魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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第5話【再会の場所】

喫茶店セブンスエンカウント。

最近見滝原にできた個人経営の店で、主に珈琲を取り扱いそこにナポリタンやカレーなどの軽食やスイーツを提供しており味は絶品らしい。

 

その店内に、三人の少女と一匹の小動物が入店してきた。

マミ、まどか、さやかとキュウべえである。

 

女性店員に案内され席につくと、真っ先にさやかが口を開いた。

 

「いったい何なんだよあの転校生!私のまどかにちょっかいだして!」

 

それは彼女達が学校にいるときの事。ほむらは何かとまどかの事を見詰め、昼休みではわざわざ屋上までやって来ては魔法少女になる意思があるのか問い質して来たのだ。

昨日の一件からさやかはほむらの事を敵視しているが、まどかは違った。

 

「ほむらちゃん・・・本当に悪い子なのかな?」

 

まどかは屋上から彼女が立ち去る際に自分が投げ掛けた質問を頭の中で再び思い起こす。

 

ほむらちゃんはどんな願いで魔法少女になったの?

 

その時見せた彼女の顔・・・いつも通り無表情に見えたが、何故か気になって仕方がないのだ。

 

「あの・・・お客様?」

 

その声で思考の中に沈んでいたまどかの意識は現実に戻ってきた。

見ると先程の女性店員が戻ってきて少し困ったような顔をしていた。

 

「はい、何でしょう?」

 

とりあえず年上のマミが対応する。淡い蒼翠色の髪をして、癖毛なのか前髪の真ん中が少し跳ねているその店員は視線をテーブルの上に鎮座しているキュウべえに向けた。

 

「動物の連れ込みはご遠慮下さい」

 

「「「えっ!?」」」

 

飲食店なら当たり前の事に、驚愕の表情になる三人。

その三人の反応に店員の少女は怪訝な顔をするが、実は三人の反応ももっともで、キュウべえは本来魔法少女の素質がある人間にしか見ることが出来ないのである。

実際今日学校に連れて行ったが誰も気にしなかった。

 

『キュウべえ、ひょっとして』

 

マミは咄嗟にテレパシーでキュウべえに確認をとる。

 

『いや、彼女は魔法少女の素質は持ってないよ。恐らくアキオと同じで何か特別な素質があるんだろうね』

 

そう言われ、余りにも自然にキュウべえを認識するものだから流されたけどアキオもどう考えても魔法少女にはなり得ないとマミは今更気が付いた。

 

「ああ、いや、動物っていうかこれはその」

 

「ぬ、縫いぐるみです」

 

一方まどか達は何とか誤魔化そうと必死になっていた。

 

「そうそう、縫いぐるみですよ!さっきゲーセンで取ってきたんだ」

 

「縫いぐるみ?」

 

キュウべえもここは合わせるべきと判断したのか固まったまま動こうとしない。

それでも疑い深くキュウべえを見詰める店員の後ろから、彼らはやって来た。

 

「よっ!サトリ!」

 

「ひゃあっ!?」

 

突然後ろから、それも至近距離で名前を呼ばれながら肩を叩かれた少女、サトリは飛び上がるぐらい驚いた。そして驚きついでに振り向いて更に驚く。

 

「って、アキオ!?それにミオちゃん!」

 

「ああ、数日振り」

 

そこにいたのはアキオとミオだった。

 

「って、お前何?うる目になってんぞ?」

 

「違うよ!驚いた時に反射的に涙が出たの!」

 

そう言いながらぐしぐしと瞳に溜まった涙を拭くサトリ。数日とはいえこの異世界で離れ離れになり、ようやく仲間であり気を許せる幼馴染みと大切な妹分と再会できたのだ、いろいろと込み上げて来るものがあるのだろう。

 

「サトリさんの気持ち、分かります」

 

そう言ってミオはサトリを抱き締め、そしてアキオもそんな幼馴染みの頭を優しく撫でてあげた。

 

「あの、お知り合いですか?」

 

そんな中三人のやり取りを見ていたマミが恐る恐る尋ねた。

それに「まあな」と返したアキオは空いてる椅子に座りサトリの紹介をした。

 

「幼馴染みのサトリだ。訳あってしばらく会えなかったんだが、まさか本当に会えるとはな」

 

「どういう事ですか?」

 

興味津々に体を乗り出してさやかが聞いてくる。

 

「まあ、このセブンスエンカウントって名前が俺達にとっては特別でね、この名前を聞いてひょっとしたらって思った訳」

 

「うん、マスターもこの名前なら仲間も気付くだろうって言ってた」

 

「やっぱりマスターもいたか」

 

「ところで」

 

ここでこの場にいた全員がサトリの雰囲気が変わるのを感じた。

見ると先程まで感動の再会に顔を紅潮させていたのに今や恐ろしい程冷めた顔をしている。

 

「アキオ、ミオちゃんがいるのにどうしてこんなに女の子を侍らせてるの?」

 

「はべ!?」

 

「サトリさん、今回は違うの!」

 

「駄目だよミオちゃん、アキオを甘やかしたら。すぐに女の子にちょっかい出すんだから!」

 

「人聞きの悪い事言うなよ!これにはいろいろと込み入った事情があるんだよ」

 

