのデコピンの威力であるはずがない。
水は湖底を見せるほど抉られた。
「なんだこの威力は・・・!?」
想像以上の威力に、敵はなす術もなく激流に流される。
「今だ!」
緑谷の合図で、蛙吹が2人を抱えて跳躍した。
蛙吹は舌を伸ばして逆廻に巻き付け、引き寄せる。
「うわああ!!!オイラだってぇええ!!!」
峰田は蛙吹に抱えられたまま、頭のモギモギを大量に敵に投げつけた。
震えながらも敵の弱点を見抜き、作戦をたてた緑谷。
1人敵軍に飛び出した逆廻。
ほか3人の脱出を任され、冷静沈着にそれを実行する蛙吹。
そんな3人を見て、ただ怯えていられるほど峰田は臆病ではなかった。
「うわ・・・!引きずり込まれる・・・!!!」
一度激流に流された敵が、峰田のモギモギとともに、元いたところに戻ってくる。
水面に強い衝撃を与えたら、広がって、また中心に収束する。
「「「うわああああ!!!」」」
収束する勢いで、中心で高く打ち上がる水。
上手くそれに巻き込まれた敵たちは、峰田の大量のモギモギで互いにくっついて離れることができない。
作戦は成功した。
「一網打尽ね。とりあえず第一関門突破。すごいわみんな。」
作戦がうまくいって安堵の表情を見せる緑谷。
頭から血を流しながらもやりきった顔をする峰田。
作戦通り、全員を抱えて跳躍し、脱出してみせた蛙吹。
この経験は、確実にこの3人を強くさせるだろう。
逆廻はひとまとまりになって呻く敵をながめながら、そう思った。
「今朝快便だったし、奴ら今日一日はくっついたままだぜ。てか逆廻、お前妙に様になってたぜ!」
安全地帯に入ったところで、遠くから敵を眺めて峰田が呟いた。
「あれで全員だったのは運が良かった・・・。すごい博打をしてしまっていた・・・。普通なら念の為何人かは水中に伏せとくべきだもの。冷静に努めようとしていたけれど冷静じゃなかった。危ないぞもっと慎重に・・・。」
「緑谷ちゃんやめて。こわい。次どうするかじゃないかしら。」
作戦が成功した途端ブツブツと反省し始める緑谷。もはや芸だと逆廻は思った。
「そうだぞ緑谷。結果的には全員仲良くくっついたんだから。」
ヤハハといつも通りすぎる逆廻を見て、緑谷は自身の手を見て俯いた。
緑谷の当初の作戦では、逆廻がやった役を緑谷がやる予定だった。
逆廻が緑谷に変わると申し出たのだ。
『これはあくまでも第一関門に過ぎない。このあと何が起こるかわからねぇし、極力怪我はしないようにするのが定石ってもんだ。』
(いつまでも諸刃の剣じゃダメだ。)
力を使いこなせるようにならなければ。
緑谷はぐっと手を握りしめた。
「そうだね・・・。とりあえず助けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って広場を避けて出口に向かうのが最善。」
そこからは、相澤が戦っている広場が見えた。
「そうね。広間は相澤先生が敵を大勢ひきつけてくれてる。」
こっそりと湖から少しだけ頭を出して様子を伺う4人。
「逆廻君が数を減らしたからと言っても、あの人数を相手に1人で戦えるなんて・・・。さすがプロだ。」
相澤はもうほとんどの敵を制圧している。
その様子を見て安心する3人。
だが逆廻だけは、いつもより険しい表情で相澤をみつめていた。
「いや、あいつらのほとんどが生徒でもどうにかできるレベルのチンピラだが・・・、1人だけ相澤教諭でもヤバいやつがいる。」
相澤がついにリーダー格の男と対戦し始める。
「ま、まさかアイツが・・・!?」
峰田が顔を青ざめて逆廻に問う。
確かに、リーダー格の死柄木と呼ばれた男は他の奴らとは身のこなしが違う。相澤も手こずっているように見える。
相澤が捕縛用の布で死柄木を引き寄せて肘鉄を食らわせる。
しかしすんでのところで手で受け止められていた。
そこで異変に気づく。
死柄木の手のひらに触れている相澤の肘が、ボロボロと崩れ始めたのだ。
相澤はすぐに逆の腕で死柄木の顔面に拳を叩きつけると、すぐさま距離をとる。
死柄木は倒れ込んだ。
「いけぇ!やっちまえ先生!」
峰田が小声で応援する。
「いや、死柄木と呼ばれた男も他とはレベルが違うが、1番ヤバいやつはアイツじゃない。」
逆廻の言葉に3人が神妙な面持ちになる。
ふと、死柄木の楽しそうな声が聞こえた。
「対 平和の象徴。改人 脳無。」
脳剥き出しの黒い怪物が相澤に襲いかかった。
誤字脱字等ございましたら報告お願いいたします。
感想心待ちにしてます。
原作での十六夜を知っている人なら分かるかもしれませんが、この作品の十六夜は少しネガティブです。
私が勝手に想像した、普通の世界にいたときの十六夜を意識して書いています。個性があるので普通ではないんですけど。
なにがご意見ございましたらお気軽にコメントよろしくお願いします。