この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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着々と増えてゆく


第四十一話

 

 

出発の前日。

 

紅魔の里へ行く準備を朝早くに終えた俺達は、昼食前に中庭でとある実験をしている。

 

 

「さぁこいカズマ! お前の本気を見せてみろ!」

 

 

数メートル先に仁王立ちしているダクネスが、心の準備は出来たとの旨を伝えてきた。

 

 

「どうなっても知らねーぞ! まだ調節出来ねぇからな!」

 

「望むところだ!」

 

 

本来ならばめぐみんやヒデオのように何も無いところに撃ちに行くのが正しいんだろうけど、遠出するめんどくささとドMの懇願により中庭で行うこととなった。ちなみにアクアはまだ惰眠を貪っている。

 

 

「撃ちな! どっちが強いか試してみようぜ、というやつだぜ…」

 

「お前の方が強いに決まってんだろ。年季の差を考えろ」

 

 

ヒデオがちょむすけを頭に装備しながら厳つい顔で言ってくる。なんていうか『凄み』がある顔をしている。

 

そう。お察しの通り、俺はついに『気功術』を覚えた。ヒデオの言う通りかなりポイント食うし、俺がヒデオのようになるにはかなり修行しなくちゃならないしで少し前まで覚える気は無かったのだが、昨日行ったウィズの店で風呂上がりのバニルから一言予言を貰ったのだ。

 

『して、スティールが必殺技だと豪語している小僧。我が予言してやろう。尻尾付き小僧と同じスキルを覚えるが吉』

 

普段の言動のせいでかなり怪しかったが、特に覚えたいスキルも無かったし、この間のハンス戦の件である考えが浮かんでいたしいい機会だと思って習得することにした。

スキルポイントに余裕を持たせたかったので取り敢えずかめはめ波まで覚えた。

 

 

「じゃあ行くぞダクネス! はぁっ!」

 

「来い!」

 

 

ダクネスに合図をし、気を解放してガキの頃に何度もした構えを取る。ドラゴンボール好きな奴なら誰だってしたことがある構えだ。

 

 

「か…め…は…め…!」

 

 

手のひらに『気』が溜まっていくのがわかる。これが気か…! ワクワク感に思わず笑みがこぼれる。仕方ないじゃないか。憧れの技を実際に使えるなんて思わなかったんだから。

 

綻ぶ顔をなんとか抑え、溜まった気を押し出すように両腕を前に突き出す。

 

 

「波ーー!!」

 

 

ボッ! と音を立て、ダクネスに向かって真っ直ぐ飛んでいく光。太さも速さもヒデオには及ばないが、それでもこれはかめはめ波だ。

 

やがてダクネスに直撃したかめはめ波は、ダクネスをよろめかせるくらいの威力はあった。

 

 

「ふっ! くぅぅ…! 威力はヒデオと比べるとアレだが、焦らされてる感じがしてそれがまた…!」

 

「ヒデオのと比べるとハナクソみたいな迫力でしたね」

 

「俺のと比べるのもおこがましいくらいハナクソだったな」

 

「ハナクソハナクソ言い過ぎだろ!」

 

 

ヒデオはともかく女の子がそんな言葉使っちゃいけません!

 

……いや既に色々手遅れだったわ。

 

 

「おいハナク…カズマ。気功術覚えたのは何もかめはめ波撃ったり空飛んだりするためだけじゃねぇんだろ?」

 

「ぶん殴るぞお前。……お前の言うとおり、舞空術とか使えたら便利だとは思ってたが、覚えた理由はそれだけじゃない。この間ハンス戦で気をめぐみんに渡して爆裂魔法を強化したろ?それを俺の多彩なスキルに応用できないかと思ってな」

 

 

超エクスプロージョンを見た限りでは、ただ魔力を多く注ぎ込むのとは訳が違うように思えた。技そのものが強化され進化していたからな。

例えば俺の代名詞でもあるスティールを強化するとどうなる?