そう言ってアキオは服の下に隠していたホルダーに納められていた銃をチラリと見せた。

それを見るとサトリも落ち着き、今度はマミを見た。マミも真剣な表情で頷くと

 

「はい、アキオさんはとても危険な事に手を貸してくれようとしています」

 

そう言ってサトリを見詰めた。

 

「そっか。ごめんね、変な勘違いしちゃって。今日は無理だけど、ボクもできる事があれば手伝うからさ!何かあったら何時でも来てよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

笑顔で言うサトリにマミも笑顔で返した。昨日出会ったアキオやまどか達だけでなく、今日もまた理解者が増えたのはマミにとってとても嬉しかったのだ。

 

「それじゃ魔女退治の前に、せっかく来たんだし何か頼んでいこうか。サトリ、おすすめをもらえる?」

 

「まあアキオは珈琲の種類とか分かんないだろうし懸命な判断だね」

 

そう言って奥に下がったサトリは数分後、アキオにはキリマンジャロブラック、中学生組にはミルクのたっぷり入ったカフェオレを運んできた。

 

因みにキュウべえは今は縫いぐるみ設定なのであれから微動だにしていない。

 

「さて皆、魔女退治に何か用意はしてきたかしら?」

 

マミが切り出す形で作戦会議が始まった。

マミの言葉にさやかがまず待ってましたと言わんばかりに細長いケースから野球のバットを取り出した。それを見てマミは「無理はしないでね」と苦笑しながらやんわりと言う。

そしてまどかはというとノートを広げ昨日自分が見たマミやほむらの、そして自分が魔法少女になった姿を描いたものを見せた。

その変なところでの気合いの入りようにさやか、マミ、アキオの三人は笑ってしまい、まどかは顔を赤面させた。

 

「私はまどかちゃんの絵、可愛くて良いと思うよ」

 

「ありがとう、ミオちゃん」

 

しかしいつの間に仲良くなったのか、まどかとミオは楽しそうに絵について話始めた。

そして笑いながらもアキオは、こんな普通の少女達に命をかけさせる訳にはいかないと改めて思うのだった。

 

「アキオさんはやっぱり昨日の魔法みたいので戦うんですか?」

 

「ああ、ハッキングね。あれは搦め手で、本来の武器はこれさ」

 

さやかの問いにアキオは得意気に腰のホルダーから二丁の銃を取り出し器用にくるくると回転させると再びストンとホルダーに納めた。

その手慣れた芸当に中学生組は「おお」と感心の声をあげる。

 

そして各々が飲み物を飲み終わるとマミは立ち上がり

 

「それじゃ、張り切って行きましょうか!」

 

と、気合いを入れた。

 

「俺達は行ってくるからミオはサトリ達と待っててくれな」

 

「うん気を付けてね」

 

 

 

 

 

 

 

見滝原デパート改装中フロア。

昨日の始まりの場所へと戻って来た四人と一匹はマミの持つ宝石、ソウルジェムが点滅しているのを見詰めていた。

 

「これが昨日の魔女の残していった魔力の痕跡」

 

そう言いながらマミはソウルジェムを持ちながら歩き出し、それに三人もついて行く。

 

「基本的に魔女探しは足頼みよ。こうしてソウルジェムが捉えた魔女の痕跡を辿って行くわけ」

 

ソウルジェムを頼りに移動した先、そこは廃墟となったビルだった。

そこでふとアキオは思い出す。

 

(確か目をつけた人間を自殺に追いやるとか・・・)

 

ハッとビルの屋上を見上げると何かがゆらゆらと揺れているのが見えた。それは間違いなく人間。

次の瞬間その人物は身を空中に放り出した。

 

「マジかよ!?」

 

咄嗟にアキオが動こうとするがそれよりも速くマミが魔法少女へと変身し、何本もの魔法のリボンをクッションにして落ちてきた女性を受け止めた。

 

その女性は生気がなくぐったりとしており、まどかとさやかは思わず息を飲む。

 

「あの、その人・・・」

 

「大丈夫、気を失ってるだけ。見て」

 

そう言ってマミは女性の首もとを三人に見せる。そこには奇妙な紋様が浮かんでいた。

 

「魔女の口付けよ。これを受けると魔女に操られてしまうの」

 

そこでまどかもアキオと同じく昨日の魔女の説明を思い出し、罪悪感を感じてしまう。

 

「もし昨日の魔女を追いかけていたらこの人も・・・ごめんなさい」

 

まどかという少女は優しかった。マミが昨日の魔女を取り逃したのは自分達を思っての事で、自分達がマミの足を引っ張ったからこの女性が危うく餌食になるところだった。

そう思ったら謝らずにはいられなかった。

 

そんな彼女を優しく宥めるようにマミは言う。

 

「鹿目さんのせいじゃないわ、あの時はあなた達を放っては置けなかったもの。それに安心して、ここで魔女とは決着をつけるから!」

 

そう言って手をかざすと空間にコラージュのようなサークルが現れた。

マミはさやかの持ってきたバットを魔法で強化し、三人に覚悟を問う。

 

「ここからは魔女の結界、覚悟はいい?」

 

それに三人は頷き、マミを先頭に結界の中へと入って行った。

 

その様子を暁美ほむらは黙ってジッと見詰めていた。


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