この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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遅くなりました


第三十六話

 

 

 室内風呂が露天風呂へと変貌してしまう事案をなんとか回避し、四人でウィズの待つ部屋へ戻ると。

 

 

「うわぁぁん!!あんまりよおおお!私、普通に温泉に入ってただけなのに!!何も悪いことしてないのに…!!グスッ!うぇぇぇぇん!」

 

「アクア様、災難でしたね…。というかその、お、お願いですから泣き止んでください…!アクア様の涙が肌に当たると、凄くピリピリして痛いんです……」

 

 

 そこには、一番最後に帰ってきていたアクアが、ウィズの胸で泣きじゃくる姿があった。

 

 おいアクア。そこ代われ。

 

 どうやってアクアとなり変わろうかと画策していると、見かねたカズマがアクアに声をかけた。

 

 

「おいおいどうしたんだよ。俺とヒデオの懸念通り何かやらかしやがったのか?誰に迷惑かけた?頭下げに行ったほうがいいか?」

 

「懸念通りって何よ!迷惑って何よ!なんで私が悪いことしたって決めつけるのよ!」

 

 

 日頃の行いのせいだよなぁ。

 カズマに食ってかかるアクアを放置し、事態を知ってそうなウィズに話しかける。

 

 

「なぁウィズ。アクアはこう言ってるが、実際は何があったんだ?」

 

「えぇと…。なんでも、アクア様がアクシズ教団の秘湯に入ったら、温泉を浄化してしまいただのお湯になったと…」

 

 

 そう言えば女神の体質で、害の有無に関係なく水を浄化してしまうんだったな。なんで温泉来たんだコイツ。

 それを聞いたカズマが一言。

 

 

「テロじゃねぇか」

 

「ひどいっ!水の女神だから仕方ないのに!!」

 

 

 そう言い再び泣きじゃくるアクア。

 

 アクシズ教の財源である温泉をお湯に変えるとか、テロ以外の何ものでもない。

 ハンスとかいう奴の破壊工作がなくてもアクシズ教潰れるんじゃねえか?

 悪気のない悪ほど恐ろしいものは無いっていうしな。

 

 アクアには悪いが、ここはハンスとかいう奴と赤髪のお姉さんのことは黙っておこう。色々とめんどくさくなりそうだし。

 とりあえず、アクアを慰める為に肩に手を置き優しく話し掛ける。

 

 

「アクア、一緒に謝りに行ってやるから泣きやんでくれ。これ以上はウィズが可哀想だ」

 

「だから悪いことしてないのにいいいい!!!」

 

 

 そう叫び再びウィズの胸に顔を埋めるアクア。いいなー。俺もそれしたい。

 慰めるつもりで言ったのだが、逆効果だったようだ。

 

 ま、いっか。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 この宿の一階は食事がとれるようになっているので、俺達もそれを利用している。

 

 さすが高級宿というか、朝食もとても豪華だ。豪華な食事に舌鼓を打ちつつ、ヒデオの大食いに軽くドン引きしていると、アクアがポツリと。

 

 

「この街の危険が危ないみたいなの」

 

「なんだその頭痛が痛くなりそうな発言は。突然どうした?まさか部屋の露天風呂以外使うなってアレだけ言ったのに使ったのか?」

 

「使ってないわよ!いいから聞いて!ほらヒデオもいつまでもご飯食べてないで聞いて!ねぇってば!」

 

 

 ヒデオの肩を揺らしながらそう言うアクア。

 ご飯食べてる人の肩を揺らすな。食べにくそうだろ。

 

 

「わかった、わかったから揺らすな!食べにくい!」

 

「ちゃんと聞きなさいよ?私ね、温泉を浄化しちゃうって言ったでしょ?それだって好きでやってるわけじゃないの。まぁ、屋敷にあったダクネスの高そうな入浴剤を全部入れてみても、あっさり浄化しちゃったし、そりゃ温泉だって浄化しちゃうわよね」

 

 

 なんてことをしてるんだコイツは。いくら何でもダクネス怒るぞ。

 

 

「ええっ!?アレ全部使ったのか!?わざわざ取り寄せたばっかりだし、量もかなりあったぞ!?何をしてくれたんだアクア!」

 

「わ!ダクネスやめて!揺らさないで!自分の筋力考えて!わああぁ!」

 

 

 案の定怒ったダクネスに揺らされまくるアクア。まぁ自業自得だな。

 しかし、このままだと話が進まないのでダクネスを止める。

 

 

「まぁ落ち着けダクネス。入浴剤の代金ならこいつの小遣いから払ってやるから」

 

「ええっ!?それはやめてカズマ!ほら、ダクネスも何とか言ってやって!」

 

 

 このバカはこの後に及んで何を言い出すんだ。自分のやらかしたことは自分で始末つけなくちゃな。

 ダクネスもこの提案には乗り気のようで、二つ返事で了承した。

 

 

