この素晴らしい世界に龍玉を!   作:ナリリン

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なんか評価が黄色くなっててビビりました。そして地の文をどうするか悩んでいます。


第十二話

 

 デュラハンの注意勧告から1週間。

 

 

「多少キツくてでも、クエストを受けましょう!お金が欲しいの!」

 

 

 アクアが突然そんな事を言い出した。

 

 

 

「「「えー…」」」

 

 

 特にお金に困ってもいない俺とカズマ、めぐみんは不満そうな声を漏らす。

 

 

「私は構わないが…。私とアクアだけでは攻撃力に欠けるだろう」

 

 

 ダクネスは乗り気なようだが、俺達はちがう。そんな俺達を見て、アクアが泣きわめき始めた。

 

 

「お、お願いよーー!もうバイトは嫌なの!コロッケが売れ残ると店長が怒るの!頑張るから!今回は私、全力で頑張るからぁぁぁ!」

 

 

 俺とカズマが困った様に顔を見合わせる横で、めぐみんとダクネスは泣きわめくアクアを慰めている。

 

 

「はぁ…。しゃーねーな…。じゃあ、良さそうなの探して来いよ。物によっては付いてってやるから」

 

「…!うん!ありがとう!」

 

 

 カズマがそう言うと、アクアはてとてと掲示板の方へ走っていく。そんなアクアを見てめぐみんが不安そうに呟く。

 

 

「アクアに任せて大丈夫でしょうか?何かとんでもないようなものを取ってきそうなのですが…」

 

「そうだな。私はどんなものでも構わないが…」

 

「不安になってきた。行くぞカズマ」

 

「おう」

 

 

 俺はとカズマを連れてアクアの様子を見に行く。

 

  予想通りというかなんというか、アクアが取ったのはパッと見難易度がやばいように見えた。

 

「んー…。よし。あっ!何すんのよヒデオ!」

 

「よし、じゃねえ!何取ったこいつ…。パッと見難易度がえげつなかったような…」

 

 

 アクアの剥がした依頼書を取り上げ、カズマに渡す。

 

 

「んー?なになに…。『マンティコアとグリフォンが縄張り争いをしていて邪魔です。二匹まとめて討伐してください。五十万エリス…』ってアホか!」

 

 

 カズマは文句を垂れるアクアをよそに依頼書を掲示板に貼り直す。今の俺たちじゃあまだまだ無理な難易度だ。

 

 

「なによ。めぐみんの爆裂魔法でまとめて吹き飛ばせば簡単じゃない」

 

 

 まとめるのは誰がやるんだ、と言いたげなカズマと俺をよそに、アクアは別の依頼を見つけてきた。

 

 

「あ、これなんていいじゃない!」

 

 

 アクアは依頼書を剥がし、俺達に見せてくる。何だ?

 

 

「なになに…。『湖が汚くてブルータルアリゲーターが住み着いて困っています。湖の浄化をお願いします。湖が浄化されるとモンスターはどっかに行くので討伐はしなくてもいいです。三十万エリス』…討伐しなくてもいいのはわかったが、湖の浄化なんて出来るのか?」

 

「ふん。バカね。私を誰だと思ってるの?と言うか、名前や外見で私が何を司る女神かぐらい分かるでしょう?」

 

「宴会の神だろ?」

 

「違うわよ!」

 

「そうだぞカズマ。コイツが司ってんのは怠惰と傲慢と強欲と憤怒と暴食と嫉妬だぞ」

 

「なるほど。一理ある」

 

 

 七つの大罪を六つも司るとか罪深すぎるだろこの女神。

 

 

「それも違うわよ!と言うかなんで色欲が無いのよ!この美しさを見たら真っ先に出てくるのは色欲でしょ!?」

 

「「…」」

 

「何か言いなさいよー!!」

 

 

 半泣きになりながらもアクアは自分が水を司る女神だと説明した。初めからそう言え。

 アクア曰く水に触れるだけで浄化が出来るとのことでカズマが作戦を思いつき、クエストを受ける事にした。

 

 …作戦が鬼畜すぎるのは黙っておこう。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 翌日。依頼のあった湖にて。

 

 

「おーいアクアー!浄化はどうだー?トイレ行きたくなったら言えよー!」

 

 

 カズマが浄化をしているアクアに声をかける。俺達は安全の為に湖から少し離れた場所でアクアを眺める。なんかダシとってるみたいだな。

 

