この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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詰め込みすぎた感


第三十七話

 

「おやヒデオ。心当たりがありそうな顔してますね」

 

「あるにはあるんだが、どう説明したもんかと思ってな」

 

「どうしたのヒデオ。早く言いなさい」

 

 

 カズマから解放されたアクアがそう問い詰めてきた。説明するのめんどくさいなぁ…。

 

 …ハァ。仕方ない。アレを使うか。

 

 

「いや、俺も心当たりはあるんだが、カズマの方が詳しいぞ。聞くならカズマに聞け」

 

 

 秘技、丸投げである。

 

 

「丸投げかよ…まぁいいや。確かに俺とヒデオはこの特徴の男を見たんだ。破壊工作とか言ってたから、多分こいつが犯人だろう…おい何すんだやめろバカ!」

 

「なんでそんな重要なことを言わないのよアンタらは!最初からそれ言っとけばこんなめんどくさい事しなくてすんだのに!」

 

 

 俺とカズマの首に掴みかかってくるアクア。

 確かにその通りだが、こちらにも言い分はある。

 

 

「おいおい。そうカッカするな。俺達が言わなかったのには理由があるんだよ。な、カズマ」

 

「理由…?あぁ、まぁ、あるっちゃあるな」

 

「で、その理由はなんなのよ。早く言いなさい!」

 

 

 机をバン!と叩き急かしてくるアクア。

 この件はアクアだけでなく他の奴らにも言う必要があるので、声を大きめにして話す。

 

 

「なぁお前ら。俺達、今回はこの地に何しにきたんだ?ヒーローごっこをするためか?違うだろ。温泉に入りに来たんだろ。そこのところ履き違えちゃあいけねぇな」

 

「ヒデオの言う通りだ。タダでさえ普段から厄介事に首を突っ込みまくるどころかお前らが厄介で困ってるのに、旅行地でさえくつろげないのは勘弁だ。俺達が見た男が犯人で、仮に魔王軍だろうが見て見ぬ振りをするべきなんだよ。ってことでこの話はもう終わりな」

 

 

 第一めんどくさいしな。カズマはそう付け加えた。

 しかし、こんな発言を聞いて正義感(笑)に富んだうちの仲間達が黙っているはずもなく。

 

 

「なにを言っているのですかこの男どもは!冒険者としての自覚はないのですか!?どう聞いてもそれは魔王軍確定でしょう!?」

 

「アクア、カズマを抑えてろ!ウィズはヒデオの尻尾を頼む!この馬鹿どもにはお灸を据えてやらないといけないらしい!」

 

「おいバカやめろ!やる気か!?やるならこっちにも考えがあるぞ!」

 

「ウィズ!離せ!握りつつスリスリするんじゃあない!あぁ!こらちょむすけ!髪の毛を抜くな!あぁぁあ!!」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「くそっ、酷い目にあった…」

 

 

 そうヒデオが呟く。

 お前のは傍から見たら御褒美だったよ羨ましいなこんちくしょう。

 

 

「カズマめ…。よくも魔力を…」

 

「本当にこの男はろくでもないな…」

 

 

 ドレインタッチで魔力を空にされためぐみんと、クリエイトウォーターとクリエイトアースのコンボで泥だらけにされたダクネスがそう嘆いた。ヒデオが抑えられてさえいなければ今頃服が爆ぜていたものを…。

 

 

「…なにやらカズマから不穏な視線を感じるのですが」

 

「奇遇だな。私もだ」

 

「気のせいだろ。うん」

 

 

 変態を見るような視線を向けられたので、慌てて顔を逸らす。コイツら勘よすぎない?

 

 そんなやり取りをしている俺達の前で、アクアがこの街のギルドの受付の人に1枚の紙を突き出していた。

 

 

「ですから、確固とした証拠がないと…」

 

 

 まぁいきなりこの人相の男を指名手配しろ、と一介の旅行者に言われても承諾するはずがない。

 しかし、納得がいかないアクアは受付の人に顔を寄せ。

 

 

「ねぇ!あなたもこの街に住んでるってことは、アクシズ教徒じゃないの?ほら、私の顔をちゃんと見て!見覚えない?」

 

「…?私はアクシズ教徒ではありませんが…。確かによく見ればどこがて見たような…あぁ!歓楽街のあの店のナンバー2の!」

 

「違うわよ!罰当てるわよアンタ!そんなカズマとかヒデオが行きそうな店で働いた覚えなんてないわ!それにナンバー2ってのが微妙に腹立つわ!」

 

