この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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過去最長かもしれない。


第二十九話

 ダクネスの実家に行った翌日。

 

 朝早くに屋敷を出て色々と街を物色してから、ウィズ魔道具店に来店した。いまは昼頃だ。

 

 

「よっす」

 

「あ、ヒデオさん!今日はよろしくお願いします!」

 

 

 俺によろしくと頭を下げてきたのは魔王軍なんちゃって幹部にしてリッチーのウィズ。

 なぜ俺がここに来ているのかというと、ウィズに頼みごとをされたからである。

 

 ダクネスの実家からの帰り道、ふとウィズの店に遊びに行った。すると、何故か涙目のウィズ。

 どうしたものかと理由を聞くと、どうやら店が赤字な上に近々知り合いが来るそうで、このままだと怒られる可能性が高いらしい。

 そこで、少しでも助言を貰おうと来た客に色々と聞こうとしていたそうだ。

 

 それ、経営者としてどうなの…。

 

 正直言って赤字を黒字にする方法など思いつかないのだが、断るのも忍びないので一晩考えるとだけ伝え、一晩経ってしまったのが今である。

 

 淡い期待を抱かせても可哀想なので、ここはきっぱりと言おう。

 

 

「ウィズ」

 

「はい!」

 

「正直に言うと、今から赤字の回復は無理だ」

 

「えっ…」

 

 

 そんな悲しそうな顔をするな。

 その技は俺に効く。

 

 だが、悲観するのはまだ早い。

 この問題の肝は赤字じゃあない。

 

 

「赤字の回復は無理。ならどうするか」

 

「ええと…。どうしましょう?」

 

 

 お前ほんとよくそれで店やれてるな。

 

 今の目的は赤字を回復する事じゃない。知り合いとやらに怒られない事だ。

 しかし、赤字を見てしまえばほぼ怒るだろう。

 

 ならばどうするか。

 

 帳簿は確実に見られる。これは誤魔化しようがない。ここでまず怒るだろう。そこをレイアウトや商品の質などで「頑張った感」を出す。

 さらに、怒りを無くすのではなく、薄く、浅くする事に注視する。

 

 

「まずは、怒られた時の謝り方だ!」

 

「えぇっ!?怒られないようにするんじゃないんですか!?」

 

「それは無理だ!諦めろ!」

 

「そんなぁ…!」

 

 

 だから泣くな。効く。

 

 謝り方も含め、その他もろもろの講座が始まってしまった。

 

 

 俺、こんなことをしてる場合じゃない気がするんだが…。

 もっと重要な事が起きてる気がするんだが…。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ひとまずダクネスの一件が解決したので、今日は休みにしよう。起きたの昼前だし。

 

 いつも通りに広間に行くと、ヒデオ以外がのんびり過ごしていた。

 どうやら、ヒデオは朝早くから出掛けたようだ。

 

 俺ものんびりしよう。

 

 ソファにグデーっと寝転がりながら溜め息を吐く。

 

 

「あー…。なんか色々疲れた…。今日は何もしない…」

 

「いつもは何かしてるみたいな口振りだけど、カズマさんっていつも何かしてましたっけ?プークスクス!」

 

「お前には言われたくねぇよ!宴会芸しか能のないなんちゃって女神が!」

 

「あーっ!また言った!あんたいい加減バチ当てるわよ!」

 

 

 俺とアクアが取っ組み合いの喧嘩をしていると、ドンドンドン、と玄関の扉が叩かれる音がした。

 そして、返事も待たずにバーンと開け放たれた。

 

 

「サトウカズマ!サトウカズマは居るかぁぁぁ!!」

 

 

 絶賛俺を疑い中の検察官セナが、血相を変えてまた屋敷を訪問しに来た。

 

 

「なんだよ!また何かあったのか?最近は俺も仲間も大人しくしてるし、こじつけにも程があると思うんだが!」

 

「ダンジョンだ!貴様、ダンジョンで一体何をした!キールのダンジョンで、謎のモンスターが大量発生している!」

 