 

「浄化は順調よー!あと、アークプリーストはトイレなんて行かないから!」

 

 

 アクアはモンスター捕獲用の檻の中から、一昔前のアイドルのようなセリフを交えて返事をしてきた。冗談言うくらいにはまだ大丈夫なようだな。

 

 

「閉じ込められてますけど、なんか大丈夫そうですね。ちなみに、紅魔族もトイレには行きません」

 

 

 めぐみんもアクアのように昔のアイドルみたいな事を言い出した。ほほう。トイレに行かないと。

 

 

「わ、私も、クルセイダーだから…と、トイレには…。うぅっ!」

 

「ダクネス。対抗しなくていい。こいつらは日帰りで終わらんクエストに連れてって、本当かどうか確かめてやる」

 

 

 なんて事を思いつくんだ。それは是非ともやって欲しい。

 

 

「トイレには行きませんが、謝るのでやめてください。しかし、ワニ来ませんね。このまま何事も無ければ良いのですが…」

 

「おいフラグビンビンなことを言うな。本当に来たらどうする」

 

 

 俺がそう言うと同時に、湖の方から悲鳴が聞こえてきた。

 あっ。

 

 

「嫌ぁーー!なんかきた!なんかきた!」

 

 

 見ると、ワニの群れがアクアの檻を取り囲もうとしていた。

 

 多っ!

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 2時間後。ワニが現れてきてからというものの、アクアは一心不乱に浄化魔法を使い続けていた。

 

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!」

 

 

 アクアが入ってる檻をガジガジとワニ達が齧り、回し、蹂躙している。いいぞもっとやれ。

 

 

「『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!ギシギシいってる!檻が変な音たててるんですけど!!」

 

「アクアー!ギブなら言えよー!鎖引っ張って檻ごと引きずり出してやるからなー!」

 

「嫌よ!ここまでやったんだから!諦めるもんですか!『ピュリフィケーション』!『ピュリフィケーション』!わあぁぁぁー!今、鳴っちゃいけない音がなったーー!」

 

「流石に可哀想になってきたな…。ヒデオ。なんとか出来ないか?」

 

 

 俺なら遠距離からアクアを巻き込まずに攻撃ができる。そう思ったらしいカズマが聞いてきた。

 

 

「んー。できない事はないが、調整がシビアになってくるな。檻に当てないようにしないといけないし、衝撃波が強すぎてもいけない。それに倒しきれなかったワニがこっちに来る可能性もある。やるか?」

 

「よし。やめとこう」

 

 

 さっきまで仲間の心配をしていた仲間思いのカズマはどこに行ったのかと思うレベルの手のひら返し。見事だ。

 カズマの自己保身のレベルに感心していると、ふとダクネスが。

 

「しかし、あの中ちょっとだけ楽しそうだな…」

 

「…行くなよ?」

 

 

 一応いつでもダクネスを止めれる体勢に入っておこう。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 更に数時間後。浄化は完了したようで、水は透き通り綺麗になっていた。ワニ達もどこかに行ってしまった。

 

 

「…おーいアクア。生きてるかー?ワニ達はどっかに行ったぞ」

 

 

 檻へ近付き、アクアの様子を伺う。

 

 

「ぐす…えぐ…ひっく…」

 

 

 檻の中には膝を抱えて泣いているアクアが居た。この状況では無理もない。

 

 

「ほら、浄化が終わったんだし帰るぞ。俺ら4人で話し合ったんだが、今回の報酬、お前が全部持っていけ。三十万だぞ」

 

 

 アクアはその言葉にピクリと動いたが、檻からは出ようとはしない。

 

 

「おいアクア。いい加減檻から出ろよ。もうワニは居ないから。歩きたくないならオレがおぶってやるから」

 

 

 そう言うが、アクアは首を振った。

 

 

「…檻の外は怖いから、このまま連れてって」

 

 

 どうやらカエルに次いでまたアクアにトラウマを植え付けてしまったようだ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 クエストも終わり、街に帰ってきた俺達。

 アクアが入った檻を引きながら街中を進んでいる。

 周りの人達からの視線が痛い。

 

 

「もう街だぞ。いい加減出てくれよ」

 

「ほっとけカズマ。こういう時はほっとくのが一番だ。それにしても、今回は何事もなくクエストが終わってよかったな」

 

「おい、それフラグ…ってもう街中か。なら心配はないな」

 

