ダクネスの実家に向かう馬車で。
「ダクネス…いや、ララティーナって貴族だったんだな。金持ちなのは知ってたけど、まさか貴族とは…。あ、ララティーナ様、肩お揉みしましょうか?」
「知り合いが権力者とわかった途端全力で媚を売るスタイル…嫌いじゃない。流石だなヒデオ」
聞いた話では、ダクネスことダスティネス・フォード・ララティーナの実家、ダスティネス家は王国の懐刀と呼ばれるくらい凄い貴族らしい。
俺もヒデオを見習って媚びまくろうかな。
「わ、私としては普段通り接してくれると有難いのだが…。あとララティーナはやめて欲しい」
「いい名前じゃないララティーナ!可愛いわよ!」
「そうだぞララティーナ。このパーティーにはもっと変な名前の奴がいるから大丈夫だ」
めぐみんが居ないからって名前ネタを使うスタイル…嫌いじゃない。
ちなみにめぐみんはゆんゆんとどっかに行く約束をしていたらしい。
あまり大人数で押しかけてもあれなので丁度いいかもしれない。
「……後でめぐみんにチクってやる」
「その場合お前を酷い目に遭わすけどいいの?」
それは悪手なんじゃないかヒデオ。
俺の予想通り、ドレスを着た変態は頬を紅潮させ息を若干荒らげた。
「ひ、酷い目…。望むところだ!」
「お前が望むとおりの仕打ちを俺がすると思うか?」
「あぁ…!どっちも捨てがたいな…!!」
「ダメだこりゃ」
やっぱり悪手じゃないか!
それはそうと、一体どんな仕打ちをするつもりだったのか気になる。
「ヒデオ、どんな仕打ちをするつもりなんだ?」
「知り合いにララティーナって名前を広めてやるだけだ」
「なっ…!それはよせ!私の望むタイプでは無い!」
なるほど。そういうのもあるのか。
「よし」
「よしじゃない!」
未だ名前いじりを続ける俺達に憤慨するダクネス。
そもそも何故俺達がダクネスの実家に向かっているのかと言うと、原因は俺の裁判にある。
めんどくさいので細かいところは省くが、ダクネスは今、あのクソ領主の息子とお見合いさせられそうになっているらしい。
俺達の予想通り領主はダクネスにご執心らしく、今までも色んな手を使って迫っていたそうだ。それ自体はダクネスの父親が突っぱねていたそうだが、今回は息子を交渉材料に使ってきたらしい。変な意味じゃないよ?
どうもこの領主の息子というのがダクネスパパにかなり気に入られてるようだ。
それで、どうにか婚約しないようにするために俺達を頼ったのだそうだ。
それにしても、婚約、婚約かぁ…。
複雑な気持ちはあるものの、これは好機かもしれない。硬さにしか定評がないドMが婚約により改心または寿退社すればパーティーがまともになるかもしれない。
とてつもない硬さは認めるが、攻撃が当たらなくなおかつ自分からモンスターに突っ込んでいくのは困る。
その問題児が減れば、俺の心労やヒデオの負担を減らせるだろう。
硬さは劣るが攻撃も出来る奴を入れてパーティーの増強もいいかもしれない。
それに俺たちへのメリット以前に、貴族の令嬢であるダクネスを冒険者稼業に縛り付けて良いのか?
いいや、良くない。
仮に魔王軍とかに捕えられてしまったら、『くっ殺』状態になることは間違いない。そうならない為にも、ここで寿退社してもらうのはどうだろうか?
………
これは皆が幸せになれる答えだ!
