目覚めたらベホマ使いに   作:ベホマラー

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大分期間を開けてしまいすみません


10話〜ドラム缶と主婦と大根おろし〜

「ぷはあっ!」

 

やはり朝イチの水は美味いな。

俺はいつものようにドラム缶ほどの容器に入った水をがぶ飲みしていた。

 

……

 

いや、全然いつもと量が違うんだけど!

自分でも驚いているがドラム缶ってなんだよ!

 

 

…………ドラム缶のことは知らないが、分かっていることといえばそれくらい飲まないと腹の虫が収まらなくなることぐらいだ。

 

「うんめえな! ん? デンデは食わねえんか?」

 

それと、隣にいる大食いよりは幾らか省エネなことである。

 

「って、その食費はどこから出るんだよ!」

 

「デンデが出してくれるんでねえんか?」

 

待て待て待て待て。

俺が稼いだ分より多く食ってるだろ。

山積みになった皿は一体何束あるんだ?

 

「おっちゃん、おかわりくれ!」

 

更に注文を追加しようとする悟空に俺はもう怒り心頭に発していた。

 

「悟空。それ以上食べるんだったら、今後俺に決闘を挑まないでもらいたい」

 

「むぐ?」

 

悟空は俺の言葉に口の中を食べ物で一杯にしながら疑問符を浮かべる。そして料理と俺を見比べてから飲み込んだ。

 

「……分かった。なら、今から修業すっぞ!」

 

「え……? あ……」

 

俺は食費を浮かすか、自身の体を雑巾に仕立て上げるのかの選択肢だったことに今更気づいたのだった。

 

ナメック星お住いのミドリさんからのお便りです。

『隣人に落ち着きがなくて困っています。どうしたらよいでしょうか?』

 

……気が済むまで構ってあげましょう。

 

「嘘だろ……?」

 

そんなことを考えている間に悟空は道着の帯を締め直していた。それから俺が外へ出るのを確認すると、悟空は腰を低くして構えをとった。

 

「じゃあ、行くぞ!」

 

「ちょっ、まっ!」

 

構わず悟空は俺目掛けて地を蹴って急接近してくる。そこから加速して放たれる拳を俺はかろうじて受け止めるも、悟空は攻撃方法をラッシュに移行して俺の手を痺れさせる。

そして残像を目の前に残していなくなった。

 

「消えた……?」

 

いや、こういう場合は必ず後ろに回り込んでくるはずだ。

 

「後ろっ!」

 

そこへ拳を放つも、悟空は半歩ずれた位置から攻撃をしかけてきた。その強烈な一撃に地面を擦りながら吹っ飛び、最後にはお決まりであるそこら辺にあった岩を砕く。

 

「ぐはっ!」

 

ガラガラ、と音を立てながら瓦礫の中から這い出すと悟空が目の前にいた。こちら側へ加速しながら。

 

「てりゃあ!」

「うおあぁ!」

 

俺は頭を下げて躱しながら悟空の腕を掴んで進行方向に向けて投げる。俺を軸にして回転がかかり、地面に悟空は叩きつけられる。

かと思いきや、またしても姿を消してしまう。

 

俺はすぐに後ろへ攻撃を加えるが、またしても外した。そして悟空の拳が頬を掠めた。

 

「痛! ……って、あれ?」

 

悟空の攻撃はさほど痛くなかった。そしてその人物は振り向いて言う。

 

「なあ……気を読んで戦ってねえだろ」

 

「あ」

 

悟空によって気付かされる。

そうだ、この世界には生体エネルギーを感じ取る術があった。今まで勘に頼って生きてきたからそういった感覚に慣れていない。これは反省だな。

 

「確か、ネイルさんに教わった……」

 

おお、こうだった。細かく気を読む方法。今は第六感ともいえる部分で、ぼんやりと悟空の位置が把握できる。

 

「よし」

 

「準備できたか」

 