 

 俺とカズマがフラグビンビンなセリフを言ったその時、何者かがアクアの檻が乗っている荷台に飛び乗った。

 

 

「め、女神様!?何をしているのですか、そんな所で!」

 

 

 その男はアクアを女神と呼び、鉄格子を掴んでいる。

 すると、モンスターでも破壊できない檻の鉄格子をいとも容易くグニャりと曲げ、中のアクアに手を差し伸べた。うわ、すげぇ。あんなん出来るかな。

 

 

「おい。急に出てきて、私の仲間に何の用だ?気安く触れるな」

 

 

 ダクネスが普段の姿からは想像もできないほど騎士っぽい事を言い、謎の男の肩を掴む。普段からこうならいいのに。

 

 

「おお…。カズマ、ダクネスが騎士っぽいぞ」

 

「だな。普段からこんなならいいのに」

 

 

 そんな事を言うと、ダクネスは頬を赤らめた。普段はこうじゃない自覚あるんだな。

 

 

「んっん!!おい貴様。アクアの知り合いという割には、肝心のアクアがお前に反応していないのだが」

 

 

 咳払いをし、男に詰め寄るダクネス。そんな様子を見てカズマはこっそりとアクアに耳打ちする。

 

 

「おいアクア。あれお前の知り合いだろ?女神とか言ってるし。お前が何とかしろよ」

 

「女神…?…ああっ!!そうよ!私は女神よ!それで、女神の私にこの状況をどうにかして欲しいってわけね!」

 

 

 どうやら自分が女神だということを忘れていたようだ。こいつ…。

 アクアは檻から出て、謎の男を一瞥すると…。

 

 

「誰?」

 

 

 どうやら知らないらしい。

 しかし、男の方は意外だったようで。

 

 

「い、いや!僕ですよ!御剣響夜ですよ!あなたに魔剣グラムを頂きこの世界に転生した…!」

 

 

 御剣響夜と名乗ったその男は、転生特典らしい剣を抜き、アクアに見せた。ほほう。なかなかの業物。

 

 

「あ、あー…。居たわねそんな人も!他にも結構な数を送ったし、忘れててもしょうがないわよね!」

 

 

 アクアの言葉に御剣は若干顔を引きつらせたが、すぐに戻し笑顔でアクアに話しかける。

 …なんかいけすかねぇな。

 

 

「ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張ってますよ。ところでアクア様は何故この世界に?というか、何故檻の中に?」

 

 

 そう言いつつ、御剣は何故かカズマと俺をチラチラ見る。なにみてんだコラ。

 見られた理由が分からないのでカズマに耳打ちで聞く。

 

 

「なぁカズマ。あいつ何でこっち見てんの?なんか名前といい顔といい言動といい、いけすかねぇしなんか腹立ってきたんだが」

 

「おおかたアクアを閉じ込めてたのは俺らの仕業だとか思ってんだろ。入るよう提案したのは俺だけど…。イラつくのはわかるが我慢しろ」

 

 

 いつまでも黙っていても話が進まないので、カズマが御剣にアクアが来た経緯やその他諸々を説明し始めた。

 

 

 

 カズマが説明を終えた途端、御剣はカズマの胸倉を掴んだ。

 そしてかなり憤っている

 

 

「女神様を無理やり連れてきて!?挙句の果てに檻に閉じ込めて湖に浸けた!?君は一体何を考えているんだ!?」

 

 

 俺も始めはそう思った。

 御剣がカズマを責め立てるが、それを慌ててアクアが止めに入る。

 

 

「ちょ、ちょっと!私としては連れてこられた事はもう気にしてないし、それなりに楽しくやってるのよ?カエルに向けてぶん投げられたりしたけど…。それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって怖かったけど怪我もなく無事に完了できた訳だし。しかも、報酬を全部くれるって言うの!」

 

 

 アクアがそう言うが、御剣は憐れむような目でアクアを見る。

 

 

「…アクア様。こんな男にどう丸め込まれたのか知りませんが、こんな扱いは不当ですよ。それに、カエルに向かってぶん投げられた!?一体この男は何を考えているんだ!?」

 

「アクアをぶん投げたのは俺だ」

 

 

 流石にこれ以上罪を重ねるとカズマが酷い目にあいそうなのでカズマを庇う。

 

 

「なるほど…。その事は後で聞くとして、アクア様は普段どこで寝泊まりしているんですか?」

 