「…ダクネス。俺はやるぞ」
「おぉ…カズマ。いつもと違って積極的じゃないか。頼りにしているぞ」
俺の考えなどつゆ知らず、ダクネスは期待の眼差しで俺を見る。
俺は楽をするためには努力を惜しまない男。ここは全力でいかせてもらう。
△▼△▼△▼△▼△▼
メイド服。それは男の夢。
ここのメイド服はオーソドックスなロングスカートタイプだ。原点にして頂点ってやつか?露出が多くエロいのも良いが、こういうシンプルで実用性だけを追求したのも良い。
見てくれだけはいいアクアに、この言葉を送ろう。
「馬子にも衣装ってやつだな」
「あれ、ヒデオが私を褒めるなんて珍しいわね」
………。
「そうだね」
「ね、ねぇ、なんでそんな可哀想な人を見る目で私を見るの?」
「お前はもうそれでいいんだ」
「なんで顔を逸らすのよー!」
もはや何も言うまい。
これからもアクアのフォローをしていくことに若干の不安を覚えていると。
「おいヒデオ、ちょっとこっち来てくれ」
俺と同じく執事服を着たカズマが何か用があるのか俺を手招きした。
「何の用だ?ダクネスのドレスがエロイ件についてか?」
「それは概ね同意するが、ちょっと聞いておきたいことがあってな」
「言ってみ」
「実はーーーー」
カズマが聞いてきたのは、ダクネスの婚約についてどう思うか、だ。
なんというか複雑な気持ちはあるが、まぁ婚約したならしたで別に良いと思う。あいつの人生だしな。貴族だし政略結婚的なところは仕方ない。
大いなる力には大いなる責任が伴う。
これはこの場合にも言えることだ。
さらにこのクズマは、ダクネスの見合いを成功させようとしているようだ。
モンスターに突っ込んでいく問題児が寿退社し、新しいまともなメンバーを入れれば負担が減るだろうとの考えだろう。
確かにそれは思うが、今回の件で理解しているはずだ。俺達のパーティーは誰か一人欠ければ成り立たない、と。
俺としては背中を安心して預けられるのがあいつくらいしか居ないので抜けられては困るが、婚約するしないはダクネスの自由だ。
もしダクネスが婚約し寿退社する事になってもあいつの人生だし特に口出しするつもりもない。
なので、カズマが何をしようとダクネスが出した結論の理由に納得さえすればどっちだろうと受け入れるつもりだ。
ダクネスの決定に納得がいかなかった場合は、それはまぁ後で。
結論は出せたので、カズマに伝える。
「なるほど…。お前がそう考えているなら止めはしないが、協力もしないぞ。俺はダクネスの意思を尊重する。あいつが本気で嫌がって、その理由に俺が納得したならお前の邪魔だってするからな」
「そうか…。協力してくれないのは惜しいが、仕方無いな。お前に邪魔されないようにとなると、ダクネスの意思を変えないとな…」
返答を受けるとカズマは特に落ち込んだ様子もなくブツブツと呟き始めた。
この子、悪い子じゃないんです!
ただデリカシーと遠慮と容赦が存在しないだけで根はいい子なんです!
俺が心の中でカスマのフォローをしていると、俺達を呼びにダクネスが部屋に戻ってきた。
「三人とも、準備はいいか?私はカズマの提案通りに相手が婚約の申し出を破棄するような言動を取る。私がおかしくなったとかではないので、決して止めないように」
カズマの提案とはこうだ。
とりあえずお見合いの場に立ち、そこでダクネスが如何に変な子かを見せつけ、相手から婚約を断ってもらう、というものだ。ダスティネスの評判にあまり影響しない程度の振る舞いだが。
向こうから断られたら親父さんも当分の間はお見合いの話を持ってこないだろうという事だ。
この作戦については特に止めたりはしない。
しかし、さっきのカズマの思惑を聞いた俺としてはまぁうまくは行かないだろうと思っている。
変な事をしようとすればそれを妨害するだろうし、ダクネスの意識も誘導しにかかるだろう。敵に回すと厄介この上ない相手だ。
とりあえず心ばかりのアドバイスをダクネスに送る。
「まぁ普段通りやってれば充分変だからそれでいいと思うぞ」
「そ、そうか…?普段の私はヒデオがドン引きするくらい変なのか…?」
「うん。自覚なかったのか?」
即答すると何故か頬を赤らめながら少し落ち込むダクネス。
いや、あれを見てドン引きするなと言う方が酷です。
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ダクネスの親父さんと対面。
「ララティーナ。そちらの三人は?」
ダクネスの後ろに控えている俺達三人に疑問を持ったのか、ダクネスに聞いた。
並び順としてはカズマ、俺、アクアだ。
「この方々は、私の冒険仲間ですわお父様。臨時の執事とメイドとして同伴させようかと」
やべぇ…!ですわって…!笑うな…!笑うんじゃない…!
隣を見ると、カズマもプルプルと震えている。
我慢だ…!