 

 心外だ。まだ行ってないぞ。

 ひとまずこれは置いといて。どうやってこの状況を打破しようか。こういうのは力づくでやっても意味が無い。本当に確固とした証拠を集めるか、諦めるか…。

 

 諦めようかな?そう思った時だった。隣にいたダクネスが視界に入る。

 あ、こいつがいるのか。なら。

 

 

「ヒデオ、めぐみん。フォロー頼むぞ」

 

「なんのことか知らんが任せろ」

 

「いきなりなんですか?」

 

 

 二人が返事をしたのを確認し、この作戦の要であるダクネスを前へ前へと押し出す。

 

 そして、息を深く吸い込み。

 

 

「こちらにおられる方をどなたと心得る!『王国の懐刀』とも呼ばれる大貴族、ダスティネス家のご令嬢!ダスティネス・フォード・ララティーナ様である!一介の冒険者以下の扱いとは無礼だろう!」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 受付の人と共にダクネスも驚いた。ダクネスが何かを言おうとしたが、即座に俺の意図を察してくれためぐみんとヒデオがそうさせなかった。

 

 

「ささ、お嬢様。ダスティネス家のご令嬢たる証の物を、この無礼極まりない男に見せつけてやってください!」

 

「お嬢様がこの男を気に食わないというなら、私がボコボコにして差し上げますので!」

 

「ひ、ひぃ!」

 

 

 やりすぎだバカ。ビビっちゃってるじゃねぇか。

 

 当のダクネスはあまり貴族の特権という物を使いたくないのか、とても嫌そうな顔をしていた。仕方ない。貴族のお前が悪い。

 

 

「めぐみんにヒデオまで…。うぅ、こういった所で家の名前を出したくないのだが…」

 

 

 ブツブツと言いながら懐から裁判の時にも出していたペンダントを出した。あれ欲しいなー。

 

 

「そ、それはっ!し、ししし失礼致しました!直ちにこの男を手配しますので!!」

 

 

 そう言うと即座にアクアから似顔絵を受け取る受付の人。わぁ、手のひら返し。

 

 

「流石ねダクネス!権力ってこうやって振りかざすものなのね!」

 

「言ってくれるなアクア。それとカズマは後で覚えていろ」

 

「!?」

 

 

 チッ。

 わかった。お前がそういうスタンスで行くなら俺にも考えがあるぞ。

 慌ただしく手配の準備をしている受付の人を呼び止め一言。

 

 

「あ、かかった経費等は全てダスティネス家にツケといてください」

 

「!?」

 

 

 俺の言葉に信じられないものを見るような目で見てくるダクネス。仕方ないじゃないか。

 

 使えるものは使わないとな。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ギルドに行った翌日。旅館の部屋。

 

 昨日ギルドから帰った後ダクネスにボコボコにされかけたカズマが、未だ納得のいっていないアクアに物申した。

 

 

「だから昨日のアレで一件落着でいいだろ。いい加減旅行を楽しませろ!明日には帰るんだぞ!」

 

「まだよ!犯人を捕まえるまで落着なんてしないわ!それに、旅行を楽しむって言ったって大体の温泉は浄化してきたからあまり楽しめないわよ?」

 

「あー…そういえば…」

 

 

 そう。昨日帰り際にギルドの職員から温泉の浄化を依頼されたのだ。本当にこの指名手配犯がいるなら温泉に入る人が危ない、とのことだ。

 まぁ実際そうなので舞空術を使いアクアを運びまくって浄化して回った。合法的に女湯を覗ける、と思ったが普通に考えて閉鎖するよね。ちくしょう。

 

 

「どうしたんだヒデオ。苦虫を噛み潰したような顔をして。そんなに温泉に入れないのが悔しいのか?」

 

「………大体あってる」

 

「今の間はなんだ」

 

 

 ダクネスに怪訝な表情で怪しまれながらも、特にすることがないのでダラダラと過ごしていると、ピクッと気の感知に知ったような気が引っかかった。

 

 

「…誰か来る」

 

「誰だ?まさか犯人か?」

 

「いや、この気は…誰だっけ」

 

 

 ド忘れ、と言うより単に覚えていないだけだ。知り合いの気は何回も会ううちに覚えるが、一般人の気なんていちいち覚えてられない。

 ゴンゴンゴン、と荒々しく扉がノックされる。そして返事も待たずに開け放たれた。余程急ぎの用事なのか?

