魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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お久しぶりです!
ちびりちびりと書き続けて何とか帰って来られました!
しかしそのちびちびとした書き方のせいで毎度ながら文章が・・・
という言い訳は置いといて、お待ちになっていた方々、お待たせいたしました!

今回魔女の能力は完全にオリジナルです


第21話【ソウルジェム】

「《ワルプルギスの夜》、それにまさかソウルジェムに君達の・・・」

 

 セブンスエンカウントにて意を決したほむらから聞かされた事実に、マスターは言葉を失った。それはマスターだけではなく、サトリとナガミミも同様だった。

 強大な敵はまだ良い、自分達13班が手を貸せば倒せない事は無いだろう。だがしかし、ソウルジェムの方はどうしようもない。

 

(いや、あおいならもしくは・・・)

 

 その時だった。ほむらのケータイが振動し、一言断ってからほむらはケータイを取り出しその画面を見た。

 

「・・・どうやら魔女が現れたみたいです。今美樹さんが向かっているようなので、私も行ってきます」

 

 そう言って立ち上がるほむらにサトリも続いた。

 

「マスター、ボクも行ってくるよ」

 

「いや待て」

 

 ほむらに続こうとしたサトリをマスターは呼び止めた。怪訝な表情を向けるサトリだが、マスターはゆっくりと腰を上げて更に続けた。

 

「俺も行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔女の結界内。

 涌き出てくる人型の使い魔をさやかと杏子の二人は競うように倒していく。技量と戦闘経験では圧倒的に杏子が上だが、さやかにはそれを埋める程のスピードがある。

 

 そんな猛進撃をする二人だったが、勢い任せに戦うさやかは物陰に潜む使い魔の存在に気付いていなかった。目の前の敵を倒そうと直進するさやかに、タイミングを見計らって飛び出そうとする使い魔。いくら速いとは言えその姿を追う事さえ出来れば、そして直進する事さえ分かっていればそれにタイミングを合わせる事は可能だ。

 だがまさしく「今だ!」という時、既にその使い魔は消滅を始めていた。

 

「せやあ!!」

 

 その事に気付かないままさやかは狙っていた使い魔をサーベルで真っ二つにした。

 そして周辺に使い魔の気配が無いのを確認してさやかは得意気に杏子へと振り返った。

 

「どうよ?今ので私がリードしたんじゃない?」

 

「はぁ・・・お前気付いてなかったのかよ?」

 

 ため息を吐きやれやれといった態度をとる杏子に、さやかは馬鹿にされた気がして眉をひそめた。しかし実際に杏子は先程の事態に気付かなかったさやかを小馬鹿にしているのだ。

 

「良かったな、私が一緒で。じゃなければお前、さっき待ち伏せ食らってたぜ」

 

「はあ!?」

 

 全く気付かなかったさやか本人からしたら信じられないような事だが、少し後方で見ていたまどか達を見ると皆一様に苦笑いをした。

 

「その、確かにそこの物陰に攻撃してたよ」

 

「私もあそこには気配を感じてたし、杏子ちゃんは嘘を吐いてないよ」

 

 まどかとあおいの言葉にさやかは「マジかぁ」と少し項垂れてしまった。

 

「おいおい、まだ魔女の下に着いてないのにそんな落ち込んでて良いのか?」

 

 そう言う杏子は他の四人を置いて先に進み始める。するとさやかが慌てて杏子の後を追いかけ肩を並べて、少し不満げな表情を杏子へと向けた。

 

「あんたさ、どうして助けてくれたの?」

 

「・・・別にぃ?お前の悔しがる顔を見たかっただけだよ。まっ、全く気付かなかったってんならリアクションは期待できないけどな」

 

 皮肉混じりに返されるが、今の杏子に対してさやかは初めて会った時程の悪印象を抱いていなかった。それが何故かはさやか自身分からないが。

 

「まったく、杏子ちゃんはツンデレだなぁ」

 

「うっせえよあおい!」

 

 後ろから聞こえる茶化すようなあおいの言葉に振り向かず否定をする杏子。

 

「本当は優しいのかな?」

 

「だからうっせえって言ってんだろ!!」

 