 

 

「ダクネス、そのまま立っといてくれ!」

 

「…? よく分からないが了解した」

 

 

頭に疑問符を浮かべながらも素直に従うダクネス。本当ならこんな事を仲間に対してやりたくないんだが、実験の為なので仕方ない。

先程と同じように気を溜めるが、今度は右手にのみ集中させ、魔力も同じように集中させる。そして気と魔力を溜めた右腕をダクネスの方に突き出す。

 

 

「行くぜ! えーと……『超スティール(仮)』!」

 

「……? 特に何も起きないのだが」

 

 

言いながら体を確かめるようにあちこちさわるダクネス。本人の言う通り特に異常は無さそうだ。

 

 

「あれ、おかしいな……。気も魔力もしっかり減ったのに何も盗れてないぞ……おいヒデオ! どうしてくれんだ! スキルポイントの無駄遣いじゃねぇか!」

 

「知るか」

 

 

ちっ、役に立たねぇな。

しかし、本当に不思議だ。めぐみんの時は普通に爆裂魔法を超えた爆裂魔法が撃てたのに、なんで俺の時はダメなんだ? もしかして、前にサキュバスのお姉さんの店で幸運の女神であるエリス様の夢を見せてもらったせいか? スティールは幸運値が影響するからな…。

 

 

「うーん…。パンツだけじゃなくブラジャーも盗れると思ってたんだが…。期待はずれだなぁ」

 

「まぁそういう事もあるだろう。さ、もう一度カメハメハを撃ってくれないか? 今度はヒデオも……!?」

 

 

ダクネスが急に話すのを止めた。不思議に思ってダクネスの方に視線を向けると、何故か頬を紅潮させていた。

 

 

「どうしたんだダクネス。急に黙りこくって。トイレにでも行きたくなったか?」

 

 

ヒデオが全くデリカシーの無い発言でダクネスを問い詰める。

 

 

「……ない」

 

「なんて?」

 

「ぱ、ぱ、ぱんつが……ない!」

 

「何ぃ!?」

 

 

あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!『ダクネスのパンツを盗れなかったと思っていたらダクネスがノーパンになっていた』……何を言ってるのかわからねぇと思うが、俺も何が起きたのかわからなかった……。スティールとか追い剥ぎとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わっているぜ……。

 

 

「おいカズマ。大人しく白状しろよ」

 

「ち、ちげぇし!スティールは不発だったろうが!」

 

「容疑者はカズマしか居ないのですが……」

 

「無実だ! ほら、手に何も持ってないし、ポケットにだって……!!」

 

 

無実を表明するべくズボンのポケットをひっくり返そうと手を突っ込んだ。

しかし俺の気持ちとは裏腹に、そこには先程までは無かったはずの『なにか』があった。

 

 

「……ある」

 

「なんて?」

 

「『得体の知れないなにか』があるッ! 俺の右ポケットにそれはあるッ!」

 

「何ィィーー!?」

 

 

ヒデオの驚嘆を皮切りに、その場に静寂が訪れる。皆の視線は自然と手を突っ込んでいる右ポケットに集まった。

 

「か、カズマ。その『なにか』は、いったいなんなんだ……?」

 

 

ヒデオがおそるおそる聞いてきた。頬がヒクヒクしてる気がするがまぁ気のせいだろう。

 

 

「わからない。ただなにか、こう……肌触りの良い布の様な感触だ」

 

 

触り心地はサラサラとしていて、肌にフィットしそうな感触だ。さらに拳が余裕で入る位の穴が空いていて、装飾のようなものもある。一体なんなんだこれは……。

 

 

「なるほど。それだけだとわからないな。温度はどうだ?」

 

「ほんのり温かくて、若干蒸れている気がするな……。一体なんなんだこれは」

 

「わかんねぇな……」

 

 

いやーほんとわかんないなー。

 

 

「色は何色だと思う?」

 

「俺は…白だと思う。ほら、なんか清いし」

 

「なるほど。俺はあえてライトグリーンを推すぞ。意外性ってやつだな」

 

 

なるほど。そういうのもあるな。

ヒデオの意見に感心していると、めぐみんがはぁ、と溜め息をついた。

 

 

「……二人共、もう充分でしょう? ダクネスの顔がえらいことになってますよ」

 

 

見ると、ダクネスは羞恥と屈辱のせいでなんとも言えない顔で悦んでいた。気持ち悪っ。

 

 

「わかったよ。ほれ、ダクネスのパンツだ」

 

 

もう充分遊んだので、ポケットからダクネスのパンツを取り出す。にしても、なんで発動からパンツゲットまでに時差があったんだ?