 

 

「失礼します!ハァッ、ハァッ…あ、あの!すいません!ダスティネス卿御一行のお部屋はここで宜しいでしょうか!」

 

 

 扉を開けたのは、昨日俺たちの対応をしたギルドの職員。荒い息遣いと乱れた衣服から見るに余程急いで来たんだろう。

 

 

「いかにもそうだが…。突然どうした?」

 

「た、単刀直入に要件だけを伝えます!街の温泉から次々と汚染されたお湯が湧き出ました!昨日浄化してもらった温泉からもです!」

 

「なんですって!?」

 

 

 職員の言葉にガバッと起き上がるアクア。

 

 それにしても、大胆な行動に出たな。

 チマチマと汚染してきたのが一晩で浄化されたからヤケクソになったのか?

 

 

「え、えぇ…。ですから、ギルドとしても正式に調査と浄化を依頼したく…。ひとまず浄化を急いで貰えると助かります!では、自分は温泉の経営者達にこの旨を伝えて回りますので!」

 

 

 そう言い残しギルドの職員は走り去って行った。あれ、これ強制パターンか?

 めんどくさいなぁ、と思いながら茶を啜っていると、案の定アクアが俺の行動に目くじらを立ててきた。

 

 

「何寛いでお茶なんて飲んでるのよヒデオ!行くわよ!」

 

「…へいへい」

 

 

 アクアに急かされ、舞空術でアクアを連れ飛んで行く。

 

 …めんどくさいなぁ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 結論から言うと、浄化はすぐに終わった。

 まず汚染されたお湯が湧き出てくるのが短時間だったし、量も少なかったので浄化は円滑に進んだ。

 まるでなにかの実験をしてるようだったな。行動自体は大胆なのに、中身が慎重だったような感じか?

 ここまでの範囲を短時間で浄化したんだ。急いでいる姿は当然目立つだろう。一人くらい目撃者が居てもおかしくないのだが、不思議な事に一人もいなかった。

 

 人の目につかず、それでいて広範囲を短時間で汚染。このことから導き出される結論は。

 

 

「…源泉か?」

 

「だな。ここの源泉が一般開放されてるのかはわからないけど、俺が犯人ならそうする。ヒデオもそうだろ?」

 

「まぁ、今までチマチマやって来たのが台無しにされたってなりゃあな。誰だってそうするんじゃねぇか?」

 

「なら、早速源泉に行きましょう!」

 

 

 アクアがそう言ってくるが、行っても無駄足の可能性が高い。常に犯人がそこにいるとは限らないしな。

 カズマも同じ考えのようで、難色を示した。

 

 

「今行くのか?行くなら、また汚染された湯が湧き出てからの方が…。今源泉にいるって限ったわけじゃないしな」

 

「でも、うちの子たちの温泉がこれ以上汚染されるのは…」

 

 

 そのうちの子たちの温泉を次々とお湯に変えてるのは誰なんですかねぇ、とは言わない。

 

 皆でどうしたものかと悩んでいると、ちょむすけを膝に乗せて遊んでいたウィズがふと。

 

 

「ヒデオさんの気の感知で、犯人の気?が探れればいいんですけどねぇ…」

 

「「あっ」」

 

 

 そう声を出したのは俺とカズマ。

 そうだ。俺達は実際に会ったんだ。あのレベルの気を忘れるはずがない。

 

 

「ヒデオ、会ったって言ってたわよね!これで…!」

 

「それに、瞬間移動とやらを覚えたとも言っていましたね!」

 

「あぁ!持つべきものはサイヤ人の仲間だな……どうした。そんなマジでめんどくさい、みたいな顔をして。魔王軍だぞ?いつもみたいにワクワクしてないのか?」

 

 

 アクアを筆頭にすべからくテンションが上がっているが、俺はそうではない。本当にめんどくさいのだ。

 こんな回りくどい作戦をとる奴は戦闘方法も回りくどいに決まっている。仮に犯人が幹部レベルでもそんな奴とは戦いたくない。

 

 

「おい、お前ら、俺の事を誰とでも戦うのが好きな戦闘狂と勘違いしてないか?」

 

「違うのか?てっきり強者の心をへし折るのが大好きな真のサディストと思っていたが…」

 

 

 そう言いながら頬を赤らめるダクネス。

 やだ、この子自分の発言に興奮してる!きもちわるっ。

 

 