 尚も聞こえる声に思わず振り返る杏子だが

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 そんな彼女が見たのは必死に謝るまどかだった。

 

「ちょっとあんた!まどかを苛めないでよね!」

 

「いや、ちが・・・この二人の声が似てんのが悪いんだよ!」

 

 杏子の言葉に食い掛かったさやかも「まあ、確かにね」と呟き、そんな二人を見てまどかとあおいはキョトンと顔を見合わせるのであった。どうやら本人達に自覚は無いらしい。

 本来なら敵地であるはずなのに、杏子まで巻き込んで緊張感の無いやり取りをする四人に対し、一人獣耳をピクリと震わしたイルカは顔を緊張したものへと変えた。

 

「気を付けて、使い魔とは違う気配がするよ」

 

 その言葉にさやかと杏子が臨戦体勢となり、あおいが素早くまどかの前へと出る。気が付けば目の前にはまん丸の扉が出現していた。その縁のデザインはどことなく犬の首輪を模したように見える。

 

「いいか?今までの使い魔はほんの準備運動。本命はこの奥の奴だからな」

 

「分かってるわよ。先に魔女を倒した方が勝ちだから、使い魔はノーカンって事でしょ?」

 

「ま、使い魔をカウントしちまったら私の圧勝だけどな」

 

「圧勝って事は無いでしょ。・・・じゃあ、行くよ!」

 

 勝負を始める前までは険悪だった二人だが、いつの間にか軽口を言い合えるようになっていた。恐らく勝負という名目ではあるが同じ敵を相手にする事によって自然と互いの事を受け入れ初めているのだろう。特にさやかに関してはあおい達の存在が大きい。初めこそ最低の印象を杏子に感じていたが、それに反して周りを和やかな気分にしてくれるあおいという女性が彼女の仲間だという(杏子は否定していたが)。まどかの事も気に掛けてくれていて、悪い人間ではない事は一目瞭然だ。そんな彼女と共に行動する杏子に対する嫌悪感は薄くなっていた。

 

 そして、扉を開け中に入った一同が目にしたのは犬。だが当然ながらただの犬では無い。人程の大きさの身体、そして見た者の視線を決まって釘付けにするであろう

 

「・・・アフロ?」

 

 さやかが思わず呟いたように頭部に桃色の大きな毛玉を乗っけている、まさしくアフロである。そのアフロには小さなリボンがいくつも付いており、リボンを付けたピンクのアフロ犬という他の魔女とは違うファンシーな存在だった。

 

 だが、だからこそさやかはたじろぐ。マミの命を奪った魔女も最初は可愛らしい人形の姿をしていた。その事を思いだし身震いし、いつの間にか滲み出ていた汗が額から顎先まで一気に滑り落ちる。

 このような魔女こそ、恐ろしい何かを持っている。知らず知らずの内にそう警戒し、さやかは硬直してしまった。

 

「何ビビってんのさ?お前が行かないなら私が頂くぜ!」

 

 しかしそんなさやかの考えを知る由もない杏子は単身犬の魔女へと突っ込んだ。それを見て我に返ったさやかも杏子を追うように飛び出す。

 

「ちょっと!少しは警戒しなよ!」

 

 だがさやかは先程の懸念もあり、その勢いは少し控えめである。

 

「こんな犬っころ、即行で片付けてやるよ!」

 

 さやかの忠告を一笑に付し、槍の射程まで近付いた杏子は素早く槍を突き出した。それと同時に魔女は地面を蹴り高く跳躍、攻撃をかわすのと同時に高台へと移動した。

 そんな魔女へと、青き閃光が軌道を描きながら背後から迫る。

 

「あっ!あのやろっ!」

 

 杏子がしまったという顔で見る閃光、それは加速したさやかであった。

 

(今の魔女は攻撃してきたアイツに気をとられている・・・後ろからなら!)