「そうだな。アクアの小遣いから払ってくれ」

 

「わぁぁん!許してよダクネスー!!」

 

 

 ダクネスに泣きすがるアクア。

 

 

「話が全く進んでねぇ…」

 

 

 ヒデオ君の言う通りです。はい。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 アクアが言うには、アクシズ教の秘湯はかなり汚染されていたらしい。

 なんでも、普通の温泉程度では一瞬で浄化が終わるそうだが、その時はかなりの時間を要したとのことだ。

 汚染されているほど浄化には時間がかかるそうなので、アクアレベルの浄化持ちが言うからにはそこの温泉はよほど汚かったのだろう。

 財源である温泉、それも教団の秘湯を手入れもしないとは考えづらいので、何者かが温泉に汚染物質をぶちこんだ可能性が高い。

 

 俺とカズマは、その何者かに既に見当がついている。そう、あのハンスとか言う男だ。

 奴が言っていた破壊工作というのはこれのことだろう。加えてお姉さんの温泉に入らない方がいいとの警告。これはもう確定ではないだろうか。

 しかし、これをアクアに言うともれなく厄介ごとに全身でダイブすることになるのでなるべく言わない、とカズマと決めた。

 

 現在は、俺とウィズ、カズマとめぐみん、ダクネスとアクアの三組に別れて色々と調査しているのだが。

 

 

「あ、ヒデオさん!みてください!幸運を呼ぶ女神エリス様人形ですって!これがあれば、お店も繁盛するかも…?それに、バニルさんお人形趣味があったはずだし…。お土産にいくつか…」

 

 

 アクアとダクネス以外は、調査という名目で旅行を満喫している。ダクネス、可哀想に。

 

 しかし、仮にも魔王軍幹部でリッチーなのに女神の加護にあやかっても良いのだろうか。

 あと、アクシズ教団の総本山なのになんでエリス様人形なんだ?アクアのはないのか?要らないけど。

 

 

「あいつ人形趣味なんてあったのか。人は見かけによらないなぁ。あいつ人じゃないけど」

 

「ふふふっ。あ、そうそう。カズマさんがバニルさんと商談してる時に聞いたんですが、ヒデオさんとカズマさんって同じ出身地だったんですね。元々お知り合いだったりしたんですか?」

 

 

 そんな話をしてたのか。

 まぁ大方商品の出処を探られた時に言ったんだろう。

 

 

「同じ出身地っちゃあ同じだけど、特に知り合いとかではないな。こっちきて知り合った感じだな」

 

「そうなんですね。それにしては数年来の親友のような感じがします」

 

「まぁ、パーティー唯一の男仲間だしな。必然的に仲良くもなるさ。それに、さっきウィズが言ったように、出身地が同じことで盛り上がれるしな」

 

「なるほど…。あ、バニルさんで思い出したんですが、バニルさんをどうやって倒したんですか?ヒデオさんが強いのはデストロイヤー戦で知ってましたけど、その時はバニルさんに敵うほどではなかったような…。もしかして、また無茶しましたか?」

 

 

 心配しているのか怒っているのかわからかない声音と表情でそう言ってくるウィズ。

 確かに、前に二度ほど言いつけ破ったもんな…。三度目は流石に怒るか。

 

 

「成長したんだよ。うん。それと、バニル戦では不死王拳はつかってないぞ。バニルがダクネスに憑依しちまったからな。ダクネスを殺さないよう手加減せざるを得なかったんだ。まぁバニルの方も不殺を貫いてるらしいし、ダクネスの身体に遠慮もあったんだろう。互いに全力では戦ってなかったって感じだな。俺の方は不死王拳使わない程度の全力は出したけど」

 

「そうだったんですね…。てっきり死ぬレベルの無茶をまたしたのかな、と。なんにせよ、何事もなさそうでよかったです。……教えた技が原因で死なれるのは寝覚めが悪いどころの話じゃないですからね」

 

 

 台詞の最後に悲しそうな顔でボソりと呟くウィズ。

 

 

「…そうだな。出来るだけ無茶はしないようにするよ」

 

 

 心配してくれているのは有難いが、なんか遠回しに実力がまだまだって言われてそうで何かヤだな。まぁ事実だけども。

 

 

「…そろそろお昼時ですね。何か食べますか?」

 

 

 しんみりとしてしまった空気を壊すようにそう言ってくるウィズ。

 確かに腹が減ったなぁ。

 

 

「そうだな。適当になにか探すか」

 

 

 短く返事をし、飲食店が立ち並んでいるところに向かう。すると、広場らしきところに人だかりができていた。なんだ?

 

 

「なんでしょうか、芸人さんでも来てるんですかね」

 

「そうかもなー…っと、近くにカズマとめぐみん、それにアクア達も居るぞ。合流して飯食うか」

 

 

 見つけるために辺りを見回すが、人が多すぎて見つけられない。飛ぶか?