「ちげぇよ。俺の本能とお前の性癖を一緒くたにするな。俺が好きなのはな、実力が拮抗していて、なおかつ正面からの力と力のぶつかり合いで勝負をつける戦いなんだよ。断じてカズマみたいなねちっこい戦闘方法を取る奴とは戦いたいとは思わねぇ」

 

 

 色々考えて戦うより考える暇もないくらいの戦いがしたい。おいそこ、脳筋とか言うな。

 

 

「カズマがねちっこいのは概ね同意しますが、あなたは私に次ぐこのパーティーの戦力なんですよ?それが魔王軍相手に戦わないとか、ワガママも大概にしてください!」

 

 

 そう言いながら詰め寄ってきためぐみん。

 私に次ぐ、ってのはまぁ置いておこう。それより聞き捨てならない事を聞いた。

 ワガママ?どの口が言うんだコノヤロウ。

 

 とりあえず色々言いたいことはあるが、この言葉を送ろう。

 

 

「ぶっ飛ばすぞこのロリ」

 

「なっ…!また言いましたね…!いいでしょう、喧嘩を売ってるなら買ってあげます!表に出なさい!」

 

 

 胸倉を掴んできそうなめぐみんの頭を片腕で抑え身長差を活かし腕を届かせないようにする。

 ブンブンと届かない腕をふるめぐみんを抑えていると、カズマがまぁまぁ、と割って入ってきた。

 

 

「まぁ落ち着けよめぐみん。ヒデオもそんな事言ってないでさ、戦おうぜ?お前が居ないと俺らのパーティーはただの変人の集まりになっちまう」

 

「誰が変人よ!…まぁそれは後で問い詰めるわ。ねぇヒデオ。今はそれどころじゃないの。ほら、駄々こねてないで、ね?」

 

 

 言い聞かすようにそう言ってくるアクア。

 

 ……なんかこいつにあやされてるみたいでムカつく。

 

 郷に入っては郷に従えって言うもんな。

 そうだ。戦いたくなければ戦わなければいいんだ。行くだけ行くってのもありだな。

 

 

「わかった、わかったよ。お前らの熱意に負けた。ただこれだけ言っておく。俺はやらねぇぞ!見物だけだからな!」

 

「ヤムチャかお前は」

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「うわっ!なんだ!急に人が現れたぞ!」

 

「何奴!」

 

 

 急に現れた俺達に驚く警備員。

 何故犯人の所に直接行かないかと言うと、いきなり目の前に現れたら怪しんで急襲してくる可能性が高いし、今回は一撃離脱、不意打ちで終わらせるつもりだからだ。犯罪者消すべし慈悲はない。

 それに、ただの警備員でさえここまで怪しんでるんだ。やましい事やってる奴ならもっと怪しむだろう。

 

 

「急にすいません。俺たち、この先の源泉に行きたくて…」

 

「源泉は管理人以外立ち入り禁止だ。今だって管理人の爺さんが色々と調べに行ってる」

 

「この通り観光は出来ないんだ。悪いが帰ってもらえるか?」

 

 

 まぁ当然こうなるよな。

 しかし、引っかかる点がある。管理人の爺さんらしき気がどこにも見当たらない。あるのは犯人の気だけだ。

 

 …どういう事だ?

 

 不可解な事態に頭を悩ませていると、カズマが俺とめぐみんに耳打ちでコショコショと囁いてきた。

 

 

「ヒデオ、めぐみん。アレやるぞ」

 

 

 アレか。

 カズマの言葉にコクリ、と頷く俺とめぐみん。この前と同じ陣形を取り、奴を取り囲む。

 俺達の行動に何かを察したダクネス。しかしもう遅い。

 

 

「む?…お前らまさか!」

 

「ここにおられる方をどなたと心得る!ダスティネス家のご令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナ様であられる!さ、お嬢様。この無礼な者共に貴族たる証を…!あ、おい!この…!お嬢様を抑えろ!」

 

「合点!ぐっ!抵抗するなお嬢様!おい!誰でもいい!お嬢様からアレを奪え!」

 

「や、やめろ!こんな所でまた家の名前を…!あぁ…!」

 

 

 めぐみんがダクネスから例のペンダントを奪い、警備員に見せつける。

 

 

「こ、これは…!大変失礼致しました!」

 

「ど、どうぞお通り下さい!」

 

 

 つい先日も見た見事なまでの手のひら返し。

 いやー。持つべきもの権力者の仲間だな。

 