「みんなと一緒に馬小屋、だけど…」

 

「はぁ!?」

 

 

 アクアがそう言うと、御剣は有り得ないとでも言いたげな表情で更にカズマの胸倉を掴む力を強める。馬小屋の何がおかしいんだ。

 

 

「…痛いんですけど」

 

 

 睨んでくる御剣に、カズマは睨み返すが一向に力が弱まる気配はない。流石にここまでやられて黙ってるわけにはいかないので、俺とダクネスが御剣の肩を掴む。

 

 

「おい。いい加減にしろ。知り合いだかなんだが知らないが、礼儀知らずにも程があるだろう」

 

「その通りだ。いきなり出てきて何なんだよ、何様のつもりだ?」

 

 

 そう言われ、御剣はカズマを解放した。

 なんだ。やけに素直だな。頭が固いだけで悪い奴では無さそうだが、ムカつくのは別だ。

 

 

「すまない。つい頭に血が上って…。クルセイダーに…。君はなんだ?やけに軽装だが…」

 

「コンバットマスターだ」

 

「なるほど。そこの子はアークウィザードか。ふむ。パーティーメンバーには恵まれているようだね」

 

「そりゃどうも」

 

 

 解放されたカズマが襟元を正しながら若干御剣から距離をとる。顔を見るにかなりイラついている。

 

 

「しかし、こんなにも優秀そうなメンバーを馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいと思わないのか?就いてる職業も、最弱職らしいじゃないか」

 

 なるほど、一理ある。

 

「なぁカズマ。コイツの言い分聞いてたらお前ってかなり恵まれてるように思えてきたんだが」

 

「現実を見ろ。お前はともかく、コイツらが優秀なんて、そんな片鱗どこにもないだろ」

 

「あっ…。スマン…」

 

「わかってくれればいいんだ。それにしても、馬小屋で泊まるのなんて普通だろ?なんでこいつキレてんだ?」

 

「あれだろ。初めから最強レベルのチートで金に困る事は無かったんだろ。俺ら以外のチート持ちなんてそんなもんだろ」

 

 

 カズマはやたら上から目線で説教をしてくる御剣に、かなり腹がたっているように見える。俺もカズマほどではないが、いい気分はしていない。俺達の怒りも知らずに、御剣は憐れむような視線でアクア達をみた。

 

 

「君たち、今まで苦労してきたんだね。これからは僕のパーティーに入るといい。高級な装備品も買い揃えてあげるし、もちろん馬小屋でなんて寝泊まりさせない。パーティーの構成的にもバランスがいいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と盗賊。クルセイダーのあなたに、アークウィザードのその子にアクア様。ピッタリなパーティじゃないか」

 

「俺とカズマが入ってないんだが。まぁハーレムを作りたいってんなら邪魔しねーし、お前のパーティーに入るくらいなら俺は魔王軍に下るけど」

 

「その時は俺も連れてってくれヒデオ」

 

「いいぜ。一緒に世界を滅ぼそう」

 

 

 身勝手で自分本位な御剣の提案に冗談と皮肉を交えて返しと、御剣は顔を引きつらせた。

 

 しかし、待遇としては悪くないので他のメンバーの反応が気になったが、それは杞憂に終わった、

 

 

「あの人マジキモイんですけど。ナルシストも入っててやばいんですけど」

 

「私もあの男だけは何故かボコボコにしたい。ていうか生理的に無理だ」

 

「そろそろ爆裂魔法ぶち込んでいいですか?いいですよね?」

 

 

 ご覧の通り大不評のようである。内心ざまぁと思いつつ、爆裂魔法を撃とうとするめぐみんを止める。アクアがカズマの裾を引っ張り、もうギルドに行くように促した。

 

 

「えーと、俺の仲間は満場一致であなたのパーティーには入りません。それじゃあ」

 

 

 去ろうとしたが、御剣が前に立ちはだかった。なんだこいつ。

 

 

「どけよ。邪魔だ。さっきも言ったが何様のつもりだ?そろそろキレるぞ?」

 

 

 前に出ようとした、が、カズマが止めてきた。

 

 

「こいつの言うとおり、どいてくれます?」

 

「悪いが、アクア様をこんな境遇には置いてはおけない。それにそこのキミはアクア様をぶん投げたって言うじゃないか。尚更だ。アクア様は僕と一緒に来た方が絶対にいい。一つ提案があるんだが…」