じゃあ行くぞ、と言って瞬間的に俺の背後に回る。

俺は気でその位置を探り出し、拳を突き出した。

俺と悟空の拳が強く激突する。すると僅かながらに衝撃波が発生するのが分かった。油断するとそれだけでも吹き飛ばされそうだ。

 

「いい感じじゃねえか。ならもう少し本気を出すとすっか!」

 

「え……うわあっ!」

 

攻撃は容赦なく俺目掛けて飛んでくる。

 

 

そしてこの後俺の体力の限界が来るまで付き合わされました。

 

 

 

「お前、なんで仕事が始まる前から疲れてんだ……」

 

「いやね、同居人が戦闘狂なもんで困ってるんですよ……」

 

ニワネ先輩が主に今朝が原因で疲労の溜まった俺を見て苦笑を浮かべる。

もちろん傷などはベホマで全て回復してあるが、失った体力はすぐには戻ってこない。

 

「まあ、そこら辺はオレには関係ないが、仕事に影響は出さないでくれよ。ちゃんとお前が働いてこの仕事全体が回るように組んだんだからな」

 

「……心掛けます」

 

気合いが足りないな、と呟かれながらも本日の仕事を確認しに行く。

今日は合計で20件の配達、内四つは量が多いため何度か往復しなければならないだろう。

 

「荷物を受け渡すときに必ずサインをもらうように」

 

「はい。あ、留守だったらどうしたらいいですか?」

 

「在宅の時間を確認する」

 

「いや、それが分かれば苦労しないんですけど……」

 

「ん? 聞けば済む話じゃないか……?」

 

え、一体どうやって?

 

「あ……」

 

そう言えば長距離会話なんていう技があったな。最初は英会話のようなノリなのかと思って見逃してしまっていたが、よくよく考えてみるとかなり便利ではないだろうか。

 

例えば、朝は晴れていたのに昼頃になると段々と雲行きが怪しくなってきたときに、洗濯物を干したままだった場合。これを使えば家にいる誰かに取り込んでもらうことが可能だ。

 

 

 

「って、主婦かよ!」

 

生前の一人暮らしの影響か、どうも思考がそちらへ向かってしまった。

しかも一人暮らしということは家には他にだれもいないわけで……うん、中々に虚しい。

 

「シュフ?」

 

「ああ、いや、何でもないです」

 

とにかく、この仕事をスムーズに達成するには早くヤードラット星の技を習得しなければならないようだった。

 

「せめて家にいるかいないかだけでも把握できればな……」

 

俺はそう呟いて2本の指を額に当てる。

 

これを教えてくれたラトさんが言うには、この動作によって一点に集中して気を感じ取ることができるらしい。

 

まてよ。今何か掴めそうな感じが……

 

うーん……

 

……

 

「…………っだぁ! はあ……はあ……」

 

無意識のうちに息を止めていたのか、息苦しくなって気を探るのをやめてしまった。

しかし取り敢えず一箇所は在宅ということが分かった。出かけない内に運んでしまおう。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

そして残りの配達もそつなくこなし、こうして今日の業務は終了した。

 

「ようし、今日はもう帰っていいぞ」

 

「ありがとうございます。……あの、つかぬ事をお伺いしますが、どうしたら給料を上げてもらえますか?」

 

「ん? それは配達先の考慮ができたり、単純に仕事の量を増やしたりだな。どうしてだ?」

 

「いえ、同居人と金銭的なトラブルが」

 

「そうか……まあ、オレには関係ないな」

 

「パイセンはもう少し俺に優しくても良いと思います」

 

「パイセンはやめろっていったろ」

 

それから帰路につくが、俺の心は晴れやかでない。

これから修業が待っているのだ。俺のライフはもうゼロだというのに……

 

「もう少し華やかな人生が良かったなあ……」

 

そんなことを呟きながらラトさん宅へ歩く足を向ける。

だってそうだろう? せっかく異世界に来たのに何故一日のスケジュールが修業、労働、修業なんだよ。

そんなサンドイッチ、食べたって美味しくありません!

