魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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第2話【始まりの出逢い】

その日、朝一の仕事の指導を受ける為アキオは普段よりも早く家を出ていた。

今歩いているのは見滝原中学校の通学路指定されている並木通りである。朝早いという事もありちらほらと学生の姿が見えるが、特に目を惹いたのは前方でじゃれ合っている女子三人だ。

楽しそうにお喋りをしながら学校に行く様は、竜の襲来からずっと戦い続けてきたアキオにとって羨ましい光景だった。

 

またあの空間に戻って元の世界の改変を行えたら、自分もあのように再び日常に戻る事が出来るのだろうか?

 

(なーんて、俺ちゃんらしくないねこんなの)

 

「うし、今日も一日頑張るぞい!ってね」

 

そう気持ちを切り替えたアキオは歩幅を広げ歩く速度をあげた。そして当然だが先程見ていた女子生徒達との距離が縮まり自然と会話が耳に入ってくるようになった。

 

「あ、そう言えば!放課後新しく出来た喫茶店行かない?」

 

「まあ!新しくお店が出来たのですか?」

 

「そうそう。噂だとそこの マスターがさ、すんごく渋面でカッコいいらしいよ!」

 

そんな彼女達の会話を聞きながらアキオの脳裏に一瞬、《マスター》の愛称で皆から慕われていた男性の姿が浮かぶ。

 

自分と共に戦った13班の皆はどうなったのだろうか?

 

「確かお店の名前は《セブンスエンカウント》だったかな?」

 

「!?」

 

青髪のショートの子の口から出た言葉を聞いたアキオに電流が走る。

 

セブンスエンカウント

 

それはアキオ達の世界で有名なゲーム会社《ノーデンス》が誇るバーチャルリアリティ及びその施設。そしてアキオ達の戦いが始まった場所である。

 

この世界に来てからノーデンスやセブンスエンカウント、ドラゴンなどを調べたがどれも実在しなかったが、まさかこんな所でその名を耳にするとは世の中分からないものである。

しかし

 

「そんな事よりもさやかちゃん、そろそろ急いだほうが・・・」

 

「げっ!ホントだ、話に夢中になってたら!」

 

桃色の髪をした少女が控えめに言うと、さやかと呼ばれた青髪の少女は他の二人を置いて走り出した。

 

「あっ・・・!」

 

アキオが止める間も無く残された少女達も走り出してしまう。

 

「ま、待ってよさやかちゃーん!」

 

「もう!遅刻しましたら美樹さんのせいですからね!」

 

そんな彼女達の後ろ姿を見ながらアキオはセブンスエンカウントという喫茶店、そして渋面というマスターにある期待を抱いていた。

 

「仕事終わりにミオにも来てもらうか」

 

 

 

 

 

 

夕刻、街では夕飯の買い物に出た主婦や学校帰りの学生達で活気に溢れていた。

 

しかしそんな表とは裏腹に灯りも無いとある無人の建物では、激しい逃走劇が繰り広げられていた。

激しいと言っても一方的で、一発でもまともに当たれば致命傷になるであろう光の弾を必至に逃げる側の白い小動物が避け続けていた。

俊敏な動きでかわしてはいるが息遣いは荒くなっており、追い詰められるのは時間の問題だった。

そんな中その小動物はとうとう助けを求めた。

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

場所は変わり見滝原デパート。

アキオに呼ばれたミオは彼の仕事が終わるタイミングでこの場所に来て、目的通り仕事終わりの彼と合流したのだが、不意に不思議な声を聞いた。

 

「どうしたミオ」

 

「うん・・・聞き間違いかな?」

 

微かにしか聞こえなかったが周りの雑音とは違う感覚。それを不思議に思っていたが今度はハッキリ聞く事になる。

 

『助けて!』

 

「!」

 

頭に直接入って来るような声。今度は間違いなくその内容も聞き取る事ができた。

しかし、切羽詰まった様子で助けを求めた声だがアキオは全く気付いた素振りを見せない。

 

「アキオ!今助けてって声が頭に響いたの!アキオは?」

 

「声?」

 

しかしやはりアキオには聞こえていなかったらしく、その声を聞こうとしているのか目を閉じては「うーん」と唸っている。

 

『助けて!』

 