 

 未だにこちらを向かない犬の魔女へとサーベルを構え、一気に振り下ろした時だった。魔女は横に跳びさやかの攻撃をも避ける。

 

「うそっ!?」

 

 そのまま魔女はトントンと足場を次々と変え、この場にいる全員を見下ろせる高台へと着地した。

 

「あの魔女、本物の獣みたい。殺気に凄く敏感」

 

「なるほどな、そいつは確かに厄介そうだな」

 

 一連の流れを見て漏らしたイルカの言葉に、いつの間にか後退してきた杏子が呟いた。さやかもその横に着地して参ったような表情をする。

 

「本物の獣って、そりゃ確かに捕まえられない訳だよ。子供の頃さ、友達とよく猫追っかけてたけど全然捕まえられなかったし」

 

 子供と猫を今回の魔法少女と魔女に例えるのは正しいかはいささか疑問だが、確かに人間が俊敏な動物を捕らえるのは至難の業である。

 

「キィヤアアアアア!!」

 

 突然甲高い声で咆哮をあげる魔女。身体を伸ばし上に向かい咆哮をする姿は動物の犬や狼の遠吠えそのものだが、その姿に反して発せられた人間的な声質に嫌悪感が逆撫でされて一同は固唾を飲み込んで魔女の次の行動を見守る事しか出来ない。

 

 すると数秒も経たずに、物陰で何かが蠢き始めた。

 

「何だ?今更使い魔を呼んだのかよ?」

 

 杏子は一瞬でも怯んだ事を後悔し、そして魔女の行動に呆れた。この魔女の使い魔ならどれだけ来ようと不覚をとる事は無い自信があったのだ。

 

「それがお前の抵抗だってっんなら無意味だ・・・ぜ!」

 

 言い終わるのと同時に杏子は再び魔女へと飛び出し、それを見たさやかも追い掛けるように走り出した。

 しかしイルカだけは表情を変え周囲を見回し警戒をし始めた。

 

「違う、使い魔じゃない!これは・・・」

 

 そしてイルカが杏子達に自分が感じた違和感を伝える前に物陰から此方の様子を伺っていた者が杏子に向かい飛び出した。

 

「んな!?」

 

 その速度は今まで相手にした使い魔とは比較にならない程速く、完全に意表を突かれた杏子は回避よりも咄嗟に槍を横に構えた防御体勢をとる。次の瞬間、槍の柄にその者の噛みつきは阻まれギリギリ杏子にその牙が届く事はなかったが、襲撃者の姿を見た杏子は思わず目を見開いた。

 

「こ、こいつ!魔女だ!最初に私達が攻撃した、あそこにいる魔女と全く同じだ!!」

 

 そう、そこには犬の魔女がいた。すぐさま視線を最初の標的へと移すと、そこにも依然として高台からこちらを見詰める魔女がいる。それを確認した杏子の額に冷や汗が流れた。

 

「おい青いの!そいつを攻撃しろ!幻か何かじゃないか確認しろ!!」

 

「言われなくても!・・・っていうか"青いの"って、他に呼び方は無かったの!?」

 

「うるせえさっさとしやがれ!! 」

 

 何とか自分に食らいつく魔女を振りほどくが、すぐにその牙で、爪で襲い掛かられ身動きが取れない杏子を見て、さやかも今は勝敗を気にしてる場合じゃないと悟り高台の魔女へと向かって行く。

 魔女を撹乱するようにジグザグ軌道で動き、一気にサーベルの射程へと近付くが、その瞬間魔女は再び跳躍しその場から離れた。だが

 

「やっぱ反応するよね」

 

 さやかも魔女の目前まで迫った時、一旦ブレーキを掛けていた。そのまま最大速度で突き抜けるのではなく、フェイントを掛けて魔女に回避の隙を作らせたのだ。空中にいる魔女へとさやかが狙いを着け、跳んだ時だった。

 

「さやかちゃん、右斜め40度!」

 

「40度!?って、ちょっ!?」

 

 魔女を仕留める事が出来ると興奮したさやかの耳にあおいの声が届いたのは幸運だった。あおいの指示した場所からもう一体の犬の魔女が飛び出しさやかへと組み付いたのだ。何とかサーベルで受け止めるが、あおいの指示が無ければ無惨に食い散らかされていたと思いゾッとする。

 

「まさかの三体目!?」

 