「知らねぇよ!確かにダンジョンには行ったが、実験がてら探索しただけで何もやってねぇよ!何でもかんでも俺達のせいにされちゃあ困るぞ!」

 

 

 なんとなくだが、リッチーを浄化したことは伏せておこう。

 俺の言葉に、仲間達もうんうんと頷く。

 この様子を見ると、こいつらが何かやらかしたわけでも無いのだろう。

 しかし、セナはまだ納得がいっていないようで。

 

 

「そうは言っても、最後にあのダンジョンへ行ったのが貴方達という話なのですが…。その点から考えても、貴方達以外に犯人が思いつかないのですが…」

 

「そんな理不尽な!いや、ほんと今回は心当たりないぞ…。ヒデオはここに居ないけど、あいつが強敵も居ないし使う技も限られるダンジョンになんて潜るとも思えないし…。お前らも心当たりないよな?な?」

 

「そうですよ。いい加減言いがかりが過ぎると思うのですが」

 

 

 俺とめぐみんの言葉に、他の2人もこくこくと頷く。良かった。今回は売られなかった。

 

 その様子に不満を持ちながらも納得してくれたようで。

 

 

「そうですか…。しかし、そうなると困りますね…。てっきりまた貴方達がやらかしたものと思っていましたので。となると、誰か調査してくれる人を雇わないと…」

 

 

 そう言いつつ、チラチラとこちらを見てくるセナ。

 こいつ神経図太いな。さっきまで疑ってた奴に頼ろうとするか?

 受ける必要も無いので丁重に断ろう。ムカつくし。

 

 

「そんな視線を送ってもらっても無理だ。悪いけど、俺達は裁判のせいで色々と忙しいんだ。昨日そのために出掛けて疲れてるし、そんな暇もないからお断りさせてもらうよ」

 

 

 キッパリとそう告げる。それを聞いたセナは肩を落とし溜め息を吐く。

 

 

「確かに、無関係ならばお願いする訳にも行きませんね。もし気が変わったなら協力をお願いします。私は今から冒険者ギルドへ行きますので」

 

 

 そう言うと踵を返し屋敷から出て行くセナ。

 

 なんというか、アレだな。苦手なタイプだ。

 

 溜め息を吐き、念のためにもう1度仲間に確認する。

 

 

「おいお前ら。本当に心当たりないんだよな?」

 

「えぇ。爆裂魔法絡みでなければ」

 

「私はこの二人と違って日頃からあまり問題を起こしては居ないからな」

 

「そうですね。確かにダクネスはデストロイヤー戦の時も特に活躍してませんでしたよね!」

 

「なっ…!!めぐみん、お前…!」

 

 

 痛い所を突かれたダクネスと、それをからかうめぐみん。騒がしいな。

 一応聞くだけ聞いたが、こいつらは本命じゃない。うちの一番の問題児は別に居る。

 

 

「おいアクア。今回は何もしてないよな?」

 

「失礼ね。カズマったら私をなんだと思ってるのかしら?そもそも、あのダンジョンに関してはむしろ、モンスターが湧くどころか寄り付かないはずよ?リッチーを浄化した結界は本気も本気で作ったから、今もあの魔法陣はしっかりと残ってて、邪悪な存在は部屋に入れないはずよ!」

 

 

 ……今こいつ、何てった?

 

 

「おいアクア。最後の部分もう一回言ってみろ」

 

 

 よく聞こえなかったというか聞き取りたくなかったというか、理解出来なかったのでアクアの肩を掴みながらもう一度聞く。

 

 

「魔法陣はしっかりと残ってて、邪悪な存在は入れない…ったく、カズマったら一回で聞き…いたいいたいいたいたい!肩を思いっきり掴まないで!あぁ!揺らさないで!グワングワンなってる!」

 

 

 今度はしっかりと聞き、理解した俺は。

 

 

「この忌々しいアホがぁぁぁ!!」

 

 

 アクアの肩を掴みながら絶叫していた。

 

