魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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今回は今までよりちょい長めです。


第8話【一人ぼっちじゃないよ】

「ティロ・フィナーレ!!」

 

その必殺の一撃に、刺々しい頭を持つ四足の物体は呆気なく爆発四散した。その存在が消滅したことによって結界が解除され、マミ、まどか、さやか、キュウべえは現実世界に戻って来た。

辺りを静寂な闇が包む夜の公園。マミはこの日も魔法少女としての戦いをまどか達に見せる為にここで戦闘をしていたのである。

 

「やったーマミさん!カッコいい!」

 

「もう、危険な事だって言う意識はある?」

 

さやかの称賛の言葉にそう返しながらも、満更では無いような様子のマミ。

そこへ一人の人物が現れる。

 

「あんまり遅くまで出歩いてると、補導されちゃうぜ?」

 

そう言いながら現れたのはアキオだった。しかしさやかは彼の事を歓迎せず、それどころか邪険にするような目付きで見ていた。

どうやらさやかの中ではアキオは鬱陶しい存在として認識されてしまったようだ。

 

一方のマミは笑顔で「魔女の反応があったから」と説明し、昨日別れる前に生まれてしまった歪な空気は引きずって無いように見えた。

表向きは・・・

 

「マミちゃん、今朝話したと思うけど魔女退治の際は時間とか気にしないで俺かサトリに連絡してって言ったよね?」

 

そう、マミには昨日決めた方針を今朝彼女が学校に行く時に話しておいたのである。勿論その時は彼女も了承してくれたのだが、実際は彼がここにいるのは偶然通りかかっただけで、つまりは今朝の話を無視した事になる。

 

「ごめんなさい、でもアレは魔女じゃなくて使い魔だったからわざわざ知らせる程じゃないと思ったんです」

 

心配無用といった様子で語るマミ。

 

「そっか、まあ何が起こるか分かんないし次はちゃんと教えてくれよな!」

 

それに対しアキオは今回の事をこれ以上言うのはやめた。

 

マミは大人びて見えるが実際はまだ中学生、子供だ。それも難しい年頃でもあり、下手に言葉で分からせようとすれば溝は深まるだろう。

だからこそ深くは追及せず、なるべく彼女達を見守るスタンスをとる事にしたのだ。

 

「もう夜だしさ、送ってくよ」

 

「なら私は大丈夫ですから、鹿目さん達をお願いします」

 

「マミちゃんは?」

 

「あんまり女の子の事を根掘り葉掘り聞くと嫌われますよ?」

 

「はは、ごもっとも」

 

そう言いながらアキオにはマミがこれから行おうとしている事は分かっていた。

 

「マミには僕が着いてるから安心してくれ、アキオ」

 

アキオの心配を分かったかのようにキュウべえがマミの肩に飛び乗った。今のように普段は間違いなく味方に思えるのだが、ナガミミやマスターの指摘が気になりアキオはキュウべえに苦手意識を持っていた。

それから二人が夜の街へ向かうのを見てアキオはケータイを取りだしある人物へと連絡を入れた。

 

「じゃあアキオさん、その、よろしくお願いします」

 

そのまどかの言葉を聞くと同時にケータイをしまうと、アキオは何時もの軽い調子で返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

「あのさ、何でアキオさんはマミさんの事否定すんの?」

 

それはまどか達を送る道の途中、ずっと黙っていたさやかが突然発した疑問だった。まどかはさやかの物言いにあたふたするが、アキオは気にする様子を見せず答える。

 

「別に否定なんてしてないさ。ただ俺がおかしいと感じた事をちゃんと考えてほしくてね」

 

「マミさんの何処がおかしいんだよ!?」

 

勢いを増して聞き返すさやか。さやかから見たマミはグリーフシードなんか二の次で他人の為に戦い、自分達後輩にも優しい正義の味方だった。

これはアキオの知らない事だが彼がいない時に、他人の為に願いを叶えるのはどうだろうかとさやかがマミに訊ねた際、その人の夢を叶えたいのか、その人の夢を叶えた恩人になりたいのか、それを履き違えたらいけないと厳しく叱咤した。