 自分に組み付いた魔女は確かに実体があり、幻でも何でもない。だからと言って杏子へと視線を向ければ未だにもう一体の魔女と戦っている。

 しかしさやかは直ぐ様思考を切り替え、もう一本サーベルを出現させ未だに空中にいる最初の犬の魔女へとその切っ先を向けた。そして次の瞬間、カチリという音と共にサーベルの刀身が射出され狙いを付けた魔女の喉笛に突き刺さった。

 

「よし、命中!」

 

 そのままさやかは組み付いていた魔女を蹴飛ばし何とか離れると、自分が仕留めた魔女へと目をやった。

 魔女はドサリと落下し、ピクピクと痙攣したように脚を震わしている。やがてその脚すら動かなくなり魔女はゆっくりと消滅を始めた。

 

 だがしかし、二体目、三体目の魔女は依然健在である。倒した魔女が分身を生み出していた本体ではなかったのか、もしくは

 

「この魔女全部が本体?」

 

 さやかがその考えを口に出した時、更に四体の魔女が彼女達の前に躍り出た。

 

「ちょっ、多すぎ!!」

 

 杏子も魔女の増援に気が付き、今相手にしている魔女を何とか引き離して一旦後ろに跳躍し、さやかもその直ぐ側まで下がった。

 

「ありゃりゃ、こいつは流石にマズイかな」

 

 様子を伺っていたあおいだが、計七匹の魔女の出現を見て自らの武器を取り出し一歩前へと出た。

 

「イルカちゃん、まどかちゃんの事頼んだよ」

 

 言うと同時に飛び出したあおいは手に持つ大鎌をくるくると回し始める。

 

「光は闇に・・・《レベレーション》!!」

 

 そして回していた大鎌を握り直し、その刃を地面に当てると黒い霧が発生して瞬く間に七匹の魔女へとまとわり付いた。その霧は直ぐに晴れるが魔女はそれぞれ千鳥足となり、鼻を必死にひつかせたり、頭をぶんぶん振り回したりし始めた。

 

「視界は奪ったから、今の内だよ!」

 

 あおいの言葉に一連の出来事を理解したさやか達は同時に飛び出した。

 それぞれがサーベルで、槍で、大鎌で動きの鈍くなった魔女へと攻撃を仕掛ける。最初の攻撃こそ、その見た目通りの野生の勘と言うべきか、気配を察知しその場から離脱する動きを見せるが、続く追撃にとうとう三匹の魔女は倒されてしまう。

 

「よし、攻撃が当たる!ありがとうございますあおいさん!」

 

「ったく、余計な事してくれちゃって・・・あおいの横槍があったけどまだ勝負は終わっちゃいないからね!」

 

「分かってるわよ!」

 

 さやかと杏子の二人はそれぞれ魔女の一体を倒した勢いのまま、残りの魔女へと向かって行く。

 

 杏子の接近に気が付いた魔女は逃げずにむしろ彼女へと突撃を仕掛けた。

 

「うわっと、そう来やがったか」

 

 しかし所詮目の見えない匂いと勘だけが頼りの攻撃、軽くかわされた後に他節棍へと切り替えた槍を脚に巻き付かされ、思いっきり地面に叩きつかれた。

 

 その杏子の戦況を見ていたさやかは少し焦ったように魔女へと攻撃を開始した。しかし焦りからかその攻撃をかわされ、直後に反撃と言わんばかりに突撃してくる魔女に面食らってしまった。そしてその魔女の一撃は思いもよらぬ事態を引き起こす。

 

「きゃあっ!?」

 

「さやかちゃん!?」

 

 悲鳴と共に飛び散る血肉、そして一瞬で悲痛な表情へと変わるまどか。

 魔女が伸ばした前足がさやかの腹部を抉り取ったのである。

 

「ぐっ、痛・・・」

 

「さやかちゃん下がって!勝負の前にまずは生きなきゃ!」

 

 必死に叫ぶあおいだが、腹部を押さえたさやかは彼女と違い状況を甘く見ていた。

 

「大丈夫ですよこれくらい。私の魔法で直ぐに治せますから」

 

 そうは言いつつも更に追撃を受けないために一度その場から離れた時だった。

 

「ぁ・・・」

 

 突如糸の切れた人形のようにその場に倒れ伏してしまった。

 