 このバカは、なんで何かをやらかさないと気が済まないんだ!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 キールのダンジョン前。

 

 

「あれ、サトウ殿。先程は忙しいとか何とか…」

 

「危機だということに気付いてね。俺も一冒険者として、役に立つべく来たんだよ」

 

 

 危機は危機でも俺の身の危機だけど。

 

 そんな事を言う俺にセナが訝しげな表情で。

 

 

「今ほどあの魔道具がこの場にあればと思った事はありませんよ」

 

 

 そう言ってきた。

 心外だなぁ。

 

 うん。ほんと、心外心外。

 

 

「ねぇカズマ、早く行かないとほかの人がアレをムグッ!んーんー!」

 

「そうだな!早く行って役に立たないとな!」

 

 

 また余計な事を口走りそうになったアクアの口を塞ぐ。

 

 危ねぇ…。

 

 とにかく、このアホがやらかした証拠を隠滅する為、俺達もキールのダンジョンへ来た。

 

 アクア曰く結界はモンスターを産むものではないとの事だが、万が一があっては裁判がまた不利になるのでやって来たのだ。

 

 ヒデオはどこに行ったかわからなかったので連れてこなかった。

 まぁ魔法陣を消すだけなので、ヒデオが居なくても大丈夫だろう。

 

 

「じゃ、俺達は早速入るから。あ、めぐみんは役に立たないから置いてくわ」

 

「事実なので何も言えませんが、もう少しオブラートに包んでください。私じゃなかったら泣いてますよ?」

 

 

 ぶつくさ文句を言うめぐみんとアクアを入口に待機させ、ダクネスとセナが連れてきた冒険社と共にダンジョンの入口に立つ。

 

 うわ、なんか変なのいっぱい居る。

 仮面を付けた小人のようなモンスターがウジャウジャ居た。

 

 きもいなーと思っていると、見送るために近くに居たアクアが。

 

 

「ねぇカズマ。なんか大物が出そうな気がするんですけど…。こんな悪魔の臭いがプンプンするちびっこいのじゃなく、もっとやばそうな…」

 

 

 そんな不安になることを言ってくる。そう言われてもなぁ…。

 

 俺達の仕事は魔法陣を消すだけ。それに集中しよう。

 

 そうだ、相手の攻撃はダクネスが受けるだろうし、万が一怪我しても入口に戻ればアクアが居るし、戦闘も他の冒険者に任せれば大丈夫だ。

 うん。俺には何も問題ない。

 

 

 証拠を隠滅して謎のモンスターの討伐をするだけの簡単なお仕事で、ヒデオが居なくても特に問題ない。大物が出ても他の冒険者と共に袋叩きにすれば大丈夫だろう。

 

 

 この時は、そう思っていた。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 嫌な予感がしつつも、ウィズに色々と仕込む俺。

 

 

「こ、こうですか…?」

 

「そう!その角度!それが女豹のポーズだ!」

 

「こ、これで本当に怒りを小さく出来るんですか…?余計怒りそうな気が…」

 

 

 これを見て怒る男がいるものか。

 別のところはおこるかもしれないけど。

 

 

「知り合いってのは男なんだろ?なら大丈夫だ!」

 

「は、はぁ…」

 

 

 渋々納得したウィズ。あぶねぇあぶねぇ。

 間髪入れずに次だ!

 

 

「女豹は覚えたな!次は…、えーと、だっちゅーのポーズだ!やり方としては、両腕で胸を押し出すように前屈みになるんだ。とりあえずやってみろ」

 

 

 決して、セクハラではない。もう一度言う。セクハラでは無い。ただの演技指導。いいね?

 

 

「こ、こうですか…?」

 

 

 俺の指示通りに胸を押し出すように前屈みになるウィズ。

 

 むにゅん。

 

 やべえ、エロい。

 

 

「お、おぉ…。眼ぷ…いや、もうちょっと、角度を…そう、それだ。完璧だ。ウィズは飲み込みが早くて凄いな」

 

「そ、そうですか?まぁこれでも元アークウィザードですからね。知力には自信があります」

 

 

 えっへんと胸を張るウィズ。

 

 あぁ!店主様!おやめ下さい!服がはち切れそうです!ボタンが!ボタンが悲鳴をあげてます!