そんな厳しくも優しいマミにさやかは昨日以上に憧れを抱いていた。

 

「命懸けの戦いの運命に、君達を巻き込もうとしている」

 

だがアキオは隠す事なく自分が思っている事を言う。

 

「そんな・・・そんな事無い!だってマミさんはちゃんと願い事は考えろって・・・あれ?」

 

困惑の表情で気付くさやか。

そう言えば後悔の無いように願い事を考えろ、これは危険な事と言ってはいたが、願いが無いなら、危険だから"止めとけ"という言葉をさやかは聞いた事がなかった。

 

「いや、だって・・・」

 

さやかはマミの味方をしたい。しかしアキオの言っている事も理解できてしまった。自分達はマミの中では命懸けの戦いをする事が決定事項になっているのではないかという疑念が浮かぶ。

 

「たぶん、マミちゃんは仲間が欲しかったんじゃないかな?」

 

「え?」

 

混乱する一歩手前でさやかの耳にその言葉が届いた。

 

「これはあくまで俺の考えだけどさ、自分でベテランと言うからには結構長い間魔法少女をやってきたと思うんだ。それにマミちゃんの性格だ、魔女退治を優先してきっと今までろくに自分の時間、友達作ったり遊んだり出来なかったんだと思う。痛い思いをして、誰にも知られず感謝されず、ずっと一人ぼっちで戦ってきたところに君達二人が現れた」

 

「だったら尚更契約して魔法少女になんなきゃ!」

 

「ストップ!そう焦りなさんなって。何も魔法少女になることだけが仲間になる条件じゃないだろ?」

 

逸るさやかに言ったアキオの言葉にさやか、そしてまどかもキョトンとする。

そんな二人を尻目にアキオはウインクをしながら言った。

 

「"友達"・・・とかさ」

 

その言葉にハッとする二人・・・を期待していたのだが、なんだか二人ともピンと来てないようないまいちな反応だった。

 

「えっ!?ダメ?」

 

「いや駄目っていうか」

 

「一応先輩後輩の関係だもんね」

 

苦笑いしながら言われ「マジか~」と項垂れるアキオ。

しかしその姿を見てさやかは思わず笑ってしまった。

 

「ま、このさやかちゃんを感動させたかったらもっと精進したまえよ」

 

「OK、次があったらそん時に心を動かしてやんよ」

 

いつの間にか自分に対してさやかが心を開いてくれた事に、アキオは真摯に話をして良かったと思うと同時に、マミも話し合いで何とかできればと深く悩む。

一方まどかも、二人の間にあまり良くない空気が流れていたのを感じていたので、今のアキオ達を見て安心するのであった。

 

「それじゃマミさんに、私達は今のままでも十分頼りになる仲間って事を教えてあげなきゃね」

 

そう意気込んで言うさやかにアキオはまさかといった様子で訊ねる。

 

「まさか今からかい?」

 

その言葉にまどかも「え?」と声を漏らす。

もう既に時間は20:30を過ぎている。あまり時間を掛けては本当に中学生が補導される時間になってしまうだろう。しかも二人とも制服で、一緒にいるのが見た目チャラ男のアキオである。これ以上遅くにお巡りさんに見付かれば職務質問されてしまう。

 

だがさやかはそんな二人の心配を余所に善は急げと来た道を戻り始めた。

アキオとまどかは互いに顔を見合せると苦笑し、さやかに着いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方のマミは先程倒した使い魔の産みの親である魔女の居場所を突き止め、戦闘に入っていた。

殆ど目の利かないような暗闇の結界内に存在するジャングルジムのようなオブジェに五本の手足を絡ませた刺々しい塊。最初はそれほどの力を持たない魔女と考えていたがそれは早計だった。

この魔女は暗闇の魔女。光の溢れる現代では非力な存在だが、ある秘策でマミを追い詰める程まで力を付けたのだ。

 

結界内にいるマミには知る由も無いが、現実世界では魔女の口付けによって操られた人間が公園の外灯を全て割っていたのである。そして公園が位置する場所も、市街から少し離れ木々に覆われた場所にあり視界をほとんど奪われる闇が完成していたのだ。

 

