魔法少女まどか☆マギカ ~狩る者の新たな戦い~   作:祇園 暁

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(祇園)<投稿が遅くなったのは俺のせいじゃねえ!ポケモンとスパロボが悪いんだ!あとついでにインフル

全うそうな理由がついでなのか(困惑)>Ω

そんな言い訳は置いといて、今回の話、決して某けものアニメに影響された訳ではありません。某アニメ放送前からこの場所に行かせる予定でした。
あと今回ナナドラの独自解釈入ります。


第19話【恋人達の週末:前編】

 時は少し遡る。アキオ達が鹿目まどか達と初めて出会ったその日、別の場所ではもう一つの出会いがあった。

 

「・・・私、夢でも見てるのかしら?」

 

 眼鏡を掛けた女性、早乙女和子はマンションの自宅の扉の前で唖然とその光景を見ていた。

 彼女の部屋の前で、壁に寄り掛かるように一人の青年が気を失っていたのだ。青年は黒のロングコートを羽織り、その下は軍人が着るような特殊な服を着ていたがその両方、そして彼自信もボロボロでただ事ではないのは簡単に分かった。

 

(どうしよう・・・やっぱり警察に通報した方が良いのかしら?それとも救急?)

 

「う、うぅ・・・」

 

 和子が非日常的な光景に何とか冷静に努めようと頭を働かせていると、青年は悪夢にうなされているかのように表情を険しくさせた。

 やはりまずはどこかに通報しようとした時

 

「僕は・・・どうして・・・」

 

 青年の閉じた瞼から水滴が滲み出て頬を伝った。それを見た和子は教師という子供達と接する立場故か、それとも女性としての母性が目覚めたのか、青年を放っては置けず自らの部屋へと運んだのであった・・・。

 

 

 

 

 

 

 現在。

 

「ただいま、ナナシくん」

 

 自宅に帰って来た和子は、あの日から増えた同居人に帰宅の挨拶をした。するとリビングからあの日の青年が顔を出して微笑んだ。

 

「お帰りなさい和子さん。食事の準備はできてますよ」

 

 あの日、和子が青年を自宅に入れると直ぐさま布団に寝かせ看病を始めた。幸い外傷は擦り傷程度で大きな物は無く、熱が少しあったが彼女の献身的な看病のお陰で次の日には青年は目を覚ました。しかしそこである問題が発生する。

 

 青年には今までの記憶が無かった。

 

 やはり病院へと連れて行くべきかと思うが、記憶の無い事に取り乱す青年を見ると放っては置けなくなった。何とか彼を落ち着かせ、記憶が戻るまでこの家で暮らして良いと言いこの共同生活は始まった。

 その際呼び名をどうするかという問題も浮上するが、青年自ら《ナナシ》という名を提案した。理由は至ってシンプル、記憶が無く"名無し"だから。和子は最初反対したが、記憶が戻った時に仮の名に愛着が湧かないようにという考えを聞いて了承したのであった。

 

「明日私はお休みだけど、ナナシくんどこか行きたい場所はある?」

 

 それは食事中の他愛無い会話。和子にとっては貴重な休みだが、今は彼の為に何でもしてあげたいという気持ちがあったのだ。

 それに対しナナシはうーんと考えると何か思い付いたのか、ぱあっと顔を明るくさせた。

 

「すいません、それじゃあ僕、動物園に行きたいです!」

 

 それは青年(正確な年齢は記憶喪失のため不明だが)の彼から聞くにはあまりに幼稚な答えだった。しかし言ったナナシはまるで子供のように瞳を輝かせている。

 それを見て和子は思わずクスリと笑った。

 

「動物好きなの?」

 

 その和子の質問にナナシはハッとし、少し照れたように顔を赤くしながらも答えた。

 

「いえ、そういう訳では・・・ただ、あまり実物の動物を見た事が無いような気がして、興味があったんです」

 

「ふふ、分かったわ。それじゃあ明日は動物園に行きましょう」

 

 こうして彼女達は明日の予定を決めると、話を和子の学校の出来事へと切り替えて食事を続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「動物園!?」

 

 まだ開店もしてない早朝のセブンスエンカウントに、サトリの間の抜けた声が響いた。

 今この場に居るのはサトリとマスター、そしてナガミミの三人だが、ナガミミの口から出た言葉がサトリを驚かせたのだ。

 

 アキオとミオの二人は動物園にデートに行った。

 

「話したい事があるっていうこんな時に」

 