 

 

「それで、次は何をすればいいんですか?」

 

「そうだな。うーんと…。アレとかいいかもな。荒ぶる鷹のポーズ」

 

「かっこいい名前ですね!どうやるんですか?」

 

 

 結構ノリノリになってきたウィズ。無知って怖いね。

 

 無知な女の子にセクハラする事に罪悪感無しッ!

 

 ちなみに教える事は大体教えたけど暇なのでウィズで遊んでるだけなのは内緒。

 

 

 yesセクハラ!noタッチ!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 ダンジョン最深部。

 

 

「フハハハハ!」

 

 

 おいおいおいおい!何でこんな所にこんな奴が居るんだよ!

 

 

「どうぞよろしく!我輩は地獄の公爵にして魔王軍幹部、見通す悪魔バニルである!フハハハハ!」

 

 

 なんでヒデオが居ない時に限ってこんな目に遭うんだ!俺の幸運値は高いんじゃなかったのか!?

 というかなんで悪い予感だけ当てるんだこの女神は!

 

 

「どうした小僧…。ム。焦りの悪感情、好みの味ではないが頂こう」

 

 

  ヒデオを呼びに行ってる暇はない…いや、ここから出ればセナとかが外に居る。

 こいつの足止めをしながらヒデオを待てば…。

 ただ、この場から外に出してもらえるかがわからない。くそっ!やるしかないのか!

 

 

「恐怖の感情を抱いていないのは何故だ?まぁ好きな味ではないから良いのだが…」

 

「せぁっ!!」

 

 

 隙あり、とダクネスが大剣を横薙ぎに振り、バニルに直撃させた。

 すると、一撃が効いたのかバニルの体がボロボロと崩れ落ちた。

 

 やったか!?

 

 

「ぐぁぁぁ!こ、こんな所でやられるとは…駆け出しの街も侮れな…い…」

 

 

 仮面だけを残し消え去るバニル。

 

 やった…のか?

 

 

「やるじゃねぇかダクネス!今夜は宴だ!」

 

「ほう。その宴、我輩も参加してもよろしいかな?」

 

「は!?」

 

 

 声のした方を向くと、バニルが先程と変わらない姿でピンピンしていた。

 ダクネスの一撃で死んだんじゃ無かったのか!?

 ダクネスを見ると、ガクッと肩を落としている。無理もない。

 

 

「そんな…魔王軍幹部を倒せたと思ったのに…」

 

「フハハハハ!落胆の悪感情…なかなか美味である!我輩の本体は仮面なのでな!残念!なんのダメージもありませんでした!おっと、汝ら2人の悪感情…大変美味である!フハハハハ!」

 

 

 なんなんだこいつは!

 ムカつくぅ!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「もう、お前に教えることは何も無い」

 

「えっ…」

 

「免許皆伝だ。ウィズ」

 

「ヒデオさん、いえ、先生!ありがとうございます!私、絶対に忘れません!」

 

 

 感極まってガバッと抱きついてくるウィズ。

 

 あぁ!当たってる!柔らかい!スイカの大きさでマシュマロのような弾力!あとなんかいい匂いする!

 あぁ!ダメです!逝ってしまいます!

 まさに暴力的なボディ!

 

 ラッキースケベとはこの事か!

 

 だけどもう色々と限界なので離れてもらう。

 べ、別に惜しくなんかないんだからねっ!