 

「何か辛いことでもあったんじゃな」

 

「ええ、主に今から始まることが……」

 

「ほう。なんなら止めてもよいがの」

 

「いえ、失礼しました。ぜひ師事させていただきたいです!」

 

ここぞとばかりに営業的に切り替えをする俺。いい加減精神が摩耗して無くなりそうだ。どうでもいいけど大根おろしって最後までおろしにくいよね。

 

「そうか。ならばコースを決めるが良い」

 

「あー、じゃあ初級コースでお願いします」

 

最短2ヶ月の長距離会話法。これを覚えておくことにした。

 

「さっそく始めるか」

 

「はい!」

 

 

 

==========

 

 

 

「クリリンさん!」

 

僕はポルンガにお願いして地球人の方々を生き返らせていた。

たった今生き返らせたクリリンさんの側に悟飯さんが駆けつける。もう一人、長髪の男性も皆さんに暖かく迎えられているようだ。

 

うんうん。中々いい仕事が出来てるみたいだ。

仕事してるのはポルンガだけど……

 

「カルゴくん!」

 

名前を呼ばれたので何かと思ったら悟飯さんが僕に声をかけてきていた。

 

「何かありましたか……?」

 

「いや、今日うちに来ないかなって」

 

「あっ、ぜひ行きます!」

 

そして悟飯さんに連れられて山奥まで飛んでいく。

降りたったそこには何ともカラフルな二人組が畑仕事に勤しんでいるのだった。

 

「よお坊っちゃん。お帰りかい?」

「台所におやつがあるから手を洗ってから食えだとよ」

 

ギニュー特戦隊とかいうメンバーの、ジースさんとバータさんだ。彼らは悟飯さんと不思議な縁があるようで、悟飯さん宅に住み込みで畑仕事をしている。

僕もたまにこうして遊びに来たり、手伝ったりしている。

 

悟飯さんの母、チチさんに最初の頃は「また悟飯ちゃんが変な友達を連れ込んだ」と嫌悪感のある目で見られていたが、最近では赤も青も緑も似たようなもんだという結論に至ったようで、僕に対する目線の鋭さは幾らか緩和されている。

 

「おお、カルゴか! おめえさんの分もすぐ用意してやるから待っててけろ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

こういう風に悟飯さんの友達として受け入れてもらっている。

 

「良かったね。あ、おじさん達も休憩にしようよ!」

 

その呼びかけで皆が机に集まる。

こうやって食卓を囲んで談話するという経験は中々出来なかったから、少しだけ食の文化というものが羨ましくなってしまった。

僕はこの楽しげな一時を心行くまで堪能する。

 

 

しかし、そんな平和な日々も長くは続かないのだった。

 

数ヶ月が経って、ポルンガに願いを叶えてもらい、新しい星へ移住する日になった。

悟飯さん達ともこれでお別れだ。

 

「タッカラプト ポッポルンガ プピリット パロ!」

 

僕は目の前に並べられたドラゴンボールを確認して両手を上にして叫ぶ。

 

「じゃあ、天津飯と餃子を頼む」

 

まず亡くなっていた地球人の方々を生き返らせた。

 

ポルンガは僕の言った願いを不足なく叶えてくれる。前回と同じように皆が生き返った人達を笑顔で迎えるのだった。

 

そして最後の願いを言う時が来た。

 

「カルゴくん!」

 

「悟飯さん……今までありがとうございました」

 

地球の皆さんとの別れを告げる僕達。

この場の雰囲気も何処か悲しげな、それでいて相手の幸を願うような感じになっていた。

そんな時だった。

 

「なんだ……この大きな気は?」

 

悪夢が訪れたのは。




思うに悪夢とはサイヤ人の王子の息子なのではないかと。

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