その間にも声の主は繰り返し助けを求めてくる。

 

「また!」

 

「ミオ、どこから聞こえてくるか分かるか?」

 

普通の少女に見えるミオだがこれでもあらゆる解析力に優れた、ノーデンスで言うところのS級能力者だ。今彼女にだけ聞こえるというテレパシーのような現象とそれが関係するかは分からないが、ミオの事を知っている人物なら虚言と切り捨てる事はしないだろう。

もっとも、アキオが彼女の言葉に耳を傾けたのは単純に"ミオの言葉"だからだろう。

 

ミオは頷くと走り出し、アキオもそれに着いていった。

 

二人が辿り着いたのはデパートの改装中のフロア。関係者以外立ち入り禁止という貼り紙を無視し扉を開けると、本来かなりの広さがあるはずのフロアは様々な資材が置かれ奥の様子は分からなかった。

しかし何か重い金属が落下したような音が聞こえ二人は急いで奥へと向かった。

 

その直後だった。

 

突然物陰から飛び出して来た人物とアキオは正面からぶつかってしまった。アキオは相手の方が背丈が低かったため踏ん張る事ができたが、相手は壁にぶつかったも同然で反動で後ろに吹き飛んでしまった。

咄嗟にアキオが腕を掴み事なきを得たが、その人物は今朝見た青髪の少女だった。傍らには何か小動物を抱えた桃色の髪の少女もいる。

 

「おっと、大丈夫かい?」

 

「あっ、えと、助けて下さい!電波でサイコな奴がこの動物虐めてて・・・!」

 

そう言って青髪の少女、さやかはもう一人の少女が抱える小動物を指差した。それを聞いたアキオは件の小動物を見た。

それは白い猫のような身体をしつつも、耳から毛か触腕かよく分からない物が生えた生き物で、確かに全身傷だらけで所々赤い血も見える。

 

「O.K.お兄さんに任せなさい!」

 

そのやりとりの中、周囲の変化にいち早く気が付いたのはミオだった。

 

「アキオ!周りの景色が・・・」

 

その声で三人もようやく気が付いた。

 

最初は世界が歪んでいく光景。その中から徐々に写真か絵画から切り抜きされたような蝶や薔薇が世界に貼り付けられたコラージュのように現れた。

 

「何これ?出口は!?」

 

「分からないよ・・・」

 

突然の事態に取り乱してしまう少女達。そんな彼女達を鎮めたのは意外な人物だった。

 

「自己紹介しよう!私は那雲澪(ナグモ ミオ)!二人は?」

 

「え、え?何でいきなり」

 

「あ、えと、鹿目まどか・・・です」

 

「まどか!?うぅ、美樹さやか」

 

「そっか、よろしくねまどかちゃん、さやかちゃん。大丈夫!アキオが守ってくれるから」

 

そう笑顔で言うミオに、今までパニックになっていた二人も呆気にとられる形で逆に落ち着いてきた。

 

その様子を見ていたアキオもミオの成長を嬉しく思いつつ、その期待に答えなければと周りの気配に警戒を強める。

 

「そんじゃあさやかちゃん、その電波なサイコ野郎ってのはこの愉快な髭ダルマの事かい?」

 

そう言うアキオの視線の先には丸い綿の塊に落書きのように目と髭と思われる物が付いた物体が何体も蠢いていた。

 

「ひっ、何あれ?」

 

その様子から彼女達が逃げていた者とは別らしい。だがいつの間にか茨の蔦の先に鋏が付いた物体を向けながら距離を詰めて来るソレは明らかに敵意を持っていた。

それもアキオが見詰める一点だけではなく、彼らを取り囲むようにその髭ダルマは大量にいた。

 

(流石にゲオルギアは持ってないしな・・・だが!)