 

 

「う、ウィズ。流石にそろそろ…」

 

「あっ!すみません!つい…」

 

 

 そう言われそそくさと離れるウィズ。

 あー危なかった…。

 

 

「ふぅ…。お茶いれてもらえるか?」

 

「はい!」

 

 

 とてとてとお茶をいれに行くウィズ。素直で良い子だなぁ…。

 

 孫を見るおじいちゃん視点でウィズを見守っていると、お茶がはいったのか持ってくるウィズ。

 

 

「どうぞ」

 

「いただきます」

 

 

 あぁ…落ち着く…。こんなことしてる場合じゃなさそうだけど別にいいか…。

 

 世間話でもしよう。

 対面に座ってお茶を飲んでいるウィズに色々と質問する。

 

 

「なぁウィズ」

 

「はい。なんでしょう」

 

「歳いくつだったっけ?」

 

「20歳ですよ」

 

 

 20歳か…。イイね。

 

 

「じゃあ、リッチーになったのは何歳?」

 

「それも20歳ですね」

 

 

 ん?20歳…?

 

 あっ。

 

 

「な、なぁウィズ」

 

「なんでしょう」

 

「リッチーになってから何年…ヒィッ!」

 

「…」

 

 

 無言の圧力。

 指導中にからかいすぎてプンスカ怒った顔は可愛かったのに、この冷たい笑顔はめちゃくちゃ怖い。

 こ、これはパンドラの匣だな…。

 

 

「じ、冗談だよ、冗談…。アハハハハ…」

 

 

 気まずい空気を飲み込むようにお茶を飲む。

 その時。

 

 ビリッ

 

 

「!」

 

「ど、どうしたんですかヒデオさん?急に立ち上がって…」

 

 

 なんだこのアホみたいにでかい気は…。間違いなく過去最高レベル。

 それに、禍々しいというかなんというかまとわりつくような気持ち悪い気だ。

 これと似た気をどこかで感じた事がある。どこかは思い出せないが…。

 

 ここまででかい気を感じたのは、アクア、ウィズ、冬将軍と、少々及ばないがベルディアか。

 

 

 ……ん?

 

 

「なぁウィズ」

 

「はい」

 

「さっき言ってた知り合いってのは…もしかして魔王軍の関係者だったりする?」

 

 

 違うと言ってくれ。頼む。

 だが、俺の願いは届かず。

 

 

「えぇ、そうですよ。よくわかりましたね!魔王軍幹部のバニルさんが近々来るんですよ!」

 

 

 当たってた上に魔王軍幹部。

 い、いやまだこの気がそうと決まったわけじゃない…。

 

 

「…近々来るって連絡が来たのはいつごろだ?」

 

「ええと…4日くらい前なので、今日明日にはもう着くんじゃないでしょうか」

 

 

 それを聞いた俺は、ウィズに挨拶もせずに店から飛び出していた。

 

 何でこんな日によりにもよって幹部が来るんだ!

 しかも、どの辺りに居るのか詳しく知るために気の感知の範囲を広げたら、なんであいつらまで同じところにいるんだ!

 

 

 今日は一日休みたかったのに!!

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 ダンジョンの前。

 

 

「フハハハハ!この小娘の身体はこのバニルが借り[あぁどうしようカズマ!結構嬉しいシュチュエーションだ!]えぇい!やかましいわ!」

 

 

 なんと、ダクネスがバニルに体を乗っ取られてしまった。

 

 が、様子を見るに案外大丈夫そうだ。

 

 今はお札的なものでバニルをダクネスの体に封じている。

 セナがそれでも仲間かと言ってきたが、今は手段を選んでいる暇はない。

 めぐみんにはヒデオを呼びに行かせた。この状況じゃめぐみんを守れないからな。呼びに行くついでに一時離れといてもらう。

 

 しかし大丈夫そうと言っても、目の前にいるのが魔王軍幹部なのには変わりない。

 

 アクアが対悪魔用の魔法を試したが、ダクネスの耐性のせいで浄化できなかった。

 

 流石に爆裂魔法を浴びせる訳にはいかないので、ダクネスから仮面を引き剥がすしかないか?