 どうしたものかと考えていると、ウィズが気の感知について質問してきた。

 

 

「前から思ってたんですが、凄く便利な能力ですね。最大範囲はどのくらいなんですか?」

 

「調子いい時は10キロくらいかな。気がアホみたいにでかい奴だとそれを超えても感じ取れる」

 

 

 アクアとかバニルとかウィズは結構離れてても感じ取れる。ちなみに、瞬間移動の範囲も10キロが限度だ。

 

 

「なるほど…。興味深いですね…」

 

「また何か気になることがあったら聞いてくれ。さ、ウィズ。アイツら探しても見当たらないからちょっと飛ぶわ。掴まっとけよー」

 

「えっ、きゃあ!」

 

 

 抱えて飛ぶと、可愛らしい悲鳴をあげるウィズ。ウィズの豊かな双丘が当たってる気がするが、気のせい気のせい気のせい気のせい。

 

 

「ヒデオさん、とっても見られている気がするんですが…」

 

 

 赤面しながらそう言ってくるウィズ。照れているのか恥ずかしいのか分からないな。

 

 

「空飛ぶ人間なんて珍しいからな。お、カズマ見っけ」

 

 

 カズマとめぐみんを見つけたので、浮きながら近くに行く。アクアとダクネスは人混みの中心にいたような気もするが、まぁ気のせいだろう。

 

 

「お、ヒデオにウィズ」

 

「うっす。飯まだか?」

 

 

 地面に降り立ちながらそう聞く。

 

 

「おう、行くか。アクアとダクネスは近くにいるのか?」

 

「居るっちゃ居るけど、人が多すぎてよくわかんねぇな。さっき似た人を見かけたけど、一応行くか?」

 

「一応行く」

 

「了解。えっと…。コッチの方だな」

 

 

 カズマ達を背に連れ人混みをかき分け、アクア達の気の方へ向かう。人多いな。

 

 人混みを抜けた先には。

 

 

「この街の温泉は何者かにより汚染されていまーす!!出来るだけ温泉に入らないようにお願いしまーす!!」

 

「お、お願いしまーす…」

 

 

 そこには、大声で営業妨害をする女神と、恥ずかしそうに付き従うクルセイダーが居た。

 おっと、ダクネスと目が合ってしまった。

 

 

「…」

 

「…ひ、ヒデ」

 

「よしカズマ!さっさと飯行くぞ!」

 

「だな!」

 

 

 有無を言わさぬ速度でその場を去ろうとする。

 しかし、そうは問屋が卸さなかったようで、ダクネスが逃がすまいと肩を掴んできた。

 くそっ!力強い!

 

 

「ま、待ってくれ二人共!」

 

 

 俺たちの肩を掴みながらそう言うダクネス。

 悪いな。お前はアクアへの生贄になったんだ。

 

 

「あーあー聞こえない聞こえない」

 

「ほら行くぞヒデオ!」

 

「待ってくれぇぇー!」

 

 

 ダクネスの悲痛な叫びが広場に響き渡る。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「ーーという訳で、私は温泉に入ってる回数が多い人が怪しいと思ったの。だからアンケートをとってきたわ。一番多かったのは…」

 

 

 そういいアクアが出したのは1から3までの番号の横に人物の特徴を書いた紙。

 

 一番温泉に入っていたのは…。

 

 

『長い青髪の女の人』『自称女神の青髪の女』『青い髪の美女』

 

 

「お前じゃねぇか」

 

「た、確かにこれは私だけど!浄化のために入っただけだし!」

 

「で、温泉をしっかりと浄化してきた、と」

 

「そうよ!完璧にね!」

 

 

 カズマにそう聞かれ自信満々に胸を張るアクア。確かにコイツがやってるのは俺達からすれば善行だ。汚染されてるのを治してるんだからな。

 しかし、事情を知らない温泉街の人達はどうだ?今まで普通の温泉だったものがただのお湯になってしまっていたら。

 

 怒りの矛先はアクアに向くんじゃないか?

 

 さっき俺達がハンスの事をアクアに言ったら厄介事にダイブすると言ったが、訂正しよう。

 

 アクアが厄介事だったわ。

 

 

「このアホ!!入るなっつったろ!」

 

「わぁぁー!!やめてカズマ!それに、入るなって言われてからは入って無いわ!言われる前に入ってたのよ!だからノーカンよ!だから離してー!」

 

 

 アクアに掴みかかるカズマを他所に、めぐみん達は集計結果を再び見ていた。

 

 

「どうした?なにか気になるのか?」

 

「いえ、アクアはともかくとして、アクアの次に入ってた人が怪しいんじゃないかなーって…」

 

「なるほど。一理ある」

 

 

 俺も集計結果を見てみる。どれどれ、二番目に入っていたのは…。

 

 

『短い茶髪の男性』『茶髪で色黒の男』

 

 

 ……どうしよう。完全に心当たりある。

 

 

 




つ、次こそは…

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