「さやかちゃん!?」

 

「さやかちゃん!!」

 

「ん?どうしたんだアイツ」

 

 それぞれがさやかの異変に気付き、あおい、そしてまどかとイルカが彼女へと駆け寄った。杏子だけは未だに戦闘を続けているがそれでも気になるのか隙を見ては視線をさやかへと向けていた。

 そんな中いち速くさやかの元へと辿り着いたあおいは彼女の首筋に手を当てた後、口と傷口を見て瞬時に顔を青くさせた。

 

「そんな・・・何で!?」

 

「あおいさん!さやかちゃんは!?」

 

「イルカちゃん!早く回復魔法を!!」

 

 まどかの問に答えるよりも鬼気迫る様子でイルカに指示を出すあおいに、イルカも返事や頷く事よりも真っ先にさやかの身体に触れて回復を試みた。

 イルカの魔法により傷口は綺麗に治っていくが、それでもさやかは動かず、言葉も口にしない。

 

「そんな、さやかちゃん!さやかちゃんどうして!?」

 

 必死に親友の体にすがり付き叫ぶまどかだったが、彼女は気づいてしまった。さやかは息をしておらず、心臓も動いていないことに。

 

「そんな・・・こんなのって・・・さやかちゃん!」

 

 泣きながら名前を叫ぶまどかに微動だにしないさやか。その光景を見て流石に杏子もただ事では無いと悟ったのか、相手をしていた魔女を仕留めると杏子もまどか達の元まで下がって来た。

 

「おいどうなってんだよ!?」

 

「さやかちゃんの・・・魂が感じられない」

 

「魂って、まさかおい、死んじまったって事かよ?」

 

「分からない」

 

 杏子の問に答えたあおいは悲しむよりも一人思考に耽った。

 

 彼女はフォーチュナーという役職であり、星占術により魂の在処を感じ取り、難しい条件付きではあるが一度死亡してしまった者の魂を再び身体に宿らせ蘇生させる事が可能である。そう、つまり魂は死後も短い時間なら彼女が感じ取れるはずなのだ。

 

(だけど、さやかちゃんに駆け寄った時にはもう何も感じ取れなかった。世界が違うから?それとも他に原因が?)

 

 その疑問は思ってもみない形で明らかとなる。

 

「無駄だよまどか。それはさやかじゃなくてただの入れ物さ」

 

「うぅ・・・キュウべえ?」

 

 彼女達の前に現れたキュウべえはこの状況に全く動じた様子を見せずに淡々と続けた。

 

「恐らくはさっきの魔女の攻撃だろうね。ソウルジェムが付いていた腹部の肉片ごと放り投げられたんだ」

 

 さやかが動かなくなってしまった事に対する説明のように語るキュウべえだが、まどか達はいまいち理解ができない。

 

「つまりはなにさ?こいつが突然固まっちまったのはあの魔女の攻撃のせいって事か?」

 

「いや、多分この子が言っているのはそういう意味じゃないと思う」

 

 しかしあおいだけは、キュウべえの言葉にある考えを浮かべていた。

 

「キュウべえだっけ?さっきあなたが言った"さやかちゃんではなく入れ物"っていうのは、この"肉体"の事を指しているの?」

 

 あおいから出た言葉にその場にいた者全てが驚愕の表情でキュウべえを見た。皆からの視線を受けたキュウべえは臆する事なく、いつも通りの声色で答える。

 

「その通りだよ」

 

「そして体から離されたソウルジェム・・・まさか」

 

「あおいさん!ブラインドが解けるよ!」

 

 あおいが続きを言う前にイルカに遮られた。視界が戻ったのか、残りの魔女三匹はしっかりとこちらを見ている。

 いや、あおいにとってはそれよりも気がかりな事があった。

 

「杏子ちゃん、この結界が消滅したらこの中にある物はどうなるの?」

 

「ああ?まあ基本的に一緒に消えて無くなるよ。襲われた人間の死体とかもな」

 

「・・・それじゃ、魔女を倒す前にさやかちゃんのソウルジェムを見つけなきゃ」

(でも相手は三体、さっきは運良く全体にレベレーションを掛けられたけど、また上手くいくとは限らないし耐性を付けているかも知れない。それに、この薄暗く不規則な造形の結界内で戦いながらソウルジェムを探すなんて容易じゃない)