マミは大量のマスケットを空中に召喚し一斉射撃を繰り出すが、弾けるように伸びた大量の棘がそれらを全て迎撃する。

お返しと言わんばかりに二本の手をジャングルジムから離した魔女は自分と同じような黒く刺々しい塊を両手で次々と投げつけてきた。勿論その程度の攻撃に当たってやる義理は無いと、マミはそれらを避けるがマミの死角から使い魔達も頭部の棘を突き出しながら体当たりを仕掛けてくる。

黒い体を闇に紛れ込ませて来るその攻撃にマミは避けるので手一杯になっていた。

 

(こんな時、背中を任せられる仲間がいれば・・・)

 

それは一瞬だった。一瞬のその思考に気を取られた隙に魔女本体から一直線に伸びてきた棘の一本がマミの右太股を貫いた。

 

「ぐうっ!?」

 

右足に走る激痛に必至に歯を食い芝って悲鳴をあげるのを堪える。しかし魔女はそんな事はお構い無しに棘を引き抜き、傷口から大量の鮮血が飛び散った。

しかも攻撃を仕掛けて来ているのは魔女だけではない。こうしている間にも四方から使い魔達が迫って来ている。

右足の自由を奪われた今マミには避ける事など出来ず、ひたすらマスケットを召喚して迎撃に専念するしかなかった。

 

(今度あの攻撃が来たらおしまい・・・その前に隙を作ってティロ・フィナーレを当てなきゃ)

 

だが魔女は容赦なく再び先程の攻撃を繰り出した。先程は意表を突かれたので気付かなかったがその伸びる速度も尋常じゃなかった。

 

「っ!?」

 

そしてその棘は動けないマミがいた場所を通過した。

 

マミが空中に逃げた後に。

 

「今度はこっちが意表を突けたかしら?」

 

マミは寸前で空中のオブジェにリボンを伸ばし自身を引き上げたのだ。

そしてそのリボンはオブジェから離れ、マミの正面まで来ると巨大な大砲を形作る・・・はずだった。

リボンが大砲に変化する前に数匹の使い魔が体当たりを仕掛けてその刺々しい頭部でリボンを引き裂いたのだ。

 

「そんな!?」

 

マミのリボンは本来簡単には破れる物では無いが、暗闇によって水を得たのは魔女だけでなく使い魔も同様だったようだ。

 

負傷した脚でまともな着地などできる訳もなく無様に地面に叩き付けられるマミ。

 

「くっ・・・痛い・・・」

(私・・・こんなところで死んじゃうの?誰にも知られずに)

 

痛みと恐怖で歪むマミの顔。彼女が顔を上げると止めの一撃が魔女から伸びてきて・・・光が見えた。

 

一瞬の煌めき。それを見た次の瞬間には自分に迫っていた棘は本体から離れあらぬ方向へ弾け飛んだ。

 

「間に合ったね!」

 

その声を聞くまでマミは現れた助っ人に気がついていなかった。

 

「え?あ、サトリ・・・さん?」

 

そこには昨日セブンスエンカウントで出会ったアキオの幼馴染み、サトリが黒光りする日本刀を構え立っていた。

 

「どうしてここに?」

 

「キュウべえってのに結界に入れてもらったんだ、ここはボクに任せて!」

 

使い魔達は標的を乱入者に切り替え、一斉に襲いかかった。しかし

 

「纏めて、旋風巻き!」

 

突如刀身に風が逆巻き、サトリが刀を振るうと彼女を中心に凄まじいカマイタチが発生し取り囲んでいた使い魔達を一匹残らず切り刻んだ。

だが次の瞬間魔女の攻撃が飛んできてそれを間一髪サトリは刀で捌く。魔女は攻撃の手を緩める事なく身体中の棘を伸ばしては引っ込め伸ばしては引っ込めを繰り返していた。

 

「くっ、本当にドラゴン並じゃない・・・!」

 

その激しい攻撃に防戦一方になるが、その隙を突いてマミが動き出す。

再びマスケットを召喚しての一斉射撃、しかし今度は先程とは違い棘をサトリへの攻撃に使用しているため全てを迎撃する事ができずに魔女はその攻撃を受ける。

魔女からの攻撃が止んだサトリへマミが叫んだ。

 