 呆れたように呟くサトリだが、それに対しマスターはクックと笑いながら宥める。

 

「まあこんな時にだからだろう。あいつらが恋仲になった時既に向こうの世界は緊迫した状況だったし、そのまま落ち着く間もなくこちらの世界に来てしまったんだ。息抜きも必要だ」

 

「俺様も同じ意見だ。それに小娘は竜斑病が無くなったってのに遊ぶ暇が無かったしな」

 

 腕を組みながらマスターに同意するナガミミをふーんと見詰めるサトリの顔は次第ににやつき始めた。

 

「最初はミオちゃんにキツかったのに、今じゃあ過保護なんじゃないの?」

 

 そう言われたナガミミはカアッと顔を一気に赤くさせた。

 サトリの言う最初とは彼女達が初めてノーデンスに招待された時の事である。表ではノーデンスの愛らしいマスコットとして語尾に"ミミ"とまで付けて振る舞っていたナガミミが、ノーデンス本社に入った途端に豹変して毒舌を吐き始めたのだ。特に元々の性格が内気で他のメンバーより戸惑うミオに対しては何かと突っ掛かり、様付けまで強要していたのだ。しかし徐々に成長していくミオに合わせ、ナガミミの性格も段々と丸くなっていった。

 

 丸くなったのは知っていたがここまでとは思わなかったとサトリは笑う。

 

「は?はあ!?別になんも変わってねーだろ!テキトー言いやがって、だいたい何で俺様があの小娘の世話焼かなきゃならねーんだよ!」

 

 そう言うナガミミだが、このあからさまに動揺して必死な態度では説得力など微塵も無い。相変わらずニヤニヤとしながら「はいはい」と流すサトリにナガミミはこれ以上何も言えなくなった。

 

「くっ・・・マスターなんか飲み物!」

 

 気を紛らす為にナガミミはマスターに飲み物を要求するが、当のマスターは返事をしつつもナガミミの事をじっと見詰めている。その視線にはナガミミも気付いた。

 

「何だよマスター。俺様があまりにも可愛いからって変な気は起こすなよ?」

 

 ジト目でそう言って来るナガミミにマスターはため息を吐くと、カウンターの中に移動しながらも口を開いた。

 

「生憎だが俺にそんな趣味は無い。だが、見た目だけなら確かに可憐な容姿だというのは認めよう」

 

 コーヒーを淹れながらそう評価するマスターはニヤリと口角を上げた。ナガミミは頭の上に疑問符を浮かべるが、サトリはマスターの考えが分かったのか「なるほど」と呟き同じように怪しい笑みを浮かべる。その二人の態度に嫌な予感を感じたナガミミは咄嗟に立ち上がった。

 

「な、何だお前ら!?俺様はただアキオの代わりに話をしに来ただけだからな!」

 

「まあまあそう怖がらないでよ」

 

 しかし背後から両肩を掴まれ、そこで既に目の前にサトリの姿が無くなっている事に気が付く。恐ろしく早い回り込み、同じS級能力者でなければ見逃してしまうサトリの動きにナガミミは反応出来なかった。

 

「では頼んだぞサトリ。いくら中身がナガミミでも今の姿では俺は手が出せんからな」

 

「任せてよマスター!じゃあ行こっか、ナ・ガ・ミ・ミ・ちゃん♪」

 

「やめ、おいどこに連れてくんだ!?放せえええぇぇ!!!」

 

 その叫びも虚しくナガミミは更衣室に引きずられて行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 見滝原から電車で三つ駅を越えた先にある街。ナガミミが悲鳴をあげているであろう頃にアキオとミオはそこに足を踏み入れていた。

 雲一つ無い晴れ模様に空を見上げたミオは少し眩しそうにしながらも湧き上がる高揚感からか表情を緩ませながらアキオに振り返った。

 

「晴れて良かったね、アキオ!」

 

 そう言うミオの笑顔にアキオも自然と頬を綻ばせながら頷いた。

 

「ああ、俺とミオの初の外デートもこの天気なら安心だな!」

 

 しかしそのアキオの言うデートという言葉を改めて聞いたミオは今更ながら顔を赤くさせ彼から背けてしまった。そういう初な反応を見てアキオはニヤニヤと笑うが、実際内心では彼自信もこのように好き合った相手とのデートは初めてであり、表には出さないものの緊張をしていた。

 

 このまま彼等の動向を追う前に、何故デートに動物園を選んだか、それを説明しよう。

 