 

「そーすか。どうでもいいんでどいてくれます?」

 

 

 イラつきながら対応するカズマに、耳打ちで話す。

 

 

「なぁカズマ。この後の展開が目に見えてわかるんだが」

 

「俺もだ。だからさ…」

 

 

 カズマが耳打ちで作戦を伝えてきた。よく思い付くな。

 

 

「了解。再起不能にしてやる」

 

 

 コソコソ話をする俺達に怪訝そうな表情で御剣が話を続けた。

 

 

「何を話してるのか知らないが、僕の提案はこうだ。アクア様を持ってこられる者として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。レベル差があるだろうしそこのコンバットマスターとの二人がかりで構わない。君たちが勝ったら何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」

 

「「よし乗った!じゃあ行くぞ!」」

 

 

 御剣の提案と同時に飛び出す。既にイラつきが限界に来ていた俺達には遠慮という二文字はない。

 

 

「え、ちょっ!待っ…!」

 

 御剣が遅れて剣を抜くがもう遅い。気の開放をし高速で御剣の背後に回り、カズマは左手をかざす。

 

 

「スティール!」

 

 

 カズマがスティールで魔剣を奪う。流石の幸運だ。1発で当たりを引くとは。

 奪われた御剣は何が起きたのか理解出来ていないのか、素っ頓狂な声を出した。

 

 

「へ?」

 

 

 魔剣を奪われ混乱し隙だらけな御剣は、俺の格好の餌食になる。

 

 

「勝った!死ねい!」

 

 

 俺は御剣の股間を全力で蹴り上げた。

 

 

「はぅあ!?」

 

 

 そんな声を出した御剣は、白目を剥き泡を吹き気絶した。

 

 ふぅ。やれやれだぜ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「あースッキリした!ナイススティールだカズマ!」

 

「お前こそナイスな立ち回りとトドメだったぞ!あいつ、はぅあ!?とか言ってたもんな」

 

 

 御剣を叩きのめし、スッキリした俺達は互いの健闘を称えあっていると。

 

 

「卑怯者卑怯者卑怯者ー!」

 

「あんたら最低よ!この卑怯者!1人ずつ正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

 

 そんな2人に、御剣の仲間らしき美少女が抗議し、俺達を卑怯者と罵倒する。やかましいなあ。

 

 

「あ?なんだお前ら。さっきまで黙ってそいつの横暴を見てた癖に。自分たちに不利益が出た途端わめき出すのか?都合のいい脳みそしてんな。それに、二人がかりで構わないって言ったのはコイツだ。俺達はルールに則っただけだ。文句を言われる謂れはない」

 

「んじゃ、そう言う事なんで。何でも言うことを聞くって言ってたな。じゃあこの魔剣貰っていきますね。ヒデオもなにか貰っとけよ」

 

「だな。財布もらっとこ」

 

「なっ!?バカ言ってんじゃないわよ!財布はともかく、魔剣はキョウヤにしか使えないのよ!」

 

 

 その少女は自信たっぷりに言って来た。そうなのか…。

 

 

「え?マジ?これで俺もチート持ちになれるって思ったんだが」

 

「そうよ。その魔剣グラムはそののびてる人専用よ」

 

 

 アクアが言ってるんだし本当なんだろう。

 

 

「マジか…。まぁ折角だし貰っておくか。じゃあな。そいつが起きたら、恨みっこなしだって言っといてくれ。じゃ、行くか」

 

 

 カズマがそう言い皆とギルドに向かおうとするが、御剣の仲間の少女達が武器を構える。

 

 

「ちょちょちょ、待ちなさいよ!」

 

「キョウヤの魔剣返しなさいよ!こんな勝ち方認めないわ!」

 

 

 そんな事を言う2人に、再び俺達が前に出る。

 

 

「別にいいけど、真の男女平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせれる公平な男。手加減してもらえると思うなよ?公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ?」

 

「俺は基本的に女に手を出したくはないが、ムカつく女は別だ。カズマみたいに陰湿な技はないが、服だけを消し飛ばすとかは出来るぞ」

 

 

 言いながら指をワキワキさせる俺達に、2人の少女は何かを感じ取ったのか後ずさる。ほれほれほほーれ。

 

 

「「「うわぁ…」」」

 

 

 ついでにアクア達も引いていた。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 御剣との一件から数時間後。ギルドにて。