 

 

「ほう。薄いピンクとは意外だな。装飾も可愛らしいし、案外可愛い趣味してんじゃねーかララティーナ」

 

「ララティーナはやめろ!!!」

 

「うわぁ! やめろララティーナ! その年で前科持ちは親父さんが悲しむいででででっ!」

 

本名を呼ばれるのは嫌なのか、ヒデオの頭に掴みかかるダクネス。

そんなダクネスを諌めるように、めぐみんがまぁまぁと言いながら近付いていく。

 

 

「まぁそうカッカしないでくださいダクネス。前にアクアが『ダクネスは案外可愛いもの好きなのよね。めぐみんのフリフリの服を姿見であわせてたし、今度買い物にでも連れていきましょう』って言ってましたし、可愛いものが好きなのもわかってます。わかってるのでアイアンクローを離して頂けるとありがたいだだだだだ!!」

 

「今ここで言うことじゃないだろう! これは私の求める羞恥攻めとは違うぞ!」

 

 

ダクネスの羞恥と怒りを孕んだ叫びが中庭に響き渡った。うるせぇ。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

実験もそこそこにして、今は皆で昼食を食べている。

 

 

「で、カズマよ。実験の結果何がわかったんだ?」

 

 

ヒデオがパンをかじりながら尋ねてきた。

すると、俺達が実験をしていた事を知らなかったアクアが俺に詰め寄り問うてきた。

 

 

「え、なになに? 私が寝てる間になにか楽しそうなことしてたの? ねぇなんで起こしてくれなかったの? なんで私だけ仲間はずれにするの? ねぇったら!」

 

「あぁもう鬱陶しいな構ってちゃんが! 起こしても起きなかったんだろーが!」

 

 

肩をがくがく揺らしてくるアクアを押しのけようとするが、流石ステータスがカンストしてるだけあるだけあってなかなか離れない。

前までの俺ならフリーズとかで追っ払って居たのだが、今は違う。

 

 

「はぁっ!」

 

「え、わぁっ!」

 

 

気を解放し、その衝撃波でアクアを仰け反らせる。おぉ、これは便利だな。

 

 

「おいやめろよカズマ。こんな所で気を解放すんな。ホコリが舞うじゃねぇか」

 

 

ホコリから食べ物を守る為に机を頭上に持ち上げたヒデオが文句を言ってくる。こいつ食べ物の事になったら割と体張るよな。

 

 

「すまんすまん。まだ勝手がわかんなくてな。次からは気を付けるよ」

 

「今のって、ヒデオと同じ技? ねぇカズマさん。ヒデオと同じ技を覚えたからって急激に強くなるわけじゃないわよ? わかってる?」

 

「そんくらいわかってるわ! というか話進まねぇから黙ってろ!」

 

 

煽ってきたアクアを殴りたい気持ちを抑え、話を戻す。

 

 

「実験の結果、スキルに気を注ぐと何かしら変化が起きることがわかった。例えばスティールなら任意の物を盗れるようになるとかな。まぁ普通にスティールするよりかなり疲れるから連発は出来ない」

 

 

気を注ぐと何故か魔力の消費も増える。まぁ性能が上がるとコストも上がるのはよくある事なのであまり気にしていない。

 

 

「なるほど。だからあの時カズマがパンツって言った後にダクネスのパンツが盗られたんですね」

 

「欲しいもん盗れるとかいたずらし放題じゃねぇかカズマ」

 

「「「うわぁ……」」」

 

 

ヒデオの言葉に俺から体を腕で隠すようにしてドン引きする女性陣。なんだろう、この釈然としない感じは。

 

 

「……言っとくが、俺にだって選ぶ権利くらいはあるんだからな」

 

「「「なっ!」」」

 

 

 

 

 

 




超サイヤ人化をシリアステイストでするかギャグテイストでするか悩んでます

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