 

 だが…。

 

 

「なかなかにいい性能の体だ!筋力、耐久力ともに申し分[お、おぉ…。私がほかの冒険者達を圧倒している…!なんか嬉しい!]おい!黙れとは言わんが台詞くらい最後まで言わせろ!」

 

 

 バニルがダクネスの体を使い大暴れしている。攻撃が当たるダクネスとか恐怖でしかない。

 そこまで当たらないのを気にしてるなら両手剣スキル覚えれば良いのに…。

 

 倒された奴らも命は取られていないとはいえ、もう戦うことは出来なそうだ。

 

 普段は役に立たない癖に敵の手に落ちた途端強くなるとか、俺の仲間厄介すぎるんだが!

 

 

「ヒデオー!!早く来やがれーー!!いや、来てください!ホントお願いします!!」

 

 

 早く来いやサイヤ人!!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 地上20m。

 

 

「ダクネスの気が…消えた…?いや、消えたというより、何かに覆われたような…」

 

 

 体力を残しつつ飛ばしているが、まだ着かない。

 この方角は恐らくキールのダンジョンだろう。そんな所にあいつら何しに行ったんだ?

 

 

 ウィズの店との中間地点当たりに着くと、なにやら俺を呼ぶ声が聞こえるような気がする。

 何だと思い辺りを見回すと。

 

 

「おーい!ヒデオ!!こっちです!」

 

 

 めぐみんが大声で叫び俺を呼んでいた。

 何の用かは知らないが、構ってる暇はない。

 

 

「悪いけど、俺今急いでるんだ!後にしてくれないか!」

 

「カズマがヒデオを呼んで来いと!今はキールのダンジョンで、他の冒険者と共に魔王軍幹部のバニルと戦ってます!早く私を乗せて連れてってください!」

 

「ちっ!仕方ねぇ!早く乗れ!」

 

 

 地面スレスレに降下し、めぐみんを背に乗せる。

 

 

「飛ばすぞ!しっかり掴まっとけよ!」

 

「はい!えっ…速っ!ひゃぁぁあ!!」

 

 

 めぐみんが乗ったのを確認すると、フルスロットルでキールのダンジョンへ向かう。

 

 

 待ってろよバニルとやら!!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「フハハハハ!どうする小僧!お前とそこの忌々しい青髪の女以外は全滅してしまったぞ!![どうしようカズマ!私結構強いぞ!]頼みの綱の退魔魔法もこの小娘のおかげで効かぬ!さぁ、忌々しいプリーストよ!貴様から倒してやろう![あぁ、アクア!逃げてくれ!]」

 

 

 ダクネス(バニル入り)が冒険者達相手に無双してしまい、今は俺とアクアを残すのみとなった。

 こいつ、攻撃が当たればこんなに強かったのか…!!

 

 

「ねぇカズマー!そろそろ助けて欲しいんですけどー!私の魔法効かないし、こいつめちゃくちゃ追い掛けてくるんですけど!」

 

「さ、サトウさん…?お仲間のプリーストが助けてと言っているのですが…」

 

 

 セナがそう言ってくるが、俺には何も出来ない。あんな危なそうなところに突っ込めるのはヒデオくらいだ。

 

 

「いや、無理ですよ。俺最弱職ですし。アクアにはヒデオが来るまで逃げ回っててもらいます」

 

「あなた、本当にあの人達の仲間なんですか…?容赦が無さすぎる気が…」

 

 

 ドン引きしながら俺を見るセナ。普段あいつらも俺に容赦ないからおあいこだよ。

 それに、適材適所って奴だ。

 

 

「いやぁぁ!カズマさん!カズマさん!助けてぇー!」

 

「頑張れ!もうちょっとしたらヒデオ来るから!」

 

「あんた、終わったら覚えときなさいよ!!ヒデオー!早く来てーー!」

 

 

 アクアが涙目になりながらそう叫ぶ。

 うん。早く来いよ。全く、何してんだあのサイヤ人は。

 

 そんなことを考えているうちに、アクアが追いやられてしまった!マズイ!

 慌てて駆け出すが、間に合わない…!

 

 

「フハハハハ!追い詰めたぞ!さらばだ!忌々しいプリーストよ![アクア!避けてくれ!頼む!]」

 

「いやぁぁぁ!」

 

 

 ダクネス(バニル入り)が大剣を振り上げ、アクアに振り下ろした!