 

 

「なんでよぉーー!!!」

 

 

 またしてもアクアの叫び声が響き渡る。

 

 どうやら、御剣が壊した檻の修理代を差し引いて報酬を渡されたらしい。修理代は20万かかるようで、10万しか貰えなかったアクアは意気消沈している。どんまい。

 

 

「その…ドンマイ。まぁ飯でも食って機嫌なおせ。あいつから奪った財布の金で奢ってやるから」

 

 

 そう言いメニューを渡す。

 

 

「ぐぬぬ…!あの男!今度あったらボコボコにした挙句修理代を巻き上げてやるわ!」

 

 

 メニューを握りしめながら御剣への恨みをつのらせる。

 

 

「俺はもうあいつには会いたくねぇな」

 

 

 カズマがそんな事を言うと。

 

 

「見つけたぞ!佐藤和真!田中英夫!」

 

 

 噂をすればなんとやら。件の御剣たちがギルドの入口に来ていた。カズマたちのフルネームを叫び若干内股になりながらもズンズンと歩いてくる御剣。まだ効いてるみたいだな。

 

 

 俺達のテーブルについた御剣は、バン!とテーブルに手を叩きつける。

 

 

「君たちの事は、ある盗賊の女の子に聞いたら教えてくれたよ。佐藤和真はぱんつ脱がせ魔だってね。田中英夫の方はおっぱい星人だとね!他にも、女の子をヌルヌルにするのが趣味の鬼畜コンビとも噂になっていたよ!」

 

「「おい待て。それ誰が広めてたのか詳しく」」

 

 

 セリフがハモる。しかしそんな俺達を他所に、御剣はアクアへ話しかける。

 

 

「アクア様。僕はこの男から魔剣を取り返し、必ず魔王を倒すと誓います!ですから、同じパーティーに…」

 

「ゴッドラッシュ!!!」

 

「ぐぼぇ!!」

 

 

 御剣が言い終える前に、アクアがラッシュ食らわせた。流石高ステータスと言ったところか。御剣は吹っ飛んだ。という凄まじいラッシュだな。流石女神。

 

 

「あぁっ!キョウヤ!」

 

 

 御剣の仲間の少女達が駆け寄る。しかし、そんな2人より先にアクアが御剣にツカツカと詰め寄る。

 

 

「ちょっとあんた!檻の修理代払いなさいよ!三十万よ三十万!とっとと払いなさいよ!」

 

「さっき二十万とか言ってたような」

 

「しっ!黙っとこうぜ」

 

 

 そんな会話をする俺達の話は聞こえていないのか、御剣は素直に金を渡す。どうやら予備の財布があったようだ。金を受けとり上機嫌なアクアがホクホク顔で店員を呼ぶ。

 

 そんなアクアを気にしながらも御剣は悔しそうにカズマに話しかける。

 

 

「あんなやり方でも負けは負けだ。それにこんなことを言うのは虫がいいのも理解している。だが頼む!魔剣を返してくれないか?店で一番いい剣を買ってあげるから!」

 

「なぁミツルギとやら。その交渉無駄だぞ。よくカズマを見てみろ」

 

 

 御剣にそう言うと御剣は素直に従い、そしてなにかに気づく。

 

 

「お、おい。佐藤和真?ぼぼ、ぼくの魔剣は…?」

 

 

 そう聞かれ、黙っている意味もないのでカズマは素直に真顔で答えた。

 

 

「売った」

 

「ちっくしょぉぉぉ!!」

 

 

 御剣は涙目でギルドを飛び出して行った。

 

 もう来るなよー。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

「一体何だったのだあいつは…。ところで、先程からアクアが女神とか言われていたが、何の話だ?」

 

 

「そういえば前もそんなことを言ってましたね」

 

 

 そう聞くめぐみんとダクネスに、アクアが立ち上がり自信満々に答えた。

 

 

「今まで黙っていたけど、私は女神アクア。アクシズ教団が崇める御神体よ!」

 

「「と言う夢を見たのか」」

 

「違うわよ!なんで誰も信じてくれないのー!?」

 

 

 そんなやり取りをしていると、ギルドからまた放送が鳴った。

 なんだ?

 

『緊急!緊急!冒険者各員は、武装して正門に集まってください!特に、サトウカズマさん御一行は大至急!』

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 




ここまで長くなると分割したくなるけど、物語的に仕方ないよね!

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