 それは前日の事、たまたま点けていたテレビの番組で動物園内における珍生物特集をやっていたのだが、それを見た途端アキオとミオは釘付けになった。この世界の住人が二人を見たら動物番組に夢中になる子供らしい一面程度にしか思わないだろうが、彼等は本気で驚愕していたのだ。しかしそれは無理の無い話、彼等の世界はドラゴンの侵略を受けたのだから。

 ドラゴンの支配する領域には《フロワロ》という花が一面に咲き広がる。このフロワロの花粉は未知の毒素を持っており、生物を結晶化させ死に至らしめ、更にはフロワロ自身が原生生物に寄生し《マモノ》と呼ばれる怪物へと変貌させてしまうのだ。そしてアキオ達の世界の2020年にドラゴンは地球のあらゆる国、土地を支配し生態系に大打撃を与えた。

 人類がドラゴンを撃退して80年経った2101年、人間が管理していた家畜や犬猫などのペットは何とか現存していたが、それ以外の動物は殆どが絶滅危惧種になり、保護しようという働きもあったがその甲斐虚しく実際に絶滅してしまった種も何種類もいた。

 

 生まれた時から殆どの動物は資料の中だけの存在というアキオ達にとっては、世界中の様々な動物を間近で見れ、物によっては触れ合う事も出来る動物園は信じられないようなものだったのだ。それ故に動物園に興味を持ったアキオがミオを誘い、ミオも喜んで了承した。本当はナガミミも誘ったのだが、彼女はどうやら気を遣ったようで二人で行くように言った。

 

「すいません、入場券を・・・えと」

 

 券売所の前まで来たアキオは入場券を買おうと売り子の女性に声を掛けるが、通常の大人、子供の他に家族、カップル価格が窓口の横に書いてあるのに気が付いた。迷わずカップルと言おうとするが、妙な気恥ずかしさを感じ口ごもってしまう。何時も飄々としてはいるが、いざ実際に恋愛をするとなると彼もミオの事を笑えないぐらいには初だった。

 

「御兄妹でも家族価格で購入できますよ」

 

 そんな彼に売り子の女性は少し勘違いしながらも助け船を出す。見てみれば家族もカップルも同じ値段だ。

 

(まあ、同じ値段なら別に良いかな?)

「はい、じゃあそれでお願いします」

 

 ほんの少しの羞恥心から出たこの言葉が、今日一日付き纏う事になろうとは今の彼には思いもよらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 アキオ達が動物園に入園する頃、セブンスエンカウントも開店時間となり店の扉の掛札がopenと書かれた側に返された。すると暫くして最初の客が入店して来た。

 

「いらっしゃいませ、御一人様でよろしいでしょうか?」

 

 そう言って客を店内に通したのはウェイトレスの格好をしたナガミミだった。

 

 サトリに更衣室に連れ込まれた後、半ば強引にナガミミはこの格好に着替えさせられ労働力として組み込まれてしまったのである。最初の内は全力で抗議していたのだが、既に着替えさせられてしまったというのとこの二人は口で言っても聞かないという事で結局は諦めて今に至っている。

 

 しかし流石はノーデンス社のマスコットキャラとして皮を被っていただけの事はあり、来店した客に愛想良く笑顔を振り撒いている。

 暫くして注文が決まったのか客は近くを通りかかったサトリを呼んだ。

 

「注文決まった?ほむらちゃん」

 

 呼ばれたサトリは客である前に友人であるほむらの下へと向かう。ほむらは注文を頼むと、先程自分を通したナガミミを見てサトリに訊ねた。

 

「あの人、新人さんですか?」

 

 その質問に「ああ」と声を出したサトリはほむらの言いたい事を理解した。それはこの店を拠点にしているのに魔法少女と関係無い人間を置いといて良いのかという疑問。当然ながら店が閉まってからだと彼女達中学生組は時間的に長くは話し合いに参加出来ない。そうなると定休日か昼終わりに一度店を閉める時間になるのだが、昼終わりの休憩中にも店内に居座り魔法少女や魔女などという単語を用いて一般人の前で話をするのはどうにも気が引けるし事情を誤魔化すのも難しいだろう。

 

「あの子もボクたちの仲間だよ」

 

「そ、そうなんですか・・・」

(アキオさんにサトリさん、マスターにミオにダイスケという男、そして今度はあの子・・・一体何人この世界に来ているの?)