 

 自分の考えが正しければさやかを救うには魔女を倒してはならない。しかし倒さずに抑え続けるのも簡単ではなく、更にその状況でさやかのソウルジェムを探さなければいけないのだ。

 そんな無茶をしなければならない、間違いなくピンチである。

 

「おいあおい!奴ら来るぞ!」

 

 しかし相手はこちらの都合など考えてくれるはずもなく、一斉に走って向かって来た。

 

 その時だった

 

「ぎえああ!!?」

 

 突如地面から生えた有刺鉄線の壁に思いっきり突っ込み、魔女は一斉に悲鳴をあげた。

 その光景に一同は呆気にとられるが、そんな彼女達の後ろから思わぬ助っ人達が現れた。

 

「随分と派手に突っ込んだな。まあこちらとしてはこれぐらい派手な方が気持ちがいいがな」

 

 その歳を感じさせぬ力強くも落ち着いた声に振り向くと、あおいとイルカ、そしてまどかの表情から緊張の色が薄れた。

 

「「マスター!!」」

 

「マスターさん!!」

 

 そう、そこに現れたのはマスター。そしてサトリとほむらであった。マスターは手に持つ二枚のカードを有刺鉄線の壁《鉄条網》手前の地面に投げると、サトリとほむらを引き連れてあおい達の元へと来た。

 

「まさかこんな所でお前達と再開できるとはな。しかし・・・」

 

「うん、見ての通りだよマスター。今は素直に喜んでいられないんだ」

 

 マスター達の視線の先には微動だにしないさやかの姿。その腹部にはかつて見た時にはあったソウルジェムが無かった。

 

「ほむらちゃん、これってまさか!」

 

「ええ、ソウルジェムが身体から100メートル以上離れてます」

 

 そのサトリとほむらのやり取りを聞いたあおいは自分の考えに確信を持った。

 

「お願いマスター、あの魔女達を倒さずに食い止めて!杏子ちゃんとサトリちゃん、あとそこのあなたは私と一緒にさやかちゃんのソウルジェムを探して!」

 

 あおいの言葉にマスターとサトリ、そしてほむらがそれぞれに頷くが、一人杏子だけは置いてきぼりを食らったように状況を理解できていなかった。

 

「おいおい、どういう事だよ?このままあの魔女を倒しちまえばいいじゃん」

 

「ごめんね、説明してる暇が無いんだ。だけどさやかちゃんときちんと決着を着けたいなら協力してくれるかな?」

 

「・・・ちっ、分かったよ。正直他人のために、それもコイツのためってのがますます気に食わないけど、とりあえずは言う通りにしてやるよ」

 

「ありがとう」

 

 杏子も納得したところで、あおい、サトリ、杏子の三人が鉄条網の横から飛び出して行った。

 それにほむらも続こうとするが一度足に込めた力を抜き、さやかへとすがり付くまどかへと顔を向けた。

 

「さやかちゃん・・・」

 

「まどか・・・大丈夫、美樹さんは必ず助けるわ」

 

「ほむらちゃん・・・うん、さやかちゃんをお願い」

 

 まどかの言葉を聞いたほむらはゆっくりと、だが力強く頷くと今度こそさやかのソウルジェムを探しに飛び出した。

 

(正直これは最悪の展開。ソウルジェムの秘密が明らかになる以上美樹さんが助かる見込みはほぼ無い)

 

 ほむらの頭に浮かぶのは諦感。

 

 しかし、胸から込み上げてくるのはその真逆の感情。

 

(だけど、私だってこのまま見捨てたくはない!こんな気持ち、とうに捨て去ったと思ったのに・・・これも彼らのせいね)

 

 心の中でさえ13班のメンバーに素直にならないほむらだが、その奥底では二度と相容れないと思っていたさやかと友達になれた事を彼らに感謝しているのであった。

 

 一方、ほむらを見送ったまどかは洋服の袖で涙を拭い、キュゥべえへと向き直った。

 