「サトリさん、魔女の動きを止める事はできますか!?」

 

「影無しなら・・・やってみる!」

 

そう言うとサトリは独特の構えをとる。

 

《水月の構え》。刀を下ろし、一見無防備に見えるその構えは相手の攻撃を誘い強烈な反撃を見舞う。その思惑通り魔女は好機と見たのか一斉に棘を伸ばす。

 

「来た、影無し!」

 

その名を叫んだ次の瞬間にはサトリはその場には居らず、魔女の下に潜り込み伸ばしていた棘を根元から切り落とした。そしてついでと言わんばかりに魔女が絡み付くジャングルジムも切り飛ばす。

 

「完璧です、サトリさん!」

 

その一連の流れが行われている一方で、傷口をリボンで塞いだマミが大砲を構えていた。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

必殺の名が合図になりサトリが離脱すると、巨大な魔弾が魔女を貫いた。

 

魔女の結界が歪み、彼女達は現実世界へと戻ってきた。マミは自分を救ってくれたサトリにお礼を言おうと脚の痛みを堪えてひょこひょこと近づいて行く。

 

「サトリさん、ありがとうござい」

 

「バカちん!」

 

しかし全てを言い終える前にサトリの手刀がマミの頭を叩いた。勿論軽く叩いただけだが突然の事にマミは小さく悲鳴をあげ、その後恥ずかしさに顔を赤くした。

 

「えっと、サトリさん?」

 

「もう!どうして一人で戦おうとしたの?せめて結界に入る前に場所だけでも教えてくれればもっと速く来れたのに」

 

そう言いながらサトリはマミに肩を貸すと、近くのベンチまで連れて行き彼女をそこに座らせた。

 

「その、ごめんなさい」

 

アキオにも言われた。何故一人で戦おうとしたのかと。

それはアキオに自分の言動を咎められた事に対する反発という子供染みた・・・いや、子供らしい理由だった。それに加え自分の魔法少女として今まで戦い抜いてきたというプライドも原因の一つだろう。

その全てを理解出来るほどマミは大人ではないが、何となくでも分かってはいた。

 

そんなマミにサトリは言った。

 

「マミちゃんは一人じゃないんだから、ボク達仲間を頼ってくれてもいいんじゃない?」

 

「な、仲間ですか!?」

 

マミは素直に驚いた。昨日少し顔を合わせただけなのに、何故この人はそんな言葉を自分へ掛けてくれるのだろうか。

マミの表情から何となく察したサトリは、自分の考えを口にした。

 

「ちゃんとボクの口から言ってないけど、アキオからボク達が君達の事を知って協力するっていうのは聞いたでしょ?だったらもうボクとマミちゃんは仲間だよ」

 

「仲間・・・私、もう」

 

一人ぼっちじゃないの?

 

アキオがまどか達に話したマミの本心。それは見事的中していた。マミは孤独な戦いに疲れながらも魔法少女としての使命のためその心に鞭を打って戦い続けていたのである。

 

「まったく、心配したんだから!・・・脚、大丈夫?」

 

言葉通り本当に心配した表情で接してくるサトリに目頭が熱くなるのを感じ、咄嗟に下を向くマミ。すると瞳からポロポロと熱い雫が膝に零れた。

そんなマミをサトリは優しく抱き締める。

 

「大丈夫、ボク達が着いてるから・・・一人ぼっちじゃないよ」

 

「・・・はい」

 

泣きながらも笑顔を作るマミ。それは普段の大人びた微笑みではなく、年相応の笑顔だった。

 

「あ、いたいた!おーい、マミさーん!」

 

遠くから後輩の声が聞こえてくる。今の自分は恐らく二人の後輩に見せるには情けない顔をしているだろう。

だがもう少しだけ、サトリの胸の中で抱かれていたいと思うマミだった。




完全オリジナルの展開だと、キャラの性格に合った台詞や考え方をさせてあげられてるか不安になります。
実際自分で何書いてるか訳分かんなくなる部分が・・・(←そんなん投稿すんなや

因みに今回登場した暗闇の魔女・ズライカの戦法は完全にオリジナルです。

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