 

この状況で丸腰の状態でもアキオは不敵な笑みを浮かべると右腕を大きく横に振った。すると光のパネルが出現し、アキオは素早くそのパネルに浮かぶキーボードを叩いた。

 

これこそがアキオのハッキング。コンピュータだけでなく生物にすらハックし行動権を奪うそれは、ドラゴンにすら有効である。

 

「なるほど、今までに見た事の無いデータだけど・・・さっすが俺!」

 

タァン、と心地好い音が耳に入ってくると同時に髭ダルマの包囲が崩れた。

一部の団体が動きを止めたのだ。

そして

 

「同士討ちスタート!」

 

その号令と共にハッキングを受けた髭ダルマは他の仲間に茨の鋏で襲い掛かった。

 

だが同士討ちの混乱に巻き込まれていない団体はアキオの存在を危険に思ったのか、ジリジリと距離を詰める動きだったのが、一気に飛び出しアキオにハサミを突き付けたり直接体当たりを仕掛けてきた。

 

「おっと、流石に銃が無いとキツいか?」

 

それらの攻撃を避けながらもアキオは少し焦りを感じた。

確かにハッキングだけで戦えなくもないが、この数では本来の武器である二丁銃が無ければ守りながらは対処に間に合わないと判断したのだ。

 

(包囲は崩れたんだ。最悪三人だけでも逃がすか?)

 

アキオがそう思った時だった。

 

突如として彼らを中心にエネルギーが広がり周囲の髭ダルマが消滅した。

 

「危ないところだったわね」

 

「へえ・・・」

 

そこに現れたのはまたも少女。クルクルと巻いた金髪のツインテールを揺らしながら歩いてくるその少女の手には、輝く宝石が添えられていた。

 

少女はコツコツと歩いてくるとミオを見て少し驚いたような表情をしたが、次に小動物を抱えたまどか達を見た。

 

「那雲さん、あなた達がキュウべえを助けてくれたのね」

 

「え?」

 

自分の名前を呼ばれて驚くミオ。見るとその少女は彼女の知る人物だった。

 

「巴さん!?どうしてここに?」

 

巴マミ、彼女はアキオ達の隣の部屋に住むお隣さんだったのである。

彼女はクスリと笑うとアキオの隣まで来て歩を止め、未だ湧き続ける髭ダルマを見ながら言う。

 

「巻き込んじゃった以上説明しないとね。けどその前に」

 

自信に満ちた顔でマミは手に持っていた宝石を、両手で前方につきだした。

 

「ちょっと一仕事、片付けちゃって良いかしら?」




13班紹介


ダイスケ
ゴッドハンド 17歳 2ndリーダー

アキオの親友。あまり頭はよくないがどこか憎めない性格で、バカっぽい不敵さは頼もしくもある。
アキオ達がアトランティスへと赴いている間にアリーにスカウトされ、親友の為ならと二つ返事で過去の世界へ援軍として駆け付ける。

ブラスターレイヴンに憧れていて、彼にサインを貰った時は泣き、奥義を伝授して貰った時も泣き、レイヴンがこの世を去る際は最後の瞬間まで我慢していたが、その後声を必死に殺しながらも涙を流した。

チカに一目惚れし、忙しさに忙殺されている彼女の貴重な休憩時間をいつも遊びに誘って奪っていた。
そんな事を続けている内に次第に心を開いてくれたチカだが、その矢先に敵対する事になりレイヴンに引き続き悲しい別れを経験する。
しかしそれでもレイヴンやチカ、そして今いる仲間達のためにと不屈の闘士で立ち上がった。


イルカ
ルーンナイト 13歳 2nd

低層区クラディオンの居住区で暮らしていたルシェの少女。

引っ込み思案で大人しい性格だが、エーグル率いる自警団の人手が足りないとなった時に自ら13班の案内を名乗り出る。
最初は自分も自警団のように生まれ育った場所を守りたいと思っての行動だったが、13班の困っているなら誰であろうと見過ごせないという思想に感化され本格的に13班入りする事を決意する。

歳の近いミオとは友達のような関係になり、よくお喋りをしては現在の世界と自分のいた過去の世界のギャップに驚かされている。


あおい
フォーチュナー 19歳 2nd

何故かいつもメイド服を着ている女性。
フレンドリーな性格だが同時にかなりのお調子者で見ていて不安になる。しかし彼女がしくじるような場面は一切見せず、その軽い言動はフェイクなのではと一部の間で噂になっている。
実際は何の裏も無い只のどこかの召し使いで、給料に惹かれてアリーに言われるがままに13班に入った。
紅茶を淹れるのとクッキーなどの焼き菓子を作るのが趣味であり特技。

ダイスケと共にアトランティスに援軍として駆け付ける。

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