 

 

 気の感知を頼りに奥へと進むと、無事犯人の所に着いた。俺達の読み通り温泉に居た奴だ。名前なんつったかな。

 さて、ここから奇襲だ。作戦としては太陽拳気円斬で良いかな。

 

 と、思っていたのだが。

 

 

「あれ、ハンスさん?」

 

「!?」

 

 

 ウィズの呼び掛けに、つい反応してしまったハンス。というかなにしてくれてんのウィズ。奇襲が…。

 

 

「あ、すいません、つい…。知り合いの顔を見たもので…」

 

「し、知り合い?私とあなたが?初対面のはずですよ?私はこの地に派遣された温泉の水質調査員です。その、ハンスという人とは違いますよ」

 

 

 などと言い訳をし、この場から逃れようとするハンス。

 だが、この天然リッチーは留まることを知らない。

 

 

「ハンスさん、私です!ウィズです!覚えてますか?同じ魔王軍幹部のウィズです!」

 

「ハンス?魔王軍幹部?何のことです?さっきも言ったように私はここの温泉の調査を…」

 

 

 突然ウィズに正体を明かされ、若干の焦りを見せるもののすぐに平静を取り戻すハンス。

 だが、取り繕っても無駄だな。気がダダ漏れだぞ。というかやっぱり幹部だったか。てことはあのお姉さんも幹部の可能性が高い。あの人とは戦いたくないなぁ。

 

 

「しらばっくれるな。ただの温泉の管理人が魔王軍幹部レベルの強さを発してるってのか?」

 

「ですから…」

 

「もういい。これで全部わかる」

 

「えっ、なにを…」

 

 

 瞬間移動。そして気を纏った手刀をハンスの首筋に振るう。

 こいつが魔王軍幹部なら、避けるなり耐えるなりするはずだ。

 

 だが。

 

 

「あっ」

 

 

 そんな短い断末魔と共にハンスの首が飛び、身体が地面に崩れ落ちた。あれ、弱くない?

 

 

「…ヒデオさん、容赦無いですね」

 

「悪いな。積もる話もあったろうに」

 

「いえ、そこまで仲が良かった訳では無いので…。そう言えば、ハンスさんは確かデッドリーポイズンスライムの変異種だったはず…」

 

 

 なんだその物騒な名前のスライムは。スライムのくせに強そうじゃないか。

 たしかこの世界のスライムは物理攻撃無効で厄介な存在だったっけか。と、いうことはまだ生きてる可能性が高い。

 

 

「そうだ。だから今の攻撃も効いてない。それより小僧」

 

 

 やはりか。

 慌てて声の方を見ると、ハンスの生首がこちらを睨みつけていた。生首をみると冬将軍のアレを思い出す。あの時は俺も若かった…。

 

 

「俺に、触れたな」

 

「触れたからなんだってんだよ。お前がスライムで、物理攻撃が効かなかったのはわかった。だが物理以外に、も…あ、れ…」

 

 

 ぐにゃりと視界が歪み、平衡感覚も無くなる。俺は今立ってるのか?座ってるのか?転んでいるのか?それもわからない。吐き気もするし寒気もする。一体何をされた?

 

 

「触れたのが一瞬だからどうやら毒の周りが遅いようだが、そのうちおまえは死ぬ。なぁに、即死しないだけありがたいと思え。おっと、そろそろ耳も聞こえなくなる頃か?」

 

「がはっ…!クソが…!物理無効で触れたら即死毒とか初見殺しにも程があるだろ…!」

 

 

 今は血を吐いたのか?わからない。目も霞んで手足も痺れてきた。味覚もなくなった。幸いまだ耳は聞こえる。

 

 

「ヒデオ、もう喋るな!アクア、治癒頼む!」

 

「わかったわ!」

 

「っと。行かせると思うか?」

 

 

 カズマとアクアの声がする。ほかの3人も気は感じる。クソッタレ初見殺し野郎の気も感じる。

 一矢報いるべくハンスの気の方に手のひらを向け、力を振り絞り気功波を放つ。

 

 

「はっ…!!」

 

「くっ…!この死に損ないが…!」

 

 

 声と気の感じからして、その場から離すことには成功したようだ。これ、で、アクア、が…。

 

 

「待っててねヒデオ!今解毒してあげるから!」

 

 

 アクアが声をかけてくれたが、声が出なく返事が出来なかった。

 そして、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




インフレ

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