 

 

 

 

 

 が、その刃がアクアに届くことはなく。

 

 

「あぶねぇ…。大丈夫かアクア」

 

「ヒデオ。私を背負った状態での白刃取りはやめて欲しいのですが。刃が頭にスレスレでかなり危ないんですが」

 

 

 さんざん俺達を待たせたサイヤ人が、頭のおかしい爆裂娘を背負いながら白刃取りでアクアを守っていた。

 

 

 来るのが遅いんだよアホンダラ!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 めぐみんとアクアを連れカズマの近くに下ろし、ダクネス(?)と対峙する。

 

 こいつ、なんで仮面なんて着けてんだ?それにさっきアクアを斬ろうとしてたし…。

 いや、こいつダクネスじゃない。気が違う。さっき感じた馬鹿でかくて禍々しい気だ。

 

 こいつが魔王軍幹部でウィズの知り合いか。

 

 

「お前がバニ、バニ…バニラか?」

 

「惜しい。突如現れた小僧よ。我輩は見通す悪魔バニル!地獄の公爵にして、魔王軍[ヒデオ!私の体は乗っ取られてしまった!さぁ、遠慮なく攻撃してくれ!]この小娘…!一番いい所で邪魔しおって!」

 

 

 なるほど。さっきダクネスの気が消えたのはこういう理由ね。

 しかし、こういう憑依系の敵は倒し方がめんどくさい時がある。乗っ取ってる奴を倒したら一緒に倒れるパターンと、本体さえ無事なら何度でもってパターンがある。

 とりあえず、事情を知ってそうなカズマに聞く。

 

 

「カズマ!どうすればいい!ダクネスをボコればいいのか、あの仮面を引き剥がせばいいのか!」

 

 

 そうは言ったものの、女の身体を殴るのは気が引けるし、ポリシー的にもそれは嫌だ。

 しかし、本人は喜んでいるようで。

 

 

「[ぜひ私をボコってくれ!さぁ来い!]期待の感情…この小娘…」

 

 

 そんな事を言い地獄の公爵をドン引きさせていた。

 いや、変な子ですいません。

 内心謝っているとカズマが。

 

 

「えぇと…。仮面とお札を剥がして欲しいんだが、ダクネスの身体を使って抵抗するからかなり厄介だ!つまり、ボコボコにしてから剥がすのがいいと思う!」

 

 

 そう言ってきた。両方じゃねぇか…。

 

 ダクネスは雌、ダクネスは♀、ダクネスはメス…。

 よし。

 

 

「おいダクネス!」

 

「[なんだ!]」

 

「てめぇは今から雌豚だ!!!」

 

「[ひゃいぃ!!]悦びの感情…貴様ら頭おかしいのではないか?」

 

 

 そう言われても、仕方ないじゃないか。こうでもしないとやってられん。

 流石に女は殴れない、が雌なら問題ない。そう無理やり思い込む。

 

 

「おっほん!気を取り直して。小僧。我輩はそこに倒れている冒険者達をたった一人でボコボコにした。この身体は素晴らしい!忌々しい神々の力にも耐性があるし、筋力も耐久性も高い。大剣のおかげでリーチも長い。そんな身体を手に入れた我輩に、武器も持たないコンバットマスターが敵うはずがない!」

 

「ごちゃごちゃうっせぇんだよ。こちとら休日出勤へのイラつきと魔王軍幹部との戦闘へのワクワクでよくわからん状態になってんだよ。早くやろうぜ」

 

 

 バニなんとかさんの脅しも聞かず、淡々と歩を進める。

 

 

「ほう、向かってくるのか。逃げずにこのバニルに近付いてくるのか」

 

 

 相手も俺にあわせて歩を進める。

 戦いは既に始まっている。

 

 

「近付かなきゃ、テメェを引き剥がせないんでな」

 

 

 そう言ったと同時に、互いに飛びかかる。

 

 

 あぁ…!!ワクワクしてるぞ…!!

 

 

 




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