「ねえキュゥべえ。さやかちゃんはどうしてこうなっちゃったの?私にも分かるように説明してくれる?」

 

 真っ直ぐにキュゥべえの紅い瞳を見詰めて問い掛けるまどか。

 

 13班に影響されたのはほむらやさやかといった魔法少女だけではない。まどかもまた、彼らに影響を受けた者の一人だ。親友の危機に、自分だけ泣いてはいられないと思ったのだ。

 

 そして問い掛けられたキュゥべえは、やはり淡々と事務的に答え始めた。

 

「君にも分かるように、か。じゃあまずはソウルジェムについて話さないといけないね」

 

 ソウルジェム。確かに先程のキュゥべえの説明を思い返せばさやかの体からソウルジェムが離れたのが原因と言っているように感じる。しかしその意味に気付いても、次のキュゥべえの言葉を予測する事はまどかにはできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソウルジェムは彼女達魔法少女の魂そのものなんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 思考が停止した。キュゥべえが何を言っているのか分からない。

 いや、意味は理解できる。理解できてしまう。だがそれが何かの聞き間違いか、自分が考えるものとは違うのではないかとその意味から目を反らそうとする。

 

 まどかは言葉を口に出す事ができず、どうか間違いであって欲しいと思いながら次のキュゥべえの言葉を待つ事しかできない。

 

 だが

 

「つまり、今ここにあるのはさやかではなくただの抜け殻なのさ」

 

 続いて出た言葉はそれが聞き間違いでも間違った解釈をしていた訳でもないという事を告げるものでしかなかった。

 

「ソウルジェムが肉体を動かせる範囲はせいぜい100メートル以内だから、きっとその範囲外まで飛ばされたんだね。さやか自身が後退したのも」

 

「どうしてそんな酷い事をしたの!?」

 

 キュゥべえの説明を遮り、まどかは叫んだ。それは怒りと悲しみが混ざった悲痛な声だった。

 しかしキュゥべえは状況を理解していないのか、小首をかしげるような仕草をとって逆にまどかに疑問を投げ掛ける。

 

「酷い事っていうのは何の事だい?体からソウルジェムを切り離したのはあの魔女だし、僕には見当がつかないんだけど」

 

「皆の魂を身体から抜き取ったんでしょ!?どうしてそんな事を!!」

 

 魂、即ち命。それはあらゆる生命に無くてはならず、生命たらしめる存在。それを身体から抜き取り、ソウルジェムに変えてしまうというのは人としての尊厳を奪う事と同義である。

 まどかはそれを理屈ではなく生理的に感じ取り、キュゥべえの行いに嫌悪感を抱いたのだ。

 

「ひょっとして彼女達の魂をソウルジェムにした事を怒っているのかい?だとしたら君は戦いというものを分かってないよまどか」

 

 だがまどかのその感情にも全く気が付いたような仕草を見せず、逆にキュゥべえは諭すような口調で語る。

 

「人間の身体という物は君が思っている以上に脆い。例えばさっきさやかが魔女に腹部を抉られたよね。本来ならあの一撃で強すぎる痛みでショック死してるものさ。仮にそうならなくても臓器は使い物にならなくなり、大量の出血でどちらにせよ命はないだろうね。だけどその命、魂をソウルジェムにした事によってそれが壊されない限り、身体がどれだけ損壊しても魔力で修復してすぐ動けるようになる。実際、アクシデントでソウルジェムが有効範囲外に行ってしまったけど、それまではさやかは動いていただろ?」

 

「コイツ!」

 

 まどかの側で一緒に話を聞いていたイルカが鞘に納めてある短剣に手を伸ばした。が、それをマスターが制す。

 

「つまりは戦うのに都合良く加工したというのか?何故契約する前に彼女達に言わなかった?」

 

「魔法少女という物がどういう物か聞かれなかったからさ。でも僕はちゃんとお願いして、了承を得てから彼女達を魔法少女にしたはずだよ?」

 

「真実を知れば彼女達の選択も変わったはずだ!」

 

「そうだね、確かに全てを知った子はなかなか契約してくれなかったよ。だから契約の効率を良くするためにソウルジェムに関しては省略するようにしたんだ。そもそも今回のようなアクシデントが無い限り困る事でもないしね。事実あのマミでさえ最後まで気付く事はなかった」

 

「そんな・・・酷い!!皆を騙してたの!?」

 

「生憎だけど、僕にはその"騙す"という行為が理解できない。それにこの件に関しては単なる認識の相違じゃないか。違うかい?」

 

「貴様は・・・!」

 

「おい、これじゃねーか!?」

 

 まどか達とキュゥべえの会話を、遠くから聞こえた杏子の声が断った。見ると蒼く光るソウルジェムを確かに持っている。

 

「間違いないね、マスター!もう片付けちゃって良いよ!!」

 

 まだキュゥべえに言いたい事が残るマスターだが、さやかのソウルジェムが見付かった以上追及は後にした。再び二枚のカードを投げ、計六枚のカードが重なった瞬間、膨大な魔力が溢れ出す。

 次の瞬間、鉄条網に未だ食らいつく魔女の真下から更なる有刺鉄線が飛び出して魔女を串刺しにした。

 

「こいつでおしまいだ!《ジャッジメントタイム》!!」

 

 溢れ出した魔力がそのまま炎となり、雷となり串刺しにされた魔女を焼き付くした。

 

 すると間もなくして結界は崩壊を始め、さやかのソウルジェムを探しに行っていた四人も再びマスター達の元へと戻って来た。

 

「それで、どうすりゃいいんだ?」

 

「私に貸して」

 

 そう言ったほむらは杏子の返事を待たずにその手からソウルジェムを掠め取った。

 

「あ、おい!」

 

 奪うように取られた事に杏子が抗議しようとするがその前にほむらは未だ倒れているさやかの手のひらにそっとソウルジェムを置いた。すると

 

「・・・・・・・・・げほっ!」

 

「「「!!」」」

 

 咳き込みながらさやかは意識を取り戻した。急に肺が酸素を要求し始めたせいかなかなか咳が止まらないがそれでも何とか起き上がろうとするさやかに、思わず成り行きを見守っていたまどかが飛び付くようにさやかに抱き付いた。

 

「けほっ・・・はあ、はあ・・・まどか?」

 

「良かった、良かったよさやかちゃん!!」

 

 キュゥべえから告げられた残酷な真実を前にどうにか耐えていたまどかだったが、親友が再び意識を取り戻した事によってとうとう涙腺が崩壊しわんわんと泣き出した。

 しかし当のさやか本人は当然だが何が何だか分からなかった。辺りを見れば通常空間で、皆自分を取り囲むように集まっている。それにさっきまで居なかったほむらやマスター達までいる。

 

「はあ、はあ・・・何?どうなったの?魔女は?」

 

 そんなさやかにほむらはまどかと反対側にしゃがみさやかの背中をさすりながら、心の中で苦渋の決断をしていた。

 

(この異様な状況、何よりまどかが知ってしまった以上誤魔化す事はできない、真実を言うしかない)

「落ち着いて美樹さん、魔女はもう倒したわ」

 

「そう、なんだ。えっと、私はどうなってたの?」

 

「そうだよ、こいつはどうして急に固まっちまったんだ?」

 

 事情を知らない杏子からも説明を求められ、更にほむらの胸に重い苦しみがのし掛かった。

 

(大丈夫、今回は13班という今までに無いイレギュラーがいる。彼らは最大限私達に協力してくれているし、何より上条君との仲が既に結ばれている。最悪の展開にならないかも知れない。それに杏子も"今までの傾向"から見て大丈夫なはずよ)

 

 表情に出さないまでも緊張していたほむらは知らず知らずの内に口に溜まっていた唾を飲み込み、ゆっくりと口を開いた。

 

「キュゥべえがあなたたちに話してない事実があるの」




今回の犬の魔女、犬の魔女と言いつつ狼のように群れで襲いかかる戦闘スタイルにしました。一応一体一体が全て本体という設定です。犬の魔女に関しては調べても能力とか分からなかったので^^;

冒頭でワルプルギスの存在が知らされている描写がありますがこの時点だとまだマスターは何とかなるレベルだと軽視してますね。何とかセブンスドラゴンの設定と混ぜて絶望的な状況にしたい

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