 

 ほむらが今頭の中であげただけで6人。そして彼女自身は一度しか会ったことがないがどう見ても不審者にしか見えないアイオトも彼等の関係者だというのを思いだしたところで考えるのを止めた。

 彼女がここに来たのはマスターが改めて話を聞きたいと希望してきたからである。ほむらのマスターへの印象は切れ者、それも相当厄介なタイプの。恐らくは色々と踏み込んだ質問をされるであろう事が予想でき、どこまで話すか、何をどう隠すかを考えるのに集中するのであった。

 

 

 

 

 

 

「おいミオ!ハシビロコウさんだぜハシビロコウさん!やっぱり生の眼力は違うな~」

 

 一方動物園へと入園したアキオ達は初めて生で見る動物達にはしゃいでいた。

 ・・・いや、はしゃいでいるのはアキオだけだった。

 

「・・・・・」

 

 ミオはというと先程からずっとアキオの言葉を無視し、不機嫌だというのを態度で示していた。アキオもそれには気付いていたが、ミオがこのような態度をとるのが珍しく触れないようにしていたのだ。しかしそれも限界だった。

 

「なあミオ。そんな不機嫌そうにしてどうした?俺なんかしたか?」

 

「別に・・・アキオからしたらどうでもいい事だよ」

 

 堪らず直接聞くが、ミオは素っ気なく返して口をへの字にして閉じてしまった。

 

 まいったなと、アキオは今日一日の行動を思い返してみる。朝起きて朝食をとり、出掛ける準備をしてナガミミにマスター達との話し合いを頼んでミオと共に家を出た。そして少なくともここに来るまではミオの機嫌は悪くはなかったはずだ。

 

「あっ・・・」

 

 そこまで思い出してアキオは漸く思い当たる節を見付けた。するとどうだろう、今まで本当に困っていたミオの態度に微笑ましさを感じられるようになった。

 

「なあミオ」

 

「なに?」

 

 相変わらず不機嫌そうに答えるミオの手をアキオはぎゅっと握り自分の方へ引き寄せた。そのまま自分の横にピタリとくっついたミオの腕に自分の腕を絡ませる。

 

「恋人としての初めてのデートなんだし、恋人らしくしようぜ!」

 

「え、ええ!?」

 

 突然のアキオの行動と言葉にミオはみるみる顔を赤くさせて先程の不機嫌な態度を取り繕う余裕を無くしてしまった。それを見たアキオはニヤニヤと笑いながらミオを引っ張り次のエリアへと移動に始める。

 

「まったくミオは可愛いな~。入場券を恋人じゃなくて兄妹で買ったってだけで拗ねるなんて」

 

 ズバリ不機嫌な理由を言い当てられミオは観念したように唸った。

 

「うぅ・・・だって、初めての恋人らしい事だったのに」

 

「カップルで入場券買うのがか?」

 

 いつの間にか両腕でアキオの腕に抱きついていたミオはコクコクと頷く。その仕草が堪らなく可愛く見えてアキオは思わず視線を反らしてしまった。よく考えれば自分からしたとはいえ彼女と腕を組んでいるというこの状況もアキオの鼓動を激しくさせている。

 

(はぁ・・・我ながらこんなにピュアだったとは思わなかったぜ)

 

 心の中でため息を吐きながらも、次の目的地を機嫌を直したミオと相談する事で胸の高まりを誤魔化そうとするアキオであった。

 

 

 

 

 

 

 

「へ~。それじゃさやかちゃんは無事その上条くんと結ばれたんだ」

 

 時刻は14時過ぎ、16時まで一時休憩となったセブンスエンカウントではほむらが話すさやかのコイバナにサトリが夢中になっていた。

 

「はい、腕が動くようになって数日経ってますし、外出の許可も出たようなので早速美樹さんは一緒に出掛けると言ってました。そうは言っても行動範囲や時間に制限はあるらしいですけど」

 

 そう語るほむらを見てサトリは思わず微笑んだ。

 最初、話だけで聞いていた頃や初対面の時は冷たく他人に対し興味を持たないような印象をほむらに抱いていた。しかし今目の前の彼女は、友達について語る普通の女の子だ。

 

「どうかしましたか?」

 

 サトリの表情の変化に気が付いたほむらは訊ねた。

 

「あぁいや、なんか安心したなって」

 

「?」

 

 サトリの言葉の真意が分からなかったほむらだが、正面から二人の人物が近付いて来るのを見て意識を切り替えた。

 

「すまないな、長い事待たせてしまった」

 

「いえ、その分美味しい珈琲を何度もおかわりさせて頂きましたから」

 