「そ、そうか…。うむ、では御三方。冒険仲間と見込んで頼みがある。ララティーナが粗相をしないように見てくれないか?本家の使用人は遠慮してララティーナに強く言えないだろう。そこを気心の知れた君たちに任せたい。良いだろうか?もし見合いが成功したなら、報酬も出そう」
優しく真剣な目だ…。恐らく娘の事を溺愛しているんだろう。縁
談も政略結婚的なものでなく本当に娘を心配して持ってきているとみた。
俺は期待にそう働きが出来るとは限らないし何かあった時の責任も取りたくないのでとりあえずここはカズマが何か言うのを待つ。
数秒の沈黙の後、カズマが。
「お任せください旦那様」
キリッとした表情でダクネスの親父さんに言った。
こういう時はやる気出すんだよな。
カズマは俺とアクアの方を向くと。
「二人共、いいな?」
そう確認してきた。
逃げ道はないという事か。
この状況では断る事が出来ないので、ダクネスの親父さんに向き直り丁寧な口調で。
「お任せください」
「私に任せなムグッ」
不敬な発言をしようとしたアクアの口を塞ぎながらそう言った。言葉遣い、大事。
しかし、親父さん直々に頼まれては仕方が無い。
言われた通りダクネスが粗相をしないように注意しよう。
ここでダスティネス家に恩を売っておけば将来的に役に立ちそうだし。
全責任はカズマにあるので安心。
△▼△▼△▼△▼△▼
アレクセイ・バーネス・バルター。
それがダクネスの見合い相手の名前。
世間の評判もよく、使用人にも優しいイケメン。聞いた感じと見た感じでは普通にいい奴だ。
父親とは違って気が濁った感じはしていない。むしろアクア並みに透き通っている。
お見合い、のはずなのだが。
「どうしたカズマ!この程度か!」
「硬い!」
何故かダクネスVSカズマで手合わせをしている。
事の発端はなんだったか。
そうだ。ダクネスとバルターが庭を散歩中に、何故かダクネスがバルターと手合わせすることになったのだ。
それで、バルターに満足しなかったダクネスが、真の鬼畜を見せてやる、とカズマと手合わせを始めたのだ。馬鹿なのかコイツは。
ちなみにダクネスはドレスのスカートを引き裂いたのでかなり太ももが露出されている。エロい。ここ重要。
俺がダクネス(主に太もも)をガン見していると、不安に思ったバルターが。
「あの…止めないのですか?流石に最弱職とクルセイダーでは…」
と聞いてきた。いい人だな。
素性はとっくにバラしてるので堅苦しい言葉遣いはなしにして。
「止める必要も無いからな。俺に矛先が向いてもめんどくさいし。それに、カズマは最弱職だけあって手段を選ばない。敵に回すとかなり厄介だぞあいつ」
「そ、そうですか…」
「にしても、あんたいい人だな。あって1日の奴の、それに平民の心配してくれるとか」
「それは民の税金で生活している者としては当然の責務かと」
やっべぇ。いい人すぎる。コイツの親父とは大違いだな。
「貴族がみんな、ダスティネスのおっさんとかあんたみたいな奴なら良いのにな」
「フフ。そうですね」
俺がバルターと仲良くなっていると。
「いででででで!折れる折れる折れる!」
「体力を吸い取られる前に折ってやる!」
ダクネスとカズマが掴み合っていた。
体力を取られるとか言っているところをみると、ドレインタッチを使っているのだろう。
二人の叫びを聞き心配になったバルターがまた俺に言ってきた。
「あ、あの!本当に止めなくて大丈夫なんですか!?」
「大丈夫大丈夫。うちのプリーストは優秀だからな。仮に死んでも大丈夫だ」
「そういう問題ではない気がするのですが…」
不安を残しつつもバルターは引き下がる。
俺達の仲間としての信頼と勘を信じることにしたのだろう。
……そんなもんあったっけ?
数秒後、ダクネスが地面に倒れ伏した。
カズマがダクネスに何か言ったのか、ダクネスはわざと負けたように見える。こいつら…。
騒ぎを聞きつけたダクネスパパがあられもない姿で気絶するダクネスを見て、その場にいた男全員を処刑しようとしたのはまた別のお話。
短い。感想ください