 マスターの登場に、敵ではない事を解っているはずなのに思わず緊張してしまうほむら。マスター、そして後ろから続いたナガミミも同じテーブルに座り話し合いの準備が整った。

 

「始めに言っておくが我々はキュゥべえの正体、そして奴らがこの地球でどのような事をしてきたかを知った」

 

 間髪入れずに口火を切ったのはマスターだ。その言葉にほむらは顔を強ばらせた。

 

「さて、君は奴らの正体を知っているか?」

 

「インキュベーター、宇宙人よ」

 

 これは答えても良い質問。

 

 そう頭の中で瞬時に判別して答えるほむら。

 マスターはほむらの言葉に頷くと、再び口を開く。

 

「有史以前から人間を進化させてきたという奴が、君の事をイレギュラーと呼んでいた。心当たりは?」

 

「それは私がキュゥべえと契約をしていない魔法少女だから」

 

「どういう事だ?」

 

「できれば話したくないのだけど」

 

「ふむ、そうか・・・ただ一つ確認させてくれ。君がそれを隠す事によって我々に不利益は生じるか?」

 

「それは無いと思います」

 

「なら良いだろう」

 

 意外とあっさりと引くマスターに一瞬気を抜くほむらだが、それは他に確認したい事がまだあるためだと認識してすぐに気を張り直す。案の定マスターの質問は止まらない。

 

「以前サトリから聞かれたと思うが、ソウルジェムが濁りきったらどうなる?」

 

「それは・・・魔法が使えなくなります」

 

 ほむらが答えたくない質問。それについ口ごもってしまったのをマスターは見逃さなかった。

 

「魔法が使えなくなるのなら結構じゃないか。だったらそのまま魔女との戦いから身を退けばいい」

 

(この人、私が嘘を言っていると気付いている?)

 

「そもそも魔女と戦う使命と言うが、そんなもの捨てて願いだけ叶えたら普通に暮らせばいいだろ。魔法を使うのは最低限魔女から自衛のためだけに留めておけばこちらから倒しに行く必要は無い。そうしないという事は余程ソウルジェムの濁りを取り除く事に意味があると見た」

 

「・・・それは、キュゥべえからソウルジェムは豆に浄化するように言われて」

 

「君は奴らの正体を知っている。そして聞くところによると以前キュゥべえを攻撃していたらしいじゃないか。君はキュゥべえがどんな奴か分かっているんだろう?そんな君がキュゥべえの言い付けを素直に守っているというのが俺には腑に落ちないんだ」

 

 全て話すか、魔法を使い逃げるか、今のほむらはその二択しか思い付かない程余裕が無くなっていた。元々このように大人の男性から聴取されるという経験が無かったため、いつもの冷静な思考でいられない上に、マスターの聞き方はどこかプレッシャーを掛けられているような感覚があるのだ。

 

(あれほどの経験をしてきたのに、大人にこうして強く出られるだけで怯むなんて私もまだまだね)

 

 などと冷静ぶってはみるものの良い案が浮かばず、自然と顔を俯かせてしまった。

 そんな彼女を見かねてか、マスターは再び口を開いた。それは先程までの圧迫感が取り除かれた優しい口調だった。

 

「言える範囲で良い、君が俺達に言っても問題無いと判断したものだけで良いから情報をくれないか?予めある程度の情報を知っていれば俺達も動きやすい。それにもし君が既に何らかの問題に直面していて、それを諦めているのだとしてももしかしたら俺達になら何とか出来るかも知れない。なにせ君も俺達の全てを知っている訳では無いしな、意外な方法があるかも知れん」

 

 その言葉にハッと顔を上げるほむら。

 

(諦めている・・・か。まるで見透かされているみたい)

「相談役を務めていたというのは伊達ではないみたいですね。確かに私は今、ある問題を抱えています」

 

 暫くマスターの雰囲気に口を閉じてしまっていたほむらが再び言葉を発した事により、終始聞き役に徹していたサトリもホッとする。同時に、ほむらの言う問題が気になった。

 

「その問題とは?」

 

 マスターの問いを聞き一度深呼吸をするほむら。

 

(奴に関してはいずれ話す予定だったから問題ない。あと話せるのは、ソウルジェムの秘密・・・。きっと彼等なら無闇に口に出したりしないだろうし、もしもの時には上手く立ち回ってくれるかも知れない)

 

 今までほむらはセブンスエンカウントの人間を完全に信頼しきっていなかった。いや、本当は彼等の人間性を間違い無く理解していたのだが、これまでの経験がどうしても心に「油断をするな」と言わせてしまう。

 

 今までの事を語っても信じてもらえないかも知れない。

 

 もし真実を知れば自分の敵になるかも知れない。

 

 今までみたいに。

 

 しかし、彼等はほむらにとってこれ以上無いほどにイレギュラーな存在。都合の良い妄想だが彼等なら全てを話しても大丈夫かも知れない。そう思うほむらはもしかしたら今に至るまでの過程に疲れきっていたのかも知れない。

 

(それでもいい・・・私が一歩踏み出す事で彼等が力になってくれるなら)

 

 ほむらはいつになく真剣な瞳でマスター、そしてサトリとナガミミを見詰めた。

 

「先ずは私の目的・・・倒すべき敵について話します」

 

 

 

 

 

 

「おーいミオ!ふれあい広場だってよ、行ってみようぜ」

 

 ほむらが意を決して話し出そうとしているなか、アキオ達は動物園を満喫していた。先程の不穏な空気は無くなりミオも何事も無かったかのようにアキオとはしゃいでいる。

 今は土産屋を兼ねた休憩所で次の目的地を決めたアキオが、商品を選んでいるミオに声を掛けたところだ。

 

「待ってアキオ!お土産買っていくからもう少し時間ちょうだい」

 

「ああ、分かったよ」

 

 それを聞き、さて自分はどうするかとアキオが手持ちぶさたになった時だった。

 

「あの、すいません」

 

 後ろから声を掛けられた。声の感じからして自分と同じような若い男性だというのが分かる。

 

「はい、何でしょう?」

 

 アキオがごく普通に、自然に、何の気構えも無く振り返った時だった。そこに居たのは確かに自分が先程考えた通りの青年だが、その姿にアキオは凍りついた。

 

「この地図の見方なんですけど・・・」

 

 青年もアキオの顔を見ると顔を怪訝な表情へと変え言葉を止めた。

 その仕草で更にアキオの心臓がばくばくとうるさいぐらい鳴り響く。

 

 まさか・・・まさか!

 

「ユウ・・・」

 

「ナナシ君!」

 

 アキオの口から出かけた声は、青年の後ろからやって来た眼鏡の女性に遮られた。

 

「和子さん」

 

「水棲エリアはあっちだって」

 

「分かりました。すいません、聞こうとしていた事なんですが解決しました」

 

 申し訳なさそうに青年はアキオに頭を下げる。その姿を見てアキオは先程浮かんだ考えを否定した。

 

「そうみたいですね」

 

「はい、それじゃ」

 

 この短いやり取りを交わすと青年は連れの女性と共に歩き去って行った。

 

「・・・・・」

 

「お待たせアキオ!・・・って、どうしたの?」

 

 青年の後ろ姿をじっと見詰めるアキオに、買い物を終えたミオが声を掛けた。

 

「ああ・・・いや、何でもない」

 

 そう歯切れの悪い返事をするアキオにミオは小首を傾げるが、当のアキオが直ぐにいつもの調子に戻り次の目的地への出発を促したのであまり気にしない事にした。しかし、表向きは何でも無いように振る舞ったがアキオの頭には先程の青年の顔がしっかりと焼き付いていた。

 

(一度死んでしまったミオだってこうして生きているんだ。アイツが生きていても・・・いや、ナナシと呼ばれていたし、他人の空似か)

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたのナナシ君、もしかしてお土産買いたかった?」

 

 一方休憩所からだいぶ離れた場所で、ナナシは来た道を振り向いて今では小さくしか見えない休憩所を見詰めていた。

 

「いえ、何でもありません。行きましょうか」

 

 そう言って再び歩き出すナナシだが、その胸中は理由も無くざわついていた。

 

(先程の彼、何か気になる。なんなんだこの感じは?記憶を無くす前の知り合い・・・まさかな)

 

 本人達は知らない。いや、予感はあっても確信が持てなかった。この出会いが再会であるという事を・・・。




今回でユウなんとかさんがログインしてきました。
本当はユウなんとかさんの居候先は中沢くん宅とか考えていましたけど下の名前が分からない以上、家でも頑なに中沢と呼び続けるしか無いという不自然な事になるので諦めました。

ほむらがマスターに威圧を覚えて上手く口が回らなかったのは、同年代の相手とのやり取りは何度もしてきて慣れてはいるけど、こういう大人とは直接話し合う事が無かったため、彼女本来の性格と年相応さが相まった結果という感じです。

さて、次の投稿は何ヶ月